朝食はフォンのいる邸で、大きなテーブルを大勢で囲んでとる事になりました。
「さて、ゲイザーとやら…。お前はもう結婚はしておるのかね?」
「私は未婚です。恋人もおりません」
「フォン様!ゲイザー様が結婚されているかどうかなど、どうして尋ねられたのです?今は関係ないと思いますが…」
フラウが珍しく二人の会話を無理やり遮りました。
「本当に良い男ならば、すぐに結婚相手が見つかるものだ。結婚が遅れるのは、何か問題があるからだろう?」
「そう言われるフォン様も、まだ未婚ではありませんか?」
「獣人の女が不足しておるからだ!わしにはいくらでも相手はおるが、他の男に譲っておるのだ。手柄を立てた者には女を与えている」
「私は一箇所に留まらず旅から旅を繰り返す、傭兵をしておりますので、なかなか相手も見つかりません。稼ぎも安定しておらず、生活もギリギリですので、結婚する事はあまり考えておりませんでした」
「大丈夫!ナタが大人になったら、おじさんのお嫁さんになってあげるよー。だから心配しないで?」
ナタは口に食事を含んだままで、モグモグしながら言いました。
「お前が大人になるまで待っていたら、私は本当におじさんになってしまうよ?それまでに良い人が見つかれば良いのだが…」
フォンは食事をする手を止めて、徐ろに口を開きます。
「お前に一つ、試練を出そう…」
「試練ですか?どんなに辛い試練でも、必ずや乗り越えて見せます!」
「一ヶ月以内に恋人を作って参れ。そうすればお前を一人前の男と認め、マルヴェール国民の権利を与える」
「急に恋人を作れと言われましても…。今まで課された中では最も難易度の高い試練ですね」
「それが出来ぬようならば、わしはお前がこの国の土を踏むことを許さん!今すぐ出て行け」
「わかりました…。アラヴェスタに帰って試練を達成して戻って参ります」
とぼとぼとフォンの住む邸を後にして、洞穴を通って三人は森に出ました。
「フォン様はなぜゲイザー様には厳しく当たられるのかしら?ゲイザー様のように騎士道精神のある忠誠心の高い男には、いつも優しくなさっていたはずなのに…」
「もしかすると私を悪い虫だと思っておられるのかもしれませんね。フォン様からは父性愛を感じます。私がナターシャの事を娘のように感じているのと同じだと思いますよ?」
「父性愛があるなら、なぜ私に求婚などしてくるのです?」
「今の私には娘を持つ父親の気持ちが少しわかる気がするのです。ナターシャが年頃になった時、若い男と一緒に私の前に現れたら、私はその男に厳しく当たるでしょうね」
「ゲイザー様がナターシャちゃんを可愛がっておられるのはわかっております」
「私ならその男がナターシャに相応しい男かどうかを試す為に、わざと難しい試練を課すと思います。ですから私はフォン様の態度に悪意を感じてはいませんよ?」
「私はナターシャちゃんが羨ましい…。ゲイザー様のおそばにずっといられるのだから」
ナタはジョルジュを出して、フサフサの背中の上に乗ってはしゃいでいました。
「ジョルジュ!久しぶりにお外に出られたから嬉しい?良かったー」
「ナターシャちゃんはゲイザー様を父親とは思っていない気がします。私には父親がいませんが、娘は子供の頃、父親に恋をする事があるそうです」
「そんな話を聞いた事はありますね。しかしあのような子供に私は恋愛感情など抱きません」
「そうだと思います。十二歳だった私がいくら恋い焦がれても、ゲイザー様が相手をしてくださらない事はわかっていました」
「今は本当にお美しく成長されましたね」
「大人になってから再会出来たのは本当に幸運でした」
その後は終始無言で、ナタがジョルジュと戯れているのを、じっと眺めていました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第17話です。