No.946548

ゆりキャン△の2

初音軍さん

お姉ちゃんの片想い。
口にも態度にも出さないけど誰よりも妹のことを大事にして心配しているのを

見ていて愛情深いんだなぁと思いました。
その想いを更に強くしたらこうなるのかなぁとか思いながら書いていました。尊い。

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2018-03-26 17:07:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:795   閲覧ユーザー数:794

ゆりキャン△の2

 

【桜】

 

「今日は定時で上がります」

 

 いつもより早く仕事を終わらせて上司に報告しにいくと上司は何か悪そうな顔をして

私に尋ねてくる。

 

「各務原さんそんなに急いでどうしたんだい。彼氏とデートでもするの?」

「いえ、妹との約束があるので」

 

 私の返しに上司は面白くなさそうに頷くと私はさっさと会社を後にする。

車を出してなでしこに頼まれた場所へと移動する。

 

***

 

 時折、信号などで車を止めるたびに私は懐に手を入れる。手が向かう先には

なでしこからもらったハンディカイロがある。

 

 それに触れるたびに妹の笑顔が頭に浮かんで誰もいない車内だから気兼ねなく

微笑むことができる。愛しい妹…。

 

 運転に集中しながら私はなでしことこれまでにあった事を思い出していた。

 

 小さい頃から食べるのが好きで食べ過ぎて太っていくのを見過ごせなかった私は

心を鬼にして自転車で運動をさせた時に好きな妹から鬼とか言われるのは正直きつかった。

 

 けど今は素直にありがとうと言ってくれるなでしこに救われた。

私だってあの子の幸せそうに食べる姿は大好きだ。私に向けてくれる笑顔も…。

仕事で疲れ切った心を癒してくれる。スキマを埋めてくれるから…。

 

 新しい友達とキャンプに行くようになってからは前よりも活発になって

可愛さが増している気がする。その友達から誘われたバイトも正直どこまで続くか

怪しく思ったこともあった。けど、一生懸命努力しているあの子の姿を見ていると

私も協力したいという気持ちが再び出てきた。

 

 だからあの時、何気なく寄った美味しい天丼のお店を見つけた時、私は最初に

思ったのがバイトではなくなでしこの美味しそうに頬張る姿を見たかったのだ。

だけど何かしら理由がないと怪しまれそうだから店内を見て回ると偶然にも

バイトの募集の貼り紙を見つけた瞬間、私はなでしこに連絡を取っていた。

 

「来たよ!お姉ちゃん!!」

 

 走りながら入ってくる妹を見てすぐに注文をする私。時折冗談を交えて

妹の色んな表情を楽しみながら妹にとっては一番大事なことを話題に加える。

 

「あれ探してたでしょ?」

「ここバイト募集してるの!?」

 

「そう書いてあるじゃない」

 

 天丼を少しずつ味わいながら言うと、なでしこは今まで見たことがないくらい

強い決意を持ったような表情をした後、すごく元気にやりますと叫んでいた。

私は妹に落ち着くように言いながらもなでしこのその表情を見てびっくりしたのと

同時に少しドキドキしていた。初めて見たから…あんな表情…。

 

 それから間もなくしてバイトの給料が入ったなでしこはお目当てのランプを

買って家で両親に見せながら喜んでいた姿を見ていたら私も嬉しくなったものの、

何て言葉をかけていいかわからずいつも通りの顔で。

 

「良かったじゃない」

 

 と言葉で労った。その時に出た笑みは自分でも驚くほど自然に出ていた。

 

 妹の成長と私に向けてくれる笑顔、それだけで私は十分に癒されていたのだけど

給料日の次の日、車に乗ると手紙付きで寒がりの私のためにキャンプ代を割いてまで

繰り返して使えるハンディカイロをプレゼントしてくれたのだ。

 

 無理しちゃって…。カイロを握りしめながら私は手紙を読んでなでしこのことを想う。

なでしこが笑ったり気遣ってくれたりする顔を浮かべると胸がドキドキと高鳴る。

姉だからすることもあるけれどそれ以上に私はなでしこのことが好きだから人より

構ってあげたくなるのかもしれない。それを、あのプレゼントで自覚してしまった。

 

 そうだ、私はなでしこを愛しているのだ。

 

 仲の良い姉妹としてもそうだけど、それ以上に私はなでしこのことを…。

でも姉として大人として…それを口にすることはできない。

 

 それにあの子はキャンプを始めた時からずっとリンちゃんのことを恋した眼差しで

見ていたことを知っているから…。私はあの子には伝えない。

 

 昔はずっと姉として、他の子よりなでしこに近い位置で接することができて満足だった。

今もそれは変わらない。けど、それ以上の関係を求められているリンちゃんを見ていたら

羨ましかった。

 

 だからって私はなでしことリンちゃんの仲を邪魔をしたりはしない。

なでしこの笑顔をずっと…ずっと見ていたいから。複雑な感情を…もらったカイロと共に

胸の中にしまい込み、これからもずっと姉としてなでしこと接するのだ。

 

 しばらく車を走らせて待っているなでしこを見つけて車を止め、

なでしこを助手席に乗せるとなでしこはいつもの笑顔を私に向けて言った。

 

「お姉ちゃん、迎えに来てくれてありがとうー!」

「まったく…しょうがない妹ね…」

 

 本当に…人も気持ちも知らないで…しょうがないバカ妹よ…。

隣の席でいつものように愛らしい笑顔を向けてくるなでしこに私は苦笑をしながら

妹の頭を乱暴に撫でた後、車を出した。

 

 これからもちょくちょくなでしこのために時間を使うことは変わらないと思う。

この気持ちが報われることがないのはわかっているのにそれでも妹のことを可愛がる

自分のことをバカだなと思いながらも私は姉として妹を支えたい気持ちの方が強いのだ。

 

 だから私はこれからもなでしこが必要とするまで傍にいたい。

 

 そう、これからも…ずっと…。

 

お終い。

 


 
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