<前回までの暁の飛鳥>※小山力也さんの声でどうぞ!!
自分の過去と体のことを仲間に語って見せた飛鳥。
桃香の前世のこともわかり、一同はより深い絆で結ばれることとなった。
そんなとき、街の人々から、逃げた県令の代わりにこの街を納めてくれないかと言われる。
桃香や愛紗、鈴々に、麋家の三人にも後押しされて、今更見捨てられないと県令の職を受けることになる。
そして、まず最初の仕事として飛鳥は、死んだ人々を笑って送り出すために祭りの開催を宣言する。
人々は途惑いながらも準備をはじめ、こうして慰魂祭の夜は幕を開けた。
<人物表>
飛鳥 この物語の主人公。バカップルの片割れ。チートマン。運命に翻弄され続けた男。
桃香 劉備。この物語のメインヒロイン。バカップルの片割れ。おっぱいと優しさと私。今回のMVP
愛紗 関羽。バカップルを止める人。うっかり愛紗。不器用だけど、可愛い人。第二のおっぱい。みんなに愛されるあいしゃごん。
鈴々 四兄妹では、馬鹿だけど、なにげに一番苦労人で常識的な行動を取っている。虎の髪留めぷりちー。どこかの世界では生まれ変わって立派なスイーツになっていたとかなんとか。子供ながらに、たまに妙に達観したことをいう。らーめんは飲み物です。
朱夏 麋竺のこと。なにかと黄巾党に狙われて男性恐怖症に。そのくせ、武将として馬術と弓に長ける武闘派。隠れおっぱい純情派。こうみえて妹の葉月よりも頑固で行動派。怒らせると一番厄介なタイプ。
葉月 糜芳のこと。姉をサポートする名脇役。姉ほどの武勇は無いが、頭の回転が速く、どちらかというと文官に長けている。スレンダーで快活。後ろで纏めた三つ編みが隠し兵器というのは都市伝説。姉がマリオ
なら、妹はルイージ。永遠の二番手。姉とセットで初めて能力を生かせる。
慈元 麋竺と糜芳の父。糜角の事。実際には糜角なんていません。大剣を使うが、実は弩弓の名手。お気に入りの兜でないと命中率は半減。豪商。平民でありながら一万人の小作人を持つ麋家の家長。来世では三代目大泥棒の相方として活躍する予定。若い頃はぶいぶい言わせていた。裏世界では一時有名だった。
以上、前回までのおさらい。
それでは本編へどうぞ。
真・恋姫†無双 アカツキの飛鳥 外伝1 慰魂祭の夜
0
笛の音が聞こえる
太鼓の音や、酒を酌み交わし笑う声が聞こえる
悲しみにくれる私はひとり、歯痒くそれを見守るだけ
なぜなら私も観客の一人に過ぎないのだから
一の祭 彼女達の約束
ーside 朱夏ー
飛鳥様が町の人に呼び出されたあと、私は桃香さんに手を引かれながら屋敷の奥へと入っていった。
桶などを置いておいた道具部屋へと入り、ようやく私は解放される。
桃香さんって一見のんびりして見えるけど、飛鳥様とのやりとりを見ている限り結構大胆な事を平気でする。
天然なのかな?
桃香「ここでいいかな。あ、先に桶片付けちゃうね」
そう言って、私の手から桶を取って片付けていく桃香さん。
こんなところに連れ出して一体何をするつもりなんだろう。
片付けを侍女に任せずにここまでするってことは私になにか用事があるんだろうな。
そう思考を巡らすと、脳裏に飛鳥様とイチャついている桃香様が浮かぶ。
ドクンっと、心臓が高鳴る。
やっぱり飛鳥様のことだろうか。
桃香様はきっと気づいている。
私が、飛鳥様に惹かれていることを。
最初は、黄巾党に襲われて居る私を助けてくれた人だった。
男の人に裸を見られてしまって、恥ずかしくって顔を見れなかったときもあった。
でも、その恥ずかしさからくると思っていたどきどきが、決定的に変わったのは今日、私を庇って押し倒された時だった。
そのとき、初めて私はこれが恋心なんだと知った。
嬉しかった。
前までいた県令に、不運にも見初められて麋家の繁栄の為に嫁がなくてはならなくなったとき、私は自分の好きな人と結婚することも出来ないのだと諦めていた。
お父様もなんども申し立てられたが、国の権力の前に一蹴され、すこしでも期日を延ばそうとしてくれたけど娶られることを避けられないと決まったとき、涙ながらに頭を下げて私に謝ってくれた。
そんな父の姿をみて私はその運命を受け入れようと思った。
だけど、その私の運命は、皮肉なことに私を襲った黄巾党の人間によって変わることなる。
県令が街を捨てて逃げ出したのだ。
県令が黄巾党を前に逃げたと聞いたとき、私はどうしようもない怒りと共に、悪しき運命から解放された喜びを確かに感じていた。
そして、その圧倒的な兵力差の前に、街と共に死ぬことを覚悟した。
そんな状況を打ち破ってくれたのが飛鳥様だった。
敗残兵の矢から私を助けてくれた時も、皆を鼓舞して戦場に向かう時も、私は知らないうちに彼を目で追いかけていた。
だから、私を身を挺して庇ってくれたとき、それが恋だと自覚した。
自覚してしまえばなんてことない。
私はきっと初めてあったあの時から、きっと飛鳥様の事が好きだったんだろう。
だけど、自分の恋を自覚したとき、どうしようもなく苦しかった。
飛鳥さんは、もうすでに桃香様の恋人だったから。
桃香さんは、街につくまでずっと私の事を励まして、よくしてくれた人。
本当に優しくて良い人。
あって間もない私たちはすぐに良い友達になれた。
だからこそ余計に申し訳なくなってくる。
彼女の恋人に横恋慕しているだなんて。
桃香「朱夏ちゃん、時間もあんまりないから単刀直入にいうけれど、朱夏ちゃんもご主人様のこと好きなんだよね?」
朱夏「そ、そんなことは……、確かに飛鳥様は素敵な方ですけれど」
桃香「ううん、いいの。ここには私と朱夏ちゃんだけなんだから。私に気をつかわないで本当の事を言って欲しいの」
桃香さんは私の手を握ると。嘘は許さないとばかりに真剣に私の目を見てくる。
朱夏「……桃香さんの言う通りです。私は飛鳥様が好きなんだと思います。まだ会って数日しか立っていませんけれど、それでも飛鳥様が好きなんです。
ごめんなさい、桃香さん達が恋人同士で、二人が想い合っているのも知っています。でも、せめて片思いでもいいからこのまま飛鳥様を好きでいさせてください。
やっと、やっと手に入れた恋なんです。叶わない恋だとしても、やっと自分で人を好きになれたんです。
だから————」
桃香様に本当の気持ちを言えと言われて、語り出したら今まで押さえていた気持ちが溢れてしまった。
感情が高ぶり過ぎたからか、目にはいつの間にか涙が溢れている。
桃香「うん……、ありがとう、正直に言ってくれて。今度はその気持ちを、ちゃんとご主人様に言おうね?」
ふっと、桃香さんが私を抱きしめて、あやす様にいう。
朱夏「え?許してくださるんですか?私が飛鳥様に想いを告げても良いのですか?」
桃香「さっきも言ったけど、ご主人様は天の御遣いだから結婚だってみんなでできるんだよ?
確かに、恋人としては思うところはあるけれど、ご主人様はは絶対に身内の人間をないがしろにはしないし、もう朱夏ちゃん達のことをご主人様は身内だと思い始めてるもん。
きっと愛紗ちゃんや葉月ちゃんだってまだ自分で気づいていないだけでご主人様に惹かれ始めている。
それなのに自分以外の恋人は認めないなんて私が言っていたら、苦しむのはご主人様だから」
朱夏「……桃香さん」
私は嬉しくて桃香さんを抱きしめ返す。
桃香「それにね、ご主人様は自分が助けたいと思っちゃったら何がなんでも、無茶をしてでも行動しちゃうの。
今日の戦を見て分かっちゃった。私だけじゃご主人様を引き留められないんだって。
だからね、私たちがうんと頑張って、ご主人様の心を癒して、ご主人様が無茶できないように、私たちがいるから死ねないってそう思わせなきゃ駄目なんだって思ったの。
だからね、一緒にご主人様を支えて行こうね」
本当に桃香さんは飛鳥様の事を想ってるんだ。
ちょっとだけ嫉妬してしまう。
でも、私も飛鳥様を好きになって良いと言ってくれた。
あまつさえ、結婚まで考えても良いと。
朱夏「はい!!よろしくお願いします」
桃香「うん、よろしくね」
嬉しい。
私なんかのためにここまで許してくれるなんて。
朱夏「桃香さん、私と親友になってくれませんか?」
桃香「もちろんだよ。これからは親友同士なんだから、話し方も葉月ちゃんと話すみたいでいいよ。
呼び方も桃香って呼び捨てにしてね?」
朱夏「うん、分かったよ。桃香さ……桃香」
人の名前を呼び捨てにするなんて葉月しか経験ないからちょっと照れてしまう。
桃香「うん、よろしくね。朱夏ちゃん」
朱夏「そんな、狡いです。私だって頑張って呼び捨てにしたのに」
桃香「あはは、だって私、誰かを呼び捨てにするなんて出来なくて。これが私にとって一番自然だから」
朱夏「私だってそうですよ。じゃぁ、やっぱり私も桃香ちゃんって呼ぶ事にします。呼び方も話し方もこれが一番自然なんで」
桃香「んー、それじゃあ仕方ないね。話し方も仲良くなっていけば砕けてくれるだろうし」
桃香さんは笑いながらそんなことを言っている。
本当に桃香ちゃんは天然だ。
私たちが笑いながら話していると葉月が様子を見に来た。
葉月「あー!!なんでそんなに二人は仲良しになってるの、私も混ぜてよ−!!」
どういって桃香ちゃんと私に飛びついて来る葉月。
桃香「さっき親友になったんだよ。ね、朱夏ちゃん」
朱夏「うん、桃香ちゃんと親友になったの」
こちらの様子を伺う葉月にそう答えると、葉月はすねながら抱きついてくる。
葉月「ずるーい!!なんで、私も混ぜてくれなかったのよ」
桃香「まぁまぁ、葉月ちゃんとだってもうお友達だよ」
朱夏「ところで、葉月はどうしてここに来たの?」
話をそらすと同時に、ちょっと気になったので聞いてみた。
葉月「どうして、じゃないわよ。もう、みんな広場にいるのに、全然来ないから迎えにきたんじゃない」
桃香「あ、そうか!!じゃあ早く行かなきゃご主人様に怒られちゃかも。いそご、朱夏ちゃん、葉月ちゃん」
そういって、私の手を取って広場へ走り出す桃香ちゃん。
葉月「あー!!もう、私だけおいていくなー!!」
後方では葉月が怒りながら近づいてくる。
少し前まではこんな風になるなんて思いも寄らなかった。
怖い思いも、嫌な思いも沢山したけれど、それでも、今の私はきっととても幸せなんだ。
私は、桃香ちゃんの手を握り治すと、走るスピードをあげて広場で待つ飛鳥様の元へと急いだ。
飛鳥様。
いつか、この想いを告げますから、きちんと受け止めてくださいね。
私は想い人である飛鳥様に、心の中でそっとそう宣言するのだった。
笛のシーンで、和テイストの音楽を流すとちょっと幸せになれるかも。
ちなみ執筆中は、東儀秀樹さんの異郷の風をながしていました。
二の祭
奏 ー飛鳥の笛ー
祭りが始まった。
みんな、俺が言ったように酒や食べ物を持ち込んでは友を惜しみ、彼らの武勇や思い出を語りながら泣き笑っている。
女性たちは交代で料理を作り、その悲しみを、今、こうして生きていることの安堵を噛みしめている。
子供達は、ただ祭りだということではしゃぎ回る。
そんな様子を、慈元が用意してくれた椅子に座りながら見ていると、慈元が、侍女と共に大量の荷物をもってやってきた。
慈元「おやおや、みんな盛大にやっていますな」
飛鳥「慈元、どうしたんだの荷物は」
慈元「いやいや、城の倉庫に祭りの時に使う道具があったのを思い出しましてな。
取ってきたんですが、前の県令がこういう者に無頓着だったもので、殆ど使えない様な状態になってまして。
何か使える物はないかと思い持ってきたのですが」
そう言うと、荷物を下ろして見せる。
確かに、祭りの時の飾りやなんかは手入れがされず埃だらけだし、カビているものも多い。
飛鳥「そうだな。蝋燭と、行燈だけでいいんじゃないか?出来るだけ皆に配ってあげてくれ。もう、充分暗くなってきた」
春とはいえ、まだ夜には肌寒いこの季節。
夜になるのも早い。
広場の要所にはかがり火を焚いているし、満月だとはいえ、手元に灯りは必要だろう。
慈元「そうですな。そのようにしましょう」
飛鳥「うん?その黒塗りの箱はなんだ?随分と他の物に比べて造りがしっかりしているが」
慈元「はて?なんでしょうかな。こんな物、祭りの時に使った覚えがないのですが」
俺は気になったので、その黒塗りの箱の誇りを払い、開けて中を見てみる事にした。
飛鳥「……これは!?」
中には朱塗りに金細工の施された篠笛と、黒に、指穴の縁のみ朱に塗られた篳篥が入っていた。
なぜ、この時代に龍笛でなく篠笛があるのか。
明らかにオーパーツ的な物である。
でも、この世界微妙に、現代で使っていたような物が日常の中で使われたりしているからな。
犬にリードつけて散歩しているおばさんが居たときはびっくりしたものだ。
とりあえず、なにか変なことがあったらすべて神のせいにしよう。
その方がきっと俺の精神衛生上良いに決まっているから。
『嘘!!お前、理不尽な事大嫌いなんじゃないのかよ?』
頭の中に突然、神の声が響くが、無視することにした。
リミッターを外した代償か、疲れているのだろう。
慈元「おお、これは久しぶりに見るので忘れておりましたな」
飛鳥「これの事をしっているのか?」
慈元「なんでも、倭国から、帝に献上された品らしいのですが、相手の卑弥呼と呼ばれる女帝の事を大層気味悪がられましてな?
厄介払いとばかりに、ちょうど就任したばかりのこの街の県令に褒美として授けたそうなのです。
前の県令も、噂は聞いていたようで、中身が見知らぬ国のものであり卑弥呼の献上品と分かると不気味がり興味を無くされました。
おおかた、祭りの時にでも楽師に吹かせようとして忘れたのでしょう」
卑弥呼。
日本でも有名な邪馬台国の女王か。
この世界の倭国はすでにこの笛を作れるほどに発展しているということかな。
飛鳥「この笛、俺が吹いても良いだろうか?」
慈元「吹けるのですか?見知らぬ笛故に皆敬遠していたのですが。
でしたらどうぞ、お使いください。そもそもこの街の県令に授けられた物ですので、お持ちいただいて結構です。
なに、笛も誇りを被るより、使われた方が良いでしょう」
こうして、二つの笛は俺が貰うこととなった。
ちょうど、今は祭りで、皆が宴会を開いている。
ここで一曲吹くのも一興か。
飛鳥「そうか。では貰い受ける。そこの侍女さん。桃香をよんできてくれないか?」
侍女「わかりました」
侍女に桃香を呼びにいって貰う間に、慈元がこの笛の事を聞きたそうにしているので説明することにする。
飛鳥「こちらの朱塗りの笛は、篠笛といい、俺の国に龍笛が伝わり、それがさらに国民の間で改良された物だ。
祭りの時はこの笛を吹き祝うのが一般的だった。こちらの黒い笛は、篳篥(ひちりき)。
これは今の大陸にも原型になるものが在るかもしれないが、俺の国の年が明けたとき、祝い事なんかの時に演奏される物だよ」
慈元「なるほど、そうでしたか。それで、今宵は慰魂の祭り。この笛で演奏なさるのでしょう?」
飛鳥「分かるか?桃香に聞かせてやりたい曲があるんだ」
昔、桃香の家族と一緒に花見や宴会をしたときに舞った桃香の好きな曲を。
桃香「ご主人様、話があるって本当?」
見れば、桃香の他に、朱夏と葉月の麋姉妹も来ていた。
葉月「あ、それって帝から授かった異国の笛じゃない?」
飛鳥「よく分かったな。これは俺の国で祭りや祝い事の時に使われていた笛で、篠笛と篳篥と言うんだ。
さっき、慈元が持ってきてくれてな?県令の物だからと、俺が貰い受けた」
朱夏「あ、えっと、飛鳥様はその笛を吹けるんですか?」
朱夏が、ちょっと遠慮がちに俺に聞いてくる。
大分、緊張が抜けてきたな。
飛鳥「ああ、神足の本家に居たときは行事の時に吹いていたからな。
それで、これから一曲吹こうと思う。本来であればこの祭りは散っていった者たちへのものだが、最初の一曲だけは桃香の為に演奏したくてな。聞いていてくれるか?」
桃香「うん、それは勿論。だけど、私だけっていうのも心苦しいから私たち三人の為に吹いてくれるかな?」
葉月「そうですよ。こんな美少女二人をまえに桃香さんだけなんてつれないじゃないですか」
朱夏「もし、そうしてくれるのであれば、とても、嬉しいです」
三者三様にそんなことを言ってくる。
飛鳥「ああ、いいよ。この曲はな、花見の時や、宴会の時に、桃香が好きでよく舞っていた曲なんだ。
だから、もしかしたら心が覚えていて躍りたくなるかもしれない。そのときは俺にまた踊ってみせてくれるか?完璧じゃなくても、何となくでもいいんだ。朱夏と葉月もだぞ?
三人のために演奏するから、俺に、三人が踊っている姿をみせてくれないか?」
桃香「そうなんだ。良いよ?私、これでも生まれた村ではお祭りで踊ったこともあるんだから」
葉月「それなら、私たちだって大丈夫よ。麋家の人間としてお母様から踊りは習っていたもの。ね?お姉ちゃん」
朱夏「は、はい。家族以外の人に見せるのは初めてですけれど、どうか見てくださいね」
その三人の言葉を聞くと、俺は篠笛をもって音楽を奏で始める。
その音色は恐ろしく澄んでおり、空に抜ける様に辺り一帯に広がっていく。
不気味だなんてあり得ない。
この笛は本家にあった名品と呼ばれるどの笛よりもすばらしく綺麗で、澄んだ音色がする。
卑弥呼……、一体どれほどの人物なのだうか。
まるで、ずっとこの笛を使ってきたかのように、体になじみ、音が体を巡る。
その笛の音は、騒がしかった広場を一気に、野外舞台へと変えてしまった。
奏者は俺、踊り手は三人。
桃香達は目を瞑りながら、俺の演奏を聴いていたが、次第に体が揺れ、流れるように舞い始めた。
桃香は、まるで日本舞踊の様に、ゆっくりと、それでいてしっかりとした所作で踊り、
朱夏と葉月は、流れるような美しさでその両脇を彩っていた。
月明かりの舞台で、かがり火に照らされて舞い踊る三人の姿は幻想的で美しく、観衆はただの一言も喋らずにその姿に見惚れていた。
桃香は普段のほんわかした雰囲気がなくなり、凛とした表情で一歩一歩しっかりと踊っている。
朱夏は、普段の大人しい感じではなく、流れるように激しく体を動かし、葉月と時折目線を会わせては姉妹の会話をするかのように心から笑いかけていた。
青白い月光は、三人の白い肌を妖艶に照らし、春の夜風は、木々を揺らして拍子を取る。
すこし肌寒い筈の風が火照った頬を撫で、街の中を吹き抜けていった。
このまま、ずっと三人の踊りを見ていたい。
そんな衝動に駆られながらも、演奏は終曲へと向かっていく。
これほどまでに曲の長さを恨めしく思ったことはない。
曲は最期の音をひときわ多く伸ばし、終わりを迎えた。
静寂があたりを包み込み、かがり火の中で気が弾ける音だけがその場に響く。
俺の演奏が終わると、桃香達も動きを止める。
三人の踊りに心からの賛辞と、感謝を告げる。
飛鳥「ありがとう。三人ともとっても綺麗だったよ」
桃香「えへへ、ありがとう」
朱夏「そう言って貰えると嬉しいです」
葉月「本当?よかった。お母さんはもっと綺麗に踊れたんだけどね」
そんな風に三人と話していると、街人からの喝采の声が上がる。
村人A「三人とも凄い綺麗だったわよ」
村人B「ああ、そんなに見事に踊ってくれたのなら、死んだあいつも喜んでいるだようよ」
村人C「麋竺の嬢ちゃんもあんな風に堂々とおどれんだな」
村人D「いやいや、糜芳ちゃんも普段の活発なイメージが一転して綺麗だったな」
村人E「はぁ、劉備様綺麗だったな」
村人C「綺麗なのは認めるが諦めろ。御遣い様の恋人なんだ、お前にゃ勝ち目無いぜ?」
村人E「俺の恋は終わった」
悪いね、村人E。
桃香は誰にもやれねえよ。
俺は、桃香の方を抱き寄せるように抱く。
桃香「ふふっ、そんなにしなくても私は飛鳥一筋なのに」
飛鳥「それでも、桃香の恋人はだれかはっきりさせとかないと嫌なのさ」
桃香「飛鳥って、結構嫉妬深いの?」
飛鳥「どうやらそうらしい」
俺を見上げ、耳元にそうささやく桃香に、俺はささやき返す。
葉月「あー、もう。こんな所でイチャイチャしないでよ。目のやり場に困るわ」
葉月の一言にみんなが笑い声を上げる。
飛鳥「みんな、これから何曲か演奏するから、好きに踊れ。見栄えなど気にするな。ただ、想いが込められていれば十分だ」
俺はそういうと、再び曲を演奏しだした。
篠笛をつかい、あるときは篳篥に変えて知って居るを演奏していく。
曲が二桁に達した頃、俺はようやく休憩に入ることにした。
桃香に言って、食べ物や酒を持ってきて貰い、腹を満たす。
最初、酒は今の体にきついのではと言われたが、慰魂の意味を込めた祭りだからと、桃香がストップをかけたらそこでやめることを条件に飲むことを許された。
今、桃香には、追加の食べ物を持ってきて貰っている。
器を手に、一口酒を煽ると、何とも言えない良い芳香が口の中に広がる、
どうやらかなり良い酒のようだ。
慈元「気に入って頂けましたかな?」
不意に慈元から声が掛けられる。
飛鳥「この酒は慈元が?」
慈元「戦が終わったらとっておきを開けるという約束でしたから。
それに、こんな日に飲むのならなおさら良い酒の方がいいでしょう」
どうやら、俺が無茶を頼んだときのことを覚えていてくれたようだ。
飛鳥「ああ、そうだな。こんな、良い酒であるのならきっと明日からの日々を生きる活力となるだろう」
慈元「全く持ってその通りですな」
そう言って、慈元と酒について語り合っていると、ふとこちらに近づく少女に気がつく。
先程、父親が帰ってこないと泣いていた少女だ。
今は、先程のことが嘘の様ににこやかに笑っている。
すぐ、後ろには母親も居る。
少女は、俺に近づくといきなり足へしがみついた。
思わず駆け寄って引き離そうとする母親を手で制して、彼女の正面にしゃがみ込んで向き合う。
飛鳥「お嬢ちゃん、どうしたんだ?」
女の子「お兄ちゃんは、天の御遣い様なんだよね?」
飛鳥「ああ、そうだよ。みんなからはそう呼ばれている。神足迦楼羅っていうんだ。君の名前を教えてくれるか?」
紗耶「紗耶はね、紗耶っていうの」
飛鳥「真名を俺に教えてしまってもいいの?」
紗耶「いいよ。御遣い様は、みんなをまもってくれたんでしょ?」
飛鳥「ありがとう。紗耶は俺になにか話があるのかな?」
女の子「あのね、紗耶のお父さんが帰ってこないの。お母さんが、お父さんは紗耶やお母さんを守る為に天の国に行ったって言うの。
だからね、おねがい、みつかいさま。紗耶をお父さんにあわせてください。
紗耶は良い子にしているから、おとうさん……に会わせて…、いいこに…してるからぁ」
そういって鳴き始める女の子。
死んだと言わずに天の国にいったと、この女の子の母親は説明したのだろう。
でも、聡い子だ。
きっとこの子は気づいている。
天の国へ行ったという意味がどういうことなのかを。
俺は女の子の頭を撫でながら、言葉を紡ぐ。
飛鳥「ごめんな。お兄ちゃんも、もう天の国に行けないから、紗耶のお父さんに会わせてあげられない。
でもね、お父さんはきっと天の国から紗耶の事を見ているよ。お母さんと、紗耶が笑って暮らせる様に祈ってくれているよ」
紗耶「やっぱり、やっぱりそうなんだ。もう、おとうさんにあえないんだ。うああああああああああああああああ」
少女にとって否定して欲しかったことを、俺は言わなかった。
余計な嘘の希望を持たせてしまってもきっと、明日を生きることができないから。
俺は少女を抱きしめ、背中をさすって上げながらあやす様に言い聞かせる。
飛鳥「ごめんな、おとうさんに会わせてあげられなくて。ごめんな、お父さんを紗耶の元に返してあげられなくて。こんな、力のない天の御遣いでごめんな」
紗耶「ううん、ちがうの、わかってるの、おにいちゃんが居てくれたから、おかあさんもさやも、まちのみんなも無事なんだってこと。ただ、おとうさんのことをかんがえると、わらえないよぉ」
この子は聡い。
頭が良すぎるが故に、分かってしまった。
そして、自分が街の人々と同じように、笑って父親の事を見送るべきなんだと理解してしまっている。
それでも、大人でさえ理不尽に嘆くような状態で、どうしてこんなこんな女の子が耐えられるだろうか。
母親だって見たところまだ若い。
きっと、辛いことだろう。
自分だって泣きたいのに、娘の事まで気が回らないだろう。
飛鳥「そっか。寂しかったな。よく頑張って笑っていたな。偉いぞ。
でも、これからは我慢しなくていいからな。お父さんの事を想いだして、泣きたくなったら俺の所に来い。
寂しくなったら俺に声を掛けて来い。紗耶には立派なお父さんがいるから、俺が紗耶の兄ちゃんになってやる
。だから、いつでも寂しくなったら甘えて良いんだぞ?」
紗耶「本当に?お兄ちゃんになってくれるの?」
飛鳥「ああ、紗耶みたいな良い子なら喜んでお兄ちゃんなるよ」
紗耶「でも、おにいちゃん県令様になるんでしょ?紗耶じゃあ会いにいけないよ」
喜んだのもつかの間、紗耶はうなだれてしまう。
飛鳥「じゃあ、お城の人に言っておくし、ちょくちょく街にも顔を出すよ。それでいいか?」
紗耶「うん、お兄ちゃん、約束だからね?」
飛鳥「ああ、約束だ」
こうして、俺の妹分となった紗耶はまだ、目を朱く腫らしていたが眠さが限界に来たらしく母親に抱かれて宴の中へと去っていった。
直後、やってきた桃香、愛紗、鈴々の三姉妹に俺は父親のようだったとからかわれ、
「ご主人様の妹なら、私たちにとっても妹だね」
という桃香の一言により、この三人にも妹分とし紗耶は可愛がられることになる。
別れのことはかなしいけれど、それでも寂しさを感じさせないほどみんなから愛されて賑やかな生活を紗耶は送ることになるだろう。
こうして宴は、朝日が昇るまでずっと続けられた。
この慰魂の祭りは、後にこの街の名物となる。
中でも目玉は一人の天の巫女と二人の地の巫女による慰魂の舞で、例年、観衆の前で街のために散っていった英傑達へと捧げられる様に踊られるようになったという。
三の祭り 心の芽
ーside 愛紗ー
ご主人様の笛の音に合わせて舞い踊る桃香様や、朱夏、葉月の姿は女の私の目から見ても美しく見惚れるものであった。
彼女達三人の様子をみて、感動する一方で、なぜ私はあそこに居ないのだろうという羨望の想いを抱いてしまう。
それが酷く卑しいことだと思いつつも、なかなか自分の気持ちを御する事ができないのは、なんでだろうか。
ご主人様が来てから私はどうも、心と体が一致しない。
手袋の上から、手を洗うようなそんなもどかしさをどこか感じる様になってしまった。
ご主人様に、踊りを褒められて照れている三人をみて、また、すこし、心がざわめいた。
鈴々「愛紗もお兄ちゃんのところへ行ってくればいいのだ」
そんな私の心を見透かしたように、鈴々がそう進めてくる。
愛紗「な、何を言うのだ。私は、こうしてご主人様を危険から守るために警備をしているのだぞ?昼間のようにどこに賊が隠れているのかもしれぬのだ。ご主人様の一の家臣である私がしなければ誰がするというのだ」
鈴々「別にお兄ちゃんはそんなこと頼んでないのに、愛紗は素直じゃないなー。慈元のおっちゃんの所の私兵団がしっかり見張りもしてくれているのだから、大丈夫なのだ」
そんな事をいいながら、もしゃもしゃと私の目の前で肉をほおばり、リスのように頬を膨らましている。
愛紗「いいのだ。私は武人。ご主人様をお慕いしては居るが、それ以上に身の安全を図らねば成らぬ。
私の様な無骨者がいるよりも、桃香様や朱夏のような可憐な少女が居た方がご主人様もお喜びになるだろう」
桃香「もう、そんなことないと思うよ。ご主人様だって愛紗ちゃんが居てくれた方が嬉しいに決まってるんだから」
いつの間にか、私の後ろには先程まで踊っていた桃香様がいらっしゃった。
愛紗「聞こえていたのですか?そういってくださるのは嬉しいのですが私はここの警備がありますので」
鈴々「よく言うのだ。桃香お姉ちゃんが近づくのに気づかないのなら、愛紗の警備は穴だらけなのだ」
愛紗「な!?鈴々!!」
愛紗「にゃー、あいしゃごんが怒ったから、鈴々はお酒貰ってお兄ちゃんのところへ行ってるのだ」
そう言い残すと、鈴々は飛び跳ねながら人混みに消えていった。
愛紗「……まったく、あやつは」
桃香「ふふっ、鈴々ちゃんに気を遣われちゃったね」
愛紗「そうなのですか?私にはいつも通りのお調子者にしか見えませんが」
桃香「そうだよ。鈴々ちゃんは愛紗ちゃんの事をよく見ているから、最近、様子がおかしいの気づいてたんだよ」
そう言われて、思い返してみれば確かに、鈴々の軽口は私を思ってのことと取れなくもない。
愛紗「……そんなに、可笑しかったですか?」
桃香「うん、ご主人様が来てからは愛紗ちゃん、なんか空回ってばかりだったもん」
愛紗「そうですね。確かに最近の私空回りが多い」
桃香「ご主人様が原因?」
愛紗「そんな事はありません。ご主人様のことはお慕いしています」
桃香「それは、家臣としての気持ち?男の人として好きなんじゃなくて?」
愛紗「家臣としてです。私はご主人様の一の家臣ですから。桃香様の恋人であるのに私のような無骨者がそのように思うなど……」
桃香様の突然の問い、私は驚きながらも当然のようにそうかえした。
桃香「ご主人様のこと考えると居ても立っても居られなくなったりしない?私や、朱夏ちゃんがご主人様と話しているといらいらしたり、不安になったりしない?」
愛紗「そんな事は————」
桃香「無いわけ無いよね?愛紗ちゃんが空回りするのはいつもご主人様が他の女の子と居る時だもんね」
桃香様に言われて思い返してみれば、確かにそんな気がする。
そんな、これではまるで————
桃香「さっき私がいるから、異性として意識しないっていったよね?でも、お屋敷でもいったけど、私は別に飛鳥を独り占めしようとは思わないんだ。そりゃ、二人っきりで居たいときは独り占めするけれど、恋人は私だけなんて言うつもりないの。愛紗ちゃんは今、ご主人様の事が好きになりかけている。好きって心の芽が出たばっかりなの。それを私という存在がいるからってごまかしているだけ。でもね、そういった気持ちを誤魔化すのに私の名前を利用しないで」
愛紗「そんな、利用するだなんて」
桃香「強い言い方してごめんね。でも、自分の思いを誤魔化すことだけはして欲しくないの。澪さんの話をきいたでしょ?桃園でのご主人様の話を聞いたでしょ?口にしなければ想いは伝わらないんだよ?その想いをなくさないで。それで、愛紗ちゃんがご主人様が好きだっていうのなら、一緒にご主人様を愛そうね。いっしょに愛して貰おう」
武芸一筋で生きてきた私が恋?
この気持ちが、恋だというのだろうか。
愛紗「たしかに、私はご主人様を好ましく思っています。でも、これが恋なのかは私には分かりません。だから、もう少し時間を掛けて、それで私がご主人様を心の底から愛していると思えたのなら、そのときはご主人様に想いを伝えましょう。この関雲長、戦でも恋でも、人に恥じるような事はしませんから」
桃香「うん。それじゃあ、ご主人様の所に行こう!!」
そういって桃香様は、私の手をとってご主人様の所へ向かう。
桃香様、私は貴方に貰ってばかり居る気がします。
私に理想をくださったのが桃香様であれば、私に女として恋心を教えてくださったのも桃香様です。
私の気持ちは、ご主人様への恋なのか。
まずはそれを見極めることから始めよう。
そう、私は心に決めるのだった。
<後書き>
はい。外伝1です。
まぁ、ぶっちゃけこれを第七話にしてもよかったんだけど、オムニバス形式というか、それぞれの視点の短編集という形にしたかったので、外伝としてこうなりました。
なんてゆーか、どんどん、オリキャラが出てきて、蜀ルートがカオスにならないか心配です。
とくに、キャラクターが多いですからね。
今回のMVPは桃香です。
なんといっても三話ぜんぶに登場していて、さらにすべてで美味しいところさらっていきますからね。
戦で活躍できない分、大徳の人と言われた彼女の優しさはこういうところで活躍するのではないかと思うのです。
それでは、また。
Tweet |
|
|
21
|
0
|
追加するフォルダを選択
外伝っていっていますが、まぁ、祭りの夜の出来事です。
時系列だから外伝でなくてもいいのかもしれないですけど。
続きを表示