死んだ子供の年齢を数えていて、もう今年で五歳になるなあと思っていると、お盆の時期になって子供が帰ってきて、ただいまといって玄関から入ってきてとっとっとと駆け足でリビングまでやってくるところは子供の生きていたときのそのままで、私は「ははあ帰って来た」と思い、このままお盆が過ぎてもここにいてくれればいいなあと思って何とか帰さないような算段をしようと思う。
お盆で帰って来たご先祖様を帰すにはナスの牛で帰るというからこれまで玄関に紙皿を敷いて備えていたキュウリの馬とナスの牛のうちナスの牛を用意しないでおけばいいんだと思って、ナスの牛を用意しないでおいたら、子供が私の腕を引っ張って牛はどうしたのと言う。
「牛がないと帰れないんだけど」というので今年はナスが不作だからとか言ってごまかすと、子供は私の考えを見透かしたように白目の部分が多くなってふーんと言う。
子供は床でゴロゴロして携帯ゲームなどをプレイして、15日の朝になって別れた妻に電話をして子供の声を聞かしてやろうと思って電話をしたら、その番号はもう使われておりませんとなってがっかりして子供に「お母さんと電話がつながらないよ」というと子供は悟ったような顔で「お母さんは新しい人と最近仲が良いからお父さんの番号は消してしまってあるんだよ」と悲しいことを言う。
夕方になってあちこちの家で苧殻を焚いてご先祖様を帰そうとする煙が町中に立ち込めだすと、子供は僕も帰らなくちゃなあーといって「カーッ」となってそわそわする。私は玄関の扉に鍵を閉めて子供の手の届かないチェーンも閉めて帰れなくすると、それを見た子供は帰りたいと言ってわがままを言って地団太を踏む。
「わがままを言うんじゃない。お前はうちの子なんだから、ここのほかに帰るところはないんだ」と言うと、子供は泣き出して和室にこもってしまう。言い過ぎたかなと思って少し時間をおいてから和室の戸襖を開けると、子供はいつの間にかナスを手に入れていてナスに爪楊枝で手足を付けて、牛を作っている真っ最中だった。
あっと言って子供を取り押さえようとしたけれども、子供はさっと身をかわして牛に爪楊枝を刺して、そして窓を開けてそれにまたがって出て行ってしまう。
苧殻の燃える匂いがさっと冷房の利いた部屋の中に一瞬で立ち込めてくる。通りでは白装束を着た人々の群れが、山のほうへ向かって一列になって歩いていくところだった。
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