No.913256

zuiziさん

オリジナル小説です

2017-07-08 00:58:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:435   閲覧ユーザー数:432

 寝ている時に人が入ってきたら嫌だなと思うのはいつものことで、鍵が壊れているからきちんと閉まらずに、それで大勢の人の侵入を許している。

 鍵をもっと丈夫なものに変えれば良のだけれども、そういう時に限って(かぎだけに、限って)鍵屋は粗悪な鍵を付けていったりする。針金やピッキングの道具を使って開くような鍵はいらないのだけれども、鍵屋は鍵をたくさん売りつけるのが仕事だから、畢竟、泥棒はたくさん発生してほしいし、今ある鍵の秘密の解錠方法はすぐに泥棒界隈に出回ってほしいのだ。だから僕は鍵の開け方がすぐに広まってしまうのは鍵屋が裏からリークしているせいだと思っている。

 夜寝ている時に静かにドアが開く音がして、僕が顔を上げるとドアの向こうに見たことのないような大きな顔の人がいて僕の方を見て、入ってもいいですかというようなことを言い、僕は向こうの景色が半分透けて見えてアパートの前の竹林越しにちらちらと見えているその向こう側の街灯の青白い明かりがその大きな顔の人の鼻の頭越しに見えているものだから、僕はそれがこの世のものではないということが分かり、僕はだめですよと言ってドアを閉めようとするのだけれども、その人はなかなかそれでよしとはしてくれずにちょっとだけでいいから、挨拶だけでいいから名刺だけでも渡さしてくださいなどと言ってやっぱり部屋の中に入ってこようとするので僕は無理に閉める。どうしてみんなこんな部屋の中に入ってきたいんだろう?

 いつもそう、誰も入ってこられないような部屋にしたいのだけれども、そういうふうにしてしまうのはアパートの大家さんが許してはくれないので、僕は鍵を5つも6つも付けてそのたびに大家さんが夜のうちに勝手に取ってしまって最後の一つきりしか残っていないというようなことがよくある。

 大家さんが鍵を取り外している時は僕は敏感だからすぐ目を覚まして、ドアについている魚眼レンズから覗くと大家さんが鍵を外しているところが見えるのだ、大家さんは「どうしてこんなに鍵をつけちゃうんでしょうねえ」ともう一人の鍵を取り外すのの専門の業者のような人に言い、業者のような人は腰につけているたくさんの道具や金づちなどで僕のせっかく付けた鍵を一個一個取り外していく。やめてよ。「こんなに鍵を付けられちゃ困るんだよねえ」と独り言のように言って(もちろん僕が聞いていることは承知の上で)鍵を外していくんだけれども、それでも一個だけは残してくれるのは大家さんの最後の良心だろうか。

 数時間して、僕の家のドアについた鍵がみんな取り外されてしまうと僕は乱暴された少女のように力なく玄関に寝そべってしまい陸にあげられたマンボウみたいにうつぶせでひっそりと呼吸をして、無力感にさいなまれてドアを開ければ、そこには取り外された鍵たちの死骸が転がっているから、僕は鍵たちをみんな集めておろおろと涙を流す。

 ドアの外についた鍵は外されてしまうしかないんだね。だからあとはドアの内側から鍵をたくさん付けるしかない、と僕は悟るのである。

 久しぶりに外へ出た。ホームセンターへ行って必要な鍵を買いに行こうと思って外へ出て、たくさん鍵を買って、これだけ買っていれば僕はだいたい満足するのは、僕は鍵があれば満足するので、それでもう大体の欲望は満たされてしまうのだと思う。

 袋にいっぱい鍵を入れて、その袋の重たければ重たいだけ僕の家が安全になるのだと思って、ホームセンターの袋の重たさだけが今の僕の心の支えだ。

 だがすでに悲劇というのは起きるものだ。家に帰ったら案の定、鍵が足らないせいで中に侵入を許してしまっていてふざけんな大家さんが鍵をみんな外してしまうからこんな風になってしまうんだぞ、どうしてみんな僕を一人ぼっちにしておいてくれないんだと思って怒ってドアを蹴飛ばして入って、そしたらドアはもう壊れてしまって腐っているのか中の木材がべりりと音を立てて剥がれるのが見えてそれがなんだか人の肌の壊れるみたいで痛々しくて僕はちょっぴり申し訳なくなる。

 部屋に入ると、汚い部屋のちゃぶ台の前に女の人がいた。僕は知らない女の人で、絶対知らない女の人で、僕はこの人とも会ったことはないのだけれども、その人は僕を見てポロポロと泣き出して小さく鈴虫みたいに声を上げて泣き出して、それで僕もなんだか悲しくなってしまって両手に持った袋を落としてしまって女の人と一緒に泣いた。

 


 
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