「…誰か助けて…ここは…暗くて寒い」
「…あなたは…誰なの?」
「…君は…僕の声が聞こえるの?」
「…私はクラリスって言うの。あなたのお名前は?」
「…クラリス…僕に会いに来て…待ってる」
「…会いに来てって…どこにいるの?」
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。オッドアイの瞳を持つ少女が、気だるそうに欠伸をして目を覚ました。
「…またこの夢…。一体、あの声の人は誰なんだろう?」
カーテンに人影が見える。オッドアイの瞳の少女がカーテンを開けると、金髪の少年が白い翼をはためかせながら、窓の外で手を振っていた。
「クラリス!アカデミーに行こうぜ?」
「ゲルス君、私まだ顔も洗ってないし、髪の毛もボサボサだよ?」
「平気、平気!寝癖もキュートだぜ?」
「あっ、ダメだってば!」
金髪の少年はオッドアイの少女の腕を掴むと、ふわりと大空高く舞い上がった。眼下には長閑な田園風景が遠くまで広がっている。この国で一番、高い場所にある田舎村だった。雑誌の住みたい田舎特集で、第一位に輝いたこともある。
「クラリスに見せたいものがあってさ」
「見せたいものって?」
二人は宙に浮かぶ建物の上に降り立つ。通路の脇には見事な彫刻の施された石膏で出来ている白い柱が等間隔で並んでいる。ゲルスはクラリスの目の前に手を差し出し、その場に跪いた。
「あれ?おかしいな…。昨夜、練習した時はうまく行ったんだけど…」
「…どうしたの?ゲルス君…」
「花束を出す魔法を練習してたんだ。クラリスの前だから緊張して失敗しちまったらしい。ダッセェな…」
「それ、きっと私のせいだよ…。なんかお友達もみんな言ってる。私の近くにいると魔法失敗するって。私は疫病神なんだよ…」
「クラリスが疫病神なわけないだろ?むしろ俺にとっちゃ、女神様だな!」
何か言おうとしているクラリスの声を遮るように、始業を告げる鐘の音が聞こえてくる。
「ヤベェ…、朝のミーティングに遅刻したら怒鳴られるぞ!行こう、クラリス」
ゲルスはクラリスの手を引くと、建物に向かって全力疾走した。扇状の机が段々に並んでいる講義室に入ると、生徒たちの目線が一斉に二人に注目する。クラリスは恥ずかしくて俯きながら席に着く。
休み時間を告げる鐘が鳴り、退屈な講義が終わって、クラリスがお手洗いに行くと、女子生徒数名に周りを取り囲まれてしまった。クラリスはおどおどした表情で立ち尽くしている。
「ゲルス君ファンクラブの私たちを差し置いて、抜け駆けするなんて許せないわね?クラリス!」
「ゲルス君は幼馴染だから、私のことは妹みたいに思ってるんだよ?」
「なんであんたみたいな子が幼馴染なのかしら?私がゲルス君の幼馴染だったら良かったのに…」
クラリスは女子生徒たちから逃げ出そうと、お手洗いの外に飛び出した。しかし女子生徒たちは執拗に追いかけて道を塞いで、クラリスの前に立ちはだかった。
「クラリスのオッドアイってまるで魔族みたい!あんた、本当はピプル族じゃないんじゃないの?」
「これは生まれ付きだから…。私の家系は代々ピプル族だし、魔族なんかじゃないよ?」
「翼も持たないピプル族の癖に生意気なのよ!天使族のアカデミーになんであんたみたいな落ちこぼれが通ってるの?」
煽動していたリーダー格の女子生徒がクラリスに掴みかかろうとした瞬間、それを制止するように黒髪の少年が現れた。
「邪魔しないで!ゲルス君と違って兄貴のあんたは性格悪いし、そんなんだから顔は良いのに、女子にモテないのよ?」
「悪いけど弟と違って僕は女子に興味はないんだ…」
「何よ…、クラリスばっかり!あんな子のどこが良いのよ?」
「ゲルスに聞いて来てやろうか?クラリスとあなたのどちらが好きなのかを…」
「もういい!あんたがいるから話にならないわ…」
黒髪の少年とクラリスだけを残して、女子生徒たちは蜘蛛の子を散らすように、その場を立ち去った。
「…カース君、助けてくれたんだね。ありがとう!」
「そう言えばクラリスはゲルスと僕のどちらが好きなんだ?」
カースの声を掻き消すかのように昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴った。
「えっ!何か言った?聞こえなかった」
「いや、なんでもない。聞こえなかったのなら忘れてくれ…」
「えええっ、気になるよ?さっきなんて言ったのか教えて!」
「しつこいな…、なんでもないって言ってるだろ?」
「ごめん…、またカース君のこと怒らせちゃったね」
「僕の方こそ少しキツく言い過ぎた。ごめん…」
to be continued
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オオカミ姫に出てくる双子の天使の兄弟をメインに書いた二次創作ストーリーです。