命一家~13話 「好き!」
【儚(はかな)】
年が明けて1月も半ば。寒がりの私には辛い時期で更に追い打ちで雪まで降る始末。
上着とマフラーを何層にも身に着けてミルフィーユ状態に…。
そんな中、みきちゃんだけは元気に走り回っている。その姿はわんこのように可愛らしい。
「はかなちゃんも一緒にあそぼ!」
「わ、私はいいよ…。すごく寒いし…」
「動けばあったかくなるよ!」
そう言って着過ぎてもこもこになっている私に飛びついて顔を近づいてきた。
いきなり勢いよく好きな子の顔がアップで近づいてきたものだから私はびっくりして
体が固まり、顔が熱くなってきた。
「な、ななな」
「あれ、声まで震えちゃってる。そんなに寒いかなぁ」
これは寒さでなってるんじゃなくて…!
時々わざとやってるんじゃないかと思うくらいの勢いで私に触れてくる。
以前からそういうこともあったけれど最近は特に多く感じていた。
「わぁ、はかなちゃんふかふか~。あったかくてふかふかで気持ちいい…」
「ひゃぁぁ…」
嬉しいけどね!
私は心の中でそう叫びつつ、ここまでくると怪しい人物の姿が頭の中に浮かんだので
みきちゃんと遊べない日にあの寂びた神社へ一人で行くことに決めたのだった。
**
「かみさまー、かみさまー」
寒さに震えながら私は社に向けて声を何度かかけるとだらしなくにやけた表情で
神様がヌッと出てきた。まるで妖怪みたい…。
「幼女が必死に呼びかけてくる姿…最高…!」
「へんたい…」
一言呟くたびにマフラーの隙間から白い息が上る。
神様からは白い息は全く出ていなかった。…幽霊みたいなものなのかな?
とかちょっと失礼なことを考えながらここ最近おかしいみきのことを聞いた。
「最近みきの様子がおかしいの。神様、みきに何かいたずらしたでしょ!?」
「何でいたずらって決めつけられてるの…!?幼女同士の絡み最高でしょ!?」
「気持ち悪い…」
「ひどい…!」
やはり神様がいたずらしていたのか。これ以上話をしていても無駄だと思い
私は後ろを振り返ると神様は慌てて私に話しかけてきた。
「勘違いされると困るから言うけど、私はみきには何もしてないよ?」
「うそ」
「嘘は言わないよ…!」
拳を握りしめながら必死な表情で私に訴えてくる神様。
その時、何かを思い出したような仕草をしながら私に言ってきた。
「そういえば数日前にみきが私の所に来て話をしにきた時に…」
「何て言ってたの…!?」
みきのことは何でも知りたい私は帰りかけていた足を戻して神様に詰め寄るように
近寄った。
『好きな子がいて、その好きな子のこともっと好きになっちゃったんだけど
どうしたらいいのかなぁ?』
「って、そう言っていたから。みきのしたいようにしてみるといいよって
言っただけ」
「するとやたら私にくっついてきていたのは」
ここ最近やたらくっついてきていたみきの顔を思い出すと顔から火が出そうだった。
それを見て嬉しそうに微笑む神様。
「あ、やっぱりハカナのことだったのかな。いいねえ~、お熱くて」
「い、いいのかな…。どっちも女の子だし。私は嬉しいけど…」
「気にするタイプ? 人が人を好きになるってことは私は良いと思うけどなぁ」
「むっ…確かに…」
変態の癖に割とまともなことを言う…。と私が神様に少し心を動かされた直後。
「それに幼女同士イチャイチャしてるのは尊さしかないよね~!」
「やっぱり気持ち悪い…」
それを見た私はすぐさまその気持ちを撤回した。だけどみきの気持ちはわかった。
嬉しい、嬉しいけれど…。
「私…これからどうみきと向き合えばいいのかな…」
「なあに? すぐに今の関係が変わるとでも思うの?」
「え、違うの?」
「みきからしたらいつも通りの関係から少し貴女に近づいたくらいだし。
今まで通りでいいんじゃないかな」
「ちゅ、ちゅうとか…まだしなくていいの?」
「ぷふっ、無理に背伸びしなくていいのよ。いずれはもっとすごいことするかもだし」
顔を真っ赤にして聞く私を見た神様はちょっとおかしそうに笑い堪えながら
空中で脚を組みながら気楽に話しかけてくる。
「も、もっとすごいこと…!?」
「子供は子供らしく素直に好意を受け取りなさいな。
変に意識すると嫌われてると思われちゃうかもよ?」
「そ、それは困る…!」
必死になって言うと神様は優しい笑顔で私の頭を撫でていた。
「がんばれ、ちびっこ」
「…うん」
変態の癖に何だかママに撫でられてるような温かさがあって心地よかった。
その後に私の隣をスッと横切る何かがあった。
その何かは神様の傍に止まり手を軽く上げて挨拶していた。
「遊びにきたよ~…」
美しい長い黒髪をした着物姿の女性が少し気だるそうにそう言った。
髪には紅い薔薇の形と金の装飾をした髪飾りをつけている。
「やぁ、いらっしゃい薔薇神ちゃん」
二人は親しそうに挨拶を交わす。どこか神様の方が嬉しそうに薔薇神と呼ばれる人を
見つめているのがわかった。
「小さい貴女もわざわざこんなところまで来て…偉いわね」
「この子、恋の悩みで来てるの~」
「ちょっ…!」
人の話を勝手にその美しい人に話し始めて私は止めようとすると…。
「百合神がこんなにも喜んでるのだから大体の内容はわかるわ…」
「あらつれない」
「でも私たちが見えるのは珍しいわよねぇ…」
不思議そうに薔薇神と呼ばれる人は私のことをじろじろ見てきた。
「あの…誰ですか?」
「あ、ごめんなさい…。私は薔薇ノ香ノ命。略して薔薇神。そしてこいつは百合神。
名前が長くてめんどくてつい略しちゃうの」
「は、はぁ…」
神様にも色んなタイプがいるんだなぁと思っていると。薔薇神と呼ばれるお姉さんは
眠そうな目つきをしながらも優しく私の手を握って言った。
「私たちにお客さんなんて珍しいからまた悩みや話があったら来てね」
「おや、男子の恋を応援する貴女にしては珍しいね」
薔薇神さんに対して百合神はちょっといじわるそうに言うと薔薇神さんは
振り返って言った。
「本業はね。でも小さい子の恋は性別関係なく応援してるの。誰かと違って…」
「痛いとこ突きますねー!」
胸に手を当てて痛がるフリをする百合神を無視して私に再び目を合わせる薔薇神さん。
このお姉さんの方がまともに見えて私は気を許して薔薇神さんにも同じ話をしてみると
似たような言葉が返ってきても不思議とお姉さんの言葉の方が安心できたのだった。
「ありがとう、薔薇神さん。私がんばれる気がしてきた」
「そう、よかった」
「あれ、私は!?」
「あ。百合神もありがと…」
「ついでな上に呼び捨て…!」
ついでみたいな形で言ってしまったけれど私は悩みを真剣に聞いてくれた百合神にも
感謝していた。けど…素直に言うとまた気持ち悪い反応されそうで。それが見たくなくて
そういう言い方になってしまうのだった。
「あ、そうだ。もし仲良しな男の子達がいたら紹介してくれるかしら…。
私の神社も近いから…」
「…」
やっぱり二人は似た者同士なのかもしれないと思った。私はテキトーに返事をしてから
神社を後にして家に帰る道を歩いていった。
その途中でみきと会って、また勢いよく近づいてきて私のことを抱きしめてきた。
「はかなちゃんふかふかー!」
「ちょっ、みきちゃん!?」
みきちゃんの暖かさに包まれて私は目を閉じて静かにみきちゃんの背中に手を
回して力を少しだけ込めて抱き返した。他の子よりも少し薄着で気持ちも体も
暖かいみきちゃんのことを改めて好きだなと思えた。
「はかなちゃん、好き」
真っ直ぐな気持ちを向けられた私は恥ずかしさからすぐ反応できなくて
少しだけ間を置いてから抱いていた手にもう少し力を込めて言った。
「私も…好き…だよ」
その後、みきちゃんの表情は太陽のように暖かくて眩しい笑顔になっていた。
続
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幼女と幼女と百合の神様と新しい神様のまったりのんびり話