これは、OTAKU旅団ナンバーズがまだ10人にも満たなかった頃の出来事…
「くそ、こっちにもいないぞ!!」
「探せ!! 貴重な実験体だ、絶対に逃がすな!!」
某次元世界、とある研究施設。研究員や警備員達が慌ただしい様子で施設内を駆け回っていた。この施設にて行われていた違法研究の実験台にされていた被験者が1人逃走したのだ。万が一施設から脱走されて管理局に存在を知られてしまえば、この施設も管理局の魔導師に乗り込まれる羽目になってしまう。
「はぁ、はぁ…」
そんな状況の中、倉庫の内部に隠れている1人の少女。何も着る物が無い故に布で全身を隠している褐色肌のこの少女こそ、逃走した被験者その者だった。赤い血が滲んでいる右腕の包帯を押さえながら、少女はこの施設の人間達に見つからないよう願う事しか出来ないでいた。
「―――んだ貴様!?」
(…?)
その時、研究員達の騒ぎがまた更に激しくなり始めた。しかしその騒ぎは、逃走した自身を探しているが故の騒ぎではなかった。
「や、やめろ!! 来るな…ギャッ!?」
「助け……おごぁ!?」
肉が潰れる音。拳銃の発砲音。何者かによって研究員達が次々と殺害されている声だ。そんな彼等の声は徐々に鮮明に聞こえるようになっている事から、その何者かが少しずつ少女の隠れている倉庫まで近付いて来ている事が少女にも分かった。
「―――ここで間違いありませんか?」
「―――はい、ここから生体反応が1人」
(…ッ!?)
直後、倉庫の入り口の扉がバキンと破壊された。そこへ入り込んで来たのは、白いトレンチコートにサングラスを着用した肌色の悪い大男、白衣を着た黒髪ショートヘアの女性、そして同じく白衣を身に纏った銀髪と眼鏡が特徴的な青年。3人が倉庫に入り込んで来たのを音で理解し、少女は3人に気付かれないようコッソリ様子を見ようとしたが…
「そこに隠れてるのは分かっていますよ?」
「!? あ…」
…その行いは無意味だった。気配で少女の居場所を感知していた銀髪の青年は、少女が隠れている木箱の蓋をパカリと開き、木箱の小さい穴から様子を見ようとしていた少女は驚きの表情を浮かべる。銀髪の青年はそんな少女の顔色をただ静かに見つめる。
「…ふむ、なるほど。流石の私もこれは驚きましたねぇ。まさかこんな若い娘が、ベロニカウイルスに完全な適合を果たしているとは」
「…だれ…?」
「おっと失礼……こんにちは、お嬢さん」
「私はアルファ・リバインズ。あなたをここから連れ出す為にやって来ました」
「スピア、あの施設がそうだな?」
「はい。確認が取れました」
その研究施設に接近する1機の大型ヘリ。そこに乗り込んでいたのは管理局直属の魔導師部隊、そして管理局公認の雇われ傭兵部隊に所属する青年―――ミロシュ・バーフォードだ。生き物が生息していないはずのこの次元世界で生体反応が確認された事から、次元犯罪者が関係している可能性があると踏み、こうして魔導師で構成された部隊が出動する事となり、雇われ傭兵部隊の一員であるミロシュにも声がかかり部隊に同行する事になった。しかし何故彼が同行する羽目になったのかと言うと…
「全く、カンナ隊長め。私達とて他の仕事があって暇じゃないのに、さも当然のようにパシリとして扱ってくれるものだな…」
「す、すみませんミロシュさん! カンナ隊長に代わって謝罪します…!」
「あぁいや、良いんだ。君達は何も悪くない」
そう、今回も
「お、恐らくですが、カンナ隊長もミロシュさんの力を認めているんだと思います。ミロシュさんには非常に申し訳ない話ですが、ミロシュさんが援護してくれたおかげで助かった任務もあったのは事実ですし…」
「本当にそう思っているのかねぇあのサディスト女は……ただ単に私で遊んでいるだけなんじゃないかと、私は今でも心の底から疑っているよ」
「だ、大丈夫です! 私達はミロシュさんの事を心強いと思っていますから!」
「ミロシュさん、今度一緒に飲みに行きましょう! 俺達が奢りますよ!」
「…すまない。君達の言葉と弟子達の存在が、今の私にとって一番の癒しだ」
スピア達の励ましに、思わず感動の涙を流すミロシュ。カンナから散々な扱いばかり受けている彼にとって、こうして労ってくれる者達は非常にありがたかった。
「…! スピア隊長、ミロシュさん! 施設から謎の爆発が!」
「「!」」
ミロシュ達はすぐに真剣な表情に切り替わり、謎の爆発を起こしている施設の方に視線を向ける。
「何が起きてるんでしょうか…?」
「…急いだ方が良さそうだな。皆、戦闘準備は出来てるな? まずは私が向かった後、君達は後から続いてくれ」
「「「「「了解!」」」」」
何故爆発が起きたのか?
それは数分前の事…
「な、何者だ貴様等……ゲフッ!?」
「悪いが、大人しく寝てな」
研究施設入口。入口の警備をしていた2人の警備員が、顔に斜めの一本傷を持ったオッドアイの青年により呆気なく叩きのめされていた。その青年に同行していた少女が背中に装備していたバックパックを変形させ、構えた2本のブースターライフルを連射し入口の扉を破壊。入口を固く閉ざしていた扉が大きな爆発音と共に無理やり抉じ開けられた。
「し、侵入者だぁ!?」
「くそ、警報を鳴らせぇ!!」
施設全体に警報が鳴り響き、侵入者である2人に向かって警備員達が一斉に襲い掛かる。しかし侵入者2人は襲い来る警備員を片っ端から素手で薙ぎ倒し、余裕そうな表情で施設の最深部へと突き進んで行く。
「
「兄さん、良いの? こんなに騒ぎを起こして…」
「どうせ俺達も指名手配されてる身だ。ここまで来ちまった以上、思い切って開き直ってやろうじゃないか」
『それに、レイとユイちゃんに勝てるような奴がいるとは思えないしねぇ~♪』
オッドアイの青年―――レイ・アカツキは携帯電話らしきツール―――オーガフォンを銃に変形させてから警備員達を狙い撃ち、レイに同行している少女―――ユイ・アカツキは背中のバックパックから引き抜いたトンファー型の武器で接近を許した警備員を確実に倒していく。そんな時、レイの身体に憑依していた少女―――フィアレスがある事に気付いた。
『…あれ?』
「どうした、フィア」
『一体誰だろう? 地下の最深部辺りに、私達以外の侵入者の反応が確認できたんだけど…』
「何? どういう事だ」
「…先に侵入していた人達がいる?」
「…急いだ方が良さそうだな。ユイ、急ぐぞ」
「分かった」
「博士、この警報は…」
「大方、私達以外の侵入者が堂々と入り込んで来たんでしょう……全く。せっかく隠密に行動していたのに、傍迷惑な侵入者さん達ですねぇ」
施設の地下最深部。倉庫から少女を連れ出したリバインズ一行もまた、迫り来る警備員達を一人ずつ順番に倒しながら施設内を歩き回っていた(と言っても、戦っているのはリバインズに従っている大男1人だけだが)。当初は隠密行動を計画していた彼等だったが、入口から堂々とレイ達が侵入して来た事で施設全体に警報が鳴り響いてしまい、その騒ぎの中で彼等の存在も気付かれてしまった為、仕方なく彼等も開き直って堂々と施設内を突き進んでいる訳である。なお、彼等に連れられている褐色肌の少女は現在、リバインズに同行している女性―――イーリスから借りた白衣で上手く裸体を隠している状態だ。
「さて、イーリスさん。この先で間違いありませんね?」
「はい。ベロニカウイルスの研究データはこの先の部屋に残されている物で最後です」
「やれやれ。一体誰なんですかねぇ? ベロニカウイルスなんて危なっかしい物をこんな堂々と研究している大馬鹿な人間は……いちいち回収しなければならない私達の身にもなって欲しいですよ」
「……」
「おや、失礼。あなたに対して言った訳ではありませんよ? お嬢さん」
リバインズの発言を聞いた褐色肌の少女は、暗い表情を見せながらその場に立ち止まる。
「…私も、処分するの…?」
「まさか! ベロニカウイルスへの適合率が高いあなたを、何故処分しなければならないのですか? 理解が出来ませんね」
「だって……ここの人達、私を処分するって言ってた…」
「…なるほど。どうやら、ここの研究者達は何も分かっていないようですねぇ。人間の姿を保ちながらもベロニカウイルスの力を発揮できる彼女が、どれだけ価値のある存在なのかを」
「分かっていないというより、まだ気付いていない可能性の方が高いかと思われます。ベロニカウイルスで生まれた生物兵器のデータを予め盗んでみましたが、ここの研究員達は皆、制御が利かないという理由でほとんどの生物兵器を破棄処分していますので」
「つまり、彼女が他のベロニカウイルスによる生物兵器を操る能力に気付いていないと……いや、彼女がそうしようとしていないのだから、気付けないのも当然ですか。頭が悪いにも程がありますね」
「…?」
「あぁ失礼、こちらの話です……何にせよ、彼女の存在は我々にとって貴重です。ここに残されているデータを処分した後、すぐに彼女を連れて帰還しましょう。しかしベロニカウイルスの適合者にこんな所でお会い出来るとは私も非常に運が良いですねぇ、帰ったら楽しみですよフフフフフフフフ…」
傍から見れば誰もが怖いと思うであろう笑顔を見せるリバインズ。そんな彼の後ろ姿を、褐色肌の少女は何が何だか分からずポカンとした様子で見ており、そんな彼女にイーリスが姿勢を低くして優しく語りかける。
「大丈夫よ。あの人に付いて行けば、殺されないで済むわ」
「…助けてくれるの…?」
「もちろん。確かに見た目はかなり胡散臭いかもしれないけれど……あの人は、生きる価値があると分かった人を決して見殺しにはしない。それだけは自信を持って言えるわ」
「……」
その時、一番先頭で警備員達を叩きのめしていた白服の大男―――イワンが何かを察知したのか、来た道を振り返りながら警戒態勢に入る。
「おや、入口の侵入者達が近付いて来ているようですね……せっかくですし、イワンの実戦調整も済ませておきましょうか」
「殺せ!! 生かして帰すな!!」
「邪魔だ!!」
「「「「「ギャァァァァァァァァァァァッ!!?」」」」」
リバインズ一行が辿って来た通路。レイが振るった長剣オーガストランザーによる斬撃で警備員が一掃され、ユイは背中に装備したバックパック―――フライングアタッカーを飛行モードに切り替えて一気に突破していく。
『!! 2人共、ストップ!!』
「フィア、どうし―――」
-ドゴォンッ!!-
「―――ッ!!」
「兄さん!!」
レイが両腕で頭を守る体勢になった直後、そこへ通路の先から猛スピードで突っ込んで来たイワンの強力なパンチが炸裂。それを見たユイがすかさずフライングアタッカーのブースターライフルから弾丸を連射するも、イワンはまるで意に介さない様子でユイにも襲い掛かる。
「ッ……何だコイツは…!!」
『防弾コートを着た禿げ頭の大男……レイ、コイツB.O.W.だよ!! 確かタイラントって名前の!!』
「B.O.W.だと!? それにタイラントって、確かアンブレラはもう潰れた会社じゃ…」
「アンブレラの残党が、ここにいるのかも…ッ…!!」
空中飛行でイワンのパンチを回避したユイがレイの隣に降り立ち、イワンは2人を通せんぼするかのように通路に立ち塞がる。
「この施設を守る番人か? 何にせよ、ここに何かあるのは間違いないな」
「兄さんとフィアは先に言って……コイツは私が倒す」
「悪いなユイ、無理はするなよ?」
「大丈夫……負けないから」
レイは素早い動きでイワンの脇をすり抜け、それを食い止めようとするイワンの右腕にブースターライフルの弾丸が命中。レイが先へ進んで行った後、それを追いかけようとしたイワンにユイがトンファーで襲い掛かる。
「兄さんの敵は私の敵……大人しく死んで? 物言わぬ人形さん」
「…!!」
トンファーの一撃を受けたイワンが壁に激突し、そのまま壁を破壊し別の部屋へと移動。そこへユイが一発の魔力弾を放射。しかし彼女の放った魔力弾はイワンに命中する直前で、突如魔力が霧散し消滅してしまった。
「!? これはAMF…?」
当然、考え事をしている暇は無く、すかさずイワンが猛スピードで殴りかかって来た。ユイがかわすと同時にイワンの拳が壁を勢い良く破壊し、部屋がどんどん破壊されていく。
「面倒…!」
その時…
「「―――ッ!?」」
ユイとイワンは同時に何かを察知し、その場から大きく後退。すると2人が立っていた場所にいくつもの斬撃が飛び交い、床や壁に大きな亀裂を作り出した。
「そこの2人、御用改めだ」
「あなた達には聞かなければならない事があります。ご同行を願えますか?」
ユイが振り向いた先に現れたのは、刀剣型アームドデバイス『イーラ』を構えたミロシュと、穂が5つに分かれた槍型アームドデバイス『ブリューナク』を構えたスピアだ。その後方には部下の魔導師達も駆けつけ、ユイとイワンに向かって一斉にデバイスを構える。
「ッ……管理局の魔導師…!!」
「ふむ、やはり大した研究成果は得られていないようですね」
最深部の研究室。そこにいた研究員達はイーリスが一人残らず撃退し、リバインズは研究室のパソコンからUSBメモリで全ての研究データを盗み出している真っ最中だった。褐色肌の少女はオドオドした様子でイーリスの背中に隠れながらリバインズの後ろ姿を眺めている。
「さて、情報は全て奪いました。後はこの施設を破壊してお仕事完了ですね…『ドガァン!!』…む?」
その時、研究室の扉が轟音と共に破壊された。イーリスが少女を守るように立つ中、煙で見えない入口からレイがその姿を現した。
「!! お前は…」
「ほぉ、侵入者さんですか。辿り着くのがお早いですね」
「…手配書で見た事がある。アルファ・リバインズだったか? あちこちの次元世界で悪い噂ばかり聞いてるぞ」
「あらま、私も随分と有名になったものですねぇ。まさか顔も覚えて貰えるとは嬉しい限り」
「…お前は何故ここにいる? ここの関係者か?」
「仮にそうだと言ったら、どうなさるつもりで?」
-ガギィンッ!!-
リバインズがそう告げた直後。駆け出したレイがオーガストランザーを振るい、リバインズは手元に出現させた刀剣状のPSIエネルギー“
「博士!!」
「下がっていなさい」
イーリスが助太刀に入ろうとするが、リバインズがそれを制する。リバインズとレイは剣を交差させたまま互いの顔を見据える。
「お前が何の目的でここにいるかは知らねぇが……お前は放置したら危険だと、俺の勘がそう告げている」
「おや、鋭いですねぇ。あなたのその勘は正解ですよ♪」
両者同時に後退し、リバインズの振るう
「そういえば、あなたの顔も見た事がありますねぇ。傭兵集団アルカディアでしたっけ? わざわざ管理局に指名手配までされてご苦労様です」
「ッ……ちっとも労ってる顔には見えねぇな…!!」
「あれ、やっぱり見えません? 最近気にしてるんですよねぇっと」
リバインズは2本の
「む…!!」
「博士ッ!!」
「あ…!」
リバインズはPSIで肉体の硬度を高める事でダメージを軽減するも、パンチを喰らった勢いで壁まで吹き飛び、土煙が舞い上がる。イーリスが叫ぶ中、リバインズを壁まで追い込んだレイはオーガストランザーをリバインズの首元に向ける。
「ッ……なるほど。伊達に、管理局に喧嘩を売っている訳ではないようですね」
「こっちの力、甘く見て貰っちゃ困るって話だ…!」
プッと血を吐き捨てるリバインズに、レイは構えたオーガストランザーをそのまま突き立てようとする……しかし。
「待って…!」
「!?」
そんなレイの前に、褐色肌の少女はリバインズを守るように割って入った。レイは慌ててオーガストランザーを突き立てようとした右手を止め、リバインズは少女の取った行動に目を見開いた。
「! お嬢さん…」
「やめて……この人を、攻撃しないで…!」
「!? 君は…」
その時、レイに憑依していたフィアレスが慌てた様子で叫んだ。
『レイ、マズいよ!! 管理局の魔導師達がすぐそこまで来てる!!』
「!? 管理局だと…!!」
その時だ。研究室の天井が破壊され、リバインズとレイの前にイワンとユイが同時に着地した。イワンは全身に身に纏っている白い防弾コートが数ヵ所ほど破けており、ユイは負傷して血の流れている右腕を辛そうな表情で押さえている。
「ユイ、大丈夫か!?」
「兄さん、気を付けて…! 奴等が…」
破壊された天井の穴から、無傷のミロシュとスピア率いる魔導師部隊が一斉に降り立った。彼等は一斉にデバイスを構え、リバインズ一行とレイ達を取り囲む。
「アルカディアのレイ・アカツキに、アルファ・リバインズだな?」
「あなた達を逮捕します。逃走は許しません!」
「…おやおや、最近の管理局は飼い犬が優秀ですねぇ。嗅ぎつけるのが早い早い」
竜神丸は口元の血を拭った後、右手に生成したナイフ状のPSIエネルギーを背の後ろに構える。しかしそれに気付いた一人の魔導師が銃型デバイスから即座に銃弾を発射、リバインズの生成したナイフを撃ち砕く。
「ありゃ?」
「貴様、動くな!!」
「…なるほど、1人1人が実に良い動きをしますねぇ。ですが」
-ズズゥゥゥゥゥゥン!!-
「「「「「!?」」」」」
突如、施設全体を謎の地響きが襲い、その場にいた一同が体勢を崩しかける。すると施設全体にとあるアナウンスが鳴り響いた。
≪爆破装置が作動しました。繰り返します、爆破装置が作動しました。停止する事は出来ません。研究員は速やかに最下層次元転移装置から脱出して下さい≫
「!? 自爆装置か…!!」
「ここのデータを盗むついでに作動させておきました。モタモタしてると危ないですよ~?」
「ッ…真空裂衝撃!!」
「「「「「な…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
ミロシュ達が自爆装置に気を取られた隙を突き、レイはすかさずオーガストランザーを床に突き立て、周囲に強力な剣圧を飛ばす。油断した魔導師達が吹き飛ばされる中、レイは負傷しているユイを連れて脱出を図る。
「ユイ、まだ動けるか?」
「ん、大丈夫…!」
「よし、急いで脱出し……ッ!?」
殺気を感じ取ったレイがオーガストランザーを構えた瞬間、レイの眼前に向かってミロシュの構えたイーラが突き立てられた。もしオーガストランザーを構えなかったら、間違いなくイーラの刃先がレイの顔面に命中していた事だろう。
「自爆装置とは、面倒な事をしてくれたな…」
「おいおい……作動させたのはアイツだ、俺達じゃない」
「お前達に恨みは無いが……ここが爆破する前に捕まえさせて貰う!!」
「悪いが遠慮するぜ!!」
そのままミロシュと斬り結ぶレイだったが、その顔は厄介そうな表情を浮かべる。自身が繰り出す攻撃は悉くミロシュに読まれて受け流されるのに、ミロシュが繰り出す攻撃はチマチマとレイの手足をチマチマと傷つけるように攻めて来ているのだ。
(そうだ!! こいつ、管理局の雇われ傭兵部隊のミロシュ・バーフォードじゃねぇか!! 道理でこんなにも強い訳だ…!!)
「兄さん!!」
ミロシュを相手に苦戦しているレイに助太刀しようとするユイだったが、そんなユイの前にはスピアが立ちはだかり、スピアの突き立てたブリューナクがユイの展開したバリア魔法で防がれる。
「あなたの相手は私です!!」
「ッ…邪魔しないで…!!」
レイとミロシュ、ユイとスピアが対峙する中、リバインズはイーリス達を連れてコッソリ脱出しようと目論んでいたのだが、流石にそう簡単にいく状況ではなかった。
「アルファ・リバインズ!! これ以上の抵抗は許さん!!」
「大人しく投降しろ!!」
「…やれやれ。管理局の魔導師さん達はご熱心な事で……む?」
これまで何度も管理局の魔導師に追われて来たリバインズは、あまりのしつこさにいい加減ウンザリだと言いたげな表情を浮かべる。するとそんなリバインズの前に、再び褐色肌の少女が彼を守るように立ちはだかる。
「ん、女の子…?」
「君、その男は危ない!! 早く離れるんだ!!」
事情を知らない魔導師達は、少女にリバインズから離れるよう呼びかける。しかし少女はリバインズから離れるどころか、リバインズを逮捕しようとしている魔導師達に敵意を向けていた。
「やめて……この人を攻撃しないで……」
「!? あなた…」
その時、少女の着ていた白衣の右袖が徐々に燃え始める。それを見たリバインズは驚愕の表情を見せる。
「この人を……連れて行かないでっ!!!」
「「「「「なっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」」
少女が右腕を振るった瞬間、右腕から飛び散った血液が突如発火し、灼熱の炎となって魔導師達に降りかかる。そして接触すると同時に発火した血液が大爆発を引き起こし、リバインズを捕まえようとしていた魔導師達を纏めて吹き飛ばしてしまった。
「!? 何…ッ!!」
『レイ、あの女の子…!!』
「なっ……まさか、あの子がやったのか…!?」
褐色肌の少女が魔導師達を吹き飛ばしたのを見て、レイやミロシュ達も驚愕する。しかし次に流れてきたアナウンスは、驚いていられる暇を彼等には与えようとしなかった。
≪爆発まで残り3分です。繰り返します、爆発まで残り3分です≫
「! …引き時か」
「そのようだな…!」
レイとミロシュは同時に後退し、ミロシュはスピア率いる魔導師達の下に駆ける。
「スピア、撤退するぞ!! 傷の浅い者は負傷者を運べ!!」
「はい!!」
「兄さん、私達も…!」
「あぁ…!」
レイ達も施設からの脱出を図る一方、リバインズ達は今も右腕が僅かに発火している少女の下に歩み寄る。今の攻撃でかなりの体力を消費したのか、少女はその場に膝を突くと共に右腕の炎も消え、全身から大量の汗を流している。
「ッ……はぁ、はぁ、はぁ…!」
「…博士、先程彼女が放った炎は…」
「恐らく、彼女の中のリンカーコアとベロニカウイルスが何らかの共鳴を起こし、爆発的な火力をもたらしたのでしょう。魔力のコントロールが出来ていないせいで、体力の消費も早いようですが」
「はぁ、はぁ、はぁ……私、は…!」
「ご苦労様です。今は休みなさい、今後の為にも」
「!? あっ……」
リバインズは少女の首元に注射器を打ち込み、少女はその場に倒れて眠りについた。リバインズはお姫様抱っこの要領で少女を抱きかかえる。
「研究所まで帰還します。イーリスさんは戻ったらイワンのメンテナンスをお願いします」
「了解」
「さて……全く、今回は面白い拾い物をしましたねぇ。フフフフフフ…」
リバインズ一行はテレポートによって施設から一瞬で転移し、施設を後にする。それから3分が経過し、施設はアナウンスの通りに大爆発を引き起こし、その次元世界から跡形も無く消滅するのだった。
「しっかし危ないところだったねぇ~2人共」
施設が爆発しているのを見ながら、レイ達は傷の手当てに専念していた。レイへの憑依を解除したフィアレスがユイの傷を手当てする中、レイは今も爆発を続けている施設を見ながら考え事をしていた。
「あり? どうしたのレイ」
「ん、あぁ。ちょっとな…」
「…あの女の子の事?」
ユイの言葉にレイが頷く。ユイもフィアレスもやっぱりと言った顔を見せる。
「あの女の子、あんな凄まじい力を発揮したよな……リバインズの下に行っちまったかと思うと、あの子の将来が不安で仕方ない」
「ん~…でもあの子、見た感じだと自分の意志で魔導師達を吹っ飛ばしたように見えるしなぁ。たぶん私達が助けようとしても同じ結果になってたんじゃない?」
「…否定出来ないのが悔しいもんだな」
「…次に会った時、リバインズに問い質せば良い…」
「ま、それしか無いよなぁ……奴等の方には俺達から尋ねなければいけないようだ」
「あ、でもミロシュ・バーフォードとまた戦うのは御免だよ? 管理局側にあんな強い人がいるなんて思ってもみなかったし」
「…確かになぁ。今回は逃げ出せたが、次はどうなる事やら…」
「…これはもう追跡出来そうにないな」
一方でミロシュ達も、爆発する施設を眺めながら負傷者の手当てに専念していた。現時点で無傷なのはミロシュとスピアしかおらず、それ以外は傷の具合に関係なく全員負傷している為、この状態ではとても追えそうにないと判断し、レイやリバインズへの追跡を断念したようだ。
「ミロシュさん、リバインズが連れていたあの女の子は…」
「…リバインズ共々行方が分からなくなった以上、いくら心配したところでどうにもならない。まずは負傷者の回復に専念しよう。話はそれからだ」
「…はい!」
そして、少女を連れ去ったリバインズ一行は…
「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたねぇ」
自身の研究所に戻った後、イーリスは負傷したイワンのメンテナンスに向かい、リバインズは今回連れ出した少女と共に研究室の前までやって来ていた。そこでリバインズは少女の名前をまだ聞いていなかった事に気付く。
「お嬢さん、名前は何と言いますか?」
「私の、?名前…?」
名前を聞かれた少女は、少し間を置いてから、自身の名前をリバインズに明かしたのだった。
「フレデリカ……フレデリカ・ヒダルゴ」
そして、物語の月日は流れていく…
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三つ巴の戦士達