第4話 クロガネジムのヒョウタ
炭坑で栄えている町、クロガネシティ。 ここでは昔から多くの石炭や石油がとれ、さらに化石までみつかるとまで言われている。
「聞いた話だとこの町にクロガネジムがあるんだよな、よっしゃあ! 気合いを入れるぞっ!」
と、気合いを入れてジムとそのジムリーダーを探すクウヤの視界に二人の男性が入ってきた。 一方は眼鏡をかけた茶髪の男性でもう一方は水色がかった銀髪に黒いスーツの男性だ。
「あれ?」
その一方が知っている顔だったため、クウヤは声をかけた。 眼鏡をかけた方は彼が駆け寄る前にその場を離れていた。
「ダイゴ!」
「やぁ、クウヤくん」
ホウエン地方のチャンピオン、ダイゴ。 ホウエンを旅していた頃に何度も助けてもらった、チャンピオンというだけあって凄腕のポケモントレーナーだ。 石集めという変わった趣味を持っているが、穏やかでまじめな性格ゆえ親しみやすい為クウヤもふつうに話ができる。
「ミクリから聞いたよ、本当にシンオウ地方に来たんだね」
「あったりまえだろ、もう今この時でもわくわくしてるんだぜ!」
「はは、クウヤくんらしいね」
そんな会話をしていたら、先程ダイゴと話をしていた青年が再びダイゴに声を掛けた。 ヘッドライトのついた赤いヘルメットをかぶっており、作業着を着こみ眼鏡をかけた、明るい茶色の目と髪の若い青年だ。
「ダイゴさん、途中でお話から抜け出してすみません」
「ああヒョウタ、構わないよ。 そうだ、折角だから紹介しよう」
といって、ダイゴはヒョウタ、と呼ばれた青年にクウヤを紹介する。
「彼はクウヤくん、最近シンオウを旅し始めたポケモントレーナーだよ。 そしてクウヤくん、彼はヒョウタといって僕や親父の知り合いで、このクロガネジムのジムリーダーだよ」
「初めましてクウヤくん。 クロガネジムのヒョウタです」
「あ、ああ、よろしくな! あんたがジムリーダーなのか?」
「そうだよ」
ヒョウタは人のいい笑顔でクウヤに返事を返す。
「僕当分はこの町にいて炭坑で仕事しているから準備ができたらいつでもおいで、挑戦を受けるから。」
「ああ、サンキュ!」
とだけ言うとヒョウタは別の人に呼ばれてそっちに向かった。 別れ際にクウヤに軽く手を振って。
「なんか良い人っぽいな」
「ああ、ヒョウタはとても温厚で優しい男だよ。 それに彼は岩ポケモンと昔からふれあっているから、岩タイプのポケモンを得意としているんだ」
「え」
クウヤはダイゴの言葉にぎくりとした。
「岩使い・・・っておれ無理じゃね?」
クウヤはもう一度手持ちを見直す。 今の彼の手持ちポケモンは炎タイプのヒコザルと、毒と飛行タイプのズバットだ。 流石にトレーナーになって一年、一つの地方のジムを全部制覇した身なのだからわかる・・・相性的に不利だと。 おまけに、彼らのレベルも低く出会ってそんなに時間も多くたっていない。
「・・・えぇえい、迷ってる場合じゃねぇ! 特訓だぁーっ!!」
「あ、ちょっと、クウヤくん!」
ダイゴの制止も聞かずクウヤは特訓にかけだしていってしまった。
クロガネシティから少し離れた平地でクウヤはヒーコとズーバを外に出しトレーニングに励んでいた。
「ヒーコ、そこでひのこだ! そしてズーバはどくどくのキバ!」
2匹の技を確認しつつ技の威力を上げることに励む。 今の彼らのレベルで相性を覆すには、兎に角彼らと技のレベルをあげていくしかない。
「さすがに勢いのままつっこめねぇよな・・・ヒーコとズーバにいい技覚えさせねぇと、まずかてねぇ・・・!」
「クウヤくん、ちゃんと考えるようになったね」
「ダイゴ」
そこに先程クウヤが一方的に別れた男性が声をかけてきた。 ダイゴはクウヤのポケモンをみた。
「へぇ、ヒコザルにズバットか・・・このシンオウでまずこの子たちを仲間にしたんだね。」
「ああ」
「・・・ということは、ヒョウタの岩ポケモンにはまず適わないな」
「それ、はっきり言っちゃうか」
ダイゴの言うことはもっともなのでクウヤは否定しない。
「あんたが思っているとおり、こいつらとおれは会ったばかりだし、今はまだ相性くらい考えておかないと・・・こいつらを傷つけるだけになっちまうから、そんなのおれ、イヤだしさ」
もちろん、ポケモンバトルでの相性は基礎で大事といってもそれがすべてではない。
それを覆すことも可能なのだ。
だがそれはポケモンのレベルの高さやトレーナーとしてのレベル、そして互いに対する信頼性があってのこと。
いくらクウヤがトレーナーとしての実績を持っていたとしてもポケモンのレベルが低かったら簡単にはうまくはいかない、それは逆もしかりだ。
クウヤは自分の無謀なことに他者やポケモンに負担をかけることを拒む、だからこそポケモンと真剣に向き合ってどうしていこうかと思うようになるまでポケモントレーナーとして成長したのだ。
その悩みによる特訓こそが、その成長の証拠だった。
「彼らとは出会ってどのくらい?」
「ヒーコは今日で3日目、ズーバもまだゲットして1日しか経ってねぇんだ」
「・・・そうか・・・まだ未熟の原石・・・だが磨けば・・・」
「ダイゴ?」
自分にとってわけのわかんないことをブツブツ呟いているダイゴにクウヤは戸惑ってしまう。
「クウヤくん、この2匹に新しい技をこれから教えていくというのはどうだい?」
「え!?」
「この子たち、今からでも・・・いいや、今からだからこそ強くなっていける。 だから新しい技を今教えればすごい成長を見込めると思うんだ。」
「・・・新しい技、すごい成長・・・」
クウヤはヒーコとズーバを見た。
「やってみるか? ヒーコ、ズーバ」
「ヒッコゥ!」
「ズバッ」
クウヤの言葉に2匹は同意し、その返事を聞いてクウヤはやるぞ、ともう一度気合いを入れる。
「僕も夜までならつきあうよ」
「え、いいのか!?」
「もちろん。 クウヤくんとヒョウタにはいいバトルをしてもらいたいし・・・それに、新しい技のことだって僕から君に教えた方がいいだろう」
「そっか、んじゃあ頼むぜ!」
「ああ、頼まれたよ!」
こうしてクウヤはダイゴの指導の元、ヒーコとズーバに新しい技を教え完全にマスターする猛特訓をするのだった。
クウヤがクロガネジムに挑戦にきたのは、明後日のことだった。
「でもいいのか、あんた仕事の途中だったんじゃ・・・」
「いや構わないよ、いつでもおいでって言ったのは僕の方だ。 それに炭坑の発掘隊長でもありジムリーダーでもある以上、挑戦者の挑戦は受ける義務がある」
「そっか」
ジムリーダーとしての誇りを持っていることがわかる言葉だった。
「さて、クウヤくん、我がクロガネジムにようこそ!」
という言葉と同時にバトルフィールドの扉が開き、ヒョウタとクウヤの両者の視界に岩のバトルフィールドが入ってきた。
「使用ポケモンは2匹、どちらかのポケモンが一匹でも戦闘不能になったら負けだよ、いいね?」
「おう!」
「それでは、試合開始!」
試合開始の合図とともにヒョウタはイシツブテを一匹目のポケモンとして繰り出し、クウヤもズーバを出した。 相性的に有利だと踏んだヒョウタはイシツブテにいわおとしを指示しズーバをねらう。 ズーバはそれを素早い動きで回避しイシツブテに接近していききゅうけつ攻撃をするがあまり効果はなく、反撃の体当たりをうけてしまう。
「もう一度、たいあたりだ!」
「つばさでうつでむかえうて!」
たいあたりとつばさでうつが衝突しお互いにダメージを受ける。 だが元々堅いイシツブテには決定打にはなっていないのでズーバのほうが大きなダメージを受けている。
「イシツブテ、もう一発いわおとし!」
「ズーバ、ちょうおんぱ!」
ズーバのちょうおんぱがいわおとしを放とうとしたイシツブテに襲いかかりそれを受けたイシツブテは目を回した。
「しっかりしろイシツブテ!」
「そこだ、はがねのつばさ!」
「なに!?」
混乱しうまく攻撃ができないイシツブテにはがねのつばさ攻撃でつっこみイシツブテに大きなダメージを追わせるズーバ。 はがねのつばさはその名前の通り岩に有利な鋼の技、ダイゴとの特訓で覚えた技だ。
「イシツブテ、たいあたりだ!」
ヒョウタはそう指示をするがイシツブテに声は届いておらず、2回目のはがねのつばさもかわせず受けてしまう。 よたついたイシツブテを見てヒョウタはやむを得ずイシツブテをボールに戻した。
「・・・あの短い間でここまでやるなんて・・・ダイゴさんの知り合いというのも納得だよ・・・」
「ズーバ、やったな!」
はがねのつばさが成功したことを喜ぶクウヤ。 そんな無邪気な姿に、もっと彼と勝負がしたいという純粋な闘争心がかき立てられたヒョウタは笑い2匹目のポケモンをボールから出す。
「頼むぞ、ズガイドス!」
「ズガイドス?」
ヒョウタの2匹目は、小さい恐竜のようなポケモンズガイドス。 初めてみるポケモンに図鑑を向けて生態を確認すると、なんとズガイドスは化石からよみがえった古代のポケモンだというのがわかった。
「とにかくつっこむぜ、ズーバ! はがねのつばさ!」
「たいあたりでむかえうつんだ!」
はがねのつばさが優位に思えた衝突だったが、そのときの軍配はズガイドスに下った。 ちょうおんぱで攪乱しようとしたがすなあらしでかき消されてしまう。 2回目のはがねのつばさからのつばさでうつ攻撃でなんとかズガイドスにダメージを与えることに成功したが、反撃の体当たりもうけてズーバも体力を大きく削られる。
「ズガイドス、ずつき!」
そこでヒョウタはずつき攻撃を指示した。 勢いのままつっこんでくるズガイドスにいやな予感がしたクウヤはすぐにズーバのモンスターボールを出す。
「戻れズーバ!」
クウヤのその声とともにズーバはボールに戻り、それによってずつき攻撃を回避することができた。
「・・・あっぶねぇ・・・戻して正解だったぜ・・・!」
「賢明な判断だね」
クウヤはズガイドスがぶつかった痕跡をみて、冷や汗を垂らした。 本当にズーバを戻してよかった、と。
「頼むぜ、ヒーコ!」
クウヤが次に出したのはヒーコ。出てきたヒーコは火を噴いて気合い十分であることを周囲にアピールした。
「・・・やっぱり君の手持ちは、その2匹だけだったようだね」
このまま勝利させていただく、といわんばかりにヒョウタはズガイドスにがんせきふうじを指示した。 さらに、それを回避したヒーコにずつきの一撃を与えて一気に体力を奪う。
「ひのこだ!」
空中に投げ出されたヒーコにひのこを指示してズガイドスを攻撃しつつ接近しみだれひっかきで攻撃する。
「その程度の技じゃ、ズガイドスは倒れない!」
ヒョウタは思った。 先程のズーバと同じようにこのヒーコにも、岩タイプ対策の技があるんじゃないかと。 だからそれを出される前に勝負をつける作戦にでてがんせきふうじを連続で指示し始めた。
「かわせ、ヒーコ!」
「この岩の連続、どこまでかわしきれるかな?!」
軽々と交わし続けていたヒーコだが、ついに岩石に道をふさがれ身動きがとれなくなった。
「くっ」
「さらにがんせきふうじからのずつき攻撃だっ!」
その連続攻撃を、ヒーコは受けた。
「・・・」
「勝負あったね」
勝利を確信したヒョウタだが、クウヤの表情に曇りがないのに気づき驚き、さらにズガイドスの前の岩からヒーコの姿がないことに気づく。
「まさか、気をつけろズガイドス!」
「あなをほる一撃、やっちまえ!」
ズガイドスが気づいたときには遅く、真下からヒーコが出てきてズガイドスを高く突き上げた。
「そこにひのこ攻撃!」
追撃でひのこを浴びてズガイドスは地面にたたきつけられ、戦闘不能となった。
「ズガイドス戦闘不能、ヒコザルの勝ち! よって勝者はクウヤ!」
「うぉっし、やったぜ!」
勝利の審判がくだり、クウヤはガッツポーズをして飛びついてきたヒーコを受け止める。 ヒョウタはズガイドスにお疲れと声をかけボールに戻すとクウヤに歩み寄った。
「まさかあんな風に逆転されるなんて予想外だったよ・・・、君の力を見くびっていた僕の負けだ」
「いや、おれもピンチだったよ、いろんな意味で」
「はは・・・まぁ、でも勝敗は決まった。 このジムの象徴、コールバッジは君のものだ、受け取ってくれ!」
といってヒョウタは金属の箱からジムバッジをだしクウヤに差し出した。
「ありがとな、ヒョウタ!」
クウヤはヒーコやズーバとともにバッジをみて、勝利を喜び合う。 その姿を見てヒョウタもふっと穏やかにほほえむ。
「ダイゴさんの教えがあったとはいえ短い期間で成長するなんて・・・クウヤくんってすごいな・・・。 僕も負けてられない。」
「え、なにかいった?」
「いいや、ただ、僕ももっと修行を積まなきゃって思っただけだよ。 発掘隊長として化石を見つけてはその神秘にふれていきたいし、ジムリーダーとしても自分のポケモンとともに強くなりたい・・・もうやりたいことだらけだというのを改めて感じたよ」
「そっか」
最初のジムで勝利し、いいスタートを切ったクウヤであった。
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早いけど、ジム戦に参ります。