この物語は今より昔、人々の歴史にも語られぬ神の遣いと、女王となるべく生まれた六人の女性の国を賭けた物語・・・。
「ふぅ、ようやく着いたか。」
ここは古代三世紀ごろの九洲、今この地に一人の青年が降立った。
「さて此処はどの辺だ?」
この青年、九峪 雅比古(くたに まさひこ)を中心とし、この世界、この時代を変えてゆく。
「たく、鏡(きょう)、出て来い!!」
そう、この青年が変えてゆく、神の遣いとして・・・・・。
火魅子伝~神降立ちし物語~
プロローグ01 降り立ちし青年
「うぅぅん、おはよぉぉ、九峪ぃ。」
まだ眠そうな挨拶が、いきなり聞こえてきた。
しかし、この青年、九峪雅比古はそれが当たり前のようにしゃべりだした。
「ったく、早く姿を見せやがれ!!」
「何時も、何時も寝てばかり居やがって、やっと念願の九洲(きゅうしゅう)に着いたんだろうが、もう少しシャンとしやがれ。」
「そんな事言わないでよぉ。」
その声が聞こえた場所にいきなり変な物体、30センチ位のヌイグルミのような物が現れた。
「昨日は、うれしくて、なかなか寝付けなかったんだからぁ。」
「寝付けなかったって、鏡、お前は遠足前のガキか?」
どうやらこのヌイグルミのような生物は鏡と言うらしい。
さて、そろそろこの二人について説明しなければならないでしょう。
青年の名は九峪雅比古、20世紀後半の世界でごく普通?の高校生で、数奇な運命により、この3世紀の九洲に来る羽目になった人間である。
もう一人のヌイグルミのような生物は鏡と言い、この3世紀の九洲で15年前に滅んでしまった王国、耶麻台国(やまたいこく)の神器の一つ、天魔鏡(てんまきょう)に宿る精霊なのである。
なぜ20世紀の人間である九峪が3世紀の九洲、しかも滅びてしまった国の神器の精、鏡とともに居るのか?そして、こうも親密なのか?
その理由を語るには、九峪の高校の終業式の日まで時間を戻さなければならない。
三月半ば、桜の花が咲く季節。
そんな朝、九峪はいつもの通り学校に遅刻しそうなので急いでいた。
「やべぇ、いつものごとく遅刻しそぉ。」
九峪は寝巻き代わりのTシャツの上からブレザーを羽織、物凄い勢いで家の階段を駆け下りる。
習慣であるテレビの電源を入れ、食パンをトースターに入れた。
焼きあがるまでの時間が貴重なので、歯磨きに当てる。
所要時間1分、神業の様な時間で歯磨きと洗顔を終えると、ちょうどパンも焼ける頃だ、手馴れたものである。
パンを頬張りながらテレビに意識を傾けると、丁度ニュースが始まったところだった。
「九州の佐賀県にある大型の遺跡、耶牟原遺跡(やんばるいせき)の発掘調査が、今月末から開始されることになりました。」
「何だよ。もー少し気の利いたニュースは無いものかね・・・・・・。」
最初の数秒で興味を失いチャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばす。
・・・・・・・と、その時だった。
「総責任者には高名な姫島(ひめじま)教授が抜擢されました。
教授は我々の取材に対し、調査には全力を尽くします、とのコメントを・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・へ?」
九峪は聞き慣れた名前を耳にして、リモコンを持つ手を止める。
テレビに視線を移すと、画面の中によく見知った初老の男性が落ち着いた雰囲気で映っていた。
「日魅子(ひみこ)の爺さんじゃねーか・・・・・。」
残りのパンを牛乳で流し込みながら、九峪は呟いた。
日魅子のじいさんは、アナウンサーの質問に真剣に答えていたが、九峪は時間が危ないことに気づきテレビの電源を切る。
食器を流しに放り込むと、鞄と竹刀袋を持ち、急いで家を飛び出した。
通いなれた通学路を駆け抜けると、その先の交差点で女の子が一人、変な男に声をかけられ、うんざりした様子でたたずんでいた。
女の子の首には古ぼけた鈴が首飾りとしてかけられており、まだ幼さは残るものの控えめに言ってもかなりの美人である。
その女の子は九峪の姿を見つけると。
「お――い、九峪ぃ――――。」
と、声を張り上げて近づいてきた。
「よう日魅子、まだこんなところにいたのか?」
何気なく声をかけたのだが。
「おそ――――い、いったい何時だと思ってんのよ、遅刻しないまでもギリギリじゃないの。」
と、少し怒った様子で答えてきた。
「そんなに怒るなよ、大体何も毎日待ってなくてもいいだろう、遅れそうだと思ったら先に行けって言ってるし。」
「ひっど――い、それが待っててあげた人に言う言葉。」
「別に待っててほしいなんて言ったこと無いぞ。 大体、そこに居る男は何だよ。」
そう、なぜかさっき日魅子に声をかけていた男がまだ後ろに控えていたのだ。
「知らな――い。」
日魅子はそっけなく答えた。
「ひどいなー、日魅子ちゃん、俺とこれから遊びに行こうって、言ってるじゃないか、大体この野郎はだれ?」
などと言ってきたのである。
「そうなのか日魅子?」
九峪は日魅子に聞いてみるが、帰ってきたのはそっけない答えだった。
「知らないわよ、こんなダッサイ男。」
「そうか、なら急ぐぞ、そろそろ時間がやばい。」
九峪はそれ以上聞かずに、学校へ向かって歩き始めた。
「あっ、待てよ――――。」
日魅子も少し送れて歩き出した。
「おいこら、無視(シカト)してんじゃねえよ。」
日魅子に声をかけていた男がそう言いながら日魅子の肩を掴んできた。
「きゃっ!!」
日魅子は思わず声を上げる。
「へへへ、そんな男と学校なんか行かずに、俺と楽しいことしようぜ。」
そう言いながら、日魅子を自分の方へと引き寄せた。
「んっ、ちょっとやめてよ。」
日魅子は男の手から逃れようとするが、当然のことながら男の方が力があるため逃れられない。
「くっ、九峪ぃ――。」
日魅子は九峪に助けを求めた。
「はあ――、 いつも俺を蹴飛ばしたりしてる力はどうした?」
「ひっ、ひっど――――い、 助けを求めてる、か弱い女の子に向かってそれは無いんじゃない。」
「か弱いか?お前が。」
「いいから早く助けなさいよ――。」
などと、言い合いをしている二人にはこんな状況でも焦りや恐怖などは感じられず、それが男の(安っぽい)プライドを傷つけた。
「二度も俺を無視してんじゃね―――。」
と、言いながら日魅子の体を締め付けてきた、と同時に。
「かはっ!!」
と、日魅子が苦しそうに息を吐いた。
「おいこら、そのうす汚ねえ手を、日魅子からどかせ。」
九峪は、普通の高校生に出せるものでは無い、鋭い殺気を男に叩き付けながら言い放った。
男はその殺気に一瞬たじろいだが、すぐに気を取り直し、九峪に向けて言ってきた。
「へっ、高校に通っているような奴に舐められたもんだ。 そう言う言葉は状況を見てから言いな。」
そう、普通から見れば九峪のほうが不利である、男はガッチリとした体つきをし、身長も軽く185センチは有に越えている、それに引き換え、九峪の身長は175センチほどで、体つきも何処にでもいる普通の高校生とさほど変わった様には見えないのだ。
「俺は寛大(かんだい)な男だからな、おとなしく立ち去れば何もしないで見逃してやるよ。」
と、男は九峪にむかって言ってきた、が。
「待ってろよ日魅子、今助けてやるからな。」
と、男に言った言葉とは違い優しく声をかけた。
「くっ、九峪ぃ。」
日魅子は弱弱しいながらも、九峪に返事を返した。
男も冷静になったためか、日魅子に回した腕の力を緩めたようである。
「けっ、バカかテメエは、状況を見ろと言っただろ、どう見てもお前に勝ち目は無いだろうが。」
「五月蝿い(うるさい)、黙れ!!」
九峪は一言言い捨てると、突然男の前から消えた。
「なぁっっ!!」
男は突然九峪が消えたことにあせった、おそらく驚異的な瞬発力で左右どちらかに動き、後ろを取ろうとしていることは分かったが、それを行える人間に今まで出会ったことがまったく無かったため、驚きのあまり対処できなかったのだ。
次の瞬間。
“ドガッ”
という音と共に男は日魅子を掴んでいた手を離し、アスファルトへと倒れ、気を失った。
「きゃっ!!」
日魅子は急に腕を離され地面に落ちた。
「大丈夫か、日魅子?」
九峪は日魅子に優しく声をかけた。
「うっ、うん、まだ少し息苦しいけど、大丈夫。」
「そうか、よかった。」
九峪は内心ハラハラしていたのだろう、日魅子に怪我が無いことを確認すると、そっと胸をなでおろした。
「よっこいしょ。」
日魅子が年寄りくさく立ち上がった。
「あぁぁぁっ、もう学校間に合わないよ、どうしようかぁ、九峪?」
日魅子が男に捕まっている間にも時間は進み、どんなに急いでも学校には間に合わない時間だった。
「ほんとだ、ったくこいつのせいで遅刻かよ。」
九峪はそう言いながら歩き出した。
日魅子もそれに続く。
哀れにも、男はその場に倒れたまま見捨てられた。
「それにしても、九峪って相変わらず強いねぇ、さすが、剣道部や空手部を始め、格闘系の部活が
助(すけ)っ人(と)に呼ぶだけはあるね。」
「こっちとしては迷惑してんだけどな。」
九峪は本当に迷惑そうな顔をして答えた。
「でも九峪、どうして道場に通うのやめちゃったの?」
そう、九峪は子供のころから、祖父の開いていた古武術道場に通っていたのだ。
そこで九峪は、祖父から直接学び、時には動きを盗み、中学2年の時には祖父と互角に戦えるほどにまで成長したのである、男を瞬殺したのもうなずける。
ところが九峪は、高校に入り師範である祖父が他界したのをきっかけに、道場を祖父の弟子に託し、一人道場をやめたのである。
「そりゃー、今の師範より強い人間が居たんじゃ不味いだろ。 死んだジッちゃんと俺は互角だったわけだし。」
しかし本当の理由は違っていた。
確かに、師範より強い人間が居るとマズイいうのも理由だが、一番の理由は厳しくも優しかった師範、祖父の死が九峪の心に大きな傷痕を残してしまったためである。
確かに、九峪は祖父と互角の戦いが出来たが、精神面ではまだまだ未熟で、そのことが分かりだし、まだまだ教えてもらいたい、鍛えてほしいと思っていた矢先の死だったのだ。
そのため九峪は、道場に居るのがつらくなり、道場を祖父の弟子に託し辞めていったのである。
そのことは、弟子の人たちも分かってくれて、止めたりはしなかったのだが、かえって九峪にはつらい影を落とし、それ以来道場には近づくことも無くなったのである。
「ふぅぅぅん。」
いちよう日魅子は納得してくれたようである。
九峪としては、あまり聞かれたくない話なので日魅子の追求が無くありがたかった。
「それより日魅子、お前のジッちゃんまた邪馬台国の発掘調査に行ったんだな。」
九峪は、話題お変える意味もあり、今朝のニュースでやっていた事を日魅子に聞いた。
「うん、おじいちゃんスキップしながら家を飛び出して行ったよ。」
「はあぁぁぁ、あの人は相変わらずだなぁ」
九峪は、スキップしている教授の姿を想像し、ため息をついた。
「それでね九峪、「学校終わったら春休みだし遊びにおいで。」って言ってたよ」
「はあぁぁぁ、ジッちゃんも好きだねぇ、休みになるといつも“来い”って言ってないか?」
「何で、おじいちゃんは私たちを、現場に呼ぶんだろうねぇ?」
「何でって。」
『日魅子に対して過保護だからなー、ジッちゃんは。』
などと九峪は思うのだが、けして口には出さない、出せば姫島教授と日魅子に殺されかねないからである。
『ジッちゃんもジッちゃんで、自分が過保護だって認めないしなぁ、 はぁ―――。』
九峪は気だるそうにしながら、心の中でため息をついた。
こんな九峪を日魅子は首をかしげながら見ていた。
しばらく歩いて学校に向かっていた九峪たちだか、不意に前から知った顔の女の子が小走りに近づいて来た。
「九峪クーン、日魅子ぉぉ。」
女の子は走りながら、九峪と日魅子の名前を呼んできた。
「雪原(ゆきはら)っ!!」
「由(ゆ)香里(かり)!!」
九峪たちは女の子の名前を呼んだ。
女の子は九峪たちの前まで来ると、走ってきたにもかかわらず、すごい勢いでしゃべりだした。
「も――、九峪君何で学校来なかったの、終業式もう終わっちゃったよ、日魅子もどーして九峪君の側についていながら来なかったの、先生カンカンになって怒ってたよ、大体九峪君は・・・(以下略)」
この後話は3分ほど続いた。
この女の子、雪原由香里は、九峪と日魅子のクラスメートで、クラス委員をしている、何かと二人のおせっかいを焼いて来る二人の共通の友達で中学からの縁である。
予断だが、陸上部の長距離選手で、何気にエースだったりする。
走ってきながら、直ぐしゃべっても平気なわけである。
「なるほどねー、つまり九峪君は日魅子にナンパして来た男を倒したりしていて、遅くなったと。」
「そーゆーこと。」
九峪は雪原に、散々説明をしてようやく遅れてしまった理由を納得させた。
「まったく何度同じ説明をしたことか。」
「しょうがないじゃない、九峪君いつも何だかんだ理由をつけて逃げるんだもん。」
「まあまあ由香里、その辺で九峪を攻めるのはやめて。」
「ひ・み・こ、あなたにも言ってるのよ。」
「うっ」
「いつも二人の口車に乗せられて、いい様に巻かれてるんだからね。」
「「すみません。」」
二人して雪原に頭を下げていたりする。
「それわそうと、わざわざ遅刻、と言うか欠席について聞きに来たのか?お前は。」
立ち直った九峪は、とりあえず疑問に思ったことを聞いてみた。
「ううん違うわよ、私が来た理由は。」
そう言いながら、彼女はカバンの中をゴソゴソと何かを探し出した。
「えーっと、確かこの中に・・・・・あっ、あった、あった、はい日魅子、九峪君。」
と言いながら、三枚の紙切れを出し日魅子には一枚、九峪には二枚渡した。
「何だこれ?」
「一枚は成績表、先生が渡せって、九峪君に渡したもう一枚は、夏休み中の宿題の追加。」
「なに――――っ!!」
九峪の質問に、彼女は淡々と答え、その回答に九峪は悲鳴を上げた。
「どう言う事だ、雪原、テストはみんな満点に近かったんだぞ。」
九峪はすごい剣幕で彼女に言い返した。
「それに付いての先生の解答だけど。」
彼女は冷静に語りだした。
九峪のこの剣幕に怯まないのは、さすがである。
「先生がね「テスト、成績表の点数は文句無いのだが、授業態度が破滅的に悪いので、それを補うための課題だから、きっちりやって来い(ニヤ)」だそーです。」
その回答に九峪は、口を空けて呆然としていた。
「九峪って勉強もスポーツも出来るのに、授業中サボりがちだし出ても、いつも寝てるもんねぇ。」
「そうなのよねぇ、それで何でテストの成績良いのかしら、不思議よねぇ。」
などと、日魅子たちは話している。
話の中心の九峪は、まだ帰って来ていないようである。
それを確認した、雪原は日魅子に今朝ニュースでやっていた、日魅子のおじいさんの事を聞いた。
「ところで日魅子、今朝ニュースでやっていた遺跡、日魅子のおじいさんが行ってるみたいだけど、日魅子は行くの?」
「うん、この後九峪と行こうと思ってたんだ、お爺ちゃんも学校終わったらおいでって言ってたし。」
「ふ――ん、まあ行くなとは言わないけど、夜とか気お付けなさいよ、九峪君だってもう大人なんだし、じゃあねぇぇぇぇ。」
と言いながら、走り去っていった。
「ちょっ、ちょっと由香里ぃ――(///////)」
と日魅子は叫ぶが、彼女の姿は見えなくなっていた。
「まったく由香里ったら(怒)・・・・・・。」
『でも九峪とあんな事や、こんな事なんて・・・・・・(ボッ)』
なんて事を考えて、顔を赤くしながら首をイヤイヤと振っている日魅子と、いまだにポカーンとしている九峪だけがその場に残されしばらく戻っては来なかった。
「おじぃぃぃちゃぁぁん!」
日魅子は走りながら自分の祖父、姫島教授を呼んだ。
(ぴくっ)「やれやれ、日魅子か。」
この老人は姫島厳一(げんいち)、過去に発掘した遺跡に捨てられていた火魅子を引取り育てた人物であり、九峪の祖父とも交流があった人物である。
何でも昔、海外の遺跡の発掘に携わっていた姫島教授(当時は大学院の研究生)たちの発掘場所がゲリラに襲われたとき、それを撃退したのが護衛の任務についていた九峪の祖父で、撃退した後お互い日本人と知り、また、同じ県出身であったために意気投合、それ以来二人で色々な遺跡の発掘に行くようになったそうだ。
そんなわけで、九峪も頭が上がらない人物の一人だったりする。
「お爺ちゃん、やっと見つけたよぉ。」
走って来たのだろう、息が軽く上がっている日魅子が手を振りながら姫島教授の元へとやってくる。
「よく来たな日魅子、そんなにあわててどうした?それに九峪くんは連れてこなかったのか?」
「ほえ?九峪?」
変な声を出しながら日魅子は辺りを見回した。
姫島教授の疑問はもっともである、火魅子は九峪と一緒にこの遺跡に来たはずだからである。
朝の電話でも火魅子は九峪と一緒に行くと言っていたし、何だかんだ言いながらも九峪が一緒に来なかった事は無かったからである。
「おっかしいなぁ、さっきまで一緒に居たのに?」
日魅子も首を傾げている。
二人して辺りを見回していると。
「日魅子ぉぉ、置いてくなぁぁ。」
という九峪の声がした。
二人してそちらを向いてみると、大きなスポーツバックを3つ抱えた九峪が息も絶え絶えにやってくるのが見える。
「なぁぁにやってんの九峪ぃぃ。」
「うるせぇぇぇぇ、お前が持たせたんだろぉぉぉがぁぁぁ!!」
訂正、以外に元気そうである。
そんなやり取りをしながら姫島教授と日魅子は九峪の元へ小走りで近づいた。
「九峪くん、相変わらず元気そうだねぇ。」
姫島教授は笑いながら九峪に話しかける。
「ご無沙汰してます、姫島の爺さんも元気そうで。」
「はっはっは、まだまだ若いもんに負けるわけにはいかないからね。」
二人はそんなありきたりな挨拶を交わしつつ、お互いの手を握る。
「九峪遅いよぉぉ。」
そんな中、日魅子は一人不満げである。
「お前が一人荷物をほっぽいてジッちゃん探しに行っちまったんだろうが、一人でこの荷物運んで来たんだぞ、少しはねぎらえ。」
結局、九峪と日魅子はそのまま言い会いをはじめてしまった。
そこに姫島教授が仲裁に入る。
いつものパターンというやつである。
「日魅子も九峪くんもそこまで、今回は日魅子が悪いと思うぞ、自分の荷物は自分で持ちなさい。」
「はぁぁぁぁい( ̄з ̄)」
不満そうに日魅子が返事をし、とりあえずは落ち着く。
「ところで、そんなにあわててワシを探すということは何かあったのかい?」
姫島教授は話を切り替えつつ、ふと思ったことを聞いてみた。
「そうだった!お爺ちゃん早くこっち来て。」
日魅子は突然思い出したように教授を引っ張り出す。
「おいおい日魅子いきなりどうした、行くのはいいがわけを話せわけを。」
姫島教授は少し抵抗しつつ訳を聞こうとする、そこに九峪が。
「何か向こうの発掘場所で銅鏡が出たらしいんです。」
「銅鏡?そんなモンでワシを呼んでいるのか。」
道教が出れば一般人は騒ぐだろうが、この耶牟原遺跡の規模はかなり大きく、それなりに掘れば銅鏡などはそれなりに出てくるものであり、史料としては確かに重要なものの一つではあるが、それは後で鑑定すればいいので普通は箱などに入れて保管庫に持っていくのである。
ましてや発掘している場所には大学のスタッフが居るので彼らが普通はそういった事をするので問題ないはずである。
姫島教授は何か事故でもあったのかとも考えたが、それなら九峪たちもいちいち喧嘩などしないだろう、何で自分を呼ぶのか検討がつかずに要ると、九峪が付け足した。
「何でも今まで、資料でも博物館でも見たことの無い模様、形の鏡でしかも割れずにほぼ完全な形で出てきたらしいっすよ。」
「何!!本当かね!!」
九峪の話を聞くや、教授の目が輝きだした。
「本当だよお爺ちゃん、だから早く行こ。」
その日魅子の一言を聞くや教授は年寄りとは思えない速さで日魅子と一緒に駆けていった。
その場に一人残された九峪は。
「この荷物、また俺が運ぶのかよ・・・・・。」
と言いながら、置いてある荷物を再び背負い日魅子たちの後を歩いて追っていった。
結果的にその銅鏡は姫島教授も見たことの無い銅鏡で、解析は大学で行うと決めひとまず、発掘現場近くの発掘物保管用のプレハブにしまわれる事になった。
姫島教授やその他のスタッフたちはいいものが出た喜びから祝杯を挙げることになり、いつもより少し早いが切り上げるになった。
九峪と日魅子は今日は教授たち発掘チームが泊まっている民宿に一泊することになっていたので、教授達とともに、宿へと向かったのだが、九峪は何か引っかかるものを感じていた。
結局、宿に到着してもその感覚が何であるかは分からず、そのまま宴会になってしまったので、考えることをやめ、日魅子と共に参加した。
宴会が始まり2時間もしたころ、日魅子がそっとその場から抜け出した。
それに気づいたのは九峪一人で、抜け出す日魅子に違和感を感じた九峪もその場を抜け出した。
「どこ行った?」
宴会を抜け出した九峪が宿の中、日魅子を探して居ると姫島教授の部屋から出てくる日魅子と出くわした。
「九峪。」
「どうした日魅子?ジッちゃんになんか頼まれたか?」
九峪は教授に何か荷物を持ってくるよう言われたのだと思い聴いてみたが、日魅子は両手を胸の前で組み顔をうつむかせたまま何も言おうとはしない。
「おい、日魅子どうしたんだよ。」
心配になった九峪は、少し強引ではあるが顔の両側を軽く押さえ、うつむいていた顔を上げさせた。
「ジッちゃんの部屋になんか変なもんでもあったのか?それとも頼まれたもん見つかんなかったか?一緒に探すか?」
九峪は思い当たった事を色々聞いてみるが、ふと日魅子が手に持っているものに目が行った。
「何だ見つけてたんじゃないか。元気ないように見えたから心配しただろうが。」
そう言いながら手を離し、日魅子が持っているものを改めて確認する。
「日魅子それって保管庫の鍵じゃないか、そんなもんどうすんだ?」
九峪はその鍵を見て、宿に来る途中に感じた違和感を思い出した。
九峪は再度どうするのか聞こうとすると。
「ねえ九峪、お願いがあるんだけど、一緒に保管庫に行ってくれない?」
と日魅子が切り出した。
九峪は違和感が大きくなるのを感じながら聞き返す。
「どうして保管庫に行かなきゃならないんだ、いくらジッちゃんが酒に酔ってるとはいえ、発掘したものを宴会で見せるようなことをするような人じゃ無いだろう。」
九峪は長年姫島教授付き合いがあるため、そんな事をする人ではないし、夜になり暗い中で日魅子を保管庫へ行かせるような事はする筈が無いと知っていた。
「ごめん、どうしても行かなきゃならないの。」
「どうしてだ?わけを言えわけを、そうしたらついていかないことも無い。」
日魅子が言い出したら聞かないことを知っていた九峪は、訳を聞いた。
「鈴がね、鳴ったの・・・・今まで鳴らなかったこの鈴が、今日発掘された鏡を見たときかすかに。」
「いつもお前が身に着けてる鈴が?」
「うん。」
鈴とはいつも日魅子がペンダントにして首から下げている古びた鈴で、捨てられていた日魅子が持っていた唯一のもので、壊れた箇所も、足りないパーツも無いが今まで一度も鳴ったことが無かった。
「どぉしても、今でなきゃだめか?」
九峪は違和感を感じつつ確認のために聞いた。
「うん。」
火魅子は迷い無く、しっかりと答えた。
「分かった、そこまで言うならついていこう。」
九峪は自分がついていけば大丈夫だろうと、また、この違和感の正体も分かると思い承諾した。
「ありがとう九峪ぃ。」
日魅子は九峪に飛びつこうとして、
「た・だ・し。」
九峪は飛びつこうとする火魅子を征した。
「何?まさかスタッフかお爺ちゃんも一緒にとか言わないよねぇ。」
日魅子は少しすごみながら聞いてきた。
「違う。」
九峪は即答した。
「じゃあ何?」
「外は暗い、野犬か何かも出ないとも限らん、だからいったん部屋に行って懐中電灯と俺の狼(ろう)牙(が)を持っていく。」
狼牙とは、朝持って出た竹刀袋の中身で九峪が肌身離さず持ち歩く刀である。
この刀は九峪の祖父がやっていた古武術『無形封魔流(むけいふうまりゅう)』と言い、無くなった九峪の祖父曰く平安時代に京に出没した巨大な狼を倒した先祖が、その牙から拵え(こしら)た物で代々当主、もしくは次期当主のみが所有することを許された刀だそうで、実際、斬鉄剣も真っ青な切れ味をしている。
予断だがこの刀、同じ大きさの刀と比べて5倍の重さをしている。
話を戻そう。
火魅子は、それならOKと早速荷物を取りにいき、誰にも見つからないようにこっそりと宿を出た。
「なあ、日魅子、本当にいいのかよ?」
九峪は心配そうに、たずねた。
「うるさいなー、静かにしてよ。見つかっちゃうじゃない。」
「はいはい。」
『どうしたんだ、宿を出てから一段と違和感が強くなっていきやがる。日魅子の様子に変なところは無いのに、俺の中の何かが何時もとは違うと言ってきやがるし・・・・・くっ、仕方ない普段のように振舞いつつ、周囲と日魅子を警戒して、何時でも対処できるようにしておくしかないか。』
九峪は、自分の中の何かを信じ、念のため周囲と日魅子に気を配ることにした。
九峪が一人考え事をしているうちに、二人はプレハブにたどり着いた。
旅館とプレハブとは目と鼻の先で、歩いて二分もかからず、周りも静かで、プレハブで大きな物音がすればすぐ気づくような場所なのである。
日魅子は取り出した鍵を鍵穴に差込、難なく扉を開けた。
彼女が建物の中に入ったので、九峪もその後に続いた。
中は暗く、電気を点けようとするのを、日魅子が押しとどめた。
「ダメよ。電気点けたら、気づかれちゃうじゃない。」
九峪はひょいと肩をすくめた。
「スリル満点だな。まるでルパン三世にでもなった気分だぜ。」
などと、軽口を言ってみたが。
日魅子がものすごい勢いで振り向いた。
『やばい、無理にこんな事いったせいで、表面取り繕ってるのばれたか!!』
九峪はプレハブに入ってから、違和感が危険信号並みに強くなっていたため、そのことを火魅子に悟られないためにわざと平静を装って、つまらない軽口などを言ったのである。
「変な例え。」
と、日魅子はそのことに気づかずに、軽くあしらわれてしまった。
『ふ――――っ、あせったぁ、ばれたかと思ったぜ。』
「あった!」
日魅子は懐中電灯の明かりだけで難なく銅鏡を見つけ出した。
「早いな・・そんなに目立つところにあれば当然か。」
そのとおりだ、なにせ銅鏡は部屋の真ん中に置かれていたのだから。
日魅子は銅鏡に見入っているようだ。
『何か様子が変だな、俺の第六感は警告音なりっぱなしだが、周りに変な気配は無いが?』
「どうだ日魅子、満足したか?」
日魅子は九峪の呼びかけには直接応えず、ただ一言、
「待ってて。」
と言って、持っていた懐中電灯を押し付けてきた。
「どうかしたのか?」
懐中電灯を受け取った九峪は火魅琥を照らす、日魅子は机の上においてある銅鏡に手を伸ばした。
「おい、勝手に触ったりしたら・・・・。」
九峪が止めようとしたときは、日魅子は銅鏡を両手で持ち上げていた。
『何だ!?急に違和感がうすらいだ?』
九峪が違和感の急激な変化に警戒を強めた。
そのとき・・・・・・・。
「かたん」と何かがゆれる音がした。
不審に思った九峪が、思わず身構え、音のした方へ懐中電灯の明かりを向ける。
『何もない。』
建物の中をあちこち照らしてみるが、何も変わったところはないようだ。
「ネズミか?」
九峪がふと明かりを上に向けると、天井からぶら下がっている裸電球が揺れているのが見えた。
「なに!?」
九峪は入り口を振り返った。
入り口の扉は閉まっている。
『そうだ、俺が閉めたんだ。じゃあ、なんで電球が揺れてる?風もないのになぜ揺れるんだ・・・・。』
九峪はなんだかとても嫌な予感がして日魅子を見た。
「火魅子!?」
九峪は我を忘れて叫んだ。日魅子が手にしている銅鏡がぼんやりとした光を放ち日魅子を包み込んでいるではないか。
九峪は事態のあまりの異常さに違和感はこの事の警告だったのかと瞬時に考えた。
とにかく、事態を把握するために頭のスイッチを切り替え冷静になる。
この光の正体は何だ?
何故、日魅子が光に包まれている?
一体誰の仕業だ?
いくら考えても何も思いつかない。
ただ一つ、分かっている事はこの異常な事態の中心にいるのが日魅子だ、と言う事だ。
「ど、どうなってるの?九峪・・・・・・・、怖いよ、助けて!!!」
日魅子が怯えた表情でこちらを見やる。
その表情を見た瞬間、九峪は思わず彼女の元へと駆け寄った。
先程までに考えていた事など綺麗さっぱり忘れて、何とか日魅子を助けようとする。
とりあえず光に触れてみるが、空気のように何も感じず振り払おうとしてみたが全く効果は無かった。
「くそっ!どうなってやがる!?」
苦し紛れに毒づく九峪。
目の前で日魅子が苦しんでいると言うのに、何も出来ない自分が歯痒く思えてくる。
『くそっ!!俺は何のために修行したんだ、こういった事から日魅子を守るためじゃないのか?』
こうしている内に、九峪は日魅子の肌の色が薄くなってきている事に気がついた。
いや、色が薄くなっているのではない、日魅子の体が透けてきているのだ。
まるで映画か何かのワンシーンを見ているかの様に、九峪は目の前の光景に魅入る。
「ね、ねぇ・・・・・・・・、九峪。
何だか、私の身体が透けてきている気がするんだけど・・・・・・・・、き、気のせいだよね?」
「・・・・・・・・・。」
「九峪ぃ・・・・・・。な、何とか言ってよぉ―――!!」
九峪は必死に考えていた。
ここでどうにかせねば、数十秒後に日魅子の身体は完全に消えてしまうだろう。
その考えに至って、九峪は背筋が凍るように震えた。
「考えろ、考えるんだ・・・・・・。」
「何でぇ?何でこんなことにぃ。」
消え行く自分自身を見ながら、涙混じりに呟く日魅子。
不意に、日魅子のその言葉を聞いた九峪が顔を上げた。
「そうだ、何か原因が・・・・・。日魅子!お前何をした?」
「分かんないよ!あの銅鏡を持ったら、昼間のようにこの鈴が急に鳴り出して・・・・・。」
「鈴っ!?」
日魅子の言葉にその鈴へと視線を移して分かった。
光が日魅子を包んでいるのでは無い、鈴を中心にして光が集まっているのだ。
「これが原因か!!!」
そう叫ぶやいなや、日魅子が首からかけている鈴を手にとって紐を引き千切った。
光の元が日魅子から離れた為か、彼女を包む光が次第に薄れていく。
それと同時に、日魅子の透けていた身体も元通りになり始めた。
「よし、この鈴が原因だったんだな。」
九峪は日魅子から違和感が消えたことに安堵した。
「くっ、九峪っ!!!」
「ん?」
しかし安心したのも束の間だった。
今度は九峪の身体が光に包まれ、そして身体が透けだしたのだ。
しかも日魅子の時とは比べ物にならない早さで、だ。
「九峪ぃ!早く、早く鈴を放して・・・・・・・・。」
九峪は鈴を放そうと自分の手を見て。
「悪ぃ、無理みたいだ」
「えっ?」
九峪の言葉に、彼の手を日魅子は見た。
自分から鈴を奪い取った九峪の手は・・・・・、手首から上がすでに消えて無くなっていた。
「いっ、いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
恐怖のあまりに絶叫する日魅子。
その間にも、九峪の体は光の粒子となって消えてゆく。
「こんなに早く爺ちゃんの処に行くことになるなんてなぁ・・・・・・・・・。」
九峪はそう呟くが、不思議と恐怖はあまり無かった。
ただ、日魅子を守る事が出来てよかったとゆう充実感のほうが心の中で勝っていたのだ。
「九峪いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
日魅子の悲痛な叫びが聞こえる。
気がつけばもう、自分の身体はほとんど消えて光の粒子となっていた。
ほほに触れる日魅子の手。
「日魅子・・・・・・、じゃあな・・・・・元気で。」
九峪がそう呟いた瞬間、彼は完全に姿を消し、意識は闇へと落ちた。
「九峪、そっそんな、いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして、日魅子は叫びとともに崩れ落ちた。
三分後、日魅子の悲鳴を聞きつけた発掘スタッフが部屋に駆けつけた。
しかし、あるべき筈の物と居るべき青年の姿は元から居なかったかのように消え、建物の中には放心状態で目も虚ろに座り込んだ日魅子の姿があるだけだった。
しかし、姫島教授やスタッフを含めたそこに居た人たちの中で誰も、もう一つ消えたものが有ることにまだ気づいてはい無い。
プロローグ02につづく
・・・・・・・。
やってもうた。
自分で書いてて、もういろいろと突っ込みどころ満載で、書き終わってみて、
『やっちまったなぁ』としか言いようのない感じ。
おまけに今後の展開まったくの無計画。
・・・・・・どないしよ。
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この物語は今より昔、人々の歴史にも語られぬ神の遣いと、女王となるべく生まれた六人の女性の国を賭けた物語・・・。