怪我が完治して団長は再びあの断崖絶壁まで来ていた。
「あれ…、おじさん。また来たの?あのお姉さんは、一緒じゃないんだね」
「カルン殿は諦めるとおっしゃいましたが、一度引き受けたからには、最後までやり遂げないと、わたしの気が済みませんので…」
「まあ、おじさんが死んでも、ボクが生き還らせてあげるから、精々頑張ってね?」
「世界樹の力というやつですな。使ってはいけないのではなかったのですか?」
「おじさんはボクのこと、言いふらしたりしないでしょ?」
「ええ、騎士は一度交わした約束は果たします。約束を守れないのは騎士の恥ですから」
「約束破るのは悪いヒトだからね。まあ、ボクも妖精の国の掟を破ったけど、ヒトを助ける為だから悪いことではないよ」
「カイト殿、まだちゃんとお礼を言っていませんでしたな。助けていただいて、本当にありがとうございます」
団長は胸に手を当てて、深々とお辞儀をした。カイトは少し照れ臭そうにしている。
「昔、ボクのご先祖様がね、ヒトを生き還らせてあげたんだけど、そのヒトが他のヒトに言いふらしちゃったんだよ」
「よっぽど嬉しかったのでしょうな」
「うん、そしたらね。悪いヒトがやって来て、ボクのご先祖様を捕まえて瓶詰めにしちゃったんだ。ご先祖様は瓶の中で死んじゃった」
「それはそれは…。ツラい経験をなさったのですな。心中お察しします」
団長は胸に詰まる思いでカイトの先祖の冥福を祈った。ところがカイトは悲しむそぶりもなく、淡々と続けた。
「まあ、その後すぐ生き還ったんだけどね。もうヒトは生き還らせないことにしよう、ってご先祖様が決めたんだって」
「なるほど…、我々と妖精では随分と価値観も異なるのですな」
「あの花もさ、煎じて飲むとどんな病気でも治せる効果があるからって、命懸けでヒトが取りに来るんだけど、それで死んじゃったら意味ないよね。ヒトって本当にバカだなぁ」
「まさかあの花にそんな効果があったとは知りませんでした…」
団長は岩壁に手を掛けて、ロッククライミングの準備を整える。
「でも死ぬ時って痛いでしょ?ボク、あまり死にたくないなぁ」
「確かに…、わたしも死ぬかと思うほど痛かったです」
「だからおじさん…一回、死んでたんだよ?」
「そのようですな。出来ればもう死にたくはないものです」
「まあ、あんな危険なところに行かなくても、妖精の国に来ればいくらでも咲いてるんだけどね」
団長は岩壁を登り掛けていた手を止めて、すぐ様カイトに尋ねた。
「本当ですか!妖精の国にはどう行けば良いのです?」
「それは教えられない。ヒトが妖精の国に来ると戦争が起こるから…」
「戦争が起こるとは…どう言う意味ですか?」
「悪いヒトが妖精の国を手に入れようとするからね。だから魔法でヒトには見えないように隠してるんだ。妖精の国はすぐそこにあるよ?」
「まさか、わたしの目と鼻の先に妖精の国があったとは…。全く存じ上げませんでした」
「長生きしたかったら戦争なんかしなきゃ良いのにね。戦争でたくさんヒトが死んでたよ。ヒトって本当にバカだよね」
「同感です。カイト殿の言う通りだと、わたしも思いますよ?」
「おじさん、ピプル族なのに妖精の考え方がわかるんだね。見かけによらず結構、頭は良いのかな?」
「お褒めの言葉をいただき、光栄ですよ」
カイトはヒラヒラと飛んで崖の上に行くと、花を摘んで団長に手渡した。
「ほら、ボクが取って来てあげたよ。誰の病気を治したかったの?」
「誰かが病気と言うわけではないのです。この花がとても美しいので、この花のよく似合うレディーに渡そうかと思いまして」
「ああ、ヒトって綺麗な花を好きな女の子にあげるって聞いたことある!」
「まあ、大体そんなところです」
「ねぇ、おじさんの好きなヒトって、あのお姉さん?」
「いえ、わたしの好きな女性は…別の女性ですね。気が強くて、素直ではないですが、心の綺麗な女性ですよ」
「ふーん。心の綺麗なヒトならボクも会ってみたいなぁ。今度、そのヒトを連れて来てよ?」
「ええ、いつか必ず連れて来ますよ。では、わたしはこれで…」
団長はカイトに何度もお辞儀をしてから城へ帰還した。
to be continued
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オオカミ姫の二次創作ストーリー。第3話です。