話し合いがひと段落すると、フォンは手を鳴らして使いの者を呼びました。
「おい、誰か!客人に部屋を用意しろ?」
「はっ!お客人。こちらへ、どうぞ」
通されたのは質素な部屋ではありましたが、妙に居心地の良い部屋でした。
「私がクォーターの獣人だからだろうか?この国に来てから妙に懐かしいような、不思議な感覚がある。初めて来た場所だと言うのに」
「ナタもこの部屋好きー。アラヴェスタの街の宿屋はベッドの寝心地が悪かったもん!」
「フラウ様にはお客人とは別の部屋をご用意してあります。こちらへ、どうぞ」
「その方が良いですね。シスターも昨夜はあまり寝ていないでしょう?ゆっくり休んでください」
フラウはゲイザーに何か言いたげな顔をしながら、使いの者に連れて行かれました。ナタはリュックから分厚い魔導書を取り出すと、いつにも増して真剣に読み耽っています。ゲイザーが魔導書を覗き込むと、意味不明な象形文字が並んでいて、何が書いてあるのかサッパリわかりません。
「今日はなんの魔法の勉強をしているんだ?」
「えっとね、チャーミングの魔法!」
「チャーミングの魔法とは一体なんだ?」
「男の人を虜にして、思い通りに操る事が出来るの。悪い魔女が使って国を乗っ取った事もあるんだよ?」
「そんな魔法があるのか?女は恐ろしいな…」
「おじさんみたいな強い剣士でも、この魔法にかかったら絶対に勝てないからねー」
「確かに…。しかしもっと実用的な魔法の方が良くないか?使いどころが限られている」
「でもチャーミングの魔法はお胸のおっきな大人の女の人じゃないと使えないの…。大人の男の人はお胸がおっきな女の人が好きだからね。ナタみたいにお胸がぺったんこだと使えないみたい…」
「ナターシャ!バカなことを言ってないで、もっとまともな魔法の勉強をしなさい」
「だって…。おじさんはナタの使い魔なのに、あのお姉さんに操られそうになってるから…。ナタの使い魔を操ろうとするなんて、あのお姉さんは一体、何を企んでるんだろ?」
「いつから私はお前の使い魔になったんだ…」
「おじさんをカードに封印した時からだよ?おじさんと私は侍従関係の契約を結んでいるの」
「カードに封印されると使い魔になるのか?」
「そうだよー。カードを盗まれると、勝手に使われちゃうから、こうやって魔法の宝石箱にしまってあるの。この宝石箱はナタの魔力が鍵になっていて、同じ波動を当てないと開かないから、お師匠様とナタしか開けられないよ」
「そんな魔法道具だったとは知らなかったよ」
その頃、フラウはマルヴェールの夜の街をフラフラ歩いていました。女の獣人が少ない為か、マルヴェールでは女の獣人を見ると、男が群がって来ます。
「姉ちゃん、美人だねー。俺と一緒に遊びに行かないか?」
「汚い手で私に触らないでください」
フラウは肩を抱こうとした男の獣人の手を捻り上げました。
「痛ててて!なんちゅー怪力の姉ちゃんだ…」
「私はフォン様の能力を受け継いでいます。そこら辺の獣人と一緒になさらないでください」
「フォン様の?お前…あのマルヴェール最強の女って言われてる、フラウか!」
獣人の男は尻尾を巻いて暗闇の中へ逃げて行きました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第16話です。