No.913027

双子物語78話~彩菜・春花編

初音軍さん

帰省した日の春花視点。厳しいお金持ちの家庭のお嬢様なだけあって彩菜には色々大変な目にあってもらいました。これまで彩菜も勝手なことしていたわけだしツケが回ってきた感じですかね(*´∇`*)

2017-07-06 15:05:53 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:609   閲覧ユーザー数:609

双子物語78話

 

【春花】

 

 みんなが実家に帰省していた時、私と彩菜は私の両親の家に来ていた。

今まで彩菜はできるだけ私の親のことを避けるようにしていたけれど

これからずっと一緒にいるには逃げてはいけないでしょってここ最近言っていた。

今回が良い機会だと。

 

 だけど、かっこいいこと言ったはいいけど家に近づくほど怯える子犬みたいな表情に

なっていくのを見て私は苦笑していた。かわいいけど。

 

 私に害が及ばないようにつけてくれた護衛さんの車に乗って移動中、彩菜は俯きながら

ずっと何かをぶつぶつ言っていた。両親に会った時の練習だろうか。まるで呪文のように

聞こえる。

 

 二時間ほど走った後、車が止まり外に出ると大きなマンションが立っていて

彩菜はちょっと無理して強気な表情を作ってはいるけれど冷や汗みたいなのは

隠せていなかった。

 

「少しは緊張解してよ、私が傍にいるんだから」

 

 そう言って手を握ると彩菜の表情が少し緩んでボソッと私の耳元で話しかけてきた。

 

「もし私に何かあったら骨…拾ってね」

「もー、いくら私の父が親ばかでもそこまではしないわよ~…しないはず…」

 

 断言はできないけど、やりすぎないよう私も護衛さんもついているのだから大丈夫。

第一暴力沙汰なのを世間にバレたらうちの家庭も崩壊しちゃうし、そこまでしないわよね。

そういう軽くはないけど甘い考え方をしながら両親に顔を出した。

 

 

***

 

 するとどうでしょう。最初に母が迎えてくれた歓迎ムードが一瞬にして彩菜が

土下座をしながら父が彩菜を見下ろす形で彩菜が必死に説明しているではないか。

父は黒の真ん中分けをして後ろは短くしている髪型で黒いスーツを着ていかにも

不機嫌そうな顔をしていた。こういう時の父は暴力も辞さないことがあるからやばい。

 

「ちょっ、どうしてこうなるのよ。パパ!」

 

 すでに一発頬に入れられて赤くなっている、それでも必死に許しを乞う彩菜。

 

「お願いします、お父様。今日は認めてもらうために来たんです…」

「今まで顔も出さずに急にそんなこと言われてもな…。うちの大事な一人娘に手を出して」

 

「それは本当に…すみません」

「パパ。私たちが付き合ってるのわかってるでしょ。どうして今更…」

 

「あぁ、それは認めてるよ。だがな…物事をそれなりにおさめるのなら筋は通さないとな。

特にそういうのには徹底している家系だろ。君のところは」

「はい、承知しております」

 

 彩菜の家の情報は既にうちの方にも入っている。私の隣で見張っている護衛さんが

どこで仕入れるのかシークレットレベルの情報をいくつも持っているからそういうことを

暴くのも容易いようだ。そして今の彩菜の状況を見て動かないところを見るとまだ許容範囲なのだろう。

私からしたらもうやめてほしいと思うくらいに心を痛めているんだけど…。

 

「私は…心を改めました。大事な娘さんを奪ってしまったことにはかわりません…。

そこは覚悟しています。だけど、娘さん…春花を幸せにする自信はあります」

「そうか…。覚悟はできてるのか。ならもう少し我慢してくれよ」

 

 

***

 

 それから暫く殴られていた彩菜は体勢を維持するのも困難で呼吸も荒げていた。

それでも父を見る目に力がこもっていて何一つ変わらず熱心な言葉を私のために

一つ一つ紡いでくれていたことに私は感動していた。

 

 今まで私にここまで言ってくれたことなかった彩菜は気持ちの中では強くそう

想ってくれていたのかと思うと胸が熱くなった。

 

「さっきも言ったが春花はうちのたった一人の大切な子供だ。元々は跡継ぎにする

予定だった。これからは跡継ぎから考え直さないといけない。

今更二人の関係に口を挟むことはしないが…うちの家を乱してくれたんだ。

幸せにするのは当たり前のことだろう」

 

「はい」

 

 彩菜はよろよろしながらも、ゆっくりと立ち上がって頷いていた。口の端を切ったのか

血が一筋流れていた。

 

「俺は昔の人間で頭が固い。共感や理解はできんが…ここまで忠実に俺の言うことを

聞いてきた春花がここまで父に抵抗をしている。つまりそれほど本気なんだろう。

そして二人の言い分もまんざら嘘ではないと感じている」

「では…」

 

「とっくに許してはいるが…。そうだな、わざわざ顔を出して殴られるのを覚悟で

来たことに関しては褒めてやる。それと…春花」

「はい…」

 

「お前はいつまでも大切な娘だ。だが、付き合ってる相手が相手だ。世間上我々との

縁は切ってもらわないといけない。…わかるな?」

「…わかります」

 

「お前にもその覚悟があればいい。もう、お前が戻れる家はない」

 

 今度は怖い顔して念押しに私に条件を言い出す父。それは元から覚悟してはいたが

いざ目の前で言われるときついものがある。

 

「だが…たまには世間の目を忍んで遊びにこい。二人でな」

「パパ…」

 

 それから機嫌がいいときの顔に少しずつ戻って私たちを家から軽い感じで去るように

言った。

 

「あぁ、それと。縁を切ったからといって私の娘には違いない。いつものように護衛の

彼女にはついてもらう。念のために色々情報を知っていても損はないからな」

「ありがとう…!パパ」

 

 そんな私と父のやりとりを見てようやく安心したような母の安堵の溜息が聞こえた。

それまであまりに激しいやりとりに生きた心地がしなかったようだ。

 

 護衛の人についてきてもらえれば何かと心強い。

私の小さい頃から見てくれていた人で何かと私のために手を焼いてくれた人だから。

 

 家から出ると人に見られる前にすぐ車に乗り込む私たち。乗った後、護衛の人が

薬箱をどこからか取り出して私に渡してきた。

 

 私は消毒薬とガーゼと必要なものを取り出してゆっくりと彩菜の傷を治していく。

その間、時々私は彩菜の頬にキスをした。

 

「春花…?」

「痛い…?」

 

「痛いけど…痛くない」

「なにそれ」

 

 変なことを言う彩菜に私が笑うと彩菜も同じように笑いながら。

 

「傍に春花がいてくれるだけで色々と和らぐよ…。ずっと傍にいるって言ってくれた

からね」

「私は自分で言ったことは必ず守るからね」

 

「だからどんなに体が痛くても平気なんだよね…。それにちゃんと認めてもらえて…

春花のご両親に挨拶に行ってよかったよ」

「それにしても痛めつけ過ぎだと思うんだけど…」

 

「いや、気持ちはわかるよ。下手したら殺されるかもって思ったくらいだし」

「あはは…確かに」

 

 私の家庭に限らずこんな特殊な状況じゃ他のとこでも同じように荒れそうな親は

いそうだ…。

 

「やることをやった上できっちり認めてくれた…春花の親は優しいね」

「そう、ならよかった」

 

 私の手を捜してギュッと握ってくる彩菜の手が愛おしくて私も握り返す。

そしてお互いに少し疲れたからか、自分達の住んでる場所に着くまでの間。

車の中でうとうとしながらいつしか寝てしまっていた。

 

 

***

 

「ということがあってね、大変だったの」

 

 雪乃と彩菜と私で今日あった出来事を話していると雪乃は心配するどころか

いつものようにお茶淹れたりお茶菓子出したりして対応をしていた。

いや、いつもよりやや嬉しそうに笑っていた。

 

「良かったじゃない。認めてもらって。これで落ち着いて普段の生活に戻れるね」

「や、ぼっこぼこにされたんだよ。彩菜のこと心配じゃないの?」

 

「いやぁ、彩菜って丈夫だし。実際今何ともないでしょ?」

 

 雪乃が私の隣に座ってる彩菜に声をかけると笑いながら「うん」って返していた。

それは世界一好きな雪乃の前だからじゃないんですかね~。

と目の前にいる幸せな妹を睨みつけながら思った。

 

「まったく…ここまでしても雪乃に勝てないんだからちょっと愚痴でも言いたくなるわ」

「よかったら聞くよ」

 

「なんであんたへの愚痴をあんたに聞いてもらわなきゃいけないの」

「いやあ、二人共仲いいね」

 

 雪乃と私のやりとりを微笑ましそうに見ながら出された紅茶を啜ると

痛そうにしている彩菜。

 

「はぁ…まぁいいわ。どうせ雪乃とできないことは私としかできないんだから

実質やれる範囲では私が一番ってことなら」

「そうそう、それに今回のことでね」

「え?」

 

 チュッ

 

 妹が見てる前で彩菜は私を引き寄せてキスをした。私はびっくりして頭の中

真っ白になって何が起こったかわからなかった。

 

「え、えぇ…」

「今は春花も雪乃と同じくらい大切な存在ってわかったから」

 

 うれしいけど…うれしいけど!複雑…。結局は抜けないのかぁ…。

いや並べただけでもすごいことなのか。彼女の中では…。

 

「わかった、わかったわよ。ありがとう!うれしいわよ」

 

 まぁ実際嬉しいし。今まで言われた中では一番好きとか大切の気持ちが強いって

ことだし…。許してやるか。

 

 そんなバカみたいな私たちのやりとりを雪乃は微笑ましく見つめていた。

 

「さて…もうすぐ夕飯の時間だ。そろそろ解散しましょうか」

「そして雪乃はどんな話よりもご飯の方が大事なのね」

 

「そんなことないよ。キリがいいなって思っただけで」

「はいはい…」

 

 そんな風にいつものやりとりに正直ホッとしながら緩やかな時間が戻ってきた。

やっぱり私にはこの空間というか空気が肌に合っている気がした。

 

「さて、一緒にいきますか。彩菜」

「あ、うん。行こう」

 

 雪乃はもう先に出ていてそれに続いて私たちも部屋から出て食堂へ向けて歩いた。

お互いの手を強く繋いで、もう離れないという気持ちを込めながら…。

 

続く。

 


 
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