No.94012

真・恋姫無双~魏・外史伝38

 こんばんわ、アンドレカンドレです。
前回、見事伏義をぶちのめした一刀・・・。しかし一方で、蜀軍と正和党の戦いの行方は・・・?今回はその辺を中心に書き、その後の後日談を書きました。この回は、色々な展開を考えていましたが、この投稿作品の内容で収まりました。
 そんな訳で、真・恋姫無双 魏・外史伝 第十六章~悲劇と喜劇は終幕へ・後編~をどうぞ!!

2009-09-06 22:48:06 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4416   閲覧ユーザー数:3486

第十六章~悲劇と喜劇は終幕へ・後編~

 

 

 

  「ん、んん・・・。」

  顔に光を浴びた刺激で、重い瞼をゆっくりと開く。焦点が定まらず、ぼやける景色・・・。

 ゆっくりと、その景色がはっきりとしていく。それは天井だった。俺は自分の体が横になって

 いる事が分かった・・・。全身が倦怠感に支配される・・・。

  「・・・ここは・・・?」

  自分の置かれた状況を整理しようと記憶を辿るが、目が覚めたばかりで上手く思いだせない。

  「気が付いたようね?」

  左の方から声が掛かる。俺は視線を左にずらすと、そこには椅子に腰を掛けて、俺を見る華琳

 の姿があった。その膝の上には、読書をしていたのか、両手で広げられた本が乗っていた。

  「・・・華琳。」

  ぼーっとする意識の中、俺はようやく彼女の名前を呼ぶ。

  「ここは・・・。」

  「ここは成都の城の来客用の部屋よ。街の中で倒れていたあなたを霞達が見つけて、桃香が

  用意してくれたのよ。後で彼女達に礼を言っておきなさい。」

  そうだ・・・、俺は伏義と戦っていて・・・、それで倒れて・・・、意識を失って・・・。

 ・・・俺はどれだけ気を失っていたんだ?

  「華琳・・・、俺はどれくらい寝ていたんだ?」

  「今日で三日目よ。」

  「3日・・・?3日だって・・・!?あれからどうなったんだ?劉備さん達は!正和党は!伏義は

  ・・・うっ!」

  驚きのあまり上半身を無理に起こして、華琳に俺が知りたい事を述べる。が、頭に痛みが走り、頭を

 抱える。

  「起きがけで興奮するものでもないでしょう・・・?少し横になりなさい。」

  そう言って、華琳は俺の両肩を包み込むように掴み、俺に横になるよう促す。俺は為すがままに再び

 横になる。

  「・・・私としては、あなたが何をしたのかを聞きたい所だけど・・・。まぁいいわ。

  先にあなたが知りたい事から教えてあげる・・・。」

  「頼む・・・。結局、蜀軍と正和党の戦いは・・・どうなった?」

 

  「止めろーー!!止めるのだーーー!!!」

  蜀軍と正和党が成都の街中で、正面から激突・・・。陣形など作れるはずもなく、二勢力の混戦状態

 が展開されていた。兵士達の気合や叫び、悲鳴、剣と剣がぶつかり合う金属音、肉を切る音が、砂埃が

 舞う度に、至る所で聞こえ・・・、その度に血が流れ・・・、人が地面に倒れる・・・。

  そんな中、戦いを止めようと声が枯れるまで叫ぶ鈴々。

  「戦いを止めんか、馬鹿者共がっ!ここが何処か分かってるのか!!」

  白兵戦を展開している兵士と党員の間に割って入り、双方の顔を殴り倒して強引に仲裁する桔梗。

 だが、二人のしている事は、焼け石に水・・・、この戦いを止める所か一層激しさを増していた。誰も

 彼女達の言葉に耳を傾けようとする者はここにはいなかったのだ。なお、この時一刀はここより少し離

 れた戦場にて、蜀軍兵士と正和党党員の両方から思わぬ攻撃にさらされていた。

  「桔梗、駄目なのだ~!皆、鈴々の話を聞いてくれないのだ~!」

  鈴々と桔梗は互いに背中を預け合う。二人の顔に、もはや余裕はなくなっていた。

  「いかんのう・・・。皆、戦う事で頭が一杯になっておる。これではあの男の思う壺じゃ!」

  伏義の計画を水泡にしようとした自分達の行動が、逆に奴の計画の助力となってしまった事に悔しさ

 が顔に滲む桔梗。

  「駄目じゃのう・・・、わしは戦うのは得意じゃが、戦いを止めるのは苦手の様じゃ。」

  半ば諦めかける桔梗。

  「何を言っているのだ、桔梗!!鈴々たちがやらなきゃ、誰がやるのだ!!」

  そんな彼女に喝を入れる鈴々。まさか自分の半分も生きていない様な小娘に説教されるとは思っても

 みなかった、桔梗は驚く。

  「・・・そうじゃのう!その通りぞ、鈴々!」

  桔梗の顔から諦めが消える。そして、もう一度・・・と思った時であった。

  「ぎゃあああっ!!!」

  「ぐぎゃああっ!!!」

  二人の蜀軍兵士が鈴々と桔梗の前に吹き飛ばされてきた。その体は身に付けていた鎧ごと斬られていた。

  「何処だ・・・!劉備はっ!劉備は何処にいる!!隠れていないで出てきやがれ!!」

  現れたのは姜維だった。目の前の敵を片端から斬り捨て、ここまで進んできたのだ。彼の姿を目視

 する鈴々と桔梗。そして対峙する三人・・・。

  「皆!戦いを止めて下さい!!劉備玄徳は・・・ここにいます!!!」

  背後のはるか先から聞こえる声。鈴々、桔梗、他の蜀軍兵士、正和党党員・・・関係なく声の主に目を

 向ける。その瞬間、雑音が消えた・・・。戦いが止まったのだ、彼女の一声によって。ただ一人を除いて・・・。

  「ようやくお出ましの様だな、劉備!!蜀の王様は潔さが肝心だよなぁあああっ!」

  姜維は手に持っていた大剣を振り上げ、右肩に乗せると、劉備に向かって駆け出す。

  「お姉ちゃんはやらせないのだ!桔梗!!」

  「応さ!!」

  桃香の前に、鈴々と桔梗が武器を構えて立ちはだかる。

  「邪魔だ、どけぇええっ!!」

  その瞬間、姜維の上着の内ポケットが青白く輝き出す。

  ガギィィイイイッ!!!

  ガギィィイイイッ!!!

  「んにゃぁああっ!!!」

  「ぐうぅぅぅっ!!!」

  一瞬の出来事だった・・・。二人の間合いの外にいたはずの姜維が一瞬にして二人の間合いの内側に

 いた。一気に距離を詰めた姜維は二人に力の込められた横薙ぎの一撃を放つ。そしてその一撃をまとも

 喰らった二人は吹き飛ばされる。姜維はその常人とは思えない、俊敏な動きを駆使し、入り乱れた人の

 間を掻い潜っていき、桃香との距離を一気に詰めていく。

  「お姉ちゃん、逃げるのだーーー!!」

  叫ぶ鈴々。だが、桃香の耳にその叫びが届いた時、桃香の頭上を飛び上がった姜維が捉えていた。

 逃げようにも、桃香に姜維の振り上げられた大剣の一撃が襲いかかっていた。

  「死ねぇぇぇええええええっ!!!劉備ぃぃいいいっ!!!」

  「・・・っ!?」

  「おねえちゃーーーん!!!」

  「桃香様ーーー!!!」

  そこにいた者誰もが、桃香の死を直感した。ある者は絶望を、またある者は歓喜を顔に描いた。

  ブオォウンッ!!!

 

  ガッゴォオオオッ!!!

 

  だが、それは直感でしかすぎなかった・・・。結果は、誰一人予想だにしなかったものだった。

  「お、お前・・・!?」

  姜維の渾身の一撃・・・。

  「何と、あれは・・・。」

  それは、青き龍の刃が受け止め、そして力強く弾き返す・・・。

  「・・・あ、愛・・・。」

  そこにいた誰しもが、目を疑った。何故なら、桃香の前に・・・。

  「お怪我はありませんか?桃香様。」

  「・・・愛紗・・・ちゃん?」

  桃香も最初は目を疑った。だが、今は信じられる、自分の目に映る自分が一番よく知っている

 後ろ姿・・・。夢なら一生覚めないでと、心の中で何度も祈った桃香の目の前に仁王立ちする人物・・・。

  「お前は・・・、関羽雲長!!!」

  その人物の名は、自分の大剣を弾き返され、崩れた体勢を整えながら、後ろに下がった姜維の口から

 出た。

  「深手の傷を負い、帰還が遅くなりました事、今ここでお詫びいたします。」

  そう言って、愛紗は桃香に簡単ながらも謝罪する。

  「愛紗ちゃん・・・、良かった・・・。本当に良かった・・・。」

  桃香は口を押さえながら、両目から大粒の涙を流す・・・。その涙は彼女が無事だった事による喜び

 から流れたものだった・・・。

  「懲りもせず、また英雄気取りで俺の前に立つのかよ、関羽!あんたはもう、英雄でも何でもないんだ!

  ここに何しに来たんだよ!劉備のために・・・とでも言う気か!?」

  大剣を両手で握り、その切っ先を愛紗に向け、挑発する姜維。

  「その通りだ、姜維。私はそのためにここに戻って来た。・・・桃香様を守るため。そして何より、

  お前の手をこれ以上、無駄に血で染めさせぬために。」

  「何だと・・・!?」

  「最初は何の事やら皆目見当がつかなかった。お前の言う・・・村の事。一体何がお前をそこまで桃香様

  を憎ませるのか・・・。」

  そう言いながら、愛紗は自分の手に握られた青龍偃月刀に目を向ける。よく見ると、偃月刀は本来の

 長さよりも半分の長さに折れていた。そう・・・偃月刀は姜維に折られたままだったのだ。

  「そして、思い出した・・・。二年前の八珂村の出来事を。」

  愛紗の口から八珂村という単語が出た時、姜維の眉が動く。そしてみるみると不快そうな顔になる。

  「だったらどうした・・・。今更思い出したからって、それが何だって言うんだ?

  まさかこの場で、ごめんなさい・・・なんて言う気じゃないだろ?」

  「・・・・・・。」

  姜維の言葉に、返せなくなる愛紗。それを見た姜維はさらに話を続ける。

  「言っておくが・・・、俺が今求めているのは村の事を思い出す事でも謝罪でもない。

  俺が求めるものはなぁ・・・。」

  そして、大剣を握り締め直す。

  「お前の後ろでぽかんと突っ立っている奴の首をこの手で跳ね飛ばす事だあああああああっ!!!」

  ガギィィイイイッ!!!

  「くっ・・・!」

  「愛紗ちゃん!!」

  間合いを一気に詰め、大剣の一撃を偃月刀で受け流すと愛紗と姜維の肩がぶつかる。

  「どけ、この死に損ない!!先にお前の首を跳ね飛ばすぞ!!」

  「やれるものならやってみろ!」

  愛紗は姜維の動きを制限しながら、彼を引き連れて桃香から離れる。

  キィィイイインッ!!!

  二人の得物の切っ先が擦らせながら、再び距離を取る愛紗と姜維。

  「うおおおおおおっ!!!」

  「でやあああああっ!!!」

  ガギィィイッ!!!

  ガギィィイイッ!!!

  ガギィィイイインッ!!!

  二人の斬撃がぶつかりあう度に、金属音が響き、その度に火花が散る・・・。この時、一刀は屋根の上

 を転々と移動しながら伏義と斬撃のぶつけ合いをしていた・・・。

  「はあああああっ!!!」

  ブオゥンッ!!!

  愛紗の姜維に放ったはずの振り下ろしの斬撃は空を切る。姜維は一瞬にして愛紗の後ろにいた。

  ブォオウンッ!!!

  姜維の振り降ろした一撃は地面を割る。が、肝心の愛紗は間一髪の所でその一撃を回避していた。

  「関羽殿ー!頑張ってください!!」

  「姜維ぃい!いいぞ!その調子でぶちのめしてやれぇえ!!」

  蜀軍兵士、正和党党員達はすでに戦いを止め、声援を送りながらこの二人の戦いの行方を見ていた。

 一つの事件から始まった蜀と正和党の戦いは今、愛紗と姜維によって決着がつこうとしていた。

   ガギィィイイインッ!!!

  愛紗の短くなった青龍偃月刀と姜維の大剣がぶつかり、競り合いが展開される。

   「・・・、結局暴力じゃないか・・・。」

  「・・・・・・。」

  刃と刃が競り合う最中、姜維の口から言葉がこぼれる。

  「お前達がしている事は、暴力で相手を脅して・・・!!自分達の前に屈服させているだけ

  じゃないか!!そんなの・・・、他の国と何も変わらないじゃないか!」

  姜維が発した言葉が発端として、腹の内に溜めこまれた言葉達が次々と出てくる。

  「それともお前達は、それすらも理想のためだと片づけるのか!そして、八珂村の事も・・・!

  俺達正和党の事も・・・!理想のためだと片づけるのか!!」

  最後の語尾を強めに言いながら、姜維は愛紗に向かって直蹴りを放つが、それを寸前で察知した愛紗

 は競り合う大剣を押し返して、後ろに引き下がる。

  「逃がすかぁあああっ!!」

  その瞬間、姜維の上着の内ポケットが青白く輝き出す。

  「んにゃ!?あの兄ちゃん・・・、体が光ってるのだ!」

  姜維の体が青白い光を発している事に、鈴々は驚く。それは他の兵士達も同様であった。彼の身に

 何が起きているのか・・・、愛紗以外、知る由も無かった。その光の意味を理解する愛紗は一層警戒を

 強める。

  ブオゥウウンッ!!!

  「ッ!?」

  右真横からの横薙ぎが愛紗を襲う。

  「愛紗ちゃんっ!!」

  桃香の叫びが愛紗の耳に届く。

  ザシュッ!!!

  横薙ぎの一撃は愛紗の右頬をかすり、一筋の血が頬を伝る・・・。愛紗でなければ、間違いなく首が

 飛んでいた事だろう。

  「まさかあの小僧にこれ程の実力を持っていようとは・・・。愛紗が敗北したのも、頷けるのう。」

  姜維の力に、驚きを越え感服する桔梗。

  「お前達は卑怯だ!自分達に都合の悪い過去を偽るだけじゃなく、後ろから廖化さんを撃った!」

  横薙ぎを放った姜維の攻勢はまだ緩まない。姜維が動くたびに、青白い残像が残り、それと彼を

 見間違えてしまいそうになる。青白い光を発している限り、彼の動きをその目で捉える事は出来なかった。

 そして絶え間なく大剣の斬撃が愛紗を襲う。

  ブオゥウウンッ!!!

  「それともお前達の言う理想ってのは嘘偽りで張り付けただけの薄っぺらいものなのか!?」

  ブオゥウウンッ!!!

  「お前達は・・・、そんな薄っぺらい理想のために、俺から村や家族を奪うだけじゃなく、正和党

  まで奪う気のか!?そんな事はさせない!!」

  ブオゥウウンッ!!!

  「奪うって言うなら、俺はお前達をぶった斬る!!優しい国だなんて上辺だけの言葉しかほざかない

  偽善者なんか・・・俺には必要ない!!」

  怒りの込められた斬撃を紙一重でかろうじて避ける愛紗。斬撃が彼女の体をかすめていく。愛紗は

 反撃もまともに出来ず、ただ避ける事しか出来なかった。しかしそんな中でも、愛紗は機会を待っていた。

 反撃の機会を、一撃で決着つけるための機会を言葉を発する事無く、待っていた・・・。青龍偃月刀を

 握る手に力が込められる。

  「うおおおおおおっ!!!死ねぇえええっ!!過ちの元凶!!」

  愛紗が姜維の姿を捉えたのは、自分の真正面。あの時と同様、自分の間合いの内側に入った彼が、高く

 振り上げた大剣を自分に振り下ろしていた。だが愛紗は待っていた、この時を。

  「はああああああああああああああああああああっ!!!」

  ブオゥウンッ!!!

  ブオゥウンッ!!!

  

  ガッゴォオオオオッ!!!

  鈍い金属音が響き渡る・・・。

  「な・・・っ、そんなぁっ!?」

  姜維は致命的な過ちを犯した。熱くなった頭せいで冷静さを欠いたことで、間合いを誤ったのだ。麦城で

 だったならば、通用したその攻撃・・・。だが、現状はあの時は違う。愛紗が持っている得物は、あの時

 に叩き折られ、短くなった青龍偃月刀。彼女の間合いはあの時より狭くなっていた。微妙な間合いの変化

 ・・・、姜維は愛紗に反撃を許してしまったのだった。

  鈍い金属音・・・、叩き折られたのは、姜維の大剣。折れた剣先が宙を舞う。

 それと同時に、愛紗の背後・・・、ここより少し離れた街の端の城壁で、光の柱が昇った・・・。

  「おい!見ろよあれ!!」

  「何だぁっ!!ありゃあ!?」

  「光が・・・、空に昇っていく・・・!?」

  光の柱を目撃した蜀軍、正和党にざわめきが起こる。そしてそれは成都の外で待機していた華琳達にも

 見えていた。しかし、その光の柱はすぐに中心へと収束していき、消失する・・・。

 その瞬間、姜維上着の内ポケットにしまっていた水晶玉が粉々に砕け、跡形もなく消えてなくなって

 しまった。その事に、姜維は気が付かなかった・・・。

  「ぐわぁ・・・っ!」

  大剣を叩き折られた反動で、後ろに倒れ、尻餅をつく姜維。その時、額に巻いていた鉢巻が外れ、額の

 傷跡が現れた・・・。宙を舞っていた大剣の切っ先が彼の手前に突き刺さる。そして、周囲は騒然とする。

  「うむ、文句のない見事な一撃だった・・・。」

  「愛紗の、勝ちなのだ!!」

  「愛紗ちゃん・・・。」

  愛紗の勝利に喜ぶ鈴々と桔梗。もちろん、桃香も喜んではいたが、その顔は何処か複雑だった。

 

  「・・・・・・・・・。」

  絶句する姜維に愛紗は近づく。

  「もう、終わりにしよう姜維。これ以上、戦っても何の意味も無い。」

  「・・・っ!!!」

  そう言った愛紗に、姜維は歯軋りを立て、睨みつける。

  「意味が無い!無いだとっ・・・ぬぐぅ!!」

  勢いよく立ちあがろうとする姜維。だが、右足がもつれて立ち上がれず、また尻餅をつく。折れて

 いたのだった・・・、姜維自身も気が付かないうちに、彼の右足は折れていたのだった。

  「姜維!!」

  「姜維ぃい!」

  二人の党員が彼の傍に駆け寄る。そして彼の右足が折れている事に気が付き、それを本人に教える。

  「どちらにせよ、そんな足では立つ事すら出来ないだろう・・・。医療班をこちらで用意させるので

  、彼をそちらに。」

  「すまない・・・、感謝する。」

  愛紗の申し出に礼を言う党員。

  「ふ、ふざけるな!!こいつ等は・・・、こいつ等は、廖化さんを後ろから撃った卑怯な連中なんだぞ!?

  そんな連中の手を借りるなんて・・・!!」

  だが、姜維はその申し出を頑なに拒む・・・。そして右足を庇うように、立ち上がるが、すぐに倒れ

 そうになる所を党員の一人に支えられる。

  「廖化さんは後ろの方で、華陀という医者に治療してもらっている。・・・それに、もう・・・。」

  「もうってなんだ!俺達はまだ戦える!!こいつ等の歪んだもの全てを叩き潰すために、俺達はここまで

  来たんだぞ!ここで・・・、ここで負けを認めたら、死んでいった皆が浮かばれないじゃないか!!!」

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  姜維の言葉を聞いて、下を俯く党員二人。

  「俺達は負けない・・・!こんな奴等に・・・、こんな奴らっ!」

  

  パシィッ!!!

 

  「・・・っ!」

  姜維の頬を平手打ちで叩いた愛紗。突然の事で、二人の党員も、姜維本人も目を丸くした。

  「いい加減にしろ!お前が戦って来たのは、正和党の威信のためか!それとも昔を自分達を守って

  くれなかった、我々への腹いせか!?今のお前は、過去と現在(いま)を混同させ、自分の怒りに

  任せて力を振っているだけに過ぎんではないか!!」

  「う、うるさい・・・。」

  「自分が悲劇の主人公とでも思っているのか・・・?もしそうならば、勘違いも甚だしいぞ!

  それだけの力を持ちながら、お前はどうしてその力を前へと向けようとしない!!」

  「うるさい!知った風な口で・・・!お前に俺の何が分かるって言うんだ!!分かるはずないくせに!!

  力を前に向けろ?・・・ふざけるな!俺は力なんて欲しくなかった!望んでいなかった!!」

  愛紗の説教に盾突く姜維だったが、顔を俯かせる。

  「俺は何も望んでいなかった・・・!ただ・・・、おれはただ、あの村で・・・、父さんと、母さんと、

  静奈と・・・、村の皆がいて・・・、貧しくても・・・、平穏な日々を過ごせれば・・・!俺は・・・

  それで、良かったんだ・・・!でも・・・、でも・・・!」

  「・・・!」

  姜維は泣いていた、両目から溢れる涙が両方の頬を伝って、下に落ちるいるのが愛紗には分かった。

  「全部俺の前で奪われた・・・。村は火に包まれて、皆が殺されて・・・!!全部奪われたんだ!!

  ・・・お前達が!お前達が来たせいで・・・!お前達が益州に来たせいで!!お前達が争いを持ち込ん

  だせいで!皆死んだんだ!!」

  「っ!!」

  姜維の言葉が、桃香の心に刃となって貫く・・・。桃香の顔は青ざめていく・・・、姜維の言葉全てを

 理解出来なかったが、彼が何を言おうとしているのか、はかとなく心で理解した・・・。

  「皆が笑って暮らせる、優しい国をって言っているお前達が・・・!俺から全てを奪って行った!

  だから、俺はお前達を憎んだ!矛盾だらけのお前達がいたずらに戦って!理想のためだと言って!

  建前だらけのお前達を・・・憎むしか、俺には出来なくなっていた・・・!」

  「姜維・・・。」

  愛紗にはもうどんな言葉を掛けていいのか・・・、分からなかった。

  「・・・うぁぁぁぁああああああああああああああああああああぁぁぁぁああああああああああああ

  ぁぁぁっぁぁあぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

  空に向かって泣き叫ぶ姜維・・・。彼の叫びは成都の街を駆け抜けていった・・・。どこの誰に向け

 られたものなのか・・・、それは彼しか知らなかった。

 

  戦いは終わった・・・、たった一人の男の手の上で踊らされてきた、この無意味な争いにようやく

 終止符が打たれた。しかし、だからと言って、全ての者達が救われたわけでは無い・・・。この戦いで

 多くの命が散った事に何ら変わりは無い。友を、仲間を殺された者の怒り憎しみは、一体何処へ向かう

 のか?そして姜維の行き場の失ったこの想いは、何処へと向かうのか?恐らく、『全ては伏義という男

 の仕業だった』という言葉では、解決しない事だろう・・・。戦いが終われば、それで全てが終わるわけ

 では無い・・・。何故なら、人間とは単純な生き物では無く、そして心とは単純なものでは無いからだ。

 それらはあまりにも複雑で、入り組んだものであり、現代に至ってもそれを完全に解明出来たという者は

 今だに現れていない。そして恐らくこれからも・・・。理想が必ずしも、万人を幸せにするとは限らない。

 この時、少しばかり桃香は身に染みる様な思いにかられていた・・・。

 

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  事の顛末を華琳から聞き終えた俺は、沈黙してしまう。それは華琳も同じだった。

 何を言えばいいのか、俺には分からなかったから・・・。綺麗に丸く収まるはずもない、それが戦いで

 あって、殺し合いなのだから。先に口を開いたのは、華琳の方だった。

  「今、凪や真桜達は桃香達と一緒に街の壊れた箇所を修理しているわ。正和党もそれに協力している

  みたいね。」

  街のど真ん中で戦っていたんだから、街が壊れるのは当然か・・・。まぁ、その中には俺が壊した

 モノもあるだろうな、きっと・・・。そう考えると、もう少し考えて戦うべきだったかもしれない。

  「それと、北で五胡の侵攻を食い止めていた隊も昨日方戻って来たわ。」

  「・・・趙雲さん達は?」

  俺の問いに、無言で首を横に振る華琳。

  「雪蓮の話では、ここに来る途中で、彼女達が引き連れていたと思われる隊の兵士達の変死体を

  見つけたらしいわ。行軍の際に襲われたそうよ・・・。」

  「ッ!?じゃあ・・・!」

  「幸か不幸か、彼女達の遺体は見つからなかったらしいわ。まだ何処かで生きているのか、それとも

  別の所で・・・。」

  「その事は・・・、風と稟は?」

  「その情報はあの二人にも届いているはずよ・・・。」

  「・・・そうか。」

  なら、二人の前で趙雲さんに関する話題は控えた方がいいな・・・。

  「さてと・・・。こちらの話すべき事は話したのだから、今度はあなたが話す番よ、一刀?」

  「分かった・・・。」

  俺は両腕を使って、上半身を起こすと、俺は・・・伏義との事について話した。

 華琳には、俺の能力(ちから)の事は説明していた事もあって、割りとすんなりと進んだ・・・。

 でも、話の最後で、問題が起こった・・・。

  「光の柱・・・ねぇ。」

  「華琳達は見なかったの?」

  「街の外から雪蓮と一緒に見たわ・・・。霞達も、桃香達も目撃してたし・・・、その上その場所

  となっている城壁は綺麗に無くなっていた・・・。でも、ねぇ・・・。」

  あからさまな疑いの眼差し・・・、どんな目で見られようが、これが事実である以上俺にはどうする

 事もできないわけで・・・。

  「はぁ・・・、まるで三流作家の小説を読んでいる気分だわ・・・。もう慣れたけど。」

  そう言って、華琳は席を立って、本を椅子の上に置く。

  「・・・何処に行くんだ?」

  「あら?まだ一緒にいて欲しいの?」

  突然、意地悪な顔になる華琳・・・。

  「・・・華琳。」

  「冗談よ。皆の様子を見に街に降りるのよ。」

  「なら俺も・・・。」

  「あなたはここで体をちゃんと休めておきなさい。」

  俺の言葉を最後まで聞く事無く、華琳は先に喋る。

  「あなたは知らないでしょうが、霞が見つけた時、あなたはひどく衰弱していたのよ。」

  「う・・・うん・・・。」

  「あなたは街の復旧の前に、まず自分の体の復旧に専念しなさい。いいわね。」

  「・・・分かったよ。」

  俺は華琳の言われたとおりに、まずは自分の体を万全にする事を優先させた・・・。

 

  その頃・・・、成都の街。

 そこでは、蜀軍、呉軍、魏軍、正和党が入り混じった状態で思いのほか順調に街の修理が進んでいた。

 とはいえ、それでも街の至る所で蜀軍と正和党が衝突する事がしばしばあった・・・。彼等の間に

 一度出来た溝は、そう簡単に埋まる事は無かった。そんな事もあり、蜀の武将達が交替で街の警羅に

 出ていたりした・・・。蜀北部から帰還したばかりの翠、蒲公英が今、街の警羅に出ていた・・・。

  「しっかし、不思議な感じだな。ついこの間まで敵同士だった奴等とこうして街の修理をするって

  いうのも・・・。」

  「あ・・・。」

  翠の横を歩いていた蒲公英が何かを見つけ、足を止める。

  「どうした、蒲公英?」

  急に足を止めた蒲公英に呼びかける翠。そして蒲公英が見ている先を見ると、そこは一軒家の壁に

 街の子供達がわいわいとごった返していた。その中心には、姜維が居た・・・。子供達の相手をして

 いる彼はとても優しく、大剣を構えた時の彼の姿など、そこにはなかった。彼は小さな木箱の上に腰を

 掛け、石膏で固定された右足はまっすぐに伸ばされ、地面には松葉杖が横に置かれていた。

  「あいつが・・・、確か姜維なんだよな?愛紗を打ち負かした奴って言うからどんな豪傑かと思った

  けど、どう見てもそんな感じはしないよな・・・。」

  姜維を眺めながら、ぶつぶつと言う翠。

  「ん・・・?」

  姜維は翠と蒲公英に気が付いた。

  「何だ・・・、いつか会ったちびっ子か。」

  蒲公英に向かって、嫌味っぽく話しかける姜維。

  「ちょっとぉ!誰がちびっ子よ!誰が!」

  ちびっ子と言われ、頭にきた蒲公英。

  「そりゃあ、蒲公英の事だろ?」

  「姉様は一言多いのっ!」

  横に立っていた翠の一言に突っ込む蒲公英を無視して、翠は姜維の方を見る。

  「よっ、姜維!お前、もう寝ていなくていいのか?」

  「え?ああ・・・、まぁ寝ていても退屈だし。だからと言って、こんな足じゃあ修理を手伝えないし

  ・・・。」

  「そっか・・・。ん?それは・・・あやとりか?」

  視線の降ろした翠の目に映ったのは、両手の指と指の間に紐が絡まって、手と手の間で紐と紐が何度も

 交差する事で、形を作っていた・・・。姜維だけでなく、周りにいた子供達も同様に、あやとりをしていた。

  「ふん、お子様な遊び・・・。」

  少し小馬鹿にしたような態度で言う蒲公英。そんな彼女を見た姜維は・・・。

  「何だ、出来ないのか。」

  と蒲公英に向かって言った。すると、蒲公英は面喰った顔をして・・・。

  「誰もそんな事言っていないでしょうが!!姉様、こんな奴ほっといて警羅に・・・!」

  「ほ~ら、ちょうちょの出来上がりっと♪」

  「わー!おねえちゃんじょうずー♪」

  「へぇ~、やるじゃないか。」

  「へへぇ、こう見えても手先は器用な方ですってな♪」

  蒲公英が振り向いた先では、翠が子供達に混ざって楽しそうにあやとりに参加していた。

  「ちょっと姉様~・・・!」

  「ん・・・、何だ蒲公英?」

  「何だじゃなくて、蒲公英の話聞いていた!?」

  「話?ああ・・・、あやとりが出来ないって話か?あたしが教えてやるか?」

  「誰もそんな事言ってないって・・・!大体、あやとりぐらい蒲公英にもできるもん!」

  「「ふ~ん・・・。」」

  姜維と翠の声が重なる・・・。

  「ちょっとぉ!何その『無理しちゃって、この子ったら』って言いたそうなその顔っ!?

  いいわ、望むところよ!ちょっと紐貸しなさい!」

  そしてあやとりを始める蒲公英・・・。普段、いじる側の蒲公英であるが、どういう事か姜維が相手と

 なるといじられる側になる。

  「はっ!やっ!ほっ!とあっ!!」

  十本の指を駆使して、紐を絡めていく・・・。手と手の間の紐達が何度も交差するが形作るが・・・。

  「じゃじゃーん!!」

  出来た様なので、その出来栄えを見る姜維と翠。その結果は・・・。

  「・・・・・・・・・。」

  「・・・・・・・・・。」

  「こらぁあああっ!!!何その反応!!まるで蒲公英が痛い子じゃない!」

  無言でその顔の二人に突っ込む蒲公英。

  「いや、別にそこまで思ってはいないけど・・・?」

  「そうだぜ、思ったより上手いから感心してるんだよ。」

  「そんな顔で言われたって、何の説得力も無いわよ!下手なら下手って・・・、はっきり言いなさいよ!」

  「「うん、下手♪」」

  またしても重なる二人の声。

  「こらぁああっ!!」

  そんな三人を見て、面白おかしく笑う子供達。それにつられて三人も笑った。

  「はははは・・・!・・・。」

  笑っていた姜維の顔から笑みが消える。彼の視線の先にいたのは・・・。

  「・・・劉備。」

  姜維はボソッと口からその名を漏らした・・・。

  


 
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