No.937746

双子物語82話

初音軍さん

雪乃編、仕事の体験と再会。実際の仕事の仕組みを全く知らないので
変なとこあってもお気にせず(*>ω゜*)雪乃のお仕事候補はいくつか
あるのですが雪乃の体力面からしてどれがいいか迷ってますw

2018-01-16 13:58:06 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:569   閲覧ユーザー数:569

双子物語82話

 

【雪乃】

 

 ブブブッ…。

 

 叶ちゃんとくっつきながらテレビを見ていた時にスマホのバイブ音が鳴ったので

取り出して見てみるとかけてきた相手は父さんの会社の人からだった。

 

 シナリオ担当の早矢女さんという人で大胆でダークなストーリーを書いている割に

本人は穏やかで出来るお姉さんという印象だった。その人からちょっと試しに仕事を

手伝ってみないかという誘いが来たのだ。

 

「先輩…?」

「叶ちゃん、次の休みの日にちょっと出かけてきていいかな」

 

「いいですけど…私もついていっちゃ…だめですよね」

「手伝い頼まれちゃってね、一応仕事だし。無理かな」

 

「ですよね、ごめんなさい」

「こっちもごめんね。今度埋め合わせするから」

 

 そう言ってから私は叶ちゃんの頬に軽くキスをした。少し悲しげだった彼女も

それで少し気を良くしたのか笑ってくれた。

 

 

**

 

 言われた日になって待ち合わせ場所で待っているとスーツを着た女性が少し

慌てた様子で小走りで私の所まで来た。やや灰色がかった長髪で物静かだけど

優しそうに笑みを浮かべるお姉さん。宗家早矢女さん。

 

 父の会社で一番頼りにされているライターさんである。

 

 早矢女さんの後ろについて歩きながらこれからのことについて少しずつ話した。

この会社で働けるかわからないから曖昧に話していると早矢女さんは少し残念そうな

顔をしていた。

 

「もしこの仕事じゃなかったとしても体験することで何かしらは得られるはずだから、

がんばってね」

「はい、がんばります!」

 

 簡単に説明を受けて、細かいことは仕事場に着いたら話すと言って少しだけ歩くと

以前見学の時に来た建物に着いた。早矢女さんが建物に入るのを見て私も続けて

入っていくと私と同じように体験しに来た女性が近くにいた。

 

 相手も私に気づくとちょっと嬉しそうに微笑んでいた。私に似た長い白髪の美人さんで

目が死んでいるような感じがどこかで見たような…。

 

「あっ、眞凍さん…?」

「えぇ、久しぶり…」

 

 一度だけ高校の時の夏休みに彩菜が学校の先輩を連れてきた。多分その時の…。

 

「え、二人とも知り合い?」

 

 眞凍さんを連れてきていた会社の人が驚いた声で聞いてきた。どこか自信なさげで

おどおどしている人だった。ショートで眼鏡をかけてるのが特徴の女性だ。

 

「別に…少しだけ…」

 

 眞凍さんがそういうと私に一礼してから担当の人を押しながら進んでいった。

 

「早く仕事…見せて…」

「わ、わかりましたからぁ、押さないでぇ…」

 

 二人の姿が見えなくなるまで待っていたら早矢女さんがおかしそうに小さい声で笑った。

 

「面白い子でしょ。すごく才能あるのに自信がないの」

「そうなんですか」

 

「眞凍さんも数日前にうちに来てあっという間に仕事覚えていって助かるわ。

ヘルプみたいな感じで来てるんだけど…元々は絵画専門だったらしいのよね。

そんな子がこういう世界に興味あるとは驚きだったわ」

 

「え、えぇ…私も驚きでした」

 

 まるで先輩後輩が逆に感じられて…。早矢女さんの話からあの人の名前は鞘子さんと

いう方らしい。キャラクターデザインをしていて会社にとってとても大事な人材だという。

 

「最近、鞘ちゃんのうちで恋人とケンカ中だっていうからなおさら凹んでるのかもね」

「恋人…」

 

 私は何気なく思いついたことをよく考えもせずに早矢女さんに質問をしていた。

ほぼ無意識に。

 

「あの、早矢女さんも恋人とかいるんですか?」

「え? いるわよ。相手も女の子だけど」

 

「え!?」

「あら、変だった?」

 

「あ、すみません。私も同じなんです」

「あら、そうなの!? すごい偶然ね」

 

 私の反応で一瞬、表情が硬くなるも私のことも話したらすぐに元に戻って優しい

表情に戻っていた。

 

「私の相手は表情は怖いけど子供が好きでね~。保育士さんしてるの」

「へぇ、立派ですね」

 

「えぇ、不器用だけどね」

 

 話をしているうちに早矢女さんの仕事場について早速仕事について簡単な説明を

受ける。まずシナリオの文章のおかしいところがないか、誤字脱字をチェック。

私は早矢女さんの文章を見て勉強をしていく。さすがに何本もシナリオを書き上げる

人は表現力が違う。私に足りないものを見ながら少しずつ勉強、吸収していく。

 

 私ともう一人の人が簡単にチェックをしてからプログラムらしい画面に入力していく。

一見単純な作業に見えるも確実に時間がなくなっているのがわかる。

 

 私が頼まれていたものを確認を終えてから時計を確認すると驚くほど時間が進んでいた。

作業が一段落してから早矢女さんにコーヒーを淹れてもらい、飲んで体を温めた。

 

「ふぅ…、思ったより大変な作業ですね。主に目が…」

「これでも最初の方だから後々の設定が大変なのよね」

 

 人が少ないから全員が最低限のプログラムも齧っておかなきゃいけないし。

この作業は少しでもミスした場合の負担を軽減するためよね。

 

 早矢女さんは苦笑いをしながら説明をする。大きな作業はさすがに専門の人に回すが

ちゃんと動くか確認するところは自分で何とかしないといけないらしい。

一つの作業に集中できるわけではないようだ。まぁ、それは会社によるのだろうけれど。

 

「お疲れ様。後はデバッグの手伝いをしてくれると助かるわ~」

「わかりました。やらせてください」

 

 試作品のゲームを操作しつつ、想定内の動きと想定外の動きをして確認をする。

不具合を見つけたらメモに記入して報告するという作業を数時間体験した。

終わってから立ち上がると目も疲れて肩もすごい凝っていた。たった一日で…。

 

 これを毎日、もしくは徹夜で作業となると思うと精神的にもクルものがある。

 

「すごいですね…。みなさんのこと改めて尊敬します」

「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ。特にこのブース内にいる男子には

こんなカワイイ子に言ってもらえて嬉しいでしょうね」

 

 早矢女さんがからかうように周りにいる人間にそう伝えると何人かの男の人が

苦笑いした後に咳払いを一つして自分の作業に戻っていった。

 

 時間も遅いからと早矢女さんが財布から取り出したお札を私の手に握らせてきた。

 

「せめて交通費代だけでも」

「…ありがとうございます」

 

 あんまり遠慮しすぎるのも悪いと思い、ここは早矢女さんの好意に甘えることにした。

 

「またヘルプで呼ぶこともあるかもしれないから。よろしくね」

「はい!」

 

 早矢女さんの言葉に返事をして私は部屋から出ていく。会社を出て外から少し眺めて

いると中から眞凍さんが出てきて私を見つめた。

 

「…お疲れ様」

「お疲れさまです…」

 

「…お茶しない?」

 

 死んだ魚のような目のまま微笑んで誘ってきた。彩菜が信頼に置いていた人だし

少し興味があった私はその誘いに乗って近くにある喫茶店に二人で入った。

 

 二人ともこれまでにあったことを雑談のように交えながら注文した紅茶とケーキに

手を出す。甘いものが疲れた体と心に沁みわたって幸せを感じられる。

眞凍さんは美味しいものを食べても全くの無反応…。いや本人の中では何かしら

感じているのかもしれないけれど。

 

「絵画の世界もちょっと飽きちゃってね…。今放浪中」

「そ、そうなんだ…」

 

 周りの人も大変だろうなと想像しながら思ってしまった。

それから紅茶を一口啜って眞凍さんは私を見つめて言った。

 

「久しぶりに彩菜に会いたいわ…」

「そういえば卒業以来会ってないんですっけ」

 

「海外にずっといたからね…」

 

 そういうとどことなく寂しそうに見えて私は微笑みを浮かべて伝えた。

 

「彩菜も喜ぶと思いますよ。春花の方はわからないですが…」

「まぁ、あの子は嫌がるでしょうね…」

 

 私は苦笑しながら連絡先を教えてから少し経つと眞凍さんは席を立って店を出ていく。

それを見た私も後を追って店を出るとまた今度と言って別れた。

 

 それから電車とバスを使ってアパートに戻って部屋に帰ってくるとドッと疲れが

私を襲ってくる。気づかない間に緊張感が和らいでくれていたのかもしれない。

 

 私がドアを開けるとすぐに叶ちゃんが迎えに来てくれて、その笑顔を見るだけで

ホッと安心するのだった。

 

 それから叶ちゃんと一緒にお風呂に入って今日あったことを報告すると

どんな細かいことでも表情をころころ変えながら嬉しそうに聞いてくれる。

それが何だか心地よくてギュッと叶ちゃんを抱きしめると。

 

 一瞬びっくりしていたがすぐに力が抜けて私に身を委ねてきた。

 

「お疲れ様です…先輩」

「うん、ありがとう」

 

 どれだけ想像していても実際に現場を味わうと良くも悪くも強烈に感じられた。

父の会社を目指すかまだわからないけれどやりがいはありそうだから私の中には

選択肢としてはまだ残るのだった。

 

 ただ一つ、確定しているのは…。どういう道を辿ったとしても

叶ちゃんとずっといられるように努力するということだけは変わらないだろう。

ということだった…。

 

「私もがんばりますね!」

「うん…。一緒にがんばろう」

 

 今日はいつも以上に彼女の笑顔に助けられた気がした。

 

続。


 
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