第10話 ハクタイジムのナタネ
ハクタイの森の洋館でロトムを仲間に加えたクウヤは、翌日ハクタイの森を抜けハクタイシティに到着した。
「・・・」
ポケモンセンターでポケモンを回復させたクウヤが見つめているのはズーバの姿。
クウヤがじぃっとズーバを見つめていると、ズーバの体は光を放ちみるみるうちに大きく変わっていった。
「ゴルバ!」
「はは、やっぱり進化したなズーバ!」
「ゴルバァァ!」
今朝から感じていたクウヤの勘があたった。
ズーバがゴルバットに進化したのだ。
口も翼も体も、ズバットの頃より大きくなり、鋭い目が開かれている。
「ますますやる気でてきたぜ!」
道中であった女性、モミの話によればこのハクタイシティのジムのリーダーは草ポケモンの使い手だという。
最初のクロガネジムのヒョウタは相性が悪かったものの、今回は有利なポケモンが多かった。
だがジムリーダーだ、油断はできない。
だからクウヤは今ズーバの進化を待ち、進化によるパワーアップを使ってハクタイのジムを勝利する作戦にでたのだ。
「よし、んじゃあ早速ハクタイジムに挑もうぜ!」
ズーバをボールに戻しクウヤはハクタイジムに向かい、植物園のような建物に到着した。
そこにはハクタイジムの看板があり、クウヤはここがハクタイジムだと確信した。
「ここがハクタイジムだなー!
よっし、たーのもぉぉぉぉ!!!」
クウヤはジムの前で思い切り声を出す。
するとジムの扉が開き、一人の女性が姿を見せた。
「すっごい大声ね、あなたはポケモントレーナーかしら?」
出てきたのは黒と明るい茶髪の特徴的な髪型の、動きやすそうな格好をした女性だった。
「ああ、おれはクウヤ!
このハクタイジムのバッジが欲しいから挑戦にきたぜ!」
「うっふふ、元気一杯で威勢がいいわね、気に入ったわ!
わたしがハクタイジムのジムリーダー、ナタネよ!
あなたの挑戦、受けてあげるから早速、バトルフィールドに移動しましょうか」
「うん!」
そうしてクウヤはナタネに案内され、ジムの奥にあるバトルフィールドにむかう。
「うわぁ」
道中は本当に植物園のようで、草ポケモンもたくさんいた。
サボネア、ラフレシア、ロゼリア、ウツボットにワタッコ、マスキッパやトロピウスにチェリムもいる。
「ホンットに草ポケモンだらけだ」
「そう、わたし草ポケモンって大好きなのよ!
小さい頃からよく一緒にいたわ、マスキッパとかウツボットに噛まれたりもしたけどね!」
「・・・え、それでナタネさん、大丈夫だったの?」
「もっちろん、草ポケモンだから受け入れたのよ!
むしろ草ポケモンなら大歓迎よ、ふふふ!」
「あ、そ、そーなんだ・・・へぇ・・・」
明るい調子でとんでもない話をするナタネに対し「これもポケモンに対する愛情なのか?」と、クウヤは苦笑いするしかなかった。
そんな調子で到着したバトルフィールド。
周囲に草木が生い茂っているが地面はしっかり整っている。
「これより、ルネシティのクウヤと、ハクタイジムジムリーダーのナタネによる、バッジをかけた公式戦を行います!」
互いに所定の位置に着き、審判が勝負の合図を送る。
「使用ポケモンは3体!
両者、準備はよろしいですか!」
「ああ!」
「ええ!」
二人はそれぞれ、一番手のポケモンが入ったモンスターボールを構えた。
「では、試合開始!」
「いっくわよ、チェリム!」
「出番だぜ、トーム!」
ナタネが出したのは、以前戦ったことのある草ポケモン、チェリンボの進化系チェリム。
対するクウヤが出したのは、昨日ゲットしたばかりのロトムのトームだが、その姿を見たとたんにナタネはさっと青ざめる。
「そ、それってもしかして、ロトムー!!?」
「え?」
「あなたまさか、森の洋館にいったの!?」
「ああ、昨日の夜そこで雨宿りと野宿したけど?」
クウヤが事実をそのまま口に出すとナタネが変なうなり声をあげて頭を抱えた。
「あ、あんなとこで一晩過ごすなんて・・・!」
「な、ナタネさん?」
「・・・えぇぇい、負けないわよ!」
「え」
「にほんばれよ、チェリム!」
なにか吹っ切ったかのようにナタネはチェリムににほんばれの技を指示した。
フィールドに注ぐ日差しが一層強くなり、チェリムの姿が蕾から桜に変わる。
「マジカルリーフ!」
「あやしいかぜ!」
マジカルリーフとあやしいかぜがいきなりぶつかり散っていった。
最初からお互い、勢いでぶつかったのだ。
「もういちど、あやしいかぜだ!」
「エナジーボール!」
あやしいかぜはエナジーボールにかきけされ、さらにとんできたマジカルリーフがトームをおそう。
「でんきショック!」
すぐに発生の早い電気攻撃を指示しチェリムを攻撃するが、草タイプに電気技はあまり効果がなかった。
「それくらい敵じゃないわ、チェリム!
とどめのエナジーボールよ!」
「チェリィ!」
エナジーボールをかわしきれず、トームはそれを受けてしまう。
「トトーーーッ!」
「トーム!」
トームは気絶していた。
「ロトム戦闘不能、チェリムのかち!」
「ゆっくりやすむんだトーム」
クウヤはトームをモンスターボールに戻すと、すぐに別のボールを取り出しそれをフィールドに投げた。
「次はお前だ! いけヒーコ!」
2番手として出てきたのはヒーコだった。
「ひのこ!」
「マジカルリーフで相殺して!」
「マッハパンチ!」
「かわすのよ!」
相殺に成功し次の技を回避させようとしたが、チェリムは急に動けなくなりマッハパンチを受けてしまう。
「どうしたのチェリム!?」
「あいつの電気が今効いたみたいだな!」
「まさか、さっきのでんきショック!?」
どうやらあのでんきショックを受け止めたとき麻痺の追加効果も受けてしまっていたらしい。
自分の油断に対し、ナタネは悔しげに舌打ちする。
「よーし、かえんぐるまだ!」
そのまま繰り出されたかえんぐるまがヒットし、チェリムは戦闘不能になった。
「チェリム戦闘不能、モウカザルの勝ち!」
「やりぃ!」
「・・・おつかれさまチェリム、戻って休みなさい」
「わたしの2匹目はこの子よ、いけ、ナエトル!」
ナタネが次に出してきたのは、シンオウでは初心者用ポケモンとして親しまれているナエトルだった。
「よしヒーコ、このままつっこむぜ!」
「モウ!」
「ヒーコ、ひのこだ!」
クウヤは迷わず効果抜群のひのこ攻撃を指示したが、相手のナエトルはそれを想定外のスピードで回避した。
「ちょ、はやっ・・・!?」
「わたしのナエトルは、とにかくスピードが自慢なのよ!
さぁナエトル、たいあたりよ!」
「マッハパンチでむかえうて!」
たいあたりとマッハパンチが衝突した直後、ナタネはナエトルに別の技をそのまま指示した。
「ギガドレイン!」
「ナウゥゥ!」
「モォウ!?」
体力を吸収し自分の体力を回復させる技、ギガドレインがヒーコに襲いかかる。 ぬけだそうとするヒーコだったが、いつの間にかやどりぎのタネを受けていたために身動きがとれなかった。
「リーフストーム!」
さらにそこから、リーフストームでヒーコを攻撃し天井にヒーコをたたきつけ地面につき落とす。
「ヒーコ、大丈夫か!」
「モゥ・・・」
「はっぱカッター!」
「あなをほるでかわすんだ!」
クウヤ咄嗟にあなをほる技を指示してそのはっぱカッターを回避した。
どこからくるのだと警戒している隙をつき、ナエトルの足下を一気に崩してから地面から姿を見せる。
「全体にひのこ攻撃だ!」
ヒーコのひのこはさっきと違って広範囲に広がり、ナエトルを攻撃した。
「ナエトル!」
「みだれひっかき、いけぇ!」
連続のみだれひっかきは、ひのこの影響を大きく受けたナエトルをとらえ一気にダメージを与え、ナエトルを戦闘不能にした。
「ナエトル戦闘不能、モウカザルの勝ち!」
「やったぜ!」
「・・・やるじゃない、ますますあなたたちを気に入ったわ。
だからかしら、本気を見せて倒したくなってくる!」
ナタネは薄く笑みを浮かべると3体目のポケモンをそこに出した。
「いくわよ、ロズレイド!」
出てきたポケモンは、仮面をかぶりマントを羽織っているような姿をしたロゼリアの進化系、ロズレイドだった。
「まだいけるか・・・ヒーコ?」
「モウモウ!」
ここまで連戦だったヒーコの体力が限界かもしれないと、クウヤはヒーコとズーバを交代させようとした。
「よし、かえんぐるまだ!」
クウヤの声と同時にかえんぐるまでつっこんでいった
「やりぃ!」
「本当に?」
「なにっ!?」
ナタネが曰くありげに微笑むと、ヒーコが膝から崩れ落ちる。
その表情はどこか、苦しそうだった。
「ヒーコ!」
「この子の特性はどくのトゲ・・・直接攻撃してきた相手を毒状態にしてその体力をじわじわ減らすの」
「くっ・・・だったらこれでいくぜ、からげんき!」
状態異常の時にパワーアップする技からげんき。
その一撃を受けたロズレイドはすぐにこうごうせいで回復した。
「からげんきなんて、おもしろい技もってるじゃないの!
でも、この勝負はわたしがもらうわよ!
ロズレイド、やどりぎのタネ!」
「かえんぐるま!」
やどりぎが被弾するまえにかえんぐるまでそれをかき消したヒーコはマッハパンチでロズレイドを攻撃しようとしたが、なにかに足を取られ転んでしまう。
「なっ・・・!?」
「くさむすびよ」
ナタネは静かに、そして確実にヒーコの動きを制限していたのだ。
足にからみついた草がヒーコの機動力を奪っているすきに、ロズレイドは攻撃技を放った。
「ロズレイド、シャドーボール!」
足を封じられているだけでなく毒の影響を受けていたヒーコはそれをかわせずまともに受けてしまう。
「ヒーコ・・・!」
「モウカザル戦闘不能、ロズレイドの勝ち!」
「いいわよロズレイド!」
ナタネは自分のロズレイドをめいっぱい褒めていた。
「ここまでサンキューな、ヒーコ!
おまえの頑張り、絶対無駄にはしないぜ!」
クウヤはヒーコをボールに戻し別のボールを手に取ると、小さくうなずいてからそれを投げた。
「お前の出番だ、いけ、ズーバ!」
クウヤが最後の一匹としてそこに出したのは、今朝進化したばかりのズーバだ。
「ゴルバットか・・・どくのトゲは効かないわね。
だったら草タイプらしくこれでいくわ、やどりぎのたね!」
「かわしてつばさでうつ攻撃!」
「どくどくのキバ!」
「ギガドレイン!」
「はがねのつばさ!」
「こうごうせい!」
さっきからこんな調子だった。
ダメージを与えてもすぐ回復され、ほとんどまもるで防御され、時にはシャドーボールやウェザーボールで攻撃もしてくる。
「まだロズレイド、倒れてねぇのか・・・!」
「これが・・・この強さが、わたしの草ポケモンに対する思いのすべてよ!」
「えっ!?」
ナタネは真剣な表情でクウヤに語る。
「草タイプのポケモンを使えば使うほど、周りの人間はわたしのこと、散々なまでにバカにしてきたわ。
そんなタイプ相性で弱点が多いポケモンが好きなんておかしい、ふつうに勝てる訳ないだろ、他のポケモンを使えば確実に勝てる強いトレーナーになるだろ・・・って!」
過去に自分がいわれていた、他のトレーナーからの罵声、好きなものに対する侮辱、冒涜が彼女の頭の中によみがえる。
「でもわたしは意地でも草ポケモンと一緒にいたわ、だってこの子たちが好きなんだもの!
どうすれば相性をカバーできるか、覆せるのか、草ポケモンらしい戦い方ができるのかって、必死に勉強して覚えてトレーニングもしたわ!
だからわたしは今草ポケモンのジムリーダーになったの!
この子たちの戦い方、生き方がある、それを引き出せたらどこまでも強くなれるって証明するためにもね!」
「・・・それが、あんたの強さなのか・・・」
「そうよ!」
真剣な表情と言葉でナタネの思いを知ったクウヤはへへ、と明るく笑うとナタネの顔をまっすぐ見て言った。
「ナタネさん、あんたすげぇよ!
でもポケモンが大好きだから強くなりたいなら、その気持ちはおれも同じだ!
おれもこいつらが大好きだ、だからこの勝負にだってかつ!」
「・・・だったら、あなたもその気持ちを証明しなさい!
ロズレイド、ウェザーボール!」
日光の強さにより炎タイプの技と化したそれがズーバを直撃した。
だがズーバはそれでは倒れずロズレイドにつばさでうつ攻撃で接近しダメージを与え、さらにきゅうけつでロズレイドから体力を奪う追撃にでる。
「連続で攻めるわ、マジカルリーフ!」
ナタネはマジカルリーフでまず相手をねらい、そこからシャドーボール、ウェザーボールを連続で打ちズーバを倒す策にでようとしていた。
「・・・ズーバ、今朝図鑑でみたあの技、ためしてみようぜ!」
クウヤの言葉にズーバがうなずき、向かってくるマジカルリーフに向かってそれを放った。
「いけー! エアスラッシュ!」
最終的にマジカルリーフを打ち破りエアスラッシュはロズレイドに直撃する。
一度は立ち上がりシャドーボールを放ったがそれは回避され、つばさでうつ攻撃をまともに受けてしまう。
「ロズレイドッ!」
そのまま立ち上がることなく、ロズレイドは戦闘不能になった。
「ロズレイド戦闘不能、ゴルバットの勝ち!
よって勝者は、チャレンジャー・クウヤ!」
「よっしゃ! やったぜズーバ!」
クウヤはズーバに抱きつき、勝利を喜ぶ。
「ありがとうロズレイド、あなたは最高よ」
ナタネはロズレイドにいたわりの言葉をかけボールに戻し、クウヤに歩み寄る。
「あなたとポケモンにだったら、負けても納得ね。」
「へへ、そっかな!」
「さぁ、これがフォレストバッジよ、受け取って」
「ありがと、ナタネさん!」
クウヤはナタネからバッジを受け取りバッジケースにそれを入れた。
「でも、わたしも強くなってあなたにリベンジするわ、覚悟してね」
「ああ! もちろんだぜ!」
クウヤはまた一歩、トレーナーとして成長した。
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この小説はスローペースですね。
定期更新を決めてないとこうなります。