お金は世界を渡ります 海を 大地を 人の手を
それは どんなに熟練な冒険者よりも 数多の冒険を重ねてきた大先輩なのです
ファーネルさんの趣味は とても多いです
詩を書いたり 折り紙をしたり 凧揚げをしたり‥‥
すぐに思い立っては始めてしまい どれも中途半端になってしまうのです
この間も"ゴルフ"なる遊びを 何処かから見つけてきて
さっそく始めては ギルドの窓を割ってしまいました
そんなファーネルさんにも 長く続いている趣味があります
一つは子供の頃からずっと続けている 絵を描くこと
そして もう一つがお金集めです
お金集めといっても 稼ぐことが好きという訳ではないのです
ファーネルさんの言う"お金集め"とは 通貨集め
いろんな国 いろんな大陸で使われている いろんなお金を集めるのが趣味なのです
何年もかけて ファーネルさんの所には たくさんのお金が集まりました
ファーネルさんは そのお金一つ一つの思い出を楽しそうに話してくれます
たとえば このお金‥‥
ファーネルさん曰く このお金は もう何処でも使われていないそうです
昔ファーネルさんが旅していた "エクレア"という開拓地方で使われていた通貨で
今では開拓も進み 国の手が入り 他の通貨が使われるようになってしまったそうなのです
でも ファーネルさんにとっては今でも その地方の通貨はこのお金なのです
仲間たちと一緒に開拓のお手伝いをし このお金を使ってお酒を飲んで大騒ぎをし
このお金を使って宿に泊まり このお金を使って生活した――
だから今でも このお金を取ってあるのです
「師匠 お疲れ様です 手紙が届いてましたよ」
シィちゃんがそう言って 机に手紙を運んできます
訪ねてくる時に ファーネルさんの代わりに 少し不格好なポストを確認するのが シィちゃんの日課です
ちなみにそのポストも ファーネルさんの趣味の成果だったりするのですが‥‥
さっそくファーネルさんが封を開けると 中から手紙と一緒に銅貨が数枚出てきます
ファーネルさんも見たことが無いお金でした
『私が住んでいる地方で 新しく使われるようになったお金です
きっと喜ぶと思ったので 一緒に送ります』
手紙には こんな風に書かれていました
ファーネルさんは エクレア地方で とある小さな女の子と知り合いました
その子は口が利けなかったのですが とても優しく明るい子で 皆から好かれていました
もちろんファーネルさんも すぐに仲良くなったのですが 開拓に一区切りがついた所で別れてしまったのです
それ以来 時折こんな風に 手紙をやり取りしているのです
エクレア地方を離れてから もう長い年月が流れました
たぶんシィちゃんと同じくらい大きくなった その女の子が今住んでいるのは 遠い遠い 海を渡った大陸です
ですから 手紙がファーネルさんの所に届くのも何日もかかり‥‥その新しいお金は 少し古ぼけてしまっていました
でもファーネルさんは そんな事を気にする様子も無く 素直に喜び筆を取るのです
「師匠! 趣味をとやかく言うつもりは無いですが 片付けくらいちゃんとなさってくださいッ!」
う‥‥ シィちゃんが掃除を始めたのか ファーネルさんを叱りつけます
そういえば机にお金を広げたままでした
この前も"ゴミのように散らかしていると ゴミと一緒に捨てますよ!"とおどかされたばかりです
――金は天下の回りもの いろんな人の思い出を乗せて 世界を回ります
今 払ったお金も 誰かの手に渡って 誰かの思い出の品になるのでしょうか?
返事のお手紙を 配達屋に頼んだファーネルさんは ふと そんな事を考えるのでした
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おかねは なにかをなしとげた せいか
おかねは なにかをてにいれる だいしょう
おかねは なにかをかたちづくる おもいで