フラウに森の中を案内されてマルヴェールの入口と言う洞穴の前まで来ました。
「この洞穴の中に獣人が住んでいるのですか?こんな薄暗い場所に閉じこもっているとは…。なんだか不憫ですね」
しばらく進むと暗がりで何者かが潜んでいました。ゲイザーは足を止めて剣に手をかけます。
「誰だ!止まれ…。それ以上、近づくと攻撃するぞ?」
「私は剣士・ゲイザーと申します。マルヴェール国王・フォン様にお会いしたい!」
「フォン様の事を知っているだと?お前、何者だ」
そこにフラウが前に出て来て言いました。
「そこを通してください。このお方は我々の敵ではありません」
「その声は…フラウか?帰って来てくれたんだな!フォン様に連絡するから、待ってろ」
見張りの男がいなくなったので、フラウと一緒に更に奥に進むと光が見えて来ます。洞穴を抜けると岩山に囲まれた獣人の国が姿を現しました。岩山の中心は吹き抜けになっていて、太陽の光が差し込んでいます。
「なんと!こんな美しい国があったとは知らなかった」
「その昔、魔導師が獣人を造り、人間と戦わせていましたが、戦いに疲れた獣人たちが、安住の地を求めて、創ったのがこの国だそうです」
先ほどの見張りの男が、こちらに駆け寄って来ました。
「フォン様が御目通りを許可された。ついて来なさい」
獣人の国は木製の素朴な建物で造られていて、国王の住む城と言うより、村長の住む掘っ建て小屋と言った雰囲気でした。
「フラウ、よくぞ戻って来てくれたな。お前のおかげで獣人になりたいと志願する者が増えて助かっておるぞ」
「別に獣人を増やしたくてやっていたわけではありません。教会に相談に来る者たちが困っていたので紹介しただけです」
「相変わらずつれない態度だな。まあそこがお前の良いところでもあるが」
「今日は私ではなく、この剣士・ゲイザー様がご用があってお供をして参りました」
「話は聞いておる。わしに何の用かね?」
「私はクォーターの獣人なのですが、満月の夜になると記憶を失ってしまうのです。どうすれば意識を保っていられるか、フォン様のお知恵を貸していただきたく、参上しました…」
「クォーターの獣人だと?一体、誰と血の契約を交わした!わしは許可した覚えはないぞ?」
「血の契約を交わしたのは私です。許可を取らなかったのは謝ります。しかし一刻を争う状況でした。どうかお許しください」
フォンは怒り狂っていましたが、フラウが頭を下げると、また冷静な態度に戻りました。
「フラウの血を分けたと言う事は、わしの血を受け継いだと言う事か…。わしは最初の獣人と呼ばれている純血の獣人だ。フラウに獣人の能力を半分だけ与えた。本当に危険な状態だったからな。わしが血を与えなければ死んでいた」
「フォン様が私にした事と同じ事を、私はゲイザー様にしただけです。ゲイザー様は私の命の恩人だから、どうしても助けたかった…」
「命の恩人?どう言う意味だ…」
「傭兵に殺されそうになっていた私を救ってくださったのです」
「傭兵がお前を殺そうとしたのか!許せんな」
「落ち着いて話を聞いてください。フォン様はいつも話の途中で腹を立てるので、大事な話が出来ません」
「悪かった…。わしもすぐカッとなる癖を直さんとな」
最初の印象は威厳のある男だと思っていましたが、フラウの前ではただの情けない男のように見えました。
…つづく
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
昔、書いていたオリジナル小説の第15話です。