ゲイザーはオロオロしながら、恋人が泣き喚くのを慰めました。
「女性を泣かせるのは騎士道精神に反すると、私の師から教わりましたが、私はなぜあなたを悲しませてしまったのでしょうか…」
「私は十五でこの城に奉公に上がってから、すぐに国王のお手付きにされて、国王が私に飽きた後は騎士に褒美として与えられ、何度も男たちに身体を弄ばれて来ました…」
「あなたが辛い思いをなさったのは男の私でもわかります」
「やっと幸せを掴んだと思ったのも束の間、婚約者は首をはねられて、私はまた別の騎士に褒美として与えられました…」
「それが私だったのですね」
「ゲイザー様が私を抱いてくださらないのは、私の身体が穢れていると感じておられるからでしょう?私は傷付いているのです。私を抱かなかった男はあなたが初めてだから…」
「そんな事は思った事もありません」
「あなたから愛されていると言う実感が湧かないのです。私はあなたに抱かれたいとずっと思っていました…」
「騎士ならば結婚するまでは手を出す事は出来ません。私はあなたを愛していました。大切にしていたつもりです…」
「それは嘘だわ!あなたは私を愛してなどいなかった…。だから簡単に別れようと言い出すんです!」
「どうして私の気持ちをわかってくれないのですか?」
「あなたの方こそ、女心を何もわかっていません!私は一番愛した人から、一番心を傷付けられました…」
ゲイザーの話を聞いてフラウまで涙を溢し始めました。
「その恋人の気持ちが私には痛いほどわかります。あなたが恋人を抱かなかったから傷付いたのです。あなたに抱かれることを一番望んでいたのですから…」
「そうですか…。私には恋人の気持ちが全くわかりませんでした。私が恋人を抱いていたとしたら、もっと傷付けたと思うのですが…」
「ゲイザー様は私にもフォン様の求婚を受けるようにと仰いました。一番愛した人から、一番憎んでる男と結婚するように言われて、私はとても傷付きました…」
「フォン様は一国を治める王です。私のような者とは比較にもならない…。私が女ならば迷わず、私ではなくフォン様を選びますよ?」
「ゲイザー様は本当に女心のわからない人ですね…。打算的で愛のない結婚をしても女は幸せになどなれないのです。私は愛のある結婚生活を送りたいと幼少の頃より願っておりました」
話し合いを何時間も続けましたが、結局ゲイザーはフラウの事を思い出す事はありませんでした。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第31話です。