No.929767

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第008話

こんにち"は"。
今年もあと一月ちょいですね。
現在リアルの忙しさに感けて全く執筆出来ていない状況です。
時間見つけてやらなければなりませんね。
皆さんも風邪には気を付けてお過ごしを。

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2017-11-12 20:28:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2408   閲覧ユーザー数:2237

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第008話「かしまし娘の就職先」

 時は経ち、隴、夜桜、留梨の三人が17になった時、全国各地では朝廷への民の決起、反乱が多発しており、それと同時に盗賊や野党も増え始めており、天水群上邽(じょうけい)もその例外では無かった。各地の領主が自らの保身に奔走する中、隴達の村を収めるべき筈の領主は、村を見捨てた。そして彼女達は立ち上がり、自ら義勇軍を作ったのだ。自らの軍で村を守り、時に金を貰っては他の地に遠征に向かった。そんな傭兵集団の様な生活が1年続いた最中、彼女らの留守の隙を狙われ、村が襲われたのだ。

雑念を振り払いながらも急ぎ駆け行く三人に、それでも最悪の可能性が脳内をよぎり続けていた。戻って見ると村は壊滅しており、人っ子一人いない状態であった。義勇軍の面々は、ある者は地団駄踏み、ある者は泣き崩れていたが、三人は村の壊滅状態を見ても、一つの違和感を感じていた。確かに村は壊滅しているものの、村人の死体が無いのである。

義勇軍が村の散策を続けていると、一つの断末魔の様な絶叫が響き渡り、義勇軍の皆は駆けた。そしてそこで見た光景は、村人を囲みながら守る謎の兵士達と、返り血を浴び、山積みとなった賊の死体を踏み荒らす、袴を履き、胸に(サラシ)を巻き、上から羽織り着こなす紫に近い藍色の髪をした薙刀使いの女性と、黒い影を落とし、赤眼(せきがん)を光らせ両手に血の付いた刀を持った死神であった。

 

 「なるほど。それが呂北様との出会いなのですね」

「そうじゃ。親分はその時偶々天水に来る用事があったんじゃが、その帰りにワシらの村を見かけて、その大きな仁義の志❘こころ))でお救い頂いたんじゃよ。あん時の親分はまさに、戦いの化身じゃった。そん時、ワシはこんお方に全て捧げちゃろと決意したんじゃ」

店の主人は興味深々で話に聞き入り、やがて話は隴の一刀自慢へと話は映っていき、やがて夜が明け、留梨と夜桜は隴に叩き起こされ、恋は愛華に背負われ、未だ酒に伸びてる郷里は、隴に肩を貸され帰る羽目になってしまった。

「そいじゃ主人。騒がしぃしてすまんかったのぅ」

「いえいえ。また色々話を聞かせてください」

店の主人は甲斐甲斐しく頭を下げて五人を見送った。その帰り道の最中、ふと隴は愛華に背負われる恋の寝顔を見て、彼女はまた思った。

【お嬢の笑顔と、一刀の親分の為に死ねるんなら、ワシの命ぃなんか惜しぃないわ。あの日あの時から、ワシらの((命(タマ)ぁはこの二人に捧げとるんじゃき】

そんなことを思考しながらも、未だ足元をふらつかせながら頭と口を抑える友人も、同じ気持ちであると信じて、三人は岐路を歩いた。

 

 三年前、17歳のあの日。三人は影を落とした死神を見た。それが呂北その人である。

「なんやお前ら。何処のもんや?」

晒をまいた袴の女性が隴達に対し獲物である薙刀を向けてそう叫ぶ。貧相であろうとも、突然武装した謎の兵団が現れたのであるのだ。当然である。対する義勇軍も気圧されないように獲物を構える。

「お、お待ちください将軍。この者達も村の一員であります」

隴の祖父であり、村の長老が間に入り二人を取りなした。将軍と呼ばれた女性はそれを聞くと素直に武器を下ろす。

「なんや。こっちは素直に獲物を下ろしとるんや。それともこの村ではこないな挨拶が主流なんかい」

歴戦の(つわもの)が醸し出す怒気に、流石の義勇軍もたじろぐ。そして長老の指示により、初めて義勇軍は村を守ってくれた兵達に武器を引いた。

「......すまなんだ。些か礼を欠いてしまったようじゃき。許しちょ下せぇ。ワシは義勇軍の頭張らせてもうとる侯成(こうせい)ゆうもんですわ。右に宋憲(そうけん)、左に郝萌(かくほう)とゆうもんじゃき。すまんがわりゃさんらのシマの所属聞いてもいいけ?」

訛り口調の将軍と呼ばれた女性に、素直に頭を下げ、同じく訛り口調の隴の会話に、ある意味一抹の不安を覚える留梨と夜桜であったが、女性はすぐに返した。

「いや、別にそこまで頭で下げんでええよ。誰だって自分の家に、いきなり獲物持った奴見つけたら、そら警戒するわな。ウチらは天水の兵や。ちょっと手間取ってやっとこさここにも防衛に迎えるようになったんよ。堪忍してや。ウチはそこの将させてもうとる張遼いうもんや。よろしゅうな」

天水の兵と聞いた時、義勇軍の兵達の顔は強張った。今まで碌な支援もなく、税だけを収める命だけ下す領主に、誰もが苛立ちを覚えていたからだ。

しかしあくまで三人は冷静に対応することに善処し、それまでの経緯を話し合った。

天水全土を収める董君雅は、近年病床に付することになり、領内の政務を部下に任せざるえない状況に陥っていた。それに加えて、朝廷からの圧力、各地の民の暴動により生まれた賊の勃発。それらの経緯を含め、自らの配下は保身の為我先にと逃げ出してしまった。そこで初めて地区の状況を知ることが出来た為、病身を押し殺して改めて政務に励むこととなった。現在は元服を終えた自分の子供に手伝ってもらいもって、比較的心身に影響はないらしい。だが、今を生きる者達にとって、そんなことは関係無かった。民と領主の関係として、守ってもらう為に税を納めるも、いざというときにその役目を果たしてもらわねば、そんなものは詐欺と同じである。現にこうして自らの故郷は灰となったのだから。わかっていながら、憤りを覚えながらも、義勇軍は官軍である天水の兵を睨めつけることをやめることが出来なかった。誰かが「故郷を返せ」っと発言したことを皮切りに、村の民は口火を切ったように官軍を罵倒し始めた。

張遼は間に合わなかったことに対し、改めて申し訳なさそうに謝罪をするが、義勇軍の気持ちは収まらなかった。そこに一人の男が割り込んできた。

「だったらお前たち、ウチに来るか?」

発言をしたのは、張遼と共に賊を蹂躙していた、双刀(そうけん)の使い手の男であった。

「俺は呂北。天水の同盟国である扶風領主丁原の子だ。丁原は近々都に召還されることになっている。そうれば扶風は俺の管轄になる。ま、その地の時期領主様って立ち位置なるな。俺は。話を戻そう。お前ら義勇軍を俺の配下に加えたい。村の者達も故郷を捨て俺の領地に住むことになるが、そこは我慢してほしい。このまま犬死よりは大分ましだろう?無論働き口は保障しよう。若い者、老いた者、その道に腕の覚えがある者の仕事も分け隔てなくだ。俺が納める土地は、必ずお前たちの安住の地になると俺は約束する。どうだ?」

その問いに対して、一つ間を置いて、留梨が皆を代表するように先頭に立つ。

「もし、私たちがその案を受けなかったら?」

「だったらこのまま犬死するしか手はないな。天水はいずれ董さんの娘に引き継げれるが、今はまだ幼い。それに董さんの病も安定しているとも言えない。また、俺はこれでも、董さんにお前たちのことを任せられているんでな。ちなみにはっきり言うが、俺は世間でいうところの善人や仁君でもない。だから最初こそお前たちの話を聞いた時、断ろうかと思ったが、気が変わった。お前たちが欲しくなった。.........特に、お前たち三人が――」

そういうと、呂北は義勇軍を率いている隴、留梨、夜桜の三人に指を指し、続けた。

「長老から話は聞いた。たかが一村の村娘が賊を撃退するこれだけの隊を作り上げるとは、素晴らしい。長老、条件変更だ。この三人をくれ。そうすれば村人全員の身の保証を約束しよう」

長老は眉間に皺を寄せて唸りもって悩んだ。村を救う為に立ち上がってくれた三人の娘。彼女たちを犠牲にしてまで、故郷を捨ててまで他の地に移り住んでいいものかどうか。だが長老にも村人の命を守る義務がある。悩みに悩みぬいた末に、長老はそれを了承した。

「さぁ、後はお前たちの意思だ。......お前ら、その武、その力、天下に知らしめたくはないか?」

『天下』その単語を聞き、三人は目を丸くする。

「いずれこの大陸は乱世蔓延る群雄割拠の時代に突入する。俺はそんな中で世に自分の名を知らしめ、乱世に覇を唱えて、自分達の国を作ろうと思っている。そこでは民族の違い、官位の違い、生まれの違いをも越えた、人が人として生きていく為の国を作りたい。その国作りの礎として、俺に協力して欲しい。無論その道は茨の道だ。数々の苦労、困難があることだろう。だがこれだけは保障しよう。俺に付いてきてくれれば、飽きることはないぞ」

体を使って大胆に表現しながら持論と理想を述べ、皮肉っぽく笑う呂北の姿に、何時しか三人は魅入ってしまっていた。『違いをも越えた、人が人として生きていく国』。時の王族の権力争いに巻き込まれないように離れ、ひっそりと山奥の村で暮すようになった祖先を持つ者。男女の違いという理由で、家を追い出された者。時の権力者の身勝手な理由で作り上げられた一族の末裔。三人はそんな彼の言葉に知らず知らずのうちに臣従してしまっていることに気付いてしまう。

「......なぁ、夜桜、留梨」

最初に口火を切ったのは隴であった。

「ワシはこの見果てぬ夢、こんお方の側で見ちゃりたいと思うに、皆はどげんじゃ?」

隴の問いかけに対し、夜桜と留梨も笑って頷く。

「奇遇ね。私も思っていたところよ」

「大丈夫ネ。隴は私達の代表アルネ。皆隴を信じているアルから、もっと自信を持つがヨロシ」

背中を大きく叩いてくる夜桜に対し、若干痛みで苦悶の表情を浮かべるも、三人は呂北に向き直り拱手し頭を下げて答えた。

「姓は侯、名は成、字を僇庵(りくあん)。真名が(ロウ)と申します。この命、呂北様に預けます」

「ウチの姓は郝、名は萌、字を元奘(げんじょう)。真名が夜桜(ヤオウ)。ウチの命も、呂北様にあずけるヨロシ」

「姓は宋、名は憲、字を婁邊(るへん)。真名が留梨(るり)。私も全身税礼を持って、呂北様をお支え致します」

「お前たちの真名、確かに受け取った。俺の姓は呂、名は北、字を戯郷。真名は一刀だ。俺の下にいる限り、これだけは約束する。退屈だけは絶対させない。だから黙って付いてこい」

こうして村人達の扶風移住が決まると、旅立ち前にと一刀は張遼と向き直る。

「それじゃ(シア)。村人は俺が引き受けたから、董さんにはよろしく伝えといてくれ」

「ほんま。いきなりウチらの所に兵を貸してくれと言いに来た思ったら、今度は民をさらって行くなんて、とんだ盗人やで。あんた人攫い商人でも始めたらええんとちゃうか?」

「なに?そんなもの、お前が一番嫌うやつじゃないか?」

「そうや。一番嫌いなもんにまで堕ちたら、遠慮なくあんたを殺りにいけるやんか。弱肉強食が世の常や。あんたとも何時敵味方に分かられるかも知らんしな」

「まぁそういうな。例え敵味方に分かれようとも、この借りはいずれ必ず返す。今はそれで勘弁してくれ」

「......一刀。あんたは油断ならん奴やと常々思っとる。やけど、売られた恩は必ず返す奴やとウチは信じとる。......こうやって、あんたが口に出して約束するからには、きっと何らかの形で返してくれるんやろうなとウチは思うとる。やからウチはいつでも待っとるよ」

張遼・霞は拳を一刀に突き出すと、彼もそれに応える様に拳を突きだして互いに突く。そして一刀は村人と一部の天水兵を纏めて扶風へと帰っていった。

【全く。ウチも大層な奴に惚れ込んだもんや】

やがて霞は兵を引き連れ、天水へと引き返していった。

 

 扶風に戻った一刀は、元天水群上邽(じょうけい)の村人達に職を与えた。正しい知識がある者には、文字を教える講師に。力のある者には大工または土地の開墾を行なう開拓者に。手先が器用な女性には藁網などといった仕事に就けた。住処も他軍が街滞在する際に使用しているの仮設住宅をあてがい、暮らしに不便することは無かった。もっとも、それを聞いた愛華が予算のことで頭を悩ませたのはまた別の話。

 「初めまして。私が今日より貴女方の上官となります、臧覇(ぞうは)と申します。以後お見知りおきを」

「お、こいつはぁご丁寧に。ワシは侯成いうもんじゃき。よろしくしますわ臧覇の姐さん」

「小生は郝萌アルヨ。よろしくネ」

「わ、私は宋憲と申します。

「主人である一刀様から、貴女方のことは任されています。私は貴女方と比べ一つ歳は下ですが、そんなことは関係ありません。呂北軍に籍を置くにあたっては、実力が全てとなりますので、自らの発言をするにあたっては、まずは実力を示してから行なってください」

臧覇と名乗る少女は、眼鏡の弦を上げながらそう答える。

隴、夜桜、留梨は暫く一刀の軍師と言われる者の下に就くことになった。初めに聞いた話によると、その者の主な役割は街の運営、政務といった文官が行うような仕事である。そのような者の下、ましてや自分達より一つ若い者の下に就けと言われ、内心面白くは無かったが、会ってみてその気は変わった。

若輩さを感じさせぬ物言い、立ち振る舞い、風格。どれをとっても自分達より上であることを三人は意識せざる得なかった。無論、実力を示せと言う臧覇の物言いは望むところであり、今まで義勇軍を率いてきた力を、果敢なく発揮させることを、三人は望んでいた。

「それではまずは――」

この時までそう思っていた三人であったが、臧覇に指示されたことは、三人の考えの意に反するものであった。

 


 
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