四天王登場
「・・・」
カンナギタウンからナギサシティへ向かうため、クウヤは一人ズーバにつかまって飛んでいた。
目的は一つ、シンオウ地方最後のジムバッジをかけて、ナギサジムのジムリーダーと勝負をするためだ。
これから気合いを入れなければならない、というのはわかっているが、クウヤはなにか思い詰めたような顔をしていた。
「・・・父ちゃん・・・」
「クロバッ?」
「あ、いや、なんでもねぇよ。
ただちょっと、父ちゃんのことを思いだしてさ」
クウヤが父ちゃんと呼ぶ相手は、このシンオウ地方で出会った男。
フロンティアブレーンの一人、ピラミッドキングのジンダイだ。
伝説の3匹、レジロック・レジアイス・レジスチルを使いこなすその男は昨日、クウヤにたいして自分が実の父親だと告げたのだ。
今はジンダイはシンオウでの残りの調査、キッサキシティの神殿に向かっている。
「・・・それが、本当なのか嘘なのか・・・どうなんだろうって思ったんだよ・・・」
ジンダイも、あくまで名前が同じというだけで確証はないと言っていた。
だがお互いに本当にそうならいいのにと思うようにもなっていた。
初めて会った気がしない・・・会って話をするたびに感じる頼もしさ、暖かさ・・・懐かしさ。
長年離ればなれになっていた、父親と息子。
彼の話が本当なら、母親もいるはずだ。
「本当に、ジンダイのおっちゃんが父ちゃんならいいなぁって、思ってるんだよ・・・」
長年密かに思い続け、いつか会いたいと思っていた本当の家族。
確証がなくても、それと会えるチャンスがあるというだけでクウヤの中に喜びがわき上がってきていた。
「・・・やっと・・・会えたんだから・・・さ・・・」
だからクウヤは、あの告白に対しショックは受けていない。
むしろ嬉しくて、もっと話がしたいと思ってた、母親にも直接会って話がしたい。
楽しみが、クウヤのなかにふくれあがっていく。
「だから、最後のジムだってかってやる!」
ますます、ナギサジムへの勝負による士気があがる。
そんなクウヤの気持ちに呼応するように、ズーバは飛行スピードをあげた。
空を飛んでいたズーバは無事にナギサシティに到着した。
「さんきゅ、ズーバ」
クウヤはズーバにそう告げて、ズーバをモンスターボールに戻した。
その後ナギサシティへのゲートに入りそこを抜ける。
「・・・ひゃぁぁ~~~」
ナギサシティの町並みをみて、クウヤはぽかんとしていた。
町の面積は広く全体にソーラーパネルの道がはられており、奥には海が見え、辺には灯台も建っている。
その潮風に心地よさを感じながらも、クウヤはポケモンジムを探しに行こうとする。
「クウヤくん」
「?」
そのとき名前を呼ばれて、そちらを向くと青いスーツの男性がいた。
彼の姿を見たクウヤは表情をぱっと明るくさせ、彼に駆け寄る。
「ゲンさん!」
「ついにここまできたな、クウヤくん」
「ああ、もちろんだよ!」
スーツの男、ゲンに向かって満面の笑顔で話しかけるクウヤ。
ゲンもそんなクウヤの姿にたいし、ふっと微笑む。
「ポケモンの準備は万全かい」
「もちろん!」
「じゃあ早速ジムに向かおう、私が場所を知っているから案内するよ」
「お、さんきゅー!」
クウヤはゲンについていき、ジムの前まで来たがそのジムは留守だった。
「・・・いないな・・・」
「どっか行ってるとか?」
「それが正解、あいつならナギサの灯台にいるぜ」
ジムの前で立ち往生をしているクウヤとゲンにたいし、赤いアフロの男が声をかけてきた。
初めてあうその男にクウヤはぽかんとし、口を開きその存在を聞く。
「えーと、あんた誰?」
「私の知り合いですよ、クウヤくん」
「!」
続いて姿を見せたのは、以前に会ったことのある四天王の一人だった。
「ゴヨウさん!」
「お久しぶりです、クウヤくん・・・君の活躍はシロナさんから聞きました。
君のおかげでこのシンオウは守られました・・・私からも礼を言わせてください、ありがとう」
ゴヨウにそう言われてクウヤはぽかんとしたが、ふぅっと笑みを浮かべた。
「・・・シンオウを守ったのは、おれだけじゃないよ・・・。
ここにいるゲンさんも手伝ってくれたし、シロナさんも一緒だったし、コウキにヒカリにジュン・・・たくさんの人やポケモンがいたから、シンオウは助かったんだよ」
「あらあら、奥ゆかしくていい子だわね」
「それくらいがいいんですよ」
「!」
クウヤの前にさらに二人の人間が現れた。
活発そうな少年と、お淑やかな老婆だった。
「初めまして、僕はリョウ。
虫ポケモンをこよなく愛する四天王の一人だよ」
「私はキクノ、地面ポケモンとともに過ごす四天王の一人ですよ」
「あと、知り合いじゃねーぞゴヨウ、オレはお前と同じ四天王のオーバだぜ!」
彼の前にいるのが、四天王としてポケモンリーグに待ちかまえている強者ポケモントレーナーたちだと知り、クウヤはわぁ~と声を上げる。
「四天王が全員いる・・・」
「すごい現場に居合わせたな、クウヤくん」
4人それぞれにシンオウを守るためにギンガ団と戦ったことに対する礼を言われたクウヤ。
とりあえずまずは、最後のバッジのためにジムリーダーがいるというナギサの灯台に6人で向かった。
「オレは待ってたぜ、如何にも燃え尽きたデンジのハートをもう一度熱く燃え上がらせることができるトレーナーが現れるのを!
ギンガ団のボス、アカギを討ち取った奴がきたとなれば、あいつだって燃えるはずだぜ!」
「オーバさん、彼は確かにアカギは倒したけど、殺してはないよ」
オーバが討ち取ったと言ったことに対しリョウはそうつっこみを入れる。
そこでデンジという名前をクウヤは聞き、クウヤは5人に問いかける。
「そのデンジって人が、ジムリーダーなのか?」
「ああ・・・電気ポケモンの使い手で本当につえぇんだけど・・・最近、だらけちまってよ・・・。
ジム戦だってまともにやらなくて、ジムにくることも少なくなっちまったんだ」
「・・・強さに自惚れる、てことか?」
「それもあるかもしれませんよ」
話によれば、オーバとデンジは長いつきあいの友人同士で、昔はどんなバトルも全力で楽しむ熱い男だったが、ジムリーダーになってからは中々強いトレーナーが現れなかったというのだ。
そのため堕落していき、バトルの情熱を町の改造に向けてしまったのだという。
おまけに、バッジを7個集めた・・・つまり、自分以外のジムリーダーと戦った人としか戦いたくないとまで言いだしたのだという。
「もしかして、そんなやる気なしのヤローより、おれの方が強いからって言いたいのか、オーバさん。
それで、おれにその天狗の鼻を折ってくれってこと?」
「おまえ、無邪気だな」
どうやらクウヤはオーバの頼みをそう受け止め解釈したらしい。
その横でゲンは顎に手を当て考え込み、そして口を開いた。
「いや、もしかしたらってこともあるな。
ギンガ団がナギサシティには何故か攻撃をしてきてないのをいいことに、そこで隠れてたというのもある。
長らくバトルしていないうちに腕が鈍って、そこら辺のトレーナーにも勝てなくなってしまい自信喪失し引きこもったとか・・・」
「ゲンさんっ!?」
「あ、それおれも思った」
「ちょ、クウヤくん!」
「あらあら、ナギサシティの噂をご存じなのね」
「キクノさん、そんなことを言わなくてもいいから!」
彼らの話に次々につっこみをいれるリョウ。
だがジムリーダーの話を聞いたクウヤは強弱とは別に
「だけど、そのデンジって人・・・おれの挑戦受けて戦ってくれるのかな?」
「大丈夫だよ、クウヤくん・・・」
ぽん、とゲンはクウヤの肩に手をおく。
「もしデンジに断られても、そのときは挑発でもすればいいからな」
「ゲンさんこわい」
にこやかに笑ってそう言うゲンに対し、クウヤはそう言うしかなかった。
「勝手なことを言うな」
「?」
その声と同時に青を基調とした服に短くトゲトゲとした金髪、いかにもけだるそうな青い目の男性が姿を見せた。
「・・・誰、このちゃらそーなにーちゃん」
「こいつが、ジムリーダーのデンジだ」
「えぇ~!?」
目の前にいるこの男がジムリーダー、という事実に対しクウヤはそう声を上げるしかなかった。
「・・・ホントに強いの、この人」
「大丈夫よ、これでもジムリーダーなのだから」
彼らの前に現れたデンジはその視線をクウヤに向け、そのまま続けてオーバに向けた。
「オーバ、まさか彼がギンガ団を倒したというトレーナーか?」
「そうだ、名前はクウヤっていうんだとよ」
「・・・」
デンジの青い目とクウヤの緑色の目が向かい合う。
自分と10は離れているであろうその少年は、自分のことをじっと見ていた。
この少年が本当に、ギンガ団のボスを倒しシンオウを守ったトレーナーなのか。
正直、信じることは難しい。
「キミはオレに挑むつもりか?」
「ああ、あんたが強くても、おれは負けねぇ。
どうしても、おれはシンオウのジム全部を制覇しなきゃならねぇんだ」
「・・・」
黙るデンジに対し、クウヤはあわててバッジケースをあけて自分がここまで手に入れたバッジも見せた。
「あんたは自分以外のジムリーダーを倒したら、挑戦を受けるっていったよな!
この通りほら、バッジもここまで7個集めたんだ!
最後の一個だけ残して半端なまま挑戦を終わりたくないんだよ!
・・・おれは最後まで、自分で決めたことを通したい!
だからおれは、あんたに挑戦する・・・だから受けてくれよ!」
クウヤの言葉を黙って聞いていたデンジはやがてふっと表情を変えた。
「・・・決めた」
「え?」
「もしキミが弱かったら、オレはポケモンリーグに向かう。
オレがジムリーダーを続けるか、ポケモンリーグに進むか・・・そのカギはキミにゆだねよう。
ジムで待ってるぞ」
それだけを言い残し、デンジはクウヤ達の前から去っていった。
「えーと、どういうこと?」
「デンジはお前の挑戦を受けるそうだぜ、クウヤ」
「え、そうなの!?」
まるでデンジの言葉をわかりやすく伝えてるようなオーバの言葉にクウヤは驚く。
「まぁ微妙と言えば微妙で、完全に元の表情変化をみられるのはまだ先になりそうだけど、あいつのあんなわくわくした顔、久しぶりに見たぜ」
「えー、顔の変化、おれにはわっかんなかったんだけど・・・。
それってつき合いの長さが関係してるのか?」
唖然とするクウヤにたいし、ゴヨウは声をかけてきた。
「クウヤくん」
「ん、なにゴヨウさん?」
「キミのバトル、我々四天王も観戦させていただきますよ」
「えぇ!?」
まさか自分のバトルを見ることになるとは。
クウヤは信じられず驚きまた声を上げた。
#
オーバは友人・デンジが気合いを取り戻す様子を見たいと語っていた。
ゴヨウ、リョウ、キクノはクウヤに興味があるからだという。
あと、シロナもこの試合を見たい気持ちは山々あったが、チャンピオンとしての仕事が山積みでこられない。
だから、この試合の結果を教えてほしいと頼まれたのだという。
「あと・・・最近調べてわかったことがあるんだ」
「わかったこと?」
「うん、それをクウヤくんに教えておこうとも思ってたんだ」
リョウの言葉にクウヤは首を傾げた。
「キミとシロナさんがテンガン山で戦ってるのと同じ頃、ギンガ団は警察の目を背けさせるため各地で犯罪を犯し混乱させた。
そのときジムリーダーと僕達でそのギンガ団をとらえ続けてたんだけど・・・ナギサシティには、ギンガ団が影も形も見せなかった。
襲撃された気配もなく、この町だけは平和のままだったんだ」
「え、なんで?」
「調査をしてみたらここには昔、アカギって名前の男の子がいたって話を聞いたのよ」
「・・・え、え、アカギ!?」
アカギ・・・ギンガ団のボス。
その男と同じ名前の男の子が、昔この町にいた・・・ということは、とクウヤの中でなにかがつながる。
「もしかして、ナギサシティがアカギの故郷ってことなのか!?」
「ええ・・・その話を聞いた当初、私も半信半疑でしたが、逮捕された後本人の証言により、その男の子と同一人物であることが判明しました」
どうやら手に持っていたのは手帳らしい、ゴヨウはそれを閉じ、話を続ける。
「話によればそのアカギという男の子は非常に頭が良くここのポケモン塾でも成績は優秀、特に機械の扱いに長けていたと聞きます。
ですが、それ故なのか・・・人と溶け込もうとしなかったようです。
自ら溶け込もうとしない、そのために周りも彼に近寄ろうとしない・・・孤独な人生だったようですね」
「・・・」
「まぁ私の口からいえるのは、どのような人生であっても犯罪を犯した以上、それを許しておくわけには行かない・・・ということですがね」
「ああ・・・それはおれも、わかってるよ。
だからおれも、アカギと戦ってギンガ団を止めたんだ」
ゴヨウの言葉に対し、クウヤはそう答えるが、すぐに顔をしたに向ける。
「だけど、アカギ・・・心を捨ててるとかいいながら、故郷になにもしなかったのは・・・結局完全に心をすれられなかったから何だろうな・・・」
「クウヤくん?」
「なんか、言ってることとかやってることとか、滅茶苦茶じゃねーかって思ったんだよ。
本当に心がねぇんだったら、普通にナギサシティだって攻撃してもおかしくねーじゃん。
それに、世界の神になるっていうんだったらシロナさんがいってた・・・あ、ある・・・・」
「アルセウス、かしら?」
名前が出てこなかったクウヤに、その名前を出して助言するキクノ。
「そう、それ。
そっちに手を出してもぜんぜんおかしくねーじゃん?」
「知らなかっただけとか?」
「んー・・・そうかもなぁ・・・ギラティナだって知らなかったみたいだし」
「もしかして、そこら辺を知る前に動いちゃったってことかな?」
正直、事件が解決した後もわからないことだらけだ。
「・・・クウヤくん、思うところもあるだろうけど・・・今は」
「わかってる」
ゲンに言われて、クウヤはモンスターボールをみた。
「おれは、アカギにも負けなかった・・・だから、デンジさんにだって負けねぇ」
そう言って顔を上げると、クウヤはポケモンジムに向かった。
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