「着水の許可が下りません!」
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マイ「艦これ」「みほ3ん」(第3部)
EX回:第2話『よぎる不安』(改2.2)
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ここは紛れも無いブルネイ泊地の上空だろう。機長たちは何度も電探や地図で付近の島の様子などを確認している。
技術参謀も操縦席へ移動してイロイロ確認をしている。
「……暑いネぇ」
金剛が、だるそうな表情をして何かのファイルで扇いでいる。
「ホントですね、お姉さま」
比叡も汗を拭って言った。艦娘たちも長旅で疲れが出始めているようだな。
それに嵐が過ぎ去って急に太陽が出てきたから機内の気温も上がってきた。南国だから湿気もある。
私もハンケチで汗を拭きつつ手元の資料をめくった。
『ブルネイ泊地:公用語はマレー語で英語も可能』
……って?
(日本語はダメってことか?)
私は姉妹で扇ぎながら風を送り合っている金剛たちを見ながら呟いた。
「やれやれ……いざとなったら金剛に頼るしかないのかなあ」
「ん?」
彼女は、こちらをチラ見した。
すると
「公用語ですか?」
いきなり青葉が斜め後ろから覗いてきた。振り返る間もなく彼女が私のファイルに顔を近づける……っていうか近いよ、お前。
「えっと泊地の中……鎮守府の敷地内なら大丈夫だと思いますよ」
「……あ、そうか」
なるほど彼女の言う通りかもな。
改めて窓から外を見た。
機体はかなりブルネイの海岸に近づきガントリークレーンが見える。倉庫のような建物もあるから、そこが鎮守府だろう。
しかし、さっきから同じ景色だぞ。
「あ?」
そこで私は気付いた。
「何を旋回し続けているんだ?」
私の言葉に秘書艦も頷いている。
「おかしいですね」
寛代も自前の電探を稼動させたようだ。じっと耳を澄ませるような仕草をしている。
「確かに変だな」
同様にして耳を済ませる日向も呟いた。
気になった私は前の操縦席へ移動した。
そこには本部から技術参謀に従って操縦してきたパイロットと参謀本人が居る。
操縦席は妙に緊張していた。何かトラブっているのか?
技術参謀が振り返る。
「司令……実は着水の許可が下りん」
「は?」
すると無線を担当している副操縦士も応えた。
「はい。先方からは『認識コードが一致しない』の一点張りで埒(らち)が明きません」
私は呆れた。
「なんだ? 我々が行くという情報が相手に伝わってないのか」
「分かりませんが」
私は一計を案じた。
「構わん、緊急信号を発信しろ」
「はっ?」
私の提案に技術参謀も直ぐに頷く。
「そうだな。こっちは日の丸付きの大艇だ。しかも軍本部からの直行部隊だ。それくらい相手も認識は出来ているだろう。誤認識信号如きで、いきなり撃ち落されはしないだろう」
「了解」
機長は副操縦士に目配せをする。彼はパネルを操作してマイクで何かを喋りながら緊急事態信号を送信したようだ。
暫くブルネイ上空で旋回を続けていた大艇だったが、程なく向こうから『受理』の信号が返ってきた。操縦席は安堵に包まれた。
操縦席に座り直した機長が言う。
「では着陸態勢に入ります」
「うむ」
機長は操縦桿を倒し機体は前に傾く。私と参謀は、その様子を確認した後、自分たちの席に戻ってベルトを締める。
私たちの様子を見守っていた艦娘たちも順次、座席に戻ってベルトを締めた。機内から次々とロックする金属音が響く。
(あとは現地に降りるだけか……)
私は改めて二日前の出来事を連想していた。
事の発端は一昨日、艦隊司令部からの指令文書だった。
それは今日訪問する『ブルネイ鎮守府(泊地)との艦隊模擬戦に参加するように』 ……との指示だった。
私は訝(いぶかし)んだ。そもそもなぜ地方の弱小鎮守府が、いきなり海外なのか? しかも、この時期に。すべて分からないことだらけ。
……とはいえ軍隊で末端の部隊が、いちいち作戦の理由は考えない。上から来た命令には従順に従うまでだ。
そのときの大淀さんの顔が浮かぶ。
「参加する艦娘の名簿を本部に提出するようにと言われています」
「そうだな……」
私は、ちょっと考えて直ぐに机上にあった白紙に、さらさらと鉛筆で書きつけた。
遠征参加メンバー
旗艦:金剛:Lev.18
二番艦:比叡:Lev.(改)60
三番艦:日向:Lev.(改)51
四番艦:赤城:Lev.(改)39
五番艦:龍田:Lev.(改)59
六番艦:夕立:Lev.(改)15
ほか、
祥高(秘書艦)
寛代(通信)
青葉(取材)
夕張(整備)
「こんな感じだ」
私は祥高さんに渡した。彼女はサッと見て、特に異議を唱えずに大淀さんに回した。
すると彼女の方が意外な表情をした。
「あの……お盆の参加者、そのままですか?」
「ああ、ここで今さら誰を選んでも五十歩百歩だろう? くじ引きをするよりも早いだろう」
困惑した表情の大淀さんだったが意外にも秘書艦も同意した。
「そうですね、変に考えるよりも、お盆休暇のメンバーを中心にした方が気心が知れて良いでしょう」
「はい」
渋々といった感じの大淀さんだった。
私は説明した。
「遠征部隊は長時間、行動を共にするからね。私も寝食を共にした艦娘たちの方が、ちょっと安心だよ」
その言葉で、ようやく彼女も納得したようだった。
「承知しました。報告しておきます」
その後、艦娘たちに参加者を伝達しても特に異議は無かった。
「司令」
日向の言葉で私は現実に戻された。
「どうした?」
私が斜め後ろのを見ると彼女は言った。
「利根や山城さんが参加したがっていたようですが……」
私は応える。
「実家での騒動があっただろう? それに索敵と戦闘能力、性格などを総合すると、お前一人で利根と山城さん分になるからな」
「は……」
軽く頷いた彼女は少し恥ずかしそうな表情をした。だがそれは、お世辞ではない。遠征メンバーも人数制限がある。そこは臨機応変だ。
特に今回は金剛姉妹を入れたから、彼女たちを抑えてくれる落ちつた艦娘たちも必要だ。それが日向に赤城さん、龍田さんなのだ。
「着水」
機長が告知して直ぐに機体はブルネイ泊地近海の海面に降りる。ドンという軽い衝撃と同時に、窓には大きな水しぶきが上がる。
「ぽい!」
気分が悪いのか、大人しくしていた夕立が軽く叫ぶ。こいつも賑やかではあるが戦闘能力を買って連れて来たんだ。
龍田さんが窓の外を見て言った。
「あらぁ、お祭り?」
私も窓から機外を観察する。
水面の向こうには岸壁があり、煉瓦造りの鎮守府本庁舎も見えた。同じ海軍だから基本的な造りは海外も同じだ。
「なんで屋台が?」
不思議そうに呟きながらも、ちょっと嬉しそうな赤城さん。君の目当ては食べ物か?
ブルネイの状況から技術参謀が推測する。
「模擬演習ってのは現地でのイベントの一環として行うらしいな」
「あは、それなら多少は気楽ですね」
私の思いを代弁したように青葉さんが言う。
無線で交信していた副操縦士が振り返る。
「直接、接岸は出来ないようです。いま先方から内火艇が迎えに来ます」
「そうか」
続けて機長。
「許可も下りましたし、皆さんベルトを外して結構です」
機内はガチャガチャと金属音、そして安堵した空気が漂う。
……それでも私は、なぜか「敵地」に乗り込む変な緊張感が消えない。
「どうした? 司令」
技術参謀が問いかける。
私は応える。
「はい、同じ海軍のはずなのにずっと妙な違和感が……海外だからでしょうか?」
「……いや、違うな」
何となく彼女も同じ空気を察しているようだ。
「ちょっと警戒しよう」
「ハッ」
私は秘書艦に目配せをした。彼女も頷く。
船が近づく水の音がした。内火艇か。直ぐに『ガコン』と言う音が響く。
「来たな」
すると日向が立ち上がった。
「全員、上陸準備!」
『はい』
私は言った。
「日向、初っ端から飛ばさなくても」
「いえ、私の性分ですので」
ちょっと、はにかんだ彼女。
「そうか」
私は思う。
(……お前も以前より変わったな。明るくなったか)
「んしょ!」
重そうなバックを持ち上げる青葉さん。
「レンズとか重そうだね」
私は言う。
彼女は軽く腕まくりをして苦笑する。
「最近、筋肉付いちゃってぇ」
すると龍田さん。
「そお? フットワークは相変わらず軽いけど」
「えへへ」
最近はムードメーカーな青葉さんだ。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
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PS:「みほ3ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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美保鎮守府の隊員たちが乗った二式大艇は何とかブルネイ泊地に到着した。しかし司令は不安が消えないのだった。