No.91783

真・恋姫無双~魏・外史伝35

 こんばんわアンドレカンドレです。
投降遅くなてすいませんでした。ただこの十五章・・・、
どうもストーリーのイメージがわかずにあくせくしていた
ためです。ここいら辺で正和党の反乱についてひとまとめ
しようと考えていたのですが、中々自分の考えがまとまらず

続きを表示

2009-08-27 00:04:36 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4655   閲覧ユーザー数:3902

第十五章~道化芝居の果てに・前編~

 

 

 

  ・・・それは、今から約二年前の事。

 時期を見ると、桃香達が益州に入り、入蜀して間もない頃・・・。

 桃香達は後方の憂いを絶つべく、南蛮に軍を進めていた(なお、この時同時に定軍山にて

 魏軍と衝突していた・・・。)。そんな時であった・・・。

  蜀のとある山間の目立たぬ所にあった一つの村がこの世から消えた。

 村の名は八珂村(はっかむら)・・・。他の村町ともさほど交流の無かった、小さな村。

 その村の異変に彼女達が気付いたのは、その報告が届けられたからすでに三日が経過して

 いた・・・。そして、その報告の真偽を確かめるべく、愛紗、星、朱里が八珂村に急行した。

 村に着いた彼女達の目に映ったのは、変わり果ててしまった村の姿であった・・・。家々は

 そのほとんどが全焼し、田畑は荒れ、作物の多くが焼けてしまっていた。村の所々に血の跡、

 争った痕跡が確認できた。しかし、何処を探しても、村人の姿は見つからなかった。

 見つかったのは、村の真ん中に立てられていた数十近くの十字の形を取った木の棒達で

 あった・・・。そしてその全てに、手作りの花の輪が掛けられていた。

  調査の結果、その村はある武装集団に襲撃された事が分かった。村の真中に立てられて

 いた数十近くの十字の形を取った木の棒達は、村人達の墓であると判断された。この近く

 通りかかった者が親切に作ってくれたのだろうと、彼女達は結論づけた。また、村より少し

 離れた林の中、そこにもまた墓と思われる積まれた土が発見された。さらにその積まれた土

 の上には数本の剣が刺さっており、そして劉の文字が入った布が剣に引っ掛かっていた。

 生存者の確認はついに出来なかった。

  つまり、こういう事である。とある晩に、この八珂村を益州攻略の際に敗走した劉璋軍の

 残党が襲撃した。恐らく、飲み食いに困った故の行動であろう・・・。彼等は村に火を放ち

 さらに、村人達を殺害したのである。村の食糧、金品にあまり手が出されていなかった事と

 林の中で発見された恐らく軍の残党の墓、村に残っていた争いの痕跡から、その残党と村人

 そこにさらにこの近くを通りかかった第三勢力が介入した事で、そこで戦闘が起きた。戦闘

 の結果、村人、残党は全滅。そして残った第三勢力が彼等の墓を作った。その第三勢力が

 何なのかまでは最後まで分からなかった・・・。

  調査を終えた愛紗、星、朱里は部隊を引き揚げ、成都へと帰還する。その後、朱里が村で

 の調査結果の詳細を桃香に報告した。

  そして報告の後、王宮から少し離れた廊下にて・・・。

  「朱里!さっきの報告は一体何なのだ!?」

  「・・・・・・。」

  愛紗は朱里に先程の報告の内容に対する説明を求めていた。

 愛紗の追及に、朱里は困った顔をしながら沈黙を通していた・・・。

  「村人の火の不始末による山火事だと・・・!?我々の調査結果のどこにそのような

  事が書かれているんだ!」

  「・・・・・・。」

  「桃香様にあのような嘘偽りの報告等して・・・!朱里、お前はそれでも我々の軍師

  なのか!?」

  「我々の軍師だからこその嘘偽りの報告なのだろうさ・・・。」

  「星・・・!」

  二人の、愛紗の一方的な会話に水をさすように、星が何処からともなく現れる。

  「それとも愛紗は、本当の事を報告するべきだったと・・・?」

  「そ、それは・・・っ!?」

  星の言葉に、愛紗は言葉を失う。

  「お主も知っておろう・・・。今、我等がどのような立ち位置におるのか?

  今ここで悪評が流れれば、民達の我等に対する信頼は地の底を割りかねない。

  にもかかわらず、八珂村での真実が明るみになれば・・・、どうなるかぐらい

  容易に想像つくだろう?」

  「入蜀まだ間もないこの時期に、そのような不祥事が公になれば、私達を歓迎

  してくれた益州の民の人達の信頼は失れ、蜀は瞬く間に崩壊するでしょう・・・。」

  「そうなれば南蛮侵攻だけで無く、魏、呉との戦にも大きな支障となる。

  我等と民達が国を起こして一致団結しなくてはいけない時に、そんな報告を

  桃香様に出来るようはずも無かろう・・・。」

  星と朱里は交互に意見を交わし、愛紗に言い聞かせる。

  「だからと言って、桃香様にも事実を伏せなくとも・・・!」

  「桃香様の人間性はお主が一番よく知っておろうに・・・。」

  「・・・っ!?」

  「桃香様は、優しい、いえ優し過ぎる御方・・・。そのような御方がそれを知れば、

  責任を感じ、その歩みを止めかねません・・・。」

  「今、桃香様に迷いを持たれては困る。蜀の王として、皆を導く存在でなくては

  いけないのだ。天下を統一するため、あの方の理想の実現のためには、止むを得ない

  事だと・・・お主も目を瞑れ。」

  「しかし・・・!」

  「しかし・・・、何だと言うのだ?では聞くが、お主は報告の際、何故沈黙を通して

  いたのだ?意見を述べる訳でもなく、ただ黙って朱里の報告を聞いていたのは何故?」

  「・・・っ!?」

  愛紗は自分の最も痛い所を突かれたような顔をする。その様子を見て、星は呆れた顔を

 する。

  「それで、軍師殿を一方的に責めるのは筋違いでは無いかな、関羽雲長殿?」

  「・・・・・・・・・。」

  返す言葉が無かった・・・。悔しい事ではあるが、星の指摘通りなのだから。

  「全く・・・、あのような甘ちゃんな御方が王だと、配下の我等は苦労するな。」

  やれやれと溜息をつく星。

  「星さんっ!」

  「星・・・、貴様ぁっ!!」

  「ふっ・・・、たかが冗談にそういきり立つものでは無かろう。」

  はははと笑いながら、星はその場を立ち去った。

 その後ろ姿を見送る愛紗の手は、強く握りしめられぶるぶると震えていた・・・。

 

  八珂村に関する報告は、山火事として片づけられ、それ以後・・・八珂村の名が表に

 出てくる事は無かった・・・。八珂村の事実は、ごく限られた少数の人間しか知らない。

 それから二年後・・・、この八珂村の真実は意外な形として再び表に浮上する事となる。

 

  『・・・そうやって、・・・建前作って・・・、都合の悪いものを全部葬る

  つもりかよ・・・。俺の村の様に・・・!!』

  『村・・・だと?一体何を言って・・・!?』

  『お前達はいつもそうだ!・・・何が理想だ!・・・何が大徳だ!何が民のためだ!!

  そんな綺麗事を並べやがって!お前等が言うと虫唾が走るんだ!!俺達の時は何も

  しなかったくせに!!』

  『さっきから好き勝手な事を・・・!お前は一体何様のつもりでそのような事を

  言うのだ!?先に仕掛けてきおったくせに!!』

  『お前達だって、昔は散々自分達から戦を仕掛けていたじゃないか!!

  俺達の事を批難するのは筋違いだろうが!お前等は!!』

  『っ!?あの時そうしなければ、守れるものも守れなかったのだ!!』

  『何を守ったっていうんだ、お前達は!?』

  『ぐはっ!?』

   隙を見せた愛紗の横腹に、姜維の蹴りがまとも入る。その衝撃に愛紗は後ろに後ずさる。

 苦痛に耐えながら何とか立ち続ける。すると、姜維は大剣の切先を愛紗に向ける。

  『その偽善者の仮面ごと、お前をぶったぎってやるっ!!!皆の・・・仇だぁぁぁあああ!!!』

  姜維は大剣を右肩に乗せる形で剣を振り上げると、その体勢から愛紗に突っ込んで行く。

 とても単純な動き・・・これなら、と思った瞬間であった。水晶玉の輝きは、ついに

 内ポケットの外にまで漏れる・・・。その瞬間であった。

  『な、なに・・・消えた?!』

  突然、彼の姿が消える。急ぎ彼の姿を探す。次に彼の姿を捉えたのは・・・。

  『死いぃぃぃねぇぇえええっ!!!』

  『な・・・!?』

  自分の間合いの内側であった。姜維は既に剣を振り落とす体勢に入っていた。

 今からでは反撃は間に合わない、そう判断した愛紗は偃月刀の柄の中央で、彼の一撃を

 受け止める態勢を取った。

  ガゴォオオッ!!!

  だが姜維の一撃は、愛紗の青龍偃月刀の柄を叩き折り、その斬撃はそのまま愛紗に

 襲いかかった。愛紗は偃月刀が叩き折られた瞬間、とっさに後ろに身を引こうとした。

  『なっ!?』

  どうしてか、足が動かない。

 自分の足が金縛りにあった様、否何かに捕まれて動かせない。

 愛紗は自分の足を見る。

  『・・・っ!?』

  その光景を見た瞬間、愛紗は恐怖に駆られる。

 地面から生える数十本の黒い手が、愛紗の両足を掴み、離さない。

 愛紗の全身を冷汗が止めどなく流れる・・・。

  ザシュゥゥゥゥゥウウウッッッ!!!!!

  姜維の一撃は身動きが取れない愛紗の体を切り裂く。傷口から大量の血が空に向かって

 噴き出し、愛紗の目の前の光景を赤く染めていった・・・。

  『うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ

  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

  ああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!』

  

  「・・・はぁっ!?」

  混乱する愛紗・・・。今、自分の目の前に広がる光景を理解出来ずにいた。

 自分は今・・・、姜維の一撃を受けて大量の血が目の前赤く染めていたはず・・・。

 だが、そこに広がるは何の変哲もない天井・・・。天井のみが視界に入っていた。

  「・・・・・・。」

  愛紗は自分が横になっている事にようやく気が付く。

 そこで横になっている自分の上半身を起こす。どうやら、何処かの宿の一室にいるようだ。

 愛紗はその部屋に常備されている寝台の上で横になっていた事が分かる。自分の体を確認する。

 自分の流した汗が染み込み、べったりと肌にくっつく、病人が身に着けているような白い

 寝巻きに、胸に巻かれた包帯・・・。自分の服は寝台の左横にある椅子の上に畳まれて

 置かれていた。さらに寝台近くの壁には叩き折られてしまった無残な姿の青龍偃月刀が

 掛けられていた。

  「今のは・・・、夢か?」

  愛紗は先程の現実味のあったそれが夢である事に気が付くと、安著の溜息をつく。

 しかし、愛紗は自分が置かれている状況が分からずにいた。自分は確か麦城にいたはずなのに

 何故、このような所に・・・。

 

 ―――・・・そうやって、・・・建前作って・・・、都合の悪いものを全部葬る

  つもりかよ・・・。俺の村の様に・・・!!

 

 ―――お前達はいつもそうだ!・・・何が理想だ!・・・何が大徳だ!何が民のためだ!!

  そんな綺麗事を並べやがって!お前等が言うと虫唾が走るんだ!!俺達の時は何も

  しなかったくせに!!

 

 ―――何を守ったっていうんだ、お前達は!?

 

  愛紗の頭に、あの時の姜維の言葉が思い返される。

 あの時は、愛紗は彼の言葉の意味が理解出来きなかった・・・。 

 だが、彼が桃香、自分達に恨みを持っている事は分かった。

 しかし、彼に恨まれるような覚えが、愛紗には無かった・・・。

 彼の村・・・、村・・・。蜀領内に村は何十、何百と存在する・・・。

 一体どの村の事を言っているんだ?そして彼が自分達を恨み募らせる理由は・・・。

 愛紗は自分の記憶を探る・・・。そして、愛紗の頭に一つの村の名が浮かび上がる。

  「八珂村・・・。」

  二年前・・・、訪れた村の名前。今その村は存在しない。

 劉璋軍の残党に襲われ、全滅したからである。しかし、その事実を知るのは愛紗を含めごく

 少数に限られている・・・。公には、山火事として処理されたからである。

 

 ―――・・・そうやって、・・・建前作って・・・、都合の悪いものを全部葬る

  つもりかよ・・・。俺の村の様に・・・!!

 

  再び、彼の言葉が蘇る・・・。彼の言う村が八珂村だと言うのならば、全てに納得がいく。

 何故なら、八珂村での出来事は自分達にとって都合の悪いものであった。

 だからこそ朱里、星と共に情報を隠蔽し、真実を闇の中へと沈めた・・・。

  「まさか、あの村の生き残りがいたとは・・・。」

  そして何より、八珂村の生き残りがいたという事実・・・。当時、生存者は確認出来ず、

 村人は全滅したと思っていた。彼がその村の生き残りだと言うのなら、どうして今まで

 名乗り出てこなったのだろうか。

  そんな事を考えている時、部屋の戸が開く。愛紗は反射的に迎撃の態勢をとる。

  「お、気が付いたか?」

  部屋に入って来たのは、見慣れない男・・・。その手には水の入った桶と塗られした手拭い。

 少なくとも、敵では無い事は愛紗にも理解できた。

  「お主は・・・?」

  愛紗は恐る恐るその男に名を尋ねる。

  「俺は華陀。この大陸から病魔を討ち払うため、旅をするしがない医者だ。」

  「華陀・・・、噂で聞いた事がある・・・。伝説と謳われる究極医術、

  五斗米道(ごとべいどう)継承者の・・・、あの華陀か!?」

  「違うっ!!!」

  「な、何?!」

  「『ごとべいどう』では無い!『ごっとべいどう』だ!」

  「ご、ごと・・・?ごっとべいどー・・・?」

  「発音が違う!『ごっとべいどう』だ!」

  という具合に華陀に『五斗米道』の発音を矯正される・・・、周囲の迷惑を知る事も無く。

 それから数刻後・・・、愛紗はようやく華陀が納得する『五斗米道』の発音を習得した。

  「・・・それで、華陀。私は何故にここに?」

  愛紗は自分が今知りたい事をようやく華陀に聞いた。

  「その事か・・・。今から七日程前、俺はここから少し離れた道を歩いて

  いたら、突然俺の前に、あんたを抱えた男が現れたんだ。」

  「私を抱えた・・・?」

  愛紗の脳裏に、一人の男の後ろ姿が浮かび上がる。朦朧としていたせいで、その姿形は

 あやふやではあったが・・・、その血の様に赤いその姿ははっきりと覚えていた。

  「そうだ。・・・で、彼は彼女を頼むと言ってあんたを俺に渡して、そのまま

  何処かへと行ってしまった・・・。」

  「その者の名は聞かなかったのか?」

  「聞こうとした時には姿が無かったんでな。ただ・・・。」

  「ただ・・・?」

  「俺にはまだやるべき事があるって言っていたな。」

  「やるべき事・・・。」

  その言葉を呟いた瞬間、愛紗は自分がやるべき事を思いだす。

  「華陀!私はここでどれほど寝ていた!?」

  「ん・・・?さっきも言ったと思うが・・・、七日程だ。」

  「何と言う事だ・・・。早く、桃香様の元へ・・・!」

  愛紗は寝台から慌てて起き上がると、それを華陀が静止した。

  「待て、関羽!その体で何処へと行く気だ!」

  「離せ、華陀!私にはやらねばならぬ事がっ!!」

  愛紗は、自分を静止する華陀の腕を振り払おうとする。しかし、それでも華陀は

 愛紗を静止し続ける。

  「やらねばならない事は俺にもある!それは、あんたの傷をちゃんと治す事だ!

  いいか!あんたが受けたその胸の傷・・・、頸動脈からわずかばかりに逸れていた事

  ・・・、あと彼が施したであろう適切な応急処置・・・、それのどちらかが欠けていたら

  あんたは確実に死んでいたんだ!!」

  「・・・くっ!」

  「まだ傷口も完全に塞がってはいないそんな体で、外出を許すわけにはいかない。

  傷がまた開いて、道端で死なれては、あんたを頼むと言って俺に託した彼に合わ

  せる顔が無い!今は体を休め、その傷を治す事に専念するんだ!」

  「私ならもう大丈夫だ・・・!この程度の傷、どうという事は無い!

  そして何より、私はあの少年に今一度会わなくてはいけない!!」

  実際の所、愛紗は傷の痛みに耐えていた・・・。体を動かすたびに胸の傷が開く様な

 感覚に襲われていた・・・。それは華陀も見て取れた。だからこそ、華陀は愛紗に絶対

 安静を促すのであった。無論、それが分からぬ愛紗では無い。それでも、その傷ついた

 体に鞭を打ちつけても、先を急がなくてならない理由があった。そんな愛紗を見て、

 華陀は彼女に改めて確認する。

  「お前達と、蜀内の情勢は・・・俺も一応は知っている。・・・それでも行くと

  言うのか?」

  「無論だ。」

  愛紗の言葉に迷いや躊躇いは無かった・・・。

  「・・・・・・。」

  華陀は愛紗から手を離し、しばし考え込む・・・。そして、何か諦めたような表情

 になる。

  「・・・言うだけ無駄か。分かった、どうしても行くと言うのなら俺も同行する。」

  「お主が同行するだと・・・?」

  「当然だ。さっきも言ったが・・・、道端で死なれては、あんたを頼むと言って俺に

  託した彼に合わせる顔が無い。だから、ついて行くんだ。それが駄目だと言うのなら、

  力づくでもあんたを止めるしかない。」

  「・・・・・・。」

  今度は愛紗が考え込む・・・。

  「承知した。華陀、あなたの条件を飲もう・・・。」

  

  所変わって・・・、魏の洛陽の城の王宮・・・。

  「全員、揃ったようね。」

  そこには華琳を筆頭に、魏の主要が集まっていた。

  「あの、華琳様。まだ北郷と真桜が来ておりませんが・・・。」

  そう言いながら、周囲を見渡す春蘭。確かに、そこに一刀と真桜の姿は無かった。

 しかし、華琳は怒る様子も無く、むしろ何だそんな事と言いながら。

  「問題無いわ。あの二人は後から来るから。」

  「後から・・・?・・・はっ、ま、まさか!?う、うぬぬぬ北郷め!この一大事に

  なんと破廉恥な・・・!!」

  何を思ったのか、春蘭は顔を赤く染め、慌てふためき始める。

  「姉者、一体を言ってるのだ?」

  「全く。あの変態男もそうだけど、すぐそっちの方に考えを持っていくあなたも

  相当な破廉恥のようね?」

  「何だと!」

  「止めなさい、二人とも。今は軍議中のはずでしょう?」

  華琳に注意され、自粛する二人。

  「稟、説明の方お願い出来るかしら。」

  「はっ。」

  華琳に呼び出され、稟は前に一歩出る。

  「今から二刻前、洛陽より西方の長安付近にて五胡の軍勢、約五万が出現したと、

  先程早馬にて報告が来ました。」

  「長安だと・・・?どうしてそこまでの侵攻を許したのだ?!」

  「はっ・・・、報告によると、突如として長安に出現したと。」

  「どういう事だ?」

  「残念ながら、それ以上の事は。恐らく言葉通りではないかと。」

  「何や連中、妖術でも使ったっちゅう事か?」

  「ですかね~?」

  「連中が如何にして侵入して来たか、それは今ここで議論すべき事では無いわ。

  稟、それで五胡の動きはどうなっているの?ここ洛陽に迫って来ているの?」

  「それなのですが・・・、監視の報告では五胡の進路方向はここ洛陽では無く、

  西、蜀のようです。」

  「蜀?それは確かなの、稟。」

  「はい。まず間違いないかと・・・。」

  「何だそれは!?我々の国に現れておいて、蜀に軍を進めるとは・・・!

  一体何を考えているのだ?」

  と、春蘭は桂花に振る。

  「そこで私に聞かないでよ。」

  どうやら桂花でも分からないようだ。

  「連中が蜀に軍を進めているのは、まず間違いないようね。そうなると、蜀領の現状

  が気になるわね。秋蘭、そちらについてはどうなっているの?」

  「蜀に放っていた間諜での話では、どうも真偽が不確かな情報が錯綜し、蜀内はかなり

  混乱が広がっているようでして、どうやら・・・正和党の猛攻に蜀軍は劣勢に立たされ

  ているようです。」

  「何や、正和党ってそない大きな組織やったんか?」

  「確かに正和党はここ最近、急激に大きなった組織だが、戦力で言えば、蜀軍のそれに

  はるかに劣るだろう。」

  「正和党は飽くまで傭兵集団。一国の軍隊ではありませんしね~。」

  「しかし、その戦力差を逆に利用し、奇襲や攻城兵器をなどを使って蜀各地の拠点を襲う

  事で、ほぼ五分五分の戦況を展開していたようですが、ある時を境に戦況は一変、正和党

  のが優位に立ち、蜀軍は敗走を続け、現在劉備達は首都成都まで下がっているようです。」

  「な、何と・・・!愛紗達がいながら、どうしてそのような事態に・・・!?」

  秋蘭の報告に、思った事が言葉が出る春蘭。

  「姉者、その関羽の事なのだが・・・。」

  そんな姉を見て、秋蘭は思い立ったように口を挟んだ。

  「ん・・・?」

  春蘭は秋蘭の方に顔を向ける。

  「どうやら、蜀の拠点・麦城にて正和党に討たれたらしい。」

  「んなっ!?」

  「何だと!?確かなのか、秋蘭!!」

  秋蘭の言葉が信じられないのか、霞の顔は驚きに変わり、春蘭はその真偽を秋蘭に確かめる。

  「確かだ、姉者。何でも正和党の姜維という者に真っ正面から斬られたらしい。

  その後、関羽の姿を見た者はいないそうだ。」

  「何と・・・、正和党にはそれほどの豪傑がいると言うのか・・・!」

  秋蘭の言葉を聞いてもなお、春蘭は愛紗が討たれたという事実が信じられなかった。

 そんな姉を余所に、秋蘭は話を続ける。

  「それに加え、蜀北部から侵攻してきた五胡や呉から侵入してきた正体不明の集団の

  対処による戦力の分断、加えて軍を脱退する者の続出・・・それらが重なり、蜀の戦力は

  大幅に削られ、結果蜀軍は劣勢にたたされてしまったものかと・・・。」

  「泣きっ面に蜂とはまさにこの事ね。桃香も随分と苦労しているようね。」

  秋蘭の報告を聞き終えた華琳は、皮肉気味にそう言った。

  「華琳様、ここは我々も救援に・・・!」

  春蘭は華琳に迫る勢いで進言する。

  「あら春蘭、救援に行くってどちらを助けるというの?」

  「勿論、蜀軍を!」

  「春蘭・・・、蜀軍と正和党の戦はあなたが思っている以上に根が深いものなのよ。

  劣勢だからという理由で、蜀軍に手を貸すと言うほど、単純ではないの。」

  「そ、そうなのか、秋蘭?」

  「うむ、後で説明してやろう。」

  「確かに目に余る事態だけど、所詮は蜀内の問題、救援を求められたのならともかく

  私達が好き勝手に介入する訳にはいかないわ。それに私達は他人の心配をしていられる

  余裕も無い事だし・・・。まずはそちらを最優先に対処しないといけないわ。」

  「は、まずは五胡を叩き斬る!ですよね、華琳様?」

  と、春蘭は華琳の様子をうかがう・・・。そんな彼女の姿を見て、華琳は楽しそうな顔を

 するのであった。

  「その通り。何が目的なのか・・・、それは私にも分からないけど。

  私達の国を許可なく素通りするような無礼者達をにはそれ相応の報いを

  与えなくてはいけない、でしょう?」

  そう言って、華琳は王宮にいる彼女達に不敵な笑みで問いかけた。

 ちょうどそんな時であった。

  「華琳様ーーー!!お待たせしましたでーーー!」

  王宮に一人、真桜が大声を出して入って来た。華琳達は皆、真桜に注目する。

  「真桜!!貴様、この神聖な軍議に遅れて来ておいてなんだその態度!」

  真桜の態度に、春蘭は怒りを露わにする。だが、肝心の真桜は悪びれた様子も無かった。

  「遅かったわね、真桜・・・。」

  「いやぁ~、隊長がちぃ~とごねるんで、ちぃ~とばかし。」

  「ふふっ・・・、そう♪」

  真桜の話を聞いて、華琳はくすくすと笑う。しかし、春蘭達には何の事がまるで

 分らなかった。

  「真桜、一刀は?」

  「王宮の外で今か今かと待っとるでぇ~。」

  「そう。なら、入れなさい。」

  「はいな~。隊長、もうええで!華琳様達にその姿をご披露してや~♪」

  真桜がそう言うと、王宮に一人・・・ゆっくりと照れ臭そうにしながら入って来る。

 その人物に、彼女達は釘付けとなる。

  「ほ、北郷・・・、何だその姿は!?」

  春蘭は一刀の姿を見て、驚きながらも目を丸くして彼の姿を舐め回すように見る。

 この後、秋蘭に見過ぎだと言われる・・・。

  「ほうー・・・。」

  秋蘭は一刀の姿を見て、感嘆の声を出す。

  「おおー・・・。」

  風は一刀の姿を見て、呆けた声を出す。

  「成程・・・、これは中々・・・。」

  稟は一刀の姿を見て、一人納得する。

  「へぇー・・・。」

  桂花は一刀の姿を見て、若干気に喰わなそうな顔をしながらも

 彼の姿を見ている。

  「めっちゃかっこええやん、一刀!」

  「すっごーい!兄ちゃんかっこいい!」

  「お似合いですよ、兄様!」

  「すごくかっこいいのー、隊長!」

  「とてもお似合いです、隊長!」

  「当然やでぇ!ウチが腕によりをかけて作った自信作なんやからな~!」

  王宮内は、新たな鎧を身に纏った一刀の品評会が繰り広げられていた。

 華琳は王宮の座に座りながらまるで自分の事のように嬉しそうな顔をしながら、

 一刀を見ていた。

  「どうかしら、一刀?私が真桜に特注で作らせた鎧は・・・。」

  華琳は一刀に尋ねる。

  「正直・・・、驚いている。こんな物を作っていたなんて知らなかったからさ。」

  一刀はまだ着慣れていないのか、一刀は腰をひねったり、肘を曲げたりと鎧を身に

 纏った自分の体を動かしながら、華琳の問いに答えた。

  「それは当然でしょうよ。あなたを驚かせるために用意させたのだから。」

  「でもどうして、わざわざ俺に・・・?」

  「戦場に立つ以上、それ相応の恰好というものが必要になる。」

  「そのための、これなのか?」

  「ええ。」

  華琳はそれ以上の事は言わなかった。恐らく、華琳は一刀がその異能の力を使って

 でも戦わなくてはならない理由があるのを知り、その上で彼の身を案じて特注の鎧を

 作らせたのだと、一刀はおぼろげながらに感じた・・・。

  「真桜、一刀の鎧について説明をしてくれないかしら?」

  「はいな。まぁ・・・、見ての通り、隊長の象徴ともいえる白い上着の下に鎧を

  身に着ける事で、極力隊長らしさを損なわないようにしてみたんや。ちなみに

  上腕の防具は華琳様のそれとお揃いで作ってみたで~。後、機動性を重視して鎧を

  軽量化したんやけど、代わりに防御面が弱くなっとるのが難点かな~。」

  「だ、そうよ一刀。」

  「つまり無茶はするなと。」

  「そう言う事ね。」

  「俺は別に無茶はした覚えは・・・。」

  「無い?」

  「有ります、はい。」

  「・・・さて、一刀の品評会もこの辺にして、行動に移りましょう。皆出撃準備!」

  そして華琳達は軍を率いて急ぎ長安に出現したという五胡の軍勢を追いかけるのであった。

 

  「おい、祝融。魏に現れた五胡の軍勢はお前の仕業か?」

  「いいえ、私はそのような指示を出した覚えはありません。」

  「覚えが無い?じゃあ、何で魏に現れたんだ!!」

  「勘違いしないで下さい。」

  「勘違いだとぉ!」

  「そう勘違い・・・、魏に現れたのは五胡の姿を模した人形。

  北郷一刀を真実に導こうとする、彼等の所業・・・。」

  「・・・そうかい、奴か?干吉の仕業か?」

  「彼等の中で、そのような真似が出来るのは彼だけですからね。」

  「ちぃっ!南華老仙がいなくなったってのに・・・、まだ邪魔してくるかよ!

  ふざけんなよ!ただでさえ、女渦が余計な事をして孫策達が蜀に来ているってのに!」

  「・・・女渦の件は上手く事が進んでくれたので何ら支障は出ませんでしたが・・・、

  今回はどうもそうはいかないようですね?」

  「ふざけんじゃねぇぞっ!!」

  「どちらに?」

  「俺も成都に行く。折角ここまで順調だってのに、最後で頓挫させられるかって!」

  「脚本家が表舞台に立つのですか?」

  「俺が書いたシナリオを勝手に書き換えようとしている奴がいるんじゃ、脚本家が

  出しゃばらざるを得ないだろ?」

  「・・・そうですか。では、無理をなさらぬように。」

  「はいよ!」  


 
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