森の中の拓けた場所で、小さな女の子が泣いていました。木で作られた遊具のような物も置いてあります。そこへ鎧を着込んだ剣士が通りかかりました。
「お前はなぜ泣いている?」
「お友達がいなくなっちゃったの…」
女の子は泣き止むと剣士の顔を見上げて、答えました。
「フッ…。私には友達など一人もいない」
「じゃあナタがお友達になってあげる!」
女の子は急に笑顔になると、剣士の腕にしがみ付きました。剣士は少し困ったような顔をしています。
「いなくなった友達を探さなくて良いのか?」
「おじさんも一緒に探してよ?」
「おじさんと言われるほど歳は取っていないのだが…」
「おじさんはどこに行くの?」
「この森に住んでいるという魔法使い・ユリアーノ様に会いに来たのだが、もう何日も探し歩いているのに見つからない…」
「ユリアーノってお師匠様のことかなぁ」
「ユリアーノ様を知っているのか?」
「ナタが案内してあげる!」
ナタに手を引かれて一歩前に出た途端、目の前に雲を貫く巨大な塔が現れました。
「こんなところに塔があったのか?これだけ巨大な塔ならば、遠くからでも見えそうなものだが、全く気づかなかった…」
「お師匠様が魔法で隠してるからだよ?普通の人間には近づいても見えないの」
「なるほど、魔法使いの家は簡単には見つからないと聞いていたが、そう言う事だったのか」
塔の正門から中に入ると中央に階段があって、その両脇に巨大な銅像が立っています。突然、剣士の方へ銅像が動き出しましたが、ナタが手を振ると銅像は手を振り返して、また元の位置に戻って行きました。剣士は銅像の間を通って階段を昇り始めます。
「そっちはダメ!落とし穴があるの」
塔の中は入り組んでいましたが、ナタが案内してくれるので、トラップが仕掛けてある場所は全て教えてくれます。塔の中腹辺りに来ると大広間がありました。鋭い牙の魔獣が唸り声を上げて、階段の前を塞いでいます。剣士は腰に携えた剣を引き抜いて構えました。
「ジョルジュ!ここにいたんだねー」
ナタが魔獣のそばに駆け寄ると、魔獣はまるで飼い犬のように尻尾を振って、ナタと戯れています。ナタは魔法使いの弟子だから、普通の子供ではないのだと剣士は悟りました。
「まさか…、そのモンスターがお前の友達だと言うのか?」
「うん!ナタのお友達のジョルジュ。他にもたくさんお友達いるよ」
「人間の友達はいないのか?」
「人間のお友達はおじさんだけかな?」
「私はお前の友達になった覚えはないのだが…」
ナタがほっぺを膨らませて怒っているので、剣士は慌てて謝りました。今、ナタの機嫌を損ねてしまったら、このモンスターとトラップだらけの塔を昇り切れる自信がなかったからです。
「すまない…。友達にでも何でもなるから、ユリアーノ様のところへ案内してくれないか?」
「あと少しでお師匠様の部屋に着くよー」
「雲の上まで貫くような巨大な塔だったから、まだ中腹辺りではないのか?」
「あれは魔法でそう言う風に見せかけてるだけだよ?」
「何の為にそんな事を…」
「うーん。多分、人間が塔を見つけても入って来るのをやめるからじゃないかな?」
「確かにあの塔を見たら、尻込みしてしまうかもしれないな…」
「ジョルジュは番犬だから、お師匠様の部屋のすぐ下の部屋にいたんだと思う」
「ではこの上にユリアーノ様がおられるのか」
剣士は覚悟を決めて、階段を昇り始めました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第1話です。