「提督の優しさ、信じていますから」
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マイ「艦これ」「みほちん」(第3部)
EX回:第22話(改2)<ありがとう>
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南国の綺麗な月が出ている。
それを見ながら私たちは工廠から鎮守府本館へと戻っていた。五月雨が先導し川内が私たちの横についている。
技術参謀母子は久しぶりに会うのだろう。ピッタリ寄り添って歩いていて微笑ましい。寛代の問いかけに応える参謀は時々「母親」の顔になっていた。
(やっぱり親子っていいな)
しかし、それに比べるとうちの2人の艦娘は見るからに足取りも重そうだ。
青葉さんは収集した資料以外に身に着けていた撮影済みのフィルムも没収され結構凹んでいる。夕張さんも、いろいろな興味深い資料とか素材サンプルを確保していたらしいけど、それらもすべて正直に提出したようだ。
もしここが普通の海外の鎮守府ならば私たちの行動は決して悪いことではない。技術参謀だって自分の時代であれば海外でも帝国海軍の勢力範囲内で自分の権力(階級)をフルに発揮出来るはずだ。
しかしここは時代が違う。
五十歩譲って技術参謀の威光が、この時代でも通用すると仮定しても彼女以外は、まったくの管轄外なのだ。
青葉さんや夕張さんの行動は所属違いの他所の鎮守府では決して許されるものではない。だから本人たちも良心の呵責があるのだろう。どんよりして無口だ。
(せっかくのキレイな月も誰も賛美する者が居なくて、もったいない感じだな)
ムードメーカーではない私も、この雰囲気に耐えられなくなってきた。
しかし百戦錬磨といった感じの、この二人の艦娘を慰めるなんて高等技術は私にはない。
そこで私は足を速めて先頭の五月雨に追いついた。
「ちょっと良いかな?」
「はい?」
月明かりに五月雨の笑顔が浮かぶ。大きな瞳が、やたらキラキラしている。
(やっぱり、この娘は元気なのが良いな)
私は続けた。
「君が私に言った美保に異動したいという言葉……なぜ、そう思ったのか気になってね」
笑顔だった五月雨は私の問いかけに少しマジメな表情になって考えた。
「うーん」
彼女は軽く握りこぶしを作り口先に当てる。
その表情が月明かりの淡い陰影と相まって年齢以上に神秘的に見えた。
五月雨のような駆逐艦娘は薄暗い月明かりの下で至近距離で見ると、その人口的な雰囲気と相まって神秘さが強調される。
「そうですね。私にもよく分からないところがありますが」
彼女は歩きながら思案している。可愛いな……当然、私はドキドキしている。そもそも艦娘は上官に忠実に従うという基本設定がある。
(提督という分不相応な立場を与えられた人間が勘違いして変な方向に走りそうだな)
私は勝手に苦笑した。
ただウチの日向に見られるように一部の艦娘は多少、反発することもあるようだ。特に戦艦級の艦娘ほど(今日の武蔵様もそうだが)自律して高度な判断をすることが多い。それが見方によっては「反発」と受け取られるのだ。
(五月雨は駆逐艦だから、そういう「反発」は無いはずだが)
ちょっと間があってから彼女は応えた。
「一番感じるのは提督が私に『ありがとう』と仰ったり、とても親切にして下さったからでしょうか」
「そうか?」
凄く持ち上げてくれるが自覚は全くない。そもそも計算で動くほど器用ではない。単に私が、まだ新人提督で不慣れなだけだ。
(この夏も含めて美保の艦娘に翻弄された結果だとも思うんだが)
五月雨は続けた。
「それに、この鎮守府には、たくさんの来客があるんです」
「へえ」
まぁブルネイといえば航路の要所みたいな位置だからな。
「私もよく接待をするのですが……ほとんどのお客様の態度が大きくて……あっ!」
急に五月雨は唇から手を離して慌てて頭を下げる。
「す、済みませんっ提督! ……私ごとき、とやかく言える立場ではないので、どうか忘れてください!」
彼女は何度も頭を下げて発言を撤回している。少し離れたところからブルネイの川内が呆れた顔をしている。
「あ、いや」
(私のほうがビックリした)
「大げさだな、大丈夫だよ」
私の言葉に彼女は苦笑している。
「あの先ほどの発言は取り消しで」
五月雨は祈るように胸の前で手を組んでいる。不安な顔で……
(嗚呼! そのウルウル目はやめてくれないか?)
本当に、お前を連れて帰りたくなるから。
もちろん彼女の言うとおり、この南国の来客は要職に就いてる連中ばかりだろう。こんな小さな艦娘が応対すれば大半の人間が高飛車な態度を取るだろう……可哀想に。
私は立ち止まると彼女の手を取って言った。
「大丈夫。そんなこと気にしないし、誰にも告げ口なんかしないよ」
「はい!」
五月雨は明るい表情を取り戻した。
「提督の優しさ、信じていますから」
そう言って彼女はギュッと手を握り返してきた。本当に……この子はカワイ過ぎる……だが私は自制した。
もしも参謀や美保の艦娘たちが居なかったら私は絶対に彼女を抱きしめていたに違いない。だが威厳を保った振りをした私は頷いて手を離した。
そして再び彼女と肩を並べて歩き始めた。
そのときは以後から妙な気配を感じた。「もしや?」と思って振り返る。
案の定、後ろを歩いている青葉さんが悔しがっている。
「嗚呼! カメラさえあれば……」
「何だ、今の私と五月雨のスクープを取り逃したってか?」
「……」
彼女は、よほど悔しかったのだろう。何度も地団太(じだんだ)を踏んでいる……リアルに地団太踏む人って初めて見た。そうか、青葉さんのフィルムは全部、武蔵様に没収されていたんだよな。
「くっくっ」
その隣では夕張さんが悶絶していた。
「肩で笑うなよ……一応恥ずかしいんだから」
私は言い訳をした。
「くっくっ、す、済みません」
でも夕張さんが悶絶して笑う姿も初めて見た。意外だ。
ブルネイの川内も「へえ」といった感じで腕を組んでニタニタしていた。
何だか良く分からないけど……まあ、愉しい方が良いよな?
ハッと思ったが技術参謀は見て見ぬ振りをしていた。彼女は大人だな。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第三部」の略称です。
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月の下で提督は五月雨の気持ちを確認してみる。そこで接待を担当する彼女の苦労を知るのだった。