No.952128

ビーストテイマー・ナタ13

リュートさん

昔、書いていたオリジナル小説の第13話です。

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2018-05-12 05:18:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:129   閲覧ユーザー数:129

ゲイザーは宿屋で部屋を二つ取りました。フラウもゲイザーの旅に同行する事になったからです。

 

「ちょっとシスター・フラウに話があるので、向こうの部屋に行ってくるが、ナターシャはここで魔法の勉強してるんだぞ?」

 

「はーい、次はもっとすごいやつ覚えるね!」

 

ナタは分厚い魔導書を真剣な表情で読み始めました。フラウの部屋をノックすると、シスターのヴェールを付けたフラウがドアを開けます。頭のヴェールを取ると獣人の耳が見えてしまうから、人に見られる危険性がある場所では外せないのです。

 

「シスター・フラウ。もうおやすみになられますか?」

 

「いえ、私もなかなか寝付けなくて…。一人で考え事をしておりました」

 

「では、少しお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「ええ、どうぞ。中へ、お入りください…」

 

部屋に備え付けのソファーに二人は並んで腰掛けます。

 

「実は血の契約で私を完全な獣人にしてもらいたいのですが…」

 

「昼間も申し上げました通り、私はハーフなので、ゲイザー様はクォーターなのです。血の契約を完了してもハーフになるだけ…」

 

「なるほど、シスターはなぜハーフのままでおられるのです?完全な獣人になれば、今よりも身体能力が高くなるのですよね?クォーターの私でさえ、身体の動きが人間の頃より遥かに良いですし…」

 

「私は獣人にはなりたくなかったのです…。完全な獣人になってしまえば、もう人間に戻る事は出来なくなるでしょう。でもハーフならば戻る事が出来るかもしれません…」

 

「獣人になった者は二度と人間には戻れないとユリアーノ様は仰っておられましたが…」

 

「ユリアーノ様とは…確か、有名な一級魔術師のお方でしたね?ローブで顔を隠して王宮武術大会に出て優勝なさったと聞いていますが…」

 

「ええ、私もその武術大会を観戦していましたが、あのお方にかなう者は、このアラヴェスタには他におりますまい…」

 

「ユリアーノ様には出来なくとも、他の誰かが出来るようになるかもしれません。私は薬草学に精通しているので、薬草による治療で治せないか研究しているのです」

 

「それは素晴らしい研究ですね!人間に戻るのは諦めておりましたが、戻れるならば私も戻りたいと思っています」

 

「ゲイザー様は完全な獣人になって高い身体能力を手に入れたかったのではないのですか?」

 

「確かに獣人の身体能力は非常に魅力的ではありますが、私は元々人間ですから、やはり人間として生きていくべきだと考えています」

 

「ゲイザー様も私と同じ考えで、嬉しく思います」

 

フラウは少し顔の表情が綻びました。

 

「ところでシスターは、なぜ人間に戻りたいのです?」

 

「それは…獣人の女は子供を産む事が出来ないのです…。なぜか子供を作れなくなってしまうらしくて、獣人は魔導師が産み出した生き物ですからね。魔導師がそうしたのでしょう」

 

「獣人は子供が作れないのですか?それは知りませんでした。では、子孫はどうやって残すのです?」

 

「血の契約によって増やすだけです。子供の獣人が少ないのは、子供には判断能力がないですから、掟で禁止されています。ただ病気の我が子を助けたくて、親子で獣人になった者もいましたね」

 

「女子供を殺されたと怒っていた男の獣人がいたのは、もしかして妻と子を傭兵に殺されてしまったのでしょうか?だとしたらアラヴェスタ側に非がありますね…」

 

「それは私にはわかりませんが、その女性は子供を産めなくなるのが辛くて、獣人になるのを躊躇っていました。ですが獣人にならない者はマルヴェールに住まわせてもらえないので、我が子と離れたくなくて母親は獣人になる決意をしたようですね」

 

「男の私には子供を産めなくなる辛さはわかりかねます…」

 

「愛する男性の子を身籠もる事が出来ないのは死ぬよりも辛い事です…」

 

「それほどとは…。孤児を養子にもらえば子供は授かりますけどね」

 

「私はただ子供が欲しいわけではなく、ゲイザー様の子を産んで差し上げたくても出来ないのが辛くて…」

 

「えっ…!私の子をですか?」

 

フラウは頰を赤らめて恥ずかしそうに目を伏せました。

 

「神に仕える職にありながら、はしたない女だと叱ってくださいませ…」

 

「いえ、そんな事は思ってもいませんが、私自身これほどまで、一人の女性に惹かれた事は今までになくて戸惑っています…。これは血の契約をした者同士だからでしょうか?」

 

「ゲイザー様はそうかもしれませんが、私の心は八年前からずっとあなたのものです…」

 

二人はしばらく無言で見つめ合うと、唇を重ね合わせて、強く抱きしめ合いました。

 

…つづく


 
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