「僕が生まれたのは――――って話す前にさ」
キリランシェロはドアの方に顔を向けた。
「みんなも入ってきなよ。そんなところで聞き耳立ててないでさ」
キリランシェロの胸に体を預けていたはやては、はっとして後ろを振り向く。
「あっちゃ~・・・ばれてたんだ」
「おや、主はやて。なかなか大胆ですな」
「はやて、キリランシェロの看病お疲れ様」
ばつが悪そうなはやて、にやにやと笑うシグナム、はやての労をねぎらうフェイトを先頭にぞろぞろと入ってきた。
「みんな入ってきたね」
それじゃ始めようか。とキリランシェロは語りだした―――
僕が生まれたのはレインダストって呼ばれている村で生まれたんだ。正式な名前は無いんだけど、みんなはレインダスト―――『時代の屑』って呼んでたんだ。
僕はその村でアテレンスとマーサのフィンランディ夫妻の子供として生まれた。2人とも魔術士だったらしい。
「らしいってどういうこと?」
ティアナが聞き咎めて質問する。
「2人は僕が生まれて1週間後に僕をベビーシッターに預けて行った旅行先で事故死したから、僕は2人のことを何も知らないんだ。その後僕は孤児院に入った」
「そんな・・・」
はやては愕然とした。夢で見たあの幸せそうな夫婦が、我が子の誕生からたった一週間で世を去ったとはにわかに信じられなかった。
「そ、そういえば『レティシャ・マクレディ』って誰なんや?」
あ、そうだったね。レティシャ―――ティッシは孤児院で出会った僕の姉さんみたいな人なんだ。彼女も魔術士の血を引く一族の出身で、従妹のアザリーと一緒に孤児院に入ったんだ。僕・ティッシ・アザリーの3人は3姉弟として育った。
「へぇ~、お姉さんだったんだ。ところでキリランシェロが『牙の塔』ってところに入ったのはいつ?」
僕が『牙の塔』に入ったのは6才の時。アザリーとティッシは僕が4才の時に9才で入っているからその後を追った事になるね。
「そういえば『牙の塔』でキリランシェロは何をあの人に教わったの?」
「あの人?」
キリランシェロはスバルの質問にキョトンとした顔を向けた。それにはやてが補足する。
「キリランシェロ君の先生だって言ってた。背が高い男の人で、髪の毛をうなじまで伸ばした強そうな人やったよ」
「そういえばスバル、現れた瞬間あの男に攻撃を仕掛けたな」
何でも無いようにシグナムが反省しているスバルをからかう。ニヤニヤとした彼女の表情とは反対にキリランシェロは真っ青に顔を染める。
「スバル、よく生きてたね・・・」
「そ、そうなの?あたしそんなにマズイことした?」
キリランシェロの表情から何かを察した彼女も顔を青く染める。
「あの人―――チャイルドマン教師は大陸でも最強の魔術士であり、暗殺者でもあるんだ。あの人のところに赴いた暗殺者が一撃で滅ぼされたのを見た事がある」
「そ、そんなに強いの?その人?」
「僕達が束になってかかっても敵わないよ、あの人には」
『牙の塔』に入門した僕はウオール・カーレン教師・・・僕を『塔』に連れてきた人の教室に在籍した。そこで僕は・・・『スタッバー』としての教育を受けた。
「スタッバー・・・ってなんですか?」
聞きなれぬ単語に反応して、エリオが質問をしてくる。
「スタッブを行う人の事だよ。スタッブっていうのは後ろから刺す事・・・つまり暗殺の事・・・スタッバーっていうのは暗殺者の事さ」
「暗殺者・・・ですか」
10才になった僕はチャイルドマン教師の教室に移籍することになった。そこでも僕は引き続き暗殺者としての訓練を徹底して受けたんだ。
「キリランシェロ、ちょっといいか?」
シグナムがキリランシェロに待ったをかけた。
「あのハイドラントという男は結局何なのだ?」
ハイドラントとはウオール教室で一緒だったんだ。奴も後にウオール教室を離れるんだけど、行先は他の教室じゃなくて執行部―――まぁ、簡単にいえば『塔』の首脳みたいなものだって思ってくれたらいい。
15才になった僕は宮廷魔術士にスカウトされたんだ。ハイドラントの傷はその時に僕がつけた。
「なにか・・・あったんだな?」
「・・・」
キリランシェロは沈黙で答えた。シグナムはため息をひとつつき、
「今は答えられずとも、いつか話してくれ。私たちは仲間だからな」
みんなが出て行き、病室で一人になったキリランシェロは天井を見上げて溜息をついた。
「仲間・・・か」
一言だけ呟き、月を見上げた。心の中に灯ったこの暖かな感情は何なのだろう・・・
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今回はキリランシェロの独白です。機動六課の面々に彼の過去が明らかに・・・