二人の新居にはナタとアークも一緒に住む事になりました。ゲイザーが帰宅すると、ナタが玄関まで走って来てジャンプして飛び付き、ゲイザーの身体にしがみ付きます。ゲイザーは両腕でしっかりとナタを抱き留めました。
「わーい!おじさん、おかえりなさーい」
「ただいま、ナターシャ。私がいない間、良い子にしていたかい?」
「うん!アークとお留守番してた。魔法のお勉強も頑張ってるよ?」
アークは部屋の奥にある暖炉の前で、ポトフを作っていました。この日は珍しくフラウがゲイザーより先に帰って来ていたので、アークと一緒に料理をしています。
「今日の夕食は私もお手伝いしたんですよ。いつもアークに任せっぱなしでしたから、申し訳なく思っていたのです」
「いえいえ、むしろお二人の愛の巣に私のような部外者がお邪魔していてもよろしいのでしょうか…」
「アーク殿がナターシャの子守りをしてくれているおかげで、私は安心して仕事に行けるんですよ?」
家族団らんが済むとゲイザーとフラウは寝室へ行きました。ナタは別の寝室でアークと一緒に寝ています。
「あれからずっと考えていたんです。世界を救う為に私がするべきことは一体何なのかを…」
「ゲイザー様はいつの日にか勇者になるべきお方ですからね…」
「おそらく、私が倒すべき敵と言うのは、アラヴェスタ国王だと思うのです。彼の方はお世辞にも名君とは言い難いので、無闇に戦争を繰り返し、貧しい者が苦しんでおります」
「まさかゲイザー様はアラヴェスタと戦争を起こそうと言うのですか?私は戦争は嫌です…」
「いえ、マルヴェールは人口が少ないですし、戦争になると分が悪い。私は戦争を仕掛けるつもりはありませんよ?」
「それなら良いのです。安心しました…」
「でも、私が勇者なのだとして、一体何を成し遂げるのか?と考えていたら、アラヴェスタ国王を倒さなければならないと言う思考に至ったのです」
「確かにアラヴェスタは表向きは一見、美しい街並みですが、一歩スラム街に足を踏み入れると、治安が悪くて犯罪が横行しています」
「貧しい者たちを説得してマルヴェールに受け入れると良いでしょう」
「それなら私が貧しい者たちを説得にスラム街へ参ります。護衛はいりません。剣を持った者がいれば、彼らは畏れて嫌がります」
「そうして人口を増やせばマルヴェールはアラヴェスタに負けない王国になりますよ?」
夜も更けて来ました。ゲイザーが寝付けずに寝返りを打つとフラウと目が合います。
「眠れないのですか?ゲイザー様…」
「まだ起きていたのですね、フラウ」
「ゲイザー様は、今日もお疲れですか?」
「いえ、大丈夫ですよ。疲れているように見えましたか?」
「最近、お帰りになったら、いつも先に寝てしまっておられるので…」
「私はフラウより先に家に帰れますからね。遅くまで働いて疲れているのは、あなたの方ではありませんか?」
「いつも遅くなってすみません…。早く終わらせて帰りたいのですが、書類の山に全て目を通さないと帰らせてもらえないのです」
「いえ、一国を背負うと言うのは大変な事でしょうから…」
「あの…今日はその…久しぶりに早く帰れましたので…ゲイザー様がお疲れでなければ…と思いまして…」
「なんだか奥歯に物の詰まったような言い方ですね…」
「戴冠式の後からずっと…夜の営みの方がありませんでしたので…もしよろしければ…」
「私は悩んでいたのです…。子供を作れない獣人に夜の営みは必要なのか?と」
「ゲイザー様は子供好きなので、子供が欲しいのでしょうね…」
「いえ、私は子供嫌いですよ?子供が欲しいと思った事はありません」
「ナターシャちゃんと接する、あなたを見ていると子供嫌いには見えませんよ」
「ナターシャは聞き分けの良い子ですからね」
「私はゲイザー様をこれほど求めているのに、ゲイザー様は私を求める事がないのですね…」
フラウは涙を溢し始めました。ゲイザーはそれを見て慌てて慰めます。
「泣かないでください…。なぜ泣くのです?」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第43話です。