「どうかしらルアちゃん!」
そういってレドレントが自信満々に披露したそれに、私はただただ言葉を失って立ち尽くしていた。
内心恥ずかしさにのたうち回っているのだが、人の目も多いサンシルクの店内ではそんなこともできずただこらえるのみである。
「いい出来栄えだと思うのよ、刺繍を使ってタペストリーを作る技術は昔からあったけど、それをカバーにする発想はなかったのよね。ドマから伝わったこの抱きまくらと合わせれば一つの市場に殴り込みもかけられるわね! あらやだ、殴り込みなんて私ったらはしたない」
どうでもいいよ、と何もかも投げ捨てて逃げ出したい。
レドレントが、肖像画を持っていたら貸してほしい、それも権利とか政治が絡まないやつ、と言われて私が恥ずかしながら貸したのは盟友であるオルシュファンの肖像画だった。
目の前にあるのはそれをレドレントが無駄なぐらい高い技術力で刺繍で再現した代物なのだ。
もう、逃げ出したい……。
肖像画とともに試作品をお礼として渡されたわたしはグリダニアの冒険者居住区に戻って、一応と抱きまくらにそれをかぶせてみたのだが、……思いの外これは破壊力が高いのではないだろうか?
サンシルクを取り仕切るだけあってそういう嗅覚にはやはり優れているのかとよくわからない感心をしつつ、目の前にあるオルシュファン抱きまくらに視線を送る。
本人でないというのに、肖像画と違ってこの緊張感は何なのだろうか。
中途半端に立体感があるからか?
「よく……出来てるわよねぇ」
悔しいけど私ではこうはいかないだろうなぁ、と仔細に眺めていると刺繍の彼と目があって、自然と顔が熱くなった。
そういえば、こんな近くで顔を見た覚えはない──いつも私が恥ずかしがってそらしてしまう──し、視線の高さだって違うのだ、こんな見下ろすような視点にはならない。
それに私が彼を腕の中に収めるには、彼の体格は大きすぎるし……。
そんなことを考えて、ふとしたいたずら心が生まれた。
今の彼ならば、すんなりと私の腕の中に収まってくれるだろう。
抱きしめてやれば当たり前だがただの枕の柔らかさで、なんということはないのだが少しだけ楽しくなった。
寝室のドアが開いたのはそんな時だ。
「ルア! 無事か!」
突然飛び込んできたオルシュファンが、次の瞬間に固まり、私の叫び声が響くまでに少しの間が空いた。
オルシュファンが言うことには、久しぶりに休みを──主にヤエルに取らされて──私が先日ラベンダーベッドに手に入れた家を訪ねてみようと思いたち、──これは私も以前誘っていたから彼に非はない──はるばるにやってきたらちょうど私が家に戻るところを見つけ、しばらくドアを叩いてみたが一向に反応がなく、何かあったのではないかと家に入ってみると地下の寝室から変な声が聞こえたので慌てて駆け込んだということらしい。
変な声なんてあげていたのかと内心頭を抱え込んだ。
その結果があの場面ということで、もう穴があったら埋めたい。
最悪なのは彼が問題の原因となった抱きまくらをみて感心しながらもこちらに意味有りげな視線を送ってくることだ。
「それで、なぜ私の抱きまくらを抱きしめていたのか聞いてもいいか?」
「べ、別に深い意味は」
「普段私にも見せないような顔で抱きしめていて、それを見られた途端あの取り乱しようでそんな言い訳が通用するとでも?」
「それ……は……」
無理、だよね……。
かと言って……口にするのも、恥ずかしすぎる。
結局のところ一言も発せずにいられる私に、彼は小さく苦笑し、思わぬことを口にした。
「ふむ、私よりもこのだきまくらとやらのほうがいいなら、早々にお暇するが?」
その言葉に思わず彼の服の裾を掴んでしまい、にやりと笑った彼に思い切り抱き寄せられた。
「安心したぞ?」
「この……っ」
彼の策に載せられたのだとわかり、とりあえずやり場のない恥ずかしさをだきまくらを振り上げて彼にぶつけることにした。
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2016-08-08に書いてぷらいべったーに上げていたものの転載になります。
ツイッターでふとした拍子に出てきたオルシュファン抱きまくらの話を出先で暇つぶしにポチポチしてたらこうなりました、どうしてこうなった。
もともとはぷらいべったーにあった名前変更機能のおためしでもあったのですが、仮名として「ルア」と当てています。