教会の奥の部屋には棺がたくさん並んでいました。ステンドグラスからカラフルな光が差し込み、厳かな雰囲気が漂っています。シスターは振り返ると会釈をしました。
「シスター、獣人について詳しくお話を聞かせていただけませんか?」
「その話をする前にこれを見てください」
シスターは頭に被ったヴェールを取りました。尖った獣人の耳が現れます。
「そんな!シスターも獣人だったのですか?」
「はい、私は半獣人です。孤児だった私はこの教会の神父に拾われて育ちました。十歳までは人間でした」
「何があったのか話していただけますか?」
「私はどんな病でも治せると言う薬草を摘みに行ったのです。孤児の友達が治らない病気だったので、どうしても治したくて…。崖の上に咲いている花を摘んだ後、私は崖から落ちて瀕死の重傷を負いました」
シスターは遠くを見るような目をしました。その横顔はとても美しく、ゲイザーは耐え難い魅力を感じていました。
「そこに獣人が現れました。獣人は私に血の契約を施して、私は一命を取り留めたのですが、満月の夜に獣人になってしまうようになりました」
「私と同じですね…。シスターは獣人になった時に記憶を失ったりはしないのですか?」
「記憶はありますが、少し気性が荒くなりますね」
「私は記憶がなくなります。自分が満月の夜に何をしていたか全く思い出せない」
「それはあなたがクォーターだからです。私はハーフなのでまだ良いのですが…」
「クォーター?なぜ私がクォーターだとわかるのです?ユリアーノ様ですらわからなかったと言うのに…」
「あなたに血の契約をしたのは私だからです」
「シスターが私を獣人にしたのですか!」
「怒っておられるのはわかります。でもそうしなければあなたは死んでいました…」
「別に怒ってはいません。むしろ私の命を救ってくださって感謝しています!」
「私の事を覚えていらっしゃらないのですね」
「あの時は気絶していたもので…。こんな美人の顔を忘れるとは、本当に申し訳ない!」
「そうではありません。八年前に私はあなたに会っているのです。獣人の姿でしたが…」
「獣人の姿で?八年前と言うと私が実家を出て傭兵になったばかりの頃ですね」
シスターは懐かしそうに昔話を始めましたが、ゲイザーはその話を真剣に聞き入っています。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第9話です。