ユリアーノは戸棚の方へ歩いて行くと、宝石箱のような美しい装飾の施された魔法道具を取り出しました。
「ナターシャ、これをお前に授けよう。中にビーストカードが入っておるから、ジョルジュをカードに封印して連れて行きなさい」
「えーっ、ジョルジュをカードの中に閉じ込めるの嫌だ!」
「いいから、わしの言う事を聞きなさい。お前はこれからこの剣士・ゲイザー殿のお供をするんじゃが、街を歩く時、ジョルジュを連れていると人間が恐れるからのぉ」
「ユリアーノ様、このような子供を私に連れて行けと仰られるのですか?」
「ナターシャはただの子供ではない。魔物を操る能力があるんじゃ。お主は満月の夜に暴れてしまう事を恐れておるのじゃろ?ならば満月の前日からカードに封印しておけば、カードから出る事は出来ぬ」
「なるほど、ところであのジョルジュと言うモンスターは、かなり強力なモンスターのように見えましたが…」
「ジョルジュはわしの使い魔の中でも最強クラスの魔物じゃ。ジョルジュがおれば、敵を蹴散らしてくれよう」
「ジョルジュ、狭くて窮屈だと思うけど我慢してね?」
「ガルルルル…」
ナターシャが呪文を詠唱すると、ジョルジュは光り輝いてカードの中に吸収されて、真っ白なカードに鋭い牙の魔物の絵が浮かび上がりました。
「ナターシャの事を頼んだぞ。この子には人間の世界で暮らせるようになって欲しいんじゃ。人間のお主に人間として生きてゆく術を学んで欲しいと思っておる」
「私のような得体の知れない傭兵に預けても、ユリアーノ様は心配ではないのですか?」
「もちろん心配はしておるが、お主からは邪悪な波動は感じられぬし、ナターシャもよく懐いておる。心を鬼にして、可愛い子には旅をさせるのが親心と言うものじゃ」
「わかりました。ユリアーノ様の大事な弟子をお預かりします。私としてもカードに封印してもらった方が安心して満月の夜を迎えられますので…」
「カードには他にも好きな魔物を三体まで封印して連れて行きなさい。旅の途中でも仲間は増やせるからカードはなくなったら魔法屋で補充するように」
「ルーシーとピーターも連れて行く!」
「そのルーシーとピーターは何のモンスターなんですか?」
「今、呼び寄せるから屋上で待っていなさい」
ナタに案内されて塔の屋上に出ると、ユリアーノが呪文を詠唱しました。大きな翼を持った魔物が、遥か遠くの空から飛んで来るのが見えます。
「ルーシーには上空から偵察を命じておったのでな。ルーシーに乗って旅に出かけなさい。ピーターは…ほれ、そこにおる」
小さなネズミのような魔物が、ナタの肩の上によじ登って来ました。
「ピーターは小さいから、カードに封印しなくても良い?」
「街でピーターが迷子になったら困るから、カードに封印しておきなさい」
「はーい!じゃあピーター、カードの中は退屈だと思うけど、ごめんね?」
ナタはカードを大事そうに宝石箱の中にしまうと、リュックの中にしまって背負います。そしてゲイザーと一緒にルーシーの背中に乗って、空高く舞い上がりました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第3話です。