盗賊団を撃退してから、そろそろ3日近くが経とうとしていた。
「兄ちゃーん! こっち終わったよ!」
「兄様! こっちも終わりました」
行く充ての無かった一刀は、村にとりあえず逗留させて貰うことになった。
初めの一日二日は村人も精神的ショックからかろくに動けなかったが、今は立ち直っている。
そして一刀は今日、村の外に出ていた。
街道沿いに行くと少し大きな町があるらしく、そこに行くためだ。
一刀と一緒に流琉も着いてきている、その街の近くにいい狩場があるらしく、食材を調達しにいくためだ。
__猪や熊だって、まじでびっくりだ。
一緒に着いていく! と季衣がブーたれたのは言うまでもないが、村の手伝いをするために残ってもらった。
流琉が一刀の手を握って歩いていく。
たまに一刀はちらりと流琉をみるが、流琉は一刀と目が合うと頬を赤くして目を逸らしまう。
__なんだろうか? 風邪というわけでもなさそうだが……まぁかわいいけれど。
「///兄様。
もうすぐ街です。
あの……大丈夫だと思いますけれど、街では気を付けてください」
「うん、大丈夫だよ。
この服に着替えているし帽子も被っている、皆と同じ感じだろ?」
「ええ、でもその……腰の、武器が……」
今の一刀は農民の服を着て、ぼろい布を頭に巻いている。
一応用心のために日本刀を差してきているのだが、この大陸おいて日本刀は確かに珍しい。
「大丈夫! ちゃんと布を被していくからさ。
それより流琉、ほんとに1人で大丈夫か?」
「? ……ああ、熊ですか? この時期ですと多分猪や鹿になると思いますけど。大丈夫ですよ? いつものことですし」
「い、いつもの…まぁそれなら大丈夫そうだね。
でも無理はしないで戻ってくるんだよ?」
「ハイ! じゃあ夕方に街の外で落ち合いましょう?」
そういい残すと、流琉は一刀の手を離して森の中に走っていった。
しばらく歩くと村よりも大きい”町”程度の場所に着いた。
一刀はゆっくりと、町の建物や市を見渡す。
物価、建物、文化水準、町民の顔、雰囲気、その1つ1つをじっくりと観察しながら確認していく。
これが漢王朝末期の町か……酷いものだ。
日本という恵まれた国にいた一刀には、正直予想だにしないものだ。
衛生観念などはなく、医者も少なく、統治能力までもが疲弊しているから、犯罪がいつまでも絶えない。
このような状況ではむしろ喧嘩等は起きないのだ、そこまでの活力が人々に無い。
村長がこの辺りの州牧が統治を放棄したといっていたが、どうやらこの町もその1つらしい。
じっくりと街を見渡した後、一刀はそろそろ流琉との待ち合わせの時間だと思い、町の外に出た。
目にしみるほど赤い日が地平線へ沈んでいく。
夕日だけは、日本に比べてとても綺麗だ。
「う~ん大丈夫だったかなぁ? 流琉だから心配ないとは思うけど」
もう少し時間が経っても、流琉が戻ってこなかったら探しにいくかと思ったその時に声がかかる。
「オイ、兄ちゃん……何を持ってんだ? 俺に見せて貰えねぇかい?」
一刀は自分に近づいてくる気配に気づいていたのだが、てっきり町にいくのだろうと思っていた。
仕方なく一刀が振り返ってみると、そこには髭を蓄えたおっさんと、チビ、そして結構な体格をしたデブがいた。
「なんでもないですよ……ただの農具です」
「おい! お前! 兄貴が見せろっていってんだよ!」
「そ……そうなんだな。
みせるんだな。」
どうやらこいつらは追い剥ぎのようだ、いかにもなチンピラ臭がプンプンする。
一刀は1つため息をはくと、刀にかぶせていた布をとった。
「!? ……なんでぇ。
兄ちゃん良いもんもってんじゃねえか?」
髭のおっさんが刀を手にとろうとする。
だが、それを一刀は腕を上げるとひょいっとその手を避けた。
「なんですか? これは私のなのですが」
「おい兄ちゃん、俺らが笑っているうちに差し出したほうが身のためってもんだぜ?」
「放っておいてはくれませんか?」
「オイ! てめぇ! 兄貴の言うことを聞くんだよ!」
威勢よく小さいチビが一刀の足元に近づいてきたので、一刀は鞘から刃を抜かず、刀の鞘を相手の顎下からアッパーの要領で吹き飛ばした。
倒れたチビは目を回して昏倒している。
「!! てめぇ! やりやがったな! おいデブ!」
__お前じゃないんかい!?
「お、おとなしくして欲しいんだな」
一刀の前にのっしりとした体格をした、巨漢が立ちふさがった。
__仕方がない……
ッバキ! ドグ!
鮮やかな動きで急所を2撃突いて、デブはあっさりと崩れ落ちる。
__まあ体も大きいし、大丈夫だろ。
仲間を二2人とも倒されたリーダーの髭はうろたえながら、どうするべきか迷っている。
「……早く2人を連れて行ってあげな?
軽い怪我をしているだけだから、すぐに良くなるよ」
「ぐぅぅ……ちくしょーーー!! 覚えてやがれ!」
そう使い古された言葉を言い残すと、髭はチビを背負いデブを叩き起こして走っていってしまった。
「ふぅ、やれやれ、さて流琉でも……ん?」
先ほどの連中が、何かを落としていったらしい。
__太平、要術?
太平要術、はて……どこかで聞いたことがあるような、何かの教示本だろうか?
まぁあの連中がこのような高尚な本を読むわけでもないだろうから盗品の類だろう。
どこの誰に渡せばいいかもわからないし……後で流琉に聞こうか。
パチパチパチパチ
一刀は突如拍手のした音のほうを見てみると、また3人組がこっちに歩いてきていた。
ただ、今度の3人組は皆かわいい女の子達、一刀としては全然ウェルカムである。
「お見事な腕前でしたな。
……どうやらただの農民ではないようで」
一番隙の無い立ち振る舞いをしている、青髪を短く揃えた美女が一刀を褒める。
__その服装はあまりにも際どくないですか? 動いたら乳出ちゃいませんか?
そう尋ねたい気持ちを一刀が必死に抑えるのも仕方がない、本人を見ればこの気持ちは誰でもわかるだろう。
「全然大したものじゃないですよ。
……俺は北郷一刀といいます」
「フ……ご謙遜を、我が名は性は趙、名は雲、字は子龍といいます」
「程立ですー。」
「私は、今は戯志才と名乗っています。
……失礼ですが、随分変わったお名前ですね?」
「少なくとも、君なんて偽名でしょ?」
「……女の旅は色々ありますから……」
そう眼鏡をクイっと上げながら、偽名を戯志才さんが微笑む。
__ん?まて、まてまて……呑気に話してるけど、さっき彼女はなんていった?
頭に引っかかる違和感に一刀は考え直すと、その疑問を口に出した。
「趙……雲? 趙雲!?」
「なんですかいきなり? 人の名前で驚くなど無礼であろう」
一刀は心臓がバクバクと高鳴っているのを必死に押さえ、もう一度趙雲を観察する。
__なるほど、これは……強いな。
三国志においてまさにエース級の武将を目の前にして、一刀は”やっぱり女の子なんだね”と思い、自分が改めて異常事態に巻き込まれているのだと実感せざるを得なかった。
趙雲に咎められた一刀は、確かに無礼なので素直に頭を下げる。
「すいません。
驚いてしまって」
「むぅ……まあ良いです。
それよりも先ほどの連中は一体?」
一刀はちゃんと3人に見えるように刀を持ち上げた。
「ただの物取りだったみたいですよ。
俺のコレをとろうとしてきたので、追い払ったんです」
「ほう! それはそれは……」
趙雲は刀を注視しながら笑い、やたら感心している。
すると戯志才と名乗る、メガネをかけた知的美女が話しかけてきた。
「すいません、さきほど本のようなものを拾ったようですが、いかなるものでしょうか?」
__見られてたか。
一刀は手にある本の表紙をもう一度見直して題名を確かめる。
「連中が落としていったんですよ。
古書でして……太平要術と書いてあります」
「!! 太平要術!?」
「?!」
”太平要術”と聞いた、メガネのインテリ美人さんの戯志才と、その隣で静かにキャンディーを加えていた雰囲気がふわわんとした程立という少女が驚いた。
ってかこの二人も随分と大胆な服装を……そんなに短い丈だとパンツ、見られ手しまわないのだろうか?
「お、お見せくださいませんか!」
「風もですー」
そう言われては断る理由も一刀にはないので、2人に本を手渡す。
「こ……これは! まさしく太平要術!」
「む~~~あの幻の本がなぜこんなところにー」
その太平要術という本を、2人が食い入るように見つめている。
__そんなに貴重なものなのだろうか? どこかで聞いたことはあるんだが……?
そのような疑問を一刀が思い浮かべていると、後ろから元気な声が聞こえてきた。
「兄様~~~~~!!!!!」
振り返ってみると、流琉が元気よく走ってきている。
その小さな背には、大きな猪と鹿を背負っていた。
「兄様! 今日は大漁でしたよ! ほら!」
元気よく今日の収穫を見せてくる流琉の頭を一刀は撫でる。
息が上がっている流琉はどうやらハイテンションのようで、ちょっと季衣みたいに見える。
「……あれ? 兄様? ……この、女性達は?」
__あれ? 一気に流琉がトーンダウンしてる。
流琉は目が徐々に座り始めており、あっという間にいつもの冷静な流琉に戻っていった。
一刀はどうしてか解らず混乱するが、流琉に説明するように3人を紹介した。
「ん、この人達はね。
さっき知り合ったんだ」
一刀の紹介に付け足すように趙雲が前に出る。
「うむ、さきほどこの北郷殿が物盗りに絡まれていてな、追い払おうと思ったのだが……」
趙雲が笑いながら話すと、流琉も状況を理解したらしく慌てて頭を下げて礼をいう。
「そうなんですか、ありがとうございます! 兄様がお世話になりました」
「いやいや、そなたの兄は強くてな、私の出番など無かったよ」
趙雲と一刀達が話していると、戯志才が興奮した面持ちで一刀に近寄ってきた。
「あの、北郷殿?
よろしければこの本、我らに譲っては下さらぬか?」
「その太平要術をですか? うーん……多分それは盗品ですよね?
盗品は本来この町の統治者に渡すのが正しいと思うんですが…どうなんだい? 流琉」
「そうですよ兄様。
でも……このあたりの州牧様は……」
「そうなんだよなぁ、う~~ん……そうだなぁ」
考え込む一刀が何か思いついたのか、顔を上げて趙雲達と向き合う。
「兄様?」
不思議そうに顔を上げる流琉の頭に、一刀は手を置いていた。
「……俺達は無事に狩を終えて、今日は大漁のために楽しく帰宅しました。
君達は町へ向かう途中、色目を使ってきた3人組をコテンパンにのして、そこでその連中から盗品と思われる古書を拾い、どこか管理してくれる人に渡すまで、預かることにした。
……これでいいかい?」
確認するように笑う一刀に、程立と戯志才が頭を下げてお礼をする。
「……ありがとうございます!」
「ありがとうーございますー」
「じゃあ流琉行こうか? 早くご飯を作らないと、季衣が怒っちゃうぜ?」
「は! いけない、そうですね早くしないと、それではお世話になりましたー」
「では、また御縁がありましたら……」
そう言った一刀達は軽くお辞儀して、3人の女性から離れていく。
すると少しして後ろから趙雲が大きな声をかけてきた。
「北郷殿! いつか……いつか私と手合わせをお願いしますぞ!」
趙雲のその言葉に、一刀は振り返って手を振ることを返事とした。
「おっそーい! 兄ちゃん! 流琉! 何してたの!?」
「ごめんごめん、俺がちょっと道に迷っちゃってね」
実際は流琉が狩で遅れたのだが、それとなく庇う一刀。
__兄様……////
その気遣いに、ちょっとだけ顔を赤くした流琉は、早速獲物の調理にとりかかる。
美味しそうな音を立てる中華鍋を振るう流琉の後ろで、一刀は膝に季衣を乗せて御機嫌をとっていた。
その日の晩ご飯は、大変豪華で絶品な料理になりました。
急ぎの第2話、いかがでしたでしょうか?
応援メッセージを送ってくださった方、今から読ませていただきます。
トーヤさん さっそくのコメントありがとうございます!
勢いだけの作品で恐縮でありますが、応援していただけると嬉しいです。
yosiさん コメントありがとうございます。ヒロインのチョイスがいい……なんというお言葉……
すごい嬉しいです。
弌式さん ありがとうございます!(さて、この後どう展開すれば……いいか)
ななやさん そういっていただけるのは有り難いです。 こんな時間にまでありがとうございます。
デルタさん ですよね、とにかく早押しは接戦でした。
st205gt4さん が……頑張ります!
作品について何か御指摘があれば、コメントでも応援メールでも何でも宜しいので、いただけたら嬉しいです。
御指摘を自分の努力不足から、直ぐに作品に反映させることはできないかもしれませんが、
反省して徐々にでも頑張ります。
皆さんの支援・応援、お待ちしております。
それでは、またの更新の時に。
次の更新は今週中までにはやりたいです。
一言 ”約束の月明かり”で、ニヤついたのは自分だけでは……ないですよね?
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第2話です、1話のオマケになるんじゃないかと思われる。
拠点と本編ごっちゃ混ぜ、後、星さん達が出てきます。