No.926979

きみがくれたもの

mofuさん

未来捏造。超ワープ・やったね新婚設定。
やったねどころか幸せすぎる深行くんです。ただいちゃいちゃしてるだけですが、とにかくみゆみこがずっと幸せでいてほしいという気持ちを込めました(真顔)
捏造だらけですので原作のイメージを大切にされたい方は閲覧にご注意ください。

2017-10-21 18:24:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2826   閲覧ユーザー数:2793

(よし・・・できた!)

 

弁当箱におかずを詰め終わり、泉水子は達成感で微笑んだ。

 

定番のハンバーグに卵焼き、プチトマトとブロッコリー。ひじきの煮物ときのこの炊き込みご飯は朝食にも出すけれど、質より量の深行なら気にしないだろう。

 

はじめは毎朝お弁当を作るリズムに慣れなくて、あれこれ手間をかけすぎてバタバタしてしまっていたけれど、だいぶコツがつかめてきたと思う。前の晩に下ごしらえをしておいて、朝は時間をかけなければいいのだ。

 

ちらりと柱時計を見ると、そろそろ深行がシャワーを終えて出てくる時間だった。朝晩ずっと走り込みを続けている彼は、結婚した後も変わらない。朝ごはんの前によく走れるものだと、泉水子は未だに感心してしまう。昨夜も遅かったというのに。

 

洗面所の方から支度をする音が聞こえ、泉水子は慌てて朝食を並べた。

 

 

朝食を食べた後、仕事に出かける深行を泉水子は毎朝見送る。

 

送り出すことは寂しいけれど、でも嬉しかった。彼に「行ってらっしゃい」と言えることが。

 

「今日は早く帰れると思う」

 

玄関で靴を履きながら、深行は思い出したように言った。その言葉に泉水子は思わず顔を輝かせた。

 

「本当? じゃあ、ごはん待っているね」

 

深行が顔を寄せ、軽く唇が触れる。キスというよりは出かけるときの挨拶みたいなものだが、泉水子はそれでも毎日ドキドキする。

 

「行ってらっしゃい」

 

「・・・うん。帰るとき、また連絡する」

 

泉水子が小さくうなずくと、深行はもう一度キスをして家を出た。

 

深行を見送った泉水子は、頬に熱を感じながらも頭を切り替えた。今日の晩ごはんは何にしようか。その前に食器を洗って、掃除に洗濯。やることはたくさんある。

 

家事は毎日同じことの繰り返しだ。増えることはあっても減ることはない。だけど、続けていくことに意味があるのだと思う。

 

この繰り返しの日々に、幸せが詰まっているのだと。

 

 

夕飯の買い物を終え、外に干していた洗濯物を取り込む。空気を入れ替えるために窓はそのまま開けておいた。

 

カーテンがふわりと膨らみ、吹き抜ける風の心地よさに泉水子は目を細めた。

 

昨年と今年ではガラリと環境が変わった。次にこの季節が訪れるときには、幸せの形はまた変わっているだろうか。泉水子は洗濯物を畳みながら、あらためて家の中を見渡した。

 

一緒に住み始めてまだ間もないけれど、少しずつこの家は泉水子と深行の色に染まってきていた。食器や寝具、いろいろなものがお揃いだったり色違いだったり。

 

(私に、こんな日が来るなんて)

 

しみじみと幸せを実感する。一日干してあった洗濯物はぽかぽかとあたたかく、太陽の匂いがする。つい顔をうずめると、それは深行の部屋着で、ぎゅうっと抱きしめられる時のことを思い出して泉水子は真っ赤になった。

 

誤魔化すみたいにテレビをつけ、ちょうどやっていた映画になんとなく釘づけになった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「今日も美味そうだな、愛妻弁当」

 

背後からいきなり声をかけられ、深行は咄嗟に弁当を隠そうとした。

 

「いや、もう遅いから。遠慮なく食えよ。先輩の俺が味気ないコンビニ飯を食っている前で。あ、そのハンバーグ、豚カツと交換しようぜ」

 

「絶対しません」

 

にべもなく言い放つと、先輩は「けち」と言ってコンビニ弁当をがつがつとかっこんだ。

 

ひがんでいる言い方だが、先輩の表情は明るい。ただいじるのが好きなだけなのだ。人当たりのいい性格で、深行も出会ってすぐに地を出せた。まだ結婚というものに興味がなく、早くに結婚を決めた深行が逆に気になるらしい。こうしてちょくちょく絡んでくる。

 

冷やかされることは分かっているのだが、泉水子が作る弁当には勝てないのだから仕方がない。大変だからいいと言ったこともあったけれど、毎朝張りきってにこにこと渡してくれる。そして、もちろん美味い。どうしたって幸せを感じるのは自然の摂理である。

 

 

久しぶりに定時で仕事を終えると、帰宅ラッシュの時間と重なった。

 

こういうとき背が高いことは少し得だと思う。不快だが苦しくはない。車内ディスプレイに目を向けると、天気予報が流れていた。

 

先週は雨続きだったが、今週は週末も晴れるようだ。久しぶりに泉水子が好きな公園にでも足を伸ばそうか。そんなことを考えているうち、最寄りの駅に到着した。

 

改札を抜け、商店街の方へ向かう。ここのところ帰りが遅かったので、まだ営業中で賑やかな商店街はなんだか新鮮だった。花屋の前を通りかかり、泉水子の顔が浮かぶ。

 

(・・・柄じゃないし)

 

喜ぶことは分かっているのに、自分が花を買って泉水子に手渡すなど想像もできない。脳内が映像を拒否している。

 

だけど、1年後2年後なら? 結婚記念日など口実があれば?

 

考えても答えは出なくて。とりあえず深行は未来の自分に託すことにし、その足をケーキ屋に向けた。

 

 

いつものようにマンションの前で足を止め、部屋の明かりを見上げる。

 

大学時代から、明かりが灯っている自分の部屋を見ると、なんだか嬉しくてホッとしていた。今となっては毎日のことだが、それでも胸があたたかくなる。

 

家に帰っても暗くて静寂で、自分で明かりを点けていた子供の頃。寂しくなかったと言えば嘘だった。

 

自分を待っている存在が泉水子だということ。それがこんなにも幸福感と安心に繋がっていく。

 

 

家に帰ると、泉水子の様子がどことなくおかしかった。

 

ケーキを渡せばと嬉しそうに微笑んだものの、少し顔色が悪いように見える。いつも無理をさせてしまっている自覚はあるけれど、今朝だって普通に調子がよさそうだったのに。

 

「具合でも悪いんじゃないか?」

 

「えっ ううん、全然。お腹すいたよね。早く食べよう」

 

急いで手を振った泉水子は、慌ただしく夕食の準備を始めた。テーブルに並べられた料理は安定の美味しさで、会話も別段変なことはなく。

 

だけど、深行が着替えに行くと後をついてきたり、さりげなくそばに寄り添ったり。そのくせ甘えるというよりは、なんだか心細そうな感じだった。

 

「泉水子、今日・・・」

 

「深行くん。お風呂、沸いてるよ」

 

「・・・ああ」

 

聞こうとすると遮られ、まあ風呂に入ってからでもいいかと思い直した。深行が遅くならない限りは、泉水子はたいてい後に入浴する。さっさと済ませてやろうと浴室に向かうと、また泉水子が後をついて来た。

 

まさか一緒に入るのではと勘違いもできないところが泉水子だ。深行はさして気にも留めずに尋ねた。

 

「なんだよ。先に入ってもいいぞ」

 

「う、ううん。いいの、深行くん、先に入って。・・・でも、あのう・・・ここに、いてもいいかな」

 

言っている意味が分からずに深行は瞬いた。

 

「ここって・・・洗面所に? なんで」

 

泉水子はうっと詰まり、指をもじもじさせてつま先を見つめた。

 

そうしてぽつぽつと話し始めたことは、昼間に怖い映画を見たということだった。

 

「そ、そんなに怖がりな方ではないのだけど。幽霊だって見たことがあるのだし。・・・でも・・・、お、お風呂から手が出てきて引きずり込まれたり、上から、ち、血が落ちてきたり・・・それで、私、」

 

震えながら話す泉水子の言葉を聞き終わらないうちに、深行は吹き出してしまった。

 

「それで、俺の後をついてきてたわけ?」

 

「だ、だって! 本当に怖かったのだもの」

 

泉水子は顔を赤らめて膨れたが、すぐにしおしおと気まずげにうつむいた。

 

「・・・だから、深行くんがお風呂に入っている時はここにいてもいい? その・・・私が入っている時は、ここにいてほしいの」

 

「もっと効率的な方法があるんだが」

 

泉水子がパッと顔を上げる。その表情は期待に満ちていて心苦しいが、ホラー映画に脅えて深行の帰りを心細く待っていた泉水子が可愛くて、彼女を胸の中に閉じ込めた。そして、ワンピースの背中のファスナーを下ろす。

 

「え・・・っ あ、あの・・・ちょっと、深行くん!?」

 

泉水子は抗議の声を上げたが、深行は構わずするすると脱がせた。

 

「一緒に入ってやるよ」

 

「・・・っ! は、入っていただかなくていいですっ」

 

「でも怖いんだろ?」

 

「もう、怖くないから・・・っ」

 

「本当に?」

 

口角を上げて見つめると、泉水子は真っ赤になって上目で睨んだ。至近距離で視線が絡む。

 

目は口ほどに物を言うもので、深行は泉水子の頬に唇を落とすと、再び彼女の衣服に手を伸ばした。

 

 

身体を洗い、浴槽の中で泉水子を背中から抱きしめる。肩に力が入っている彼女の耳元で「怖いか」と尋ねれば、蚊の鳴くような声で「大丈夫」と返ってきた。

 

「だいたい、あんな作りものでよく怖がることができるな。来ると見せかけておいて、安心させたところで驚かす。どれもワンパターンだと思うぞ」

 

「深行くんはそうかもしれないけど」

 

唇をとがらせた泉水子が呆れた視線を向けてきたが、ようやくリラックスできたのか身体の力を抜いた。熱を共有するようにもたれてくる。それから、ふふ、と小さく笑った。

 

「・・・あたたかい」

 

「そりゃよかったな」

 

「あたたかいと、怖くないね」

 

だから手を握ってほしいのかな、と泉水子はささやいた。泉水子に回している深行の手に自分の手を重ねる。そこからぬくもりが伝わって、心の奥にじんわりと届いた。

 

泉水子はずっと知らない。深行だって、この手に救われていることを。

 

(言わないのだから、知らなくて当たり前か)

 

うまく伝える術を持っていないのだ。苦笑して深行は泉水子のつむじにキスをした。

 

「明日も怖かったら遠慮するなよ」

 

「もう平気だもん。・・・それどころではないから」

 

泉水子は落ち着かない様子で、乳白色のお湯を何度も手酌で掬っては落としている。大学時代から数えれば何度も一緒に入ったことがあるのに、いつまで経っても泉水子は慣れない。

 

深行が帰った時の泉水子の青白い顔を思い出す。こんなことでホラー映画の恐怖が薄れるのならば、大いに貢献しようじゃないか。

 

耳にそっと唇を落とし、泉水子の胸元へ手を這わせた。

 

「あっ や・・・っ だ、だめっ」

 

ばしゃばしゃと泉水子が抵抗して暴れる。素直に手の動きを止めると、泉水子はホッとしながらも意外そうに振り返った。

 

「そうだな、またのぼせたら困るし。出るか」

 

しれっと言えば、泉水子は絶句してますます真っ赤になった。それが微笑ましくて深行がいたずらに笑うと、顔に水しぶきが飛んでくる。ぷいっと背をそむけてしまった。

 

 

どうして泉水子はこんなに深行の心を掴んで離さないのだろう。どれだけ一緒にいても、一緒にいるほどに愛しさが増していく。

 

深行は泉水子の顎に手をかけ振り向かせると、出来る限りの想いをこめて口づけた。

 

 

 


 
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