雪の夜、月といる幸せ
「うひゃー、冷えますなぁ」
「そのサッムイおっさん口調でより冷えるんだけど」
「まあまあ、冗談のひとつも言わないとやってけない寒さってことで」
今日は朝からずいぶんと冷えた。とはいえ、雨も雪も降っていないし、風も強くない。イコール、学生は大人しく登校するしかない。
でも、暴風警報がないと学校なくならないというのは、いささか以上にずさんな基準だと思う。大雨の時点でヤバイんだし。
「にしても、この辺で雪が積もるなんてレアだよね。雪雪ふれふれ、もっと降れー、なーんて」
「あんたそれ、マジで言ってる?雪なんて降るだけ損じゃない。こんなのに情緒も何もないわ。邪魔なだけ」
「美鳥はロマンないなぁ」
「明(あくる)がなんでもないことにロマン感じ過ぎなだけ。詩人気取りかっての」
私はいつものように高校に入って久しぶりに再開した親友、月町美鳥と下校している。あっ、私の名前は夜戸(よるべ)明。こんなですが、超お金持ちの夜戸家の娘です。
「だって私、自分で言うのもアレだけど、お嬢様じゃん?……だから、本当に雪が降ってる時に外に出たことって、ないんだよね……風邪をひくといけないとか言われてさ」
「……明」
「でね、もしも雪が積もった日に外に出ることができたら、やろうと思ってたことがあるの!」
「雪合戦は不許可よ!?」
「言うのが遅すぎるわ、アホが!」
私はすぐに手に持った雪の塊を美鳥に投げつける!
「ひゃあっ!?つ、つめたぁっ……!」
「いやー、いい感じに首筋に当たりました……なぁっ!?」
「そうねぇ、すんごい冷たいのよ、首筋なんかに雪をぶつけられると……!」
「ちょっ、ちょっと待って!!私、凍死しちゃう!!私がしたいのは雪合戦であって、雪の押し付け合いじゃっ……!」
美鳥は、報復とばかりに雪を手の上に乗せて、それを私の首筋に押し付けてくる。手袋をしているとはいえ、美鳥も相当冷たいだろうに、なんていう無茶を。
「あっ、あぁっ…………」
「ちょっ、明?」
「い、今、おばあちゃんが見えた……かも」
「あんたのお婆ちゃん、元気でしょ!!」
「母方のおばあちゃん……」
「そっちも生きてるじゃない!」
「そうだっけ?」
「なんで私の方があんたの親族の生存状況をちゃんと把握してるのよ!あんたはアホか!?アホだな!!」
「これでも中学までは成績学年トップだったんですけどねぇ、なんでかねぇ」
……まあ、その原因は、今目の前にいる人だったり。
美鳥と一緒の時間は本当に楽しくて、楽しくて……勉強なんかよりもずっと楽しい。それに、テストの点数がまずいと聞いたら、美鳥が教えてくれるし。
「はぁっ……で、雪合戦はもういいでしょ。高校生になってまでやることじゃないわよ。どうせ雪を楽しむなら、もっと頭使って遊びなさい」
「具体的には?」
「え、ええっと……どうしよう?」
「私に聞かれても」
「………………雪だるま、とか?」
「あっ、いいね。作った雪だるま、校門のところにでも飾っとく?」
「どうせ明日には溶けるけどね。ここいらじゃ雪なんて降っても、その日限りのものなんだから」
「ね、儚くていいよね」
「確かに。……でも、人も同じようなものかもね。ただ、寿命が百年近くあるってだけ。結局、死ねば何も残らないのは、翌日には溶ける雪や、一週間で死ぬセミと一緒。結局、人間がいくら自分の生きた痕跡を残そうと必死になったところで、大きな視野で見れば人の生死なんて自然の一部。無駄な努力よね」
「すかしてんなー」
「すかしてない!!……ただ、あんたって今もずっと悩んでるんでしょ?」
「何に?」
「……そういうの、ぶってるって言うのよ。バカのふりして、道化を演じて。あんたは私のこと中二病だなんだ言うけど、やってることのレベルは一緒よ」
本当、美鳥には敵わないな、と思う。
私は親元を離れた生活を始めて、大人になったつもりでいる。
もう親の言いなりになる人生は終わりだ、これからはなんでも自分で決めて生きていく。そう思っている。
……でも、だからって私が「お嬢様」であることに変わりない。生活資金は全部、親のお金だし、今の暮らしの安全だって、SSによって保証されている。彼らがいないと、平気で家の鍵でも落としているかもしれないし。……結局、私はどこまで行っても世間知らずのお嬢様から抜け出せていない。
そのことを美鳥は、知っている。はっきりと言葉で伝えたことはないっていうのに、なぜか美鳥にはわかってしまっている。
「あんたはあんたでいいじゃない。無理に偉ぶる必要もない。強がらなくたっていい。……あんたは夜戸家の令嬢じゃなくて、夜戸明っていう個人でしょ。他の人間がそうだと認めてくれなくても、私は知ってるわ。……それじゃ、足りないの?」
「――うんにゃ。それでよか」
「こんな時までふざけるな」
「ありがと、美鳥」
「……それが友達ってもんでしょ。まっ、あんたなんて私がちゃんと見てやらなきゃ、ただのお調子者で終わりだものね。全く、面倒な友達を持つと厄介だわ」
「こっちこそ。すかしてる友達持つと、面倒で困るよ」
「だからすかしてない!!」
「はいはい、美鳥は素でそんななんだよね」
「そ、それはそれで恥ずかしいんだけどっ」
「恥ずかしいこと言ってる自覚はあるんだ」
「んなっ……!?わ、私はただ、その……そう、本!!これは本で読んだことをそのまま言ってるだけだから、その本の作者が中二なのよ!!!」
「へぇー、なんて本?」
「そんなのいちいち覚えてないわ。色々と読んでるし」
「へぇー、そうなんだ」
美鳥は顔を真っ赤にし、ぷい、とそっぽを向いてしまった。……かわいいな。
そして、それを見て、ふと私は思ったのである。
「えいっ」
「ぴぎゃっ!?」
「おぉー、美鳥のほっぺた、あったけぇ……」
「こっちは冷たいわよ!あんたの手、冷たすぎ!!冷え性か!?」
「かもにゃー」
手袋を取って、素手で美鳥の頬をぺたぺたやる。点けっぱなしの電球のように温かくなった美鳥の頬はすごく気持ちいい。
「末端冷え性の原因は、筋力不足って言うわよ。あんた、ちっこいからいけないのよ。もっと食べてもっと動いて筋肉付けなさい!筋肉が付いたら、胸筋で胸もちょっとは大きくなるわよ」
「えぇー、マッチョになりたくないからなー。後、胸筋ってよりは脂肪を蓄えたいし。美鳥みたいに」
「胸に手ぇ伸ばすな!!女同士でもセクハラは通用するんだからな!?」
「よいではないかー、よいではないかー」
「よかないわ、このエロ猿!!」
冬の寒い日。大切な人といると、あったかい。
……しかし、この揉み心地。美鳥のやつめ、またおっぱい育ちやがったな、こんちきしょう。
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こんなにも寒いので、雪に関する短編をば
いつも連載している小説の外伝です