No.94347

不思議的乙女少女と現実的乙女少女の日常 『白い心の女の子1』

バグさん

新キャラ追加です。話はここでようやく半分もいってないくらいかもしれないです。プロット立ててないんでなんとも言えないですが。

2009-09-08 21:55:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:503   閲覧ユーザー数:487

「ヤカ…………これはどういう事なの」

「ごめんなさい、なんというかごめんなさい。悪いと思ってるしその百倍くらい許して欲しいと思ったりしてますいえ嘘です果汁100パーセントジュースの様にまじりっけの無い謝罪という概念が私を圧倒的な力で支配してます。そして束縛しております」

「あーもう、女、そこの女! 無視してないでいい加減に、いい加減に! アタシの話を聞けー…………あ、ごめんなさい調子乗りましたそんなダイヤモンドを鰹節みたいに削り取りそうな眼光を発さないで下さい」

 リコの部屋で。

2人の人間の前で仁王立つリコ。その姿は、なんだかよく分からないオーラの様なものを感じさせた。

リコの前に座る2人とは、

携帯ゲーム機を片手にリコの前に座る髪の長い少女、ヤカ。

そして、純白のワンピースを着た、そのワンピースよりも白い肌の(それこそ、血が通っていないほどに白い)、中学生くらいの少女。リコはまだ名前を知らない。誰だかも知らないし、なんでここに居るのかも知らない。

なんというか、リコはもう何もかも忘れて寝てしまいたかった。こんな状況になったのは、まあ、それほど長い話でも無いのだが、それなりに複雑な行程があり、それでもやはり、話としては単純なのだった。

花刻・カルペンティエリ・エリーザ宅から帰宅して。エリーの家を引き合いにして語れば、猫の額に居を構える蚤の額ほどに小さな自分の部屋に嘆息しつつ、父親が必死に働いて購入したマイホームに対して蚤を代入するなどなんという親不孝者とうな垂れて。まあ、とりあえず1日だけの創立記念日はあっという間に終りを告げ、翌日。通常授業を終えて家に帰宅したリコの心は何処までも憂鬱だった。

今、自室の机で肘を付いているリコだが、その眼は何処かを視ているようで何処も視ていない。心此処にあらず。

それは前日の朝に遡る話。

 エリー宅にある、通常、存在するはずの無い1つの扉。とても古めかしく、入るのが躊躇われたにも関わらず、入ってしまい、そこで…………。

死を宣告された。

1人の男に、いや、そもそも彼は人間では無かったようだが、ともあれ、宣告された。別に、彼がリコを殺すという事では無い。ネクロノミコンとかいう、先の男よりもより不可思議な人外の存在に殺されるのだ、という非情なる宣告だ。

花刻家の廊下で、ヤカに泣きついてしまった記憶が鮮明に蘇る。昨日の話なのだから当然だ。リコのプライドはそこまで高いものでは無い。友人に泣きついてしまった事を思い出して、ベッドの上で身悶えするくらいが精々の閾値だ。つまり、常識的な範疇のプライドを持ち合わせているという事で、正直、今思い出しても恥かしいくらいだ。相手がヤカでよかったと思う。

そんな事で身悶えできるのだから、案外、神経が太いのかもしれない、と思う。あるいは、現実感が無いと言った方が正解かもしれない。死を予言されて、不安になるものは居るだろう。それが嘘八百であれ、不安に駆られるのは間違っては居ない。言葉には力がある。言葉には人を動かす何かがある。言霊と言った方が良い。

それを、真に現実として受け止めるものなど、果たしてどれくらい居るだろうか。あまり…………いや、ほとんど居ないだろう。

だが、リコはそれを信じていた。

信じていたからこそ、現実感を持て無いのだ。例えば、自室の壁に大きな穴が開いていたとする。その穴はもともと開いていたものだろうか、それとも、初めは全てが壁であったのだろうか。あり得ない事だが、それが判らなかったと仮定する。判らないが…………どちらにせよ、壁に穴が開いているという事実に代わりは無い。自室に開いた大きな穴をどうしようか。穴を埋めないと虫が入ってくるかもしれない。あるいは、泥棒に入られるかもしれない。音はダダ漏れで、プライバシーは皆無に等しい。そうやって考えているうちに、焦点がどうにもぼやけてくる。大事なのは穴を塞ぐ事だろうか、それとも泥棒の被害を防ぐ事だろうか、プライバシーを守る事だろうか。全ては穴を塞ぐ事で解決すべき問題だ。だが、穴が開いてしまっているという問題が他の様々な問題と直結してしまっているために、どうにも焦点がほやけてしまうのだ。

…………普通ならそんな事は無いだろう。穴が開いているのなら、塞げば良い。だが、これがもっと事態の混乱を招くような問題ならばどうだろうか。根本的解決方法が今一判断の付かない状態で、自分の理解を超越してしまっている状況なら? 問題の解決方法も、起こっている事態も不透明で、問題に直結している様々な他の問題が複雑に絡み合っているならば、これはもう事態の真相や対処方法がぼやけてしまうのは仕方が無い。

虚脱感では無い、どうしようも無い感覚が、リコを襲っていた。

…………………………。

いや、実を言うと、その『現実感の喪失』の原因の4割くらいは、現在、自室で起こっている事に原因があるのだが。

 それを現象として捉える事には、些かの躊躇を覚えざるを得ないが、それ以外に表現の仕様が無かった。リコとしてはなるべく無視していきたいのだが、如何せん騒がしい。

「おーい、女。そこの女。椅子に座って虚無を気取ってる女。ちょっとだけでいいからこっち向いて。ねぇ女、こっち向ーいて」

 最後の方だけメロディ付きで言われて、なんだか無性に腹が立った。

溜息をついて、机の上に置かれた鏡で後ろを視る。鏡には、白い少女が居た。年は12、3歳だろうか。

眼だけが黒くて、他は全体的な印象として白い。肌も、髪すらも白く、着ているものも白のワンピースで…………少し、発光していた。いや、発光というと語弊があるだろう。淡くて、白い何かが彼女の身体から放出されている感じだ。

なんにせよ、どう考えても人間ではなかった。幽霊でも無い。どちらかというと、夏休みに出合った存在に似ている。

学校から帰って自室に入ると、全く知らない白い女の子が寝ていた。あろうことか、リコのベッドの上で寝ていた。スヤスヤと、この世の全ての平穏を静かに享受しているかの如く寝ていた。…………なんとなく窓から放り投げたくなった。

初めはリアクションに困ったが、放置しておく事を選択した。嫌な感じはしなかったし、この白い女の子が、件のネクロノミコンであろうはずが無い。少なくとも、リコの想像の中のそれとはあまりにもかけ離れていたし、上述したとおり、嫌な感じは受けなかった。

寝ている事だし、放っておこう。人間、というより生物では無いのに睡眠が必要な理由は不明だったが、別にそんな事はどうでも良い。

それで、明日に控えている歴史のテスト勉強を始めたのだ。定期試験では無く、小テストのようなものだが、成績には確実に響いてくるのだ。気を抜けるものでは無い。死が近付いている状況でテスト勉強などと悠長な事を…………という感じだったが、何をすればいいのか分からない。自分の肝というものは意外と座っているのかもしれない。そんな事を思ったりもしたが、現実感が薄い、というのがやはり最大の理由だった。

ともあれ、一応の手は打ってある。知り合いに、…………まあ、性格はアレだが、頼りになる人間が居るのだ。

テスト勉強を始めてすぐだ。

白い女の子が眼を覚ました。

机の後ろにベッドがある。女の子が眼を覚ましたのを、鏡越しに直接視たわけでは無い。なのに何故分かったかというと…………まあ、実は良く分からない。人間相手なら判らなかったかもしれないが、ああいった手合いの行動には敏感なリコだった。とにかく、眼を覚ました、

「おい」

 とても可愛らしい声の、とてもぞんざいな一言で始まって、

「女。お前に用が有ったり無かったりしない事も有ったり無かったりするのだが」

 舌足らずな声。それは果たしてどちらなんだと問いたくなる様な文章を述べて。

「あれ? 聞こえてなかったりしなかったりする?」

 と、疑問の文章を述べて。

リコはそれらを無視していた。あまり関わりあいになりたくなったからだ。『なかったりしなかったり』という言葉は両方とも否定語であるという突っ込みを堪えて。テスト勉強もしないといけないことだし。

トテトテ、とそんな擬音が出ていそうな歩き方でリコの方まで近寄って、背伸びをしてリコの顔を覗き込んで、頬を突っついてきた。

「あ、意外に柔らかいぞこの頬、と思ったり思わなかったり」

 それでもリコは無視していた。ちょっとイラッときた。

「おーい。聞いてくれないと困ったり困らなかったりするぞ、女。主にアンタが」

 だから具体的にどっちなんだと突っ込みたいところだが、やはり無視する。早く出て行ってくれないかなと思う。

可愛そうに思えるが、本当に効果的なのだ、この無視という行為は。生きている人間もそうだが、そうで無い手合いにも。無視するのは相手をするよりも遥かにエネルギーを使ってしまうが、リコはそれに対して、他の人間よりも一日の長がある。そして、無視をする人間に振り向いてもらおうとする、無視されている人間もまた、相当なエネルギーが必要なのだ。根競べというわけでは無いが、どちらかというと、無視をしている側の方が有利だ。もちろん、これは一対一の状況での話ではあるが。一対一で無いならば、最早それはイジメと化す。

「私は使いだ。使い魔っぽい感じの何かだ」

 あまりにも抽象的過ぎて何が言いたいか分からないが、使い魔というのは魔術用語だった気がする。ファミリアとも呼ぶらしい。一時、ヤカがパンダのヌイグルミを使い魔と称していた事があった。使い魔という単語には禍々しいイメージしか無いため、パンダは不適では無いかと指摘したのだが、秘められた凶暴性を無視出来なかったらしい。ザ・ヴァイオレンス・ヴァイオレット・イマジンというのが必殺技だったらしく、無駄に多用していた。使用に耐え切れなくなって綿が出てきてしまったため、補修の後、安置されている。

気になる単語が出てきたが、ここは我慢だ。興味のある単語に一々反応していたら、無視は通せない。

「………………」

 リコがあまりにも無視するので、なんだか寂しげな顔をしていた。右人差し指を唇に運んで、銜えていた。

「相手してくれないと本題を話せたり話せなかったりするんだよ?」

 指を銜えたまま首を傾ける姿は可愛らしかった。妹コハルよりも断然可愛かった。でも、とりあえず文末をハッキリさせる事に専念する事が先だと思う。

「ああぅ。プロテスタントがかかってるから、話せなかったりしないことも無いわけは無いのに」

 何故ここで自分がキリスト教である事を告白するのか理解できなかったが、なるほど、きっとプロテクトと言いたかったのだろう。

と、その時。

「神聖ローマ帝国万歳」

 と、謎の言葉と共にヤカが現れた。当然の如く窓を開けて。

歴史のテスト勉強のために、来る事は事前に伝えられていた。来る時は勝手に来るし、リコの方も同じなので、別に断りなどいらないのだが、まあ気分みたいなものなのだろう。

「ヤカ、明日のテストは日本史だからね。世界史じゃ無いから」

一応訂正しておいたが、ヤカにとってはどうでも良いことだろう。ちなみに、リコの通う学校で、歴史といえば日本史だ。世界史は1年生の1学期にさわる程度で、2学期以降は日本史1本となる。

「じゃあ言いなおします。邪馬台国万歳」

「そこテスト範囲じゃないから」

 きっと勉強などするつもりも無いだろうヤカは、まあ、適当に放置しておこう。一応教科書とノートらしきものはもってきているようだが、その両方に落書きが満載されている事をリコは知っている。むしろ、ここまで赤点を取ってこなかったのが奇跡なくらいで、あるいはどうして平均点を確保出来てるのかが奇妙な程の学習道具だった。

「ま、窓が勝手に開いたり開かなかったり!?」

 ヤカの登場で半ば忘れかけていたが、そうだ、白い女の子も居たのだった。この可愛らしい少女は、ヤカには視認できまい。普通の人間には視る事が出来ない現象だからだ。そう、これは存在ではなく、現象だ。

だが。

「え? え? なに、なんでいきなり窓が開いたり開いてなかったりするわけ? ていうか変な足音も聴こえたし…………わ、私人間じゃ無いのに心霊体験しちゃった!?」

 本気で慌てふためいているらしい少女の姿がそこにあった。

「……………………?」

 どうやら、少女の方にも、ヤカの姿が視得ていないらしい。

なんだか、またややこしい事になりそうだった。


 
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