半年前、アラヴェスタ王宮の玉座の間。ゲイザーは国王から騎士の証を授与されました。
「ゲイザーよ、此の度の獣人討伐隊で唯一生き残ったのは其の方だけじゃった。騎士団の希望となろう。褒めてつかわすぞ?」
「国王様、第九班にいた他の者は誰も生き残らなかったのでしょうか…」
「第九班は一人逃げ帰って来た者がおったが、騎士団の恥になるので首をはねた。戦って殉職した者の家族には褒美を与えて、騎士団の面目は保たれたがな」
「其の者は結婚を控えていたようでしたが、婚約者だった恋人は今頃どう思っておられるのでしょうか…」
「ほほう、その婚約者の娘が気になるか?よかろう。その方には褒美としてその娘を与える」
王宮の侍女として働いている若い娘が、国王の命により、ゲイザーの恋人になりました。
「さて、今日はどこに行きましょうか?」
「ゲイザー様、今日もただデートをするだけですか?」
「何かおかしいでしょうか?女性とお付き合いしたことがないもので…」
「褒美として与えられた日に、身体を求めて来なかったのは、あなたが初めてです」
「ふむ、普通なら肉体関係を持つものなのですね」
「ゲイザー様は私に女としての魅力を感じないのですか?」
「いえ、あなたはとても魅力的な女性だと思ってますよ?」
「それなら、なぜ私の身体を一度も求めて来ないのです?」
「あなたには恋人がいたのでしょう?まだ心の傷も癒えていないはずです」
「あの人は褒美として私を与えられただけなので、愛情などありませんでした」
「そうですか…。では私に対する愛情もないのでしょうね」
「最初はそうでした。他の男と同じだろうと思っていたのです。でもあなたは他の男と全く違っていました。今ではあなたを愛しています」
そして獣人が毎月、アラヴェスタに現れると言う噂が流れ始めました。
「ええい!騎士団の者は一体、何をしておるのだ…。なぜあの獣人を捕らえる事が出来ぬ?」
「それが素早しこい奴でして、剣の腕も一流で軽くいなされてしまいます」
「獣人が剣術を扱うとは…。捕らえられぬならさっさと殺してしまえ!この数ヶ月で騎士団の面目は丸潰れだ」
ゲイザーは聞き込み調査の為に街の人に話を聞いて回りました。
「夕べ、そこに鎧を着た獣人がおってさ、おったまげただー!」
「その獣人から、何かされたのですか?」
「いんや、なんもされとらんが、腹が減ってたらしくてな、野菜を盗って行きおった!」
「なるほど…。被害は野菜だけですか?」
「ああ、出くわした時ゃ、殺される!って思ったんだがやー、野菜だけ持ってとんずらしてっただ…」
ゲイザーは報告書を作成して、玉座の間に行きました。
「国王様にご報告です!獣人の現れた日に共通点はないか調べた結果、全て満月の夜である事がわかりました」
「ふむ、それがどうした?もっと役に立つ情報を持って参れ!」
「次に獣人が出現するのがいつなのか大体、推測出来ましたので、包囲網を張るのも可能ではないかと…」
「ほほう、其の方はなかなか智謀を巡らせるのが得意なようじゃな。報告を続けよ」
「よろしければ私に今回の作戦の指揮を取らせていただきたいのですが…」
「わかった、其の方に全指揮を取らせようぞ」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第29話です。