No.92565

『真・恋姫†無双』 「朱里と雛里の夏休み」

山河さん

一話完結です。

設定としては、蜀ルートになっています。

最後に「あとがき」を付けさせていただきました。

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2009-08-31 02:26:27 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:7082   閲覧ユーザー数:5969

賽は投げられた。

どっかの英雄が、河を渡るときに言った台詞らしいが、今の俺はまさにそんな状況にあった。

ただ違ったのは、俺が英雄じゃないことと、本当に賽が投げられたことくらいだ。

星の手を離れたサイコロはゆっくりと宙を舞い、カランコロンと音を立てて茶碗へと着地する。

結果は、俺が立ち上がる動作をしていることから推察して欲しい。

今日のおやつ買い出し係は決まった。

もちろん俺に。

なんでだろうねぇ。

ここ3日くらい、いい天気が続いている。

少し歩けば汗ばむ陽気。

だが、ときおり吹き抜ける風が心地よい涼しさをもたらしてくれるので、けして不快ではない。

にもかかわらず俺の気分が快晴とはいかないのは、きっと買い出しが3日連続俺に決まったからだ。

あのサイコロ、まさか星の奴が細工してるんじゃないだろうな……?

確率論から言えば、どう考えても3日連続するのはおかしい。

ついでだから、今日はサイコロも買って帰ろう。

そうすりゃもう、イカサマをされる心配がなくなるしな。

そんな事を考えながら、賑やかになった街を歩いていると。

「ご、ご主人さまぁ~」

と、後ろから呼ぶ声がしたので、俺は振り返った。

魔女みたいな帽子。

それに、とてとてと歩くような速さなんだけど、一生懸命走っている姿は、雛里のそれ。

あれほど人さらいを気にしていたのに、今は街を一人で普通に歩けるようになったらしい。

雛里も成長したなぁ、と目を細め、成長した娘の姿を眺めるお父さん気分で、俺は雛里の到着を待った。

「ご、ご主人様……。あ、あの……そのぉ……」

言いにくそうに、雛里は居心地が悪そうにしている。

だから俺は、微笑みながら続きをうながした。

「あ、あの、これ……」

雛里は、袖からかみ切れを差し出す。

聞けばあの後、おやつの追加注文が出たらしい。

で、誰がそれを俺に伝えに行くかで、今度はルーレット(もちろん発案俺。製作朱里)。

そしたら、雛里の名前の書かれたところに見事的中とのこと。

鳳統だけに、矢が中たるなんて縁起が悪すぎる気もするが……。

「も、申し訳ありません。ご主人様に使いっ走りなど……」

雛里はそう言って恐縮する。

なんていい子なんだ。

鈴々や翠なんかは遠慮無しに注文するし(おかげで昨日は、2回にわけて持ち帰るハメになった)、星に至っては、「おやつ用のメンマ」という意味不明のものを注文しやがったのに。

そもそも、メンマはおやつじゃないだろうと。おやつ用のメンマって何だよ。

甘く味付けされたメンマでもあるのか? まずそうだな、おい……。

それに比べたら、雛里。

「あわわ、私も手伝います」

なんてことまで言ってくれる。

しかし、今日は追加分のメモと合わせても一回で持ち帰れる量だ。

それに、普段から忙しくしている雛里を付き合わせるのも悪い。

だから俺は、その申し出をありがたくも断らせてもらうことにした。

星行きつけの「メンマ園」で、おやつ用のメンマってありますかと聞いてみれば、おっちゃんは本当におやつメンマを持ってきてくれた。

しかも驚きなのが、これが意外にもおいしい。

見た目も味も普通のあんまんなのに、餡の中にはしゃきしゃきとした食感もある。

中に入っているのがメンマだとさえ聞かなければ、普通に食べられるぞ、これ。

むしろうまい!

おっちゃんが、「趙雲様には普段お世話になっていますので」と言って、試食用にくれた「おやつメンマ」を半分に割り。

「ほら、雛里も」

と、隣にいる雛里にもすすめてみる。

結局あの後も雛里は帰ることなく、買い出しに付き合わせてしまった。

この埋め合わせをしようと、一通り買い出しを終えた俺たちは茶店で一休みをすることにした。

茶店に着いてみれば、雛里は猫舌らしく、湯飲みを両手で持ったまま、唇をすぼめ、ふーふーと冷ましている。

これが萌えって奴か?

両手が余るくらいの大きな湯飲みを懸命にふく女の子。

いい! すごくいい!

「あわわっ、ご主人様、あんまり見つめられると……その……」

おっと、あまりに可愛かったもので、見つめすぎてしまったか?

雛里は深々と帽子をかぶるようにし、少し赤らめた頬を隠すような仕草を見せた。

「ところで、雛里はよく、外でお茶してるの?」

最初に朱里と3人で来たときは、周りに目を気にした様子の雛里だったが、今はあまり気にならなくなったようだ。

これも成長した証か?

再び俺は、娘の成長を見守るお父さんモード。

でもお父さん。ちょっとだけ寂しいです。

何だか巣立っていく娘を眺めているようで……。

「はい。水鏡先生の私塾に通っていた頃は、朱里ちゃんとお外でお茶を飲むことも多かったです。前にも……」

なるほど、と、俺は雛里にお菓子をすすめながら、話の続きをうながす。

雛里や朱里が、俺たちと出会う前に、どんな風にして過ごしていたのか、俺はほとんど知らない。

今日は、いい機会になりそうだ。

俺は一口だけ、お茶を口に含んだ。

時間は戻って、朱里と雛里がまだ、水鏡先生の私塾に通っていた頃。

そして、8月も30日になり、夏休みも残り1日となった頃のお話。

 

「あわわ、朱里ちゃん……。私、まだ宿題が……」

「はわわっ! でも大丈夫だよ、雛里ちゃん。だって8月17日から31日は、えんどれす……」

「あわわっ、朱里ちゃん!? それ以上は禁則事項だよ!?」

「はうわっ!」

朱里はしまったとばかりに、小さな手を口に当てた。

もちろんこの時代には宇宙人もいなければ未来……訂正、未来人はそのうち現れるが、今の段階ではまだいないし、超能力者顔負けの怪力を発揮する女の子はいても、超能力者はいない。

そして、それらを探し求める不思議大好き少女もいない。

ついでに言えば、同じような内容が8回も続くアニメも放送されてはいない。

ないないづくしなのに、どうしてこの二人がそんなものを知っていたのかは禁則事項になりそうなので触れないが、日付は繰り返すことなく8月31日の次は9月1日になることだけは間違いなかった。

もちろん宿題が終わっていてもいなくても。

そんなわけで雛里は、真っ白な“夏休みの友”を前に「あわあわ」言っていたのだ。

もちろん雛里も、ただ無為に夏休みを過ごしていたわけではない。

市民プールへ行ったり、盆踊りで金魚すくいをしたり宇宙人のお面を買ったりたこ焼きを食べたり花火をしたり。そういえば蝉取り合戦をしたこともあったし、着ぐるみを着てアルバイトをしたこともあった…………かもしれない。

いや、どれも間違いなくなかったけれど……。

とはいえ、こんなことがあったことだけは事実である。

夏休みが始まってまもなく、朱里と雛里は実家のある襄陽県に帰ってきた。

襄陽は比較的治安のいい街である。

しかし、後漢王朝の気勢は衰えを知らず、本来なら行政を司る官吏達も私腹を肥やすばかりで、政治は機能不全に陥っているのが今の実情。

しかも飢饉続きとくれば、取り締まる役人がいないのをいいことに、食うに困った農民たちが徒党を組んで村々を襲うのにたいして時間は掛からなかった。

噂では、新興宗教がそういった農民達を集め、組織化する動きがあるらしい。

しかしここ襄陽には、わずかながらも平安な時間が残っているかに見えた。

「ほらほら雛里ちゃん! はやくはやくぅ~」

「へぅ~……しゅ、朱里ちゃん、ま、待ってよぉ……」

先にいる朱里に追いつこうと、雛里は歩みを早めた。

「ほぉらぁ雛里ちゃん、はやくぅ。あっちからいい匂いがするよ」

朱里が指さす方角には、何かを煮ているような煙が立っている。

しかし既に息が上がっている雛里には、煙なのか、それとも自分の視界がぼやけているだけなのか。

「はぁはぁ」と息を切らしているので、定かではない。

朱里ちゃんも、体力がある方じゃないんだけどなぁ……。もっと体力をつけよう。

雛里は、朦朧としはじめた頭でそう思っていた。

「……大丈夫、雛里ちゃん?」

朱里は休憩に立ち寄った茶店で、目をぐるぐるにしている雛里をそう気遣った。

「う、うん、大丈夫」

と、帽子が半分ずっこけた雛里。

店の奥からは、甘い匂いが漂ってきている。

その匂いで、いくぶん気を持ち直した雛里は、恰幅のいい女将さんが持ってきたばかりのお茶に口をつけた。

「ひうぅ~っ!」

瞬間、雛里が悲鳴を上げる。

猫舌なのに、まだ湯気のたつお茶を一気に口に含んだのが原因だ。

「おやおや、大丈夫かい」

悲鳴を聞きつけた女将さんが、水を持って置くからやってきてくれる。

「あ、ありぃかとぉごらいまふ」

もはや何を言っているかわからない雛里は、猫みたいにして水を舐める。

「ところでお嬢ちゃんたち。どっから来たんだい?」

女将さんは朱里の方を見ながら、そう尋ねた。

「はい、私たち、水鏡先生の私塾に通っていて」

「そうかい、あの有名な水鏡先生んとこの生徒さんなのかい。……おっと」

奥で何かが煮上がったのを見た女将さんは奥へと引っ込み、皿に盛りつけてから朱里たちの前に差し出した。

「はい、お待ちどう」

皿には、小豆色に煮上がった豆が山のように盛りつけられていた。

「はぅわっ!」

煮豆を口にした朱里は、驚嘆の声を上げる。

甘く煮込まれていて、とろけるようにやわらかい。

煮崩れしないぎりぎりの所まで煮込まれた、まさに絶妙な調理だ。

「ほぉら、雛里ちゃんも。とってもおいしいよ!」

ようやく舌が落ち着いてきた雛里も、一つ取って口に入れる。

「ホントだ、すごくおいしぃ」

先ほどまでの疲れもどこへやら。

雛里は、とろけるような煮豆を、いそいそと食べ始める。

それを見ていた女将さんは「そうだろそうだろ」と満足そうに、けれどどこか微笑ましそうに二人の様子を見ていた。

しかし、この幸せそうな光景は、現れた三人の男達によって破られることになる。

「邪魔するぜ」

そう言った髭の男は、乱暴に椅子を引くと、どかどかと腰掛けた。

「またあんたたいかい……」

女将さんもあきれた様子だ。

見ればこの三人の男。

まっとうに仕事をしている雰囲気ではない。

農民崩れの、夜盗まがいだろうか?

朱里も雛里も。

「はわわ……」

「あわわ……」

と、おびえたようにしていた。

「あいつらも、真面目に仕事をしていたときがあったんだけどねぇ……」

男達が帰った後、女将さんはそんな話をしてくれた。

聞けばあの三人組も、飢饉で土地を失った元農民だったらしい。

そして生活手段を失った彼らは、夜盗まがいの行為を……。

朱里も雛里も、水鏡先生の私塾に通っているのだ。

豆は他の穀物に比べて水を必要とせず、かつ保存性に優れていることは当然知っている。

それに、上手に調理されているのでわからないが、店に蓄えられた豆の状態を見れば、けっこう古い物であることはすぐにわかった。

つまり、この邑の食料事情は決して豊かなものではない。

だがもちろん、あの三人がしていることは悪いことである。

こんな状況でも、真面目に仕事をしている人もいるのだ。ここの女将さんのように。

けど……。

朱里も雛里も、そう思ってしまうところがあった。

「そうだ、お嬢ちゃんたち。水鏡先生の私塾の生徒さんなんだろう? 悪いけど知恵を貸してはもらえないかい?」

「はわわっ!」

「あわわっ……」

強引に女将さんに押し切られてしまった。

気づいて見れば、二人は邑の公民館(?)のような場所に連れてこられていた。

中に入れば、自然と二人に注目が集まる。

「誰だ、その子供は?」と言った、無言の問いかけが聞こえるような気さえしてくる。

「はわわぁ……」

「あわわぁ……」

圧倒される二人をよそに女将さんは、大股でどんどんと進んでいくと、長老らしきお爺さんに、二言三言話しかける。

それを聞いた長老は、ざわめく村人を制すように、ゆっくりと話し始めた。

「皆の衆。こちらのお二方は、水鏡先生のところの生徒さんじゃ」

「しょ、諸葛亮れすっ!」

「ほ、ほと、鳳統りぇしゅ!」

緊張のあまり、二人は噛んでしまった。

それが村人の不信感をますます刺激する。

今度は公然と。

「おいおい、そんな子供に何ができるんだ……?」

「かえって邪魔になるだけじゃないのか?」

との声が、あちこちから上がった。

だが、それも仕方がないことである。

邑を襲っている夜盗は、ついこの間まで一緒に汗を流していた仲間。

それを自分たちの生活を守るためとはいえ、討伐しなければならないのだ。

この場は最初から、何とも言えないような沈痛な雰囲気に支配されていた。

「いいから黙ってお聞き!」

女将さんが一喝するようにそう言うと、皆静かになる。

長老も、二人を促すような仕草をした。

「あ、あのぅ……」

雛里が、おずおずとではあったが、話し始めた。

夜になって、夜盗を迎え撃つ準備をしていると。

「すまなかったねぇ、急に巻き込んじまって……」

と、女将さんは本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

「い、いえ」

朱里はそう言ったが、これは本心である。

もともと人の役に立ちたくて、水鏡先生の私塾へと行ったのだ。

それがどうあれ、こうして機会をあたえられたことは、素直にうれしくも思う。

しかし同時に、人の命を預かるという責任も、小さな身体全てで感じずにはいられなかった。

そのときである。

「や、夜盗が来たぞっ!」

一人の男が、そう伝えに来た。

今は夜間。

訓練を受けた兵士でさえ、暗闇での戦闘には危険が伴う。

まして農民。

その比ではない。

だが、朱里と雛里には勝算があった。

「師に在りて中すること吉なりとは、天寵を承くればなり」

孫子である。

朱里は、前線にいる雛里達の方を向き祈った。

雛里ちゃんが、無事帰ってきますように。

そして、誰も傷つくことがありませんように、と。

同時刻。

雛里のもとにも、夜盗襲来の報せが届いていた。

「あわわっ。み、皆さん、お、落ち着いて行動してくだしゃいっ!」

「まず嬢ちゃんが落ち着こうぜ」

そばにいた男が、そう軽口をたたく。

すると緊張していた場が、一瞬和んだ。

ここにいる誰もが、雛里をもうただの子供だとは思っていない。

「将多く兵衆くば、以て敵すべからず。それをして自ら累れしめ、以てその勢いを殺ぐ」

あの場で、雛里が言った言葉である。

……いや、正確に記しておこう。

「しょ、将多く、へ、兵衆くば、も、以て敵しゅべからじゅっ。しょ、しょれをして、みじゅからちゅかれし、しめ、以てその、い、勢いをしょぐっ! あ、あわわ……しゅ、朱里ちゃん……。か、噛んじゃったよぉ……」

…………。

……まぁ、言い方はともかく、見事な作戦であったことだけは事実である。

「ほら、嬢ちゃん、行くぜ!」

そう言った村人達は、歴戦の兵士顔負けの様で、堂々と出陣を開始した。

「は、はひっ!」

と、雛里もその後に続く。

 

現地に到着すると。

「み、皆しゃん! こ、攻撃はしないでくださいね。ここでは、朱里ちゃん達のいる所に誘導しゅるだけでしゅから」

雛里は、そう命じた。

相手は馬に乗った夜盗。

いくらついこの間までは農民だったとはいえ、正面からやり合えば不利は免れない。

まして暗闇での戦闘となれば、である。

しかし、無理に攻撃をかけず、ただおびき出すだけならば可能である。

雛里にそう言われた男達は、作戦通りに行動を開始した。

「ほら、俺が相手だ!」

「何だ? 口先だけの臆病もんか?」

口々にそう言う男達。

しかし口とは反対に、足は後ろへと下がってゆく。

追う夜盗。

逃げる雛里達。

暗闇を利用して、つかず離れず夜盗達を朱里達の待つ方へと誘導してゆく。

そして、作戦の場所。

それまで、まとまって逃げていた男達は、一斉に二手に分かれた。

「うまくこっちに来たみたいだよっ!」

女将さんが、朱里にそう伝える。

「はい! で、では、皆さん。お願いしましゅっ!」

朱里の号令一家、手に籠を持った女達が、一斉に煮豆を辺りにまく。

「お、おい! どうなってるんだ!?」

「ち、ちくしょう! 走れ、走れってばよ!」

それまで夜盗を乗せて走っていた馬が、辺りの豆に食らいつき、動きを止める。

焦ったのは夜盗である。

どんなに鞭でひっぱたいても、馬は動かない。

そこに、さっきまで逃げ回っていた男達が縄を持って、夜盗達を取り囲むように現れた。

ここに来て、夜盗達は、ようやく自分たちがはめられたのだと気づく。

夜盗達は縄に絡め取られ、あっさりご用となった。

食糧不足で困っている邑だ。

ならばその邑を襲う夜盗も、そうそう食糧が潤沢にあるわけでもあるまい。

となれば、真っ先に削られるのは、馬の飼料。

「将を射んとせば馬を射よ」

雛里達が、唐代の詩人・杜甫の「前出塞」を知っていたかどうかは禁則事項だが、まさにこの言葉通り。

空腹の馬の前に豆をまき、馬の足を止める。

そうしてから、その馬に乗っている夜盗を捕らえる。

見事作戦的中である。

「さて、どうするかのぅ……」

捕らえられた夜盗を前に、長老が取り囲んでいる村人たちに尋ねる。

幸い、一人のけが人も出すことなく、夜盗を捕らえることができた。

しかし次なる問題は、この夜盗達をどうするか、だ。

もともと、田畑を失って夜盗になった彼らだ。

このまま離せば、再び同じ行いをするだろう。

とはいえ、耕せる田畑はない。

では殺すかと言えば、相手は昨日まで共に汗を流した仲間……。

みな困って、黙りこくってしまった。

「あ、あのぅ……」

朱里が気まずそうに手を挙げた。

その場にいた全員の視線が、朱里の方を向く。

「はわわっ……」

おびえる朱里に、女将さんが勇気づけるように続きを促した。

「あ、あのぅ。わ、私たち、さっきこの邑の様子を見てきたんですけど、夜盗さん達には、豆を作ってもらうってことはどうでしょう……か?」

そう言って、広げた邑の地図を指さし、「このあたりと、このあたりなんですけど」と、具体的に指示をする朱里。

確かに豆ならば、水がそれほどなくとも育つ。

最初は困惑気味に顔を向けあっていた村人たちも、納得したような笑顔になり。

「あんたたち! ちゃんと働くかいっ?」

と、女将さんの声を合図に、夜盗……いや、元夜盗達も素直にうなずいた。

これにて一件落着らくちゃ……。

あれっ?

何か忘れているような……?

あっ! そうそう。

この後、朱里と雛里は、邑を救った英雄として、しばらく無理矢理に近く宴会に参加させられた。

帰り際には、女将さんにあれこれ畑の作り方を大声で指示される元夜盗の皆さんを見ながら、どっさりと豆をお土産に貰って帰途へついたのだった。

この10日にも続く宴会が、雛里の宿題が終わっていない原因になったことは言うまでもない。

しかしそこは、さすがは鳳統と言うべきか。

1ヶ月分の宿題をわずか半日で終わらせ、なんとか新学期には間に合ったとかいないとか。

後にこの話を聞いた桃香が、「へぇ~。やっぱり雛里ちゃんてすごいねぇ~。私のお仕事も手伝ってもらっちゃおっかなぁ。てへっ」と言って、重要な仕事を無理矢理(?)雛里に手伝わせたのは、また別のお話。

時間は戻って現在。

そんな雛里の話を聞いた翌々日。

俺は、アルプス越えを決意したハンニバルのような晴れやかな笑顔で立ち上がった。

今日も買い出し当番を決めるサイコロが、宙に舞う。

「今日の当番も主ですぞ」

そう言った星の声が聞こえる頃には、もうすでに大広間の扉に手を掛けていた。

逃げろっ!

「あっ! お兄ちゃんが逃げ出したのだ!」

「卑怯だぞ、ご主人様!」

鈴々と翠の声が、遠くで聞こえる。

おっかしいぁ。サイコロ、買い換えたんだけどなぁ……。

俺は、対鈴々&翠足止め用お菓子がばらまいてある廊下を全力で駆け抜けた。【了】

【あとがき】

 

夏休み。

懐かしい響きです。

社会人になってしまった私には、盆休みという名前の短い休みが残るばかり(それも終わってしまいましたが)。

そして、残業と名を変えた宿題の山が……(こっちはまだちょっと残ってたり)。

 

というわけで(?)、今回は朱里と雛里の夏休みを書いてみました。

ところどころに『涼宮ハ○ヒ』をリスペクトしたネタがあるのは、私がハ○ヒ厨だからです(笑)。

 

まぁ、それはそれとして、ちゃんと『三国志』関連の話も入れさせていただきました!

それは、雛里の宿題の部分。

 

本当は、閑職につけられた鳳統が劉備の前で、1ヶ月分の仕事をわずか半日で片付けてしまうというお話(見習いたい!)ですが、今回はそれが宿題となっています。

夏休みと言えば、宿題かなぁと思いまして。

 

さて、私にはまだまだ宿題の山が……。

途中で止まっている書きかけの話(『蓮華の休日』とか)がありまして、本当に申し訳ありません!

近いうちに、必ず書かせていただきます!

もうしばらく、もうしばらくお待ちください!

本当にすみません!

 

それでは。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございました!

また次もお会いすることができれば、幸いです。


 
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