「そろそろどこかに仕官しようと思うのだ。」
そう切り出したのは、ずっと一緒に旅をしてきた星ちゃんでした。
「突然どうされたのです?」
「路銀が心もとなくなってきているからな。この辺りで少し稼ごうかと思ってな。」
稟ちゃんの質問にもっともらしく答える星ちゃん。
「それでは、私達の旅もここで終わりですかねぇ。」
「まあ、そうなるな。」
「それは寂しくなりますね。」
この女3人旅は楽しかったのでちょっと残念です。
私達は、今の世を憂い平和へと導いてくれる英雄を見つけるために旅をしてきたのですが、お金が無ければどうしようもありません。
「それで仕官先はどうするのですか?」
「それなんだがなぁ・・・。」
そう言って星ちゃんを腕を組んで考え始めました。
私は手助けになればと、適当に人物名を挙げていきました。
「袁紹さんはどうでしょう?」
「袁紹殿は、家柄は立派。国力、財力とも問題ない。だが、本人の性格がなぁ。」
直接見たわけではないですが、町の人達の話を聞く限り結構問題ありそうです。
「あとは、その国力故人材には飢えていないであろうから、私のような流れ者では入る余地はないだろうな。」
これは言えてます。
さらに言えば顔良文醜という二枚看板もいるので、たとえ星ちゃんが入ったとしても活躍の場は無いかもしれません。
「曹操さんはどうですか?」
「曹操様は素晴らしい!!」
私の質問になぜか稟ちゃんが大声をあげました。
「容姿端麗で知力、武力ともあの方をおいて他にはありません!!はぁ、曹操様・・・。ぶはぁ。」
「はーい、トントンしましょうね。」
私は稟ちゃんの首をトントンしてあげます。
稟ちゃんは、興奮すると鼻血を出すという欠点がありますが、これはこれで楽しいものです。
「確かに曹操殿には英雄の器があるだろう。今は陳留の刺史だが、そのうち頭角を現すであろうなぁ。」
「そうですよ!!」
鼻血の止まった稟ちゃんが肯定します。
「だがなぁ、あの雰囲気がどうも・・・。」
「確かにあれはちょっとでしたねぇ。」
私も見ましたが、あの女同士での何とも言えない雰囲気は好きになれません。
「それに曹操殿のところも人材が豊富そうだ。私の入る余地はあんまりないだろう。」
「では、袁術さんはどうですか?」
「袁術殿か・・・、うーん。」
また星ちゃんは腕を組んで考えだしました。
「名声、国力、財力は申し分ない。ただ、袁紹殿と同じく本人の性格に問題がありそうだ。あとは、とんでもないものを飼っているしな。」
「虎の子ですね。」
袁術さんは、孫堅さんが亡くなった隙をついて、その娘孫策さん達を自分の配下にしたんです。
「あれは、袁術殿に飼いならせるはずもない。」
「そのうち食われるかもしれませんね。」
「それに巻き込まれるのはごめんだな。」
噂では、孫策さんは孫堅さん以上の猛者と聞きます。
袁術さんのところにいたら、いずれ起こるであろうその反乱に巻き込まれるかもしれませんね。
「あとは、董卓さん、馬騰さんくらいでしょうか?」
「確かに悪くないが、その方達に会うには路銀が心もとない。」
「では、どうするのです?」
「公孫賛殿にしようかと思う。」
「公孫賛殿ですか・・・。」
稟ちゃんは驚いたようですが、私は別に驚きませんでした。
「しかし、公孫賛殿とは微妙ですね。」
「国力、財力に不安はあるが、それゆえ人材不足のため、私のような流れ者でも成果を出せばそれなりに用いてくれるだろう。」
「確かにそうでしょうね。」
私達のような流れ者でもそれほど苦なく登用してくれそうな、そこそこ国力のある太守といえば公孫賛さん以外ありえません。
先ほど敢えて名前を挙げなかったのは、公孫賛さんしか選択肢が無いのを、私は分かっていたからです。
それから私達は分かれ道までの最後の旅を続けました。
最後の旅・・・、稟ちゃんはそう思っているかもしれません。
でも、私には一つの考えがありました。
色々話しをしながら歩いていると、あっという間にその分かれ道に来ました。
「ここでお別れかな。」
「そうですねぇ・・・と言いたいところですが、それは出来ません。」
「えっ!?」
私の言葉に、稟ちゃんも星ちゃんも驚きました。
「私達も路銀は心もとないです。それにこの大陸を旅してこられたのは星ちゃんのおかげだと風は思ってます。」
そうです。
盗賊や野生の獣がはびこるこの大陸を旅できたのはひとえに星ちゃんの武力のおかげです。
「星ちゃんの力なくしては、私達も旅を続ける事は出来ません。」
「という事は?」
「私達も星ちゃんと一緒に公孫賛さんへ仕官します。」
「えー!!」
稟ちゃん、大げさすぎます。
「ちょっとまて、風。私は仕官するなら曹操様と決めていたのだぞ。」
「それは分かっています。でも、さっき話した通り曹操さんのところのあの雰囲気を風は好みません。」
「それはそうだが・・・。」
「それに、公孫賛さんのところで、まだ見ぬ英雄を待つというのも悪くないですよ。」
私はなんとなく感じてました。
未だ現れていない英雄の存在を。
「確かに公孫賛殿の下でなら、力を発揮する機会もありそうだが・・・。」
「そうですよ。それに名が売れれば曹操さんの目にも止まるかもしれませんよ~。」
ちょっといやらしく言ってみたのが効果てきめんだったようです。
「そうだな!!まずは、公孫賛殿に仕官してみるのも悪くない。」
ホント、稟ちゃんは単純すぎます。
「星ちゃん、勝手に話進めちゃいましたけどよかったですか?」
「ああ、私なら問題ない。二人の実力は私がよく知っているからな。これほど心強い事はない。」
「そうですかー。それじゃ、3人仲良く行きましょう!!」
こうして私達は、公孫賛さんの下へと向かいました。
街に入って最初に思ったのは普通。
別に寂れているわけでもなく、そこまで賑わっているわけでもない普通の街でした。
ただ、極端に若い人が少ないのが気になりました。
特に若い男性は全然見かけません。
所々にある、義勇軍募集の看板で何となく察しはつきますが・・・。
「私達もこの義勇軍参加という事でお目通り願おう。」
星ちゃんにそう言われ、私達は公孫賛さんのいるお城へと向かいました。
「お前達か、義勇軍に参加したいと申し出た者達は?」
「はい。私は姓は趙、名は雲、字は子龍と申します。」
「私は、姓は程、名は立、字は仲徳といいます。」
「私は、姓は郭、名は嘉、字は奉孝といいます。」
旅が終わって稟ちゃんは偽名を使うのをやめたようです。
「義勇軍に応募するくらいだから、腕には自信あるのだろうな?」
「私はいささか覚えがありますが、他の2人は。」
「私達はこの知の力で公孫賛さんを手助けしたいと思います。」
本来なら様を付けるべきなのでしょうが、なんとなくさん付けでも問題ない気がしました。
「本来ならその力を試すところなのだろうが、今そんなこと出来るほど余裕がない。」
「盗賊退治ですな。」
星ちゃんが核心を突いたかのような言い方をしました。
特に他国と戦状態でないのに、義勇軍を募集するのはこれくらいしか理由がありません。
「そうなのだ。今朝も近くの村が被害にあった。何とか追い返したが、いつまた来るか分からない。」
「追い返しているのですか?」
「うむ。うちにもそれこそ万夫不当な猛者でもおればいいのだが、そのような人材はいなくてな。追い返すのが精一杯というのが現状だ。」
そう言って公孫賛さんは肩を落としました。
公孫賛さん自身は、結構な武の使い手でしょう。
とはいえ、太守である公孫賛さんが盗賊程度に出るわけにもいかずというのが今の状況のようです。
「なら、解決ですね。」
稟ちゃんが誇らしげに言います。
「何が解決なのだ?」
「この趙雲殿こそ、まさに万夫不当というべきお方ですからね。」
「本当か!?」
「公孫賛殿、試されるか?」
そう言って凄む星ちゃんに、公孫賛さんは手を振ります。
「いや、やめておこう。私ごときでは勝負にならないようだ。」
さすが一国の太守だけのことはあります。
あれだけで、星ちゃんの力を見抜いたようです。
「しかし、これで光が見えたというもの・・・。」
「申し上げます!!」
突然兵士が駆け込んできました。
「どうした!!」
「盗賊どもがまた現れました!!その数、約200!!」
「200か・・・。」
いきなり好機が訪れたようです。
「早速私の力を披露する場が出来たようだな。」
そう言って星ちゃんは、槍を振りました。
「そうだな、この趙雲が本当に万夫不当かどうか、判断できる機会ではあるな。」
「では早速・・・。」
「あっ、ちょっと待ってください。」
いきなり出ていこうとする星ちゃんを呼び止めました。
「なんだ?」
「兵士さん、盗賊に対しこちらは何人で対応しているのですか?」
知らせに来た兵士に人数を確認します。
兵士さんは、見知らぬ私に質問されて戸惑っているようでしたが、公孫賛さんが促してくれました。
「約80人ほどです。」
「80人ですか・・・。」
私はちょっと考えました。
稟ちゃんと目配せをした後、公孫賛さんに聞きました。
「今ここから出せる兵士の数は何人くらいですか?」
「多くて500程度だろう。各地に兵を配置しているからここにいるのはそれ位だな。」
「そうですか・・・。それじゃ、120人くらいお借りできますか?」
「なぜ、盗賊と同数なんだ?相手より多くの人数で当たるのが戦の常套だろう。」
確かに戦に勝つにはまずは相手より多くの人数で当たるというのは常套です。
でも、今回連れて行くのは戦うためではないのです。
「星ちゃん、ちょっといいですか?」
「なんだ?・・・うむ。わかった、やってみよう。では行ってくる。」
そう言って、星ちゃんは部屋を出て行きました。
公孫賛さんは首をかしげています。
「趙雲に一体何を耳打ちしたのだ?」
「盗賊を殺さず、連れてくるように伝えたのですよ。」
「なっ!?」
私の言葉に稟ちゃん以外が驚きました。
「殺さずに連れてくるとは一体どういう事だ?」
「盗賊を活用しようと言うことです。」
稟ちゃんが説明します。
「盗賊の大部分は若者でしょう。今この国は人材不足。その若者達を活用するというわけです。」
「だが、盗賊だぞ?」
「盗賊になったのは、生活の不安か食べ物の不安かどちらかでしょう。それを解消する為に、キチンと給金を払い食料も確保すれば問題無いと思います。キチンとお金をもらえ、食事にも困らなければ誰も盗賊などという事はしないはずです。」
「だがなぁ・・・。」
公孫賛さんは渋ってます。
確かに、この考え方は非常識でしょう。
悪い事をすれば処罰される。
それが当たり前です。
ですが、その先に待つのは、さらなる悲劇です。
「私達は今まで大陸中を回ってきました。その中で盗賊をしたばっかりに処刑された者の家族を見る事もありました。その家族は悲しみに暮れ、しまいには処刑した者に恨みを抱くようになってました。」
「確かに盗賊行為は悪い事です。ですが、悪い事に対し罰を与えるだけでは、この悪循環は解消できませんよ。」
私と稟ちゃんで必死に訴えます。
公孫賛さんは、しばらく腕組みをして考えた後顔を上げました。
「わかった。今回は、お前達の意見を採用しよう。その代わり、その管理は任せたぞ。」
「はい。」
「はいなのですよ。」
こうして、星ちゃんと約120人の兵士達は盗賊が出たという場所に向かいました。
私と稟ちゃんは一緒に行っても邪魔でしょうからお留守番です。
数日後、星ちゃん達は帰ってきました。
盗賊を約150人ほど連れてきました。
残りの50人ほどは、抵抗されてどうしようもなかったようです。
連れて行った兵士さんも無傷でしたが、守っていた兵士さんの何人かは盗賊に殺されてしまったそうです。
公孫賛さんは、その人達にお悔やみの言葉を言うと、連れてきた盗賊達に言いました。
「お前達は、これから私の下で働いてもらう。むろん、その分の給金は支払う。見込みのある者は、更なる地位への登用もあろう。」
この宣言にざわめきが起きます。
おそらく見せしめにあって殺されると思っていた人がほとんどでしょう。
喜びや驚きがある一方で、何か裏があるのではと勘ぐる雰囲気も感じました。
ですが、星ちゃんが槍を床に叩き付けただけで、盗賊達は黙りました。
よほど、怖い思いをしたのでしょうね。
「何を勘ぐる必要がある。公孫賛殿の温情だ。働けてお金ももらえる。これほどいい事はないだろう?」
星ちゃんがそう言うと、なぜか絶賛の言葉を上げる盗賊達。
もう星ちゃんの言いなりみたいです。
公孫賛さんは、そんな様子に溜息をつきながら、話しだしました。
「とにかく、お前達には期待しているからな。しっかり頼むぞ。」
そう言って、盗賊達は兵士さん達に連れられて、別室へと行きました。
私と稟ちゃん、星ちゃんの3人はこの場に残りました。
「これでよかったのか?」
「はい、素晴らしいです。」
「全く、褒めたって何も出ないぞ。」
「いやいや、我々の言葉を信じこのような振る舞いを出来るとは、公孫賛殿の懐の深さを感じずにはいられませんな。」
「おい、そんなに褒めるなって。」
星ちゃんの言葉に顔を赤く染める公孫賛さん。
「とにかく、これからもよろしく頼むよ。信頼の証として私の真名を皆に授ける。私の真名は白蓮だ。」
「そうですか、白蓮殿。私は真名は星です。」
「私は風です。」
「私は稟です。」
こうして真名の交換も終わりました。
星ちゃんは、兵の鍛錬や盗賊達への対応、私と、稟ちゃんはそれ以外の内政を担当する事になりました。
星ちゃんのおかげで、盗賊の数は減り、代わりに兵や労働者の数は増えました。
盗賊の数が減り、安全になると自然と人が入ってきます。
それによって物の流通も活発になって、自然と国も潤ってきます。
国は目に見えて豊かになってきました。
そんな中、英雄の器を感じさせる方が、白蓮さんの元を訪れました。
あとがき
色々と新しい試みを試してみましたが、いかがだったでしょうか?
語りで分かると思いますが、風の視点で書いています。
前々から風を中心とした話を書いてみたくて、今回思い切って書いてみました。
話のつじつまを合わせるのが難しいですね。
あと、星達3人が公孫賛の下に来るというのは、アンソロであったネタですが、実はそれにインスパイアされて書いた部分もあります。
ただそのまんま書くとただのパクリになっちゃうので、その辺りは気をつけました。
次は、あの人達を登場させる予定です。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真恋姫無双の二次小説です。
過去作とは違い、登場人物の視点で書いてます。
作者は、三国志時代の地理や細かい年代などに疎いです。
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