「不思議なものだな、艦娘って」
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マイ「艦これ」「みほ2ん」
第54話 <用意周到>(改2.2)
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お墓の前で母親が父親に口を開いた。
「ほら、前に話したが? この娘たちが艦娘だがン……海軍の軍人さんたち」
彼女は方言交じりで艦娘を父親に紹介している。
「……」
父親は無言だ。ただそれは別に不機嫌なのではない。彼は基本的に寡黙な人だ。
だから父親が実はエースパイロットだったとか、いろいろな情報は本人からではなく母親や軍関係者から聞くことが多かった。
最近では彼に興味を持った青葉さんが勝手に調べて来るので、そちらから知ることの方が多い。
母親は父に構わずキョロキョロと辺りを見回した。
「あらぁ、ぽいチャンは今日は居らんだか?」
私は応える。
「あぁ、あの娘は今日は留守番」
すると母親は微笑んだ。
「じゃ、生きてんだな? 良かった……あぁ、貴女も居(お)るだな」
そう言いながら日向の手を握る。日向も少し微笑んで軽く会釈を返している。
その様子を見ながら青葉さんと利根が囁いていた。
「あれが元空軍エースの父上ですよ」
「物静かじゃが、やはり眼光は鋭いな……うん、分かるぞ」
「す、すごいですね」
五月雨も感心している。
私は、ちょっと慌てて母親に言った。
「えっと……もう、そろそろ行くからサ」
母親は応えた。
「あぁ、そうだなぁ。ここじゃ他の人にも迷惑だな」
つくづく夕立がこの場に居なくて良かったと思った。絶対に、この場が、もっと混乱していたに違いないから。
「では戻りましょう」
祥高さんの号令でゾロゾロと墓前を去る艦娘御一行。
(足が遅い!)
場が持たないな、と思いつつ私は最後尾でイライラしていた。
すると母親が近寄ってきた。
「なぁ、今日は皆、休みだがぁ? ……後で家に寄れや」
「えぇ! いや、それは……」
意外な提案に驚く私。
しかし元々彼女たちを連れて行く予定はない。ここは何としても阻止しなければ。
ところが母親はさらに追い討ちを掛けてくる。
「その、お嬢さんたちも! 今日は休みだがぁ?」
「そうなんですよ、お母様!」
青葉さんが即答する。さすが記者……じゃなくて。
(やめろ青葉!)心が叫ぶ。
「青葉も……いえ、私たちも今日は軍隊ではとっても貴重な、お休みなんです!」
祥高さんが止める間もなく青葉さんは母親の手を取って話し始めた。何を……
「そうじゃのう、地域住民との交流も我々の重要な任務と心得るのじゃ」
利根もニコニコして割って入る。
(まずい、まずい)
私が焦っていると、さらに加勢がきた。
「えぇ! それは本当ですか!」
「Oh! ワンダフルね!」
こういうことには遠慮が無い金剛姉妹が加わる。もはや止められない。
艦娘たちが緩やかに母親を囲んだ。帰りかけていた隊列が一気に崩れる。
(そうか、敵は本能寺にあったか)
母親は自分より背の高い艦娘たちに取り囲まれてタジタジ……でもなかった。
ケラケラと大笑いしながら楽しそうだった。
(女性同士だから……かなあ)
一瞬にして蚊帳の外に追いやられた私と父親。
ふと目が合った。場が持たない私は父親に近寄って会釈をした。
腕を組んでいた彼は私を見ながら、おもむろに言った。
「お前も大変そうだな……」
「うん」
艦娘たちも父親と私に注目しているが彼は全く動じなかった。
「軍隊はな、そんなところだ。まぁ頑張れ」
「ありがとう」
私は頷いた。
(そういえば何年ぶりだろうか? 父子の会話って)
艦娘たちと打ち解けている母親の姿を見ながら私はふと思った。
考えてみれば美保鎮守府への着任が無ければ、地元に戻っていなかったかも知れない。当然、父親と言葉を交わすことも無かったかも……。
「不思議なものだな、艦娘って」
改めてそう感じた私は思わず呟いていた。
やがて艦娘たちとの会話にひと区切りを付けた母親は墓参道具を片付けながら私に声をかけた。
「じゃ、お母さんたちは先に帰っとるけンな、後から来いよ」
「うん」
私たちの方を向いて会釈をして立ち去る母親。金剛たちを筆頭に艦娘たちもニコニコして手を振っていた。
そして意外だったのは、父親もまた私たちに軽く敬礼をしたことだ。
「え?」
私は条件反射的に慌てて返礼をした。すると艦娘たちも軒並み敬礼を返していた。
それは私が初めて見た父親の『軍人らしい姿』だったかも知れない。
同時にそれは彼が艦娘を兵士として認めているようにも感じられた。
私は、なぜだかとても嬉しくなった。そうか、部下を持つ指揮官とは、こういうものなのか。
「司令のお父様って、素敵な方ね」
これまた意外な事を言う龍田さん。
評価基準の厳しそうな彼女から、そういう台詞が出るということは父親もまた、艦娘に一目置かれる軍人の香りがするに違いない。
そこは軍人としては父親に、まだまだ遠く及ばない私なのだと素直に思えた。
そして、ここまでの流れが分からないまま戻ってきた美保の軍用トラックだった。
運転台から日向と言葉を交わしていた妖精ハルが言う。
「何だ? 直ぐに帰らないのか」
「ああ、予定が変わった。運転を代わろう」
不思議そうな顔をしている妖精を懐にしまいながら、日向はテキパキと発車の準備を進める。
荷台側では祥高さんが軽く点呼をした後、次々と乗り込む艦娘たち。やっぱり周囲の墓参の人たちの注目を浴びているが、それは全く気にしていない彼女たち。強いな。
やがて祥高さんと無線でやり取りをした日向は私に報告をした。
「司令、点呼は問題なし。出発準備、完了です」
「よし、では実家ヘ向けて発車だ」
「了解」
敬礼と同時に私もトラックに乗り込んだ。そして再び走り出す。
「結局……実家へ向かうことになってしまったか」
私は呟いた。
(あまり広くない実家が艦娘で満杯になるぞ)
これから実家で起こり得る事態を勝手に想像して私は独りドキドキしていた。
日向はハンドルを握りながら教えもしないのにスムーズに実家の方角へと向かう。
(あれ?)
私が疑問に思っていると彼女は、それを察したように説明する。
「秘書官から『念の為に』とのことで司令の、ご実家を中心とした境港市の詳細な市街地図情報も頂いてました」
「あ、そうか」
私は、そう応えるしかなかった。
「敵が攻めてきたときの効率的な作戦立案のためだよ」
急に寛代が呟く。
「分かっているよ」
いや、本当は分かっていなかった。
(用意周到な秘書艦だ)
いや……秘書艦としては、そのくらい手を廻しても当然か。
そんなことを考えている間にトラックは実家へと到着した。家の前の道路は狭い。トラックだとギリギリだ。
(うわ、大丈夫かな? また近所迷惑じゃないかな)
しかし、さすが艦娘たちも軍人だ。狭い実家前の道路に乗り付けた途端、私の心配をよそに彼女たちは一分も掛からないうちに一斉に下車して点呼。そして混乱することなく実家の呼び鈴を押した。
母親が顔を出すと、秘書艦が言葉を交わして驚くほどスムーズに家の中へ入って行く。
(こういうときだけは規律正しいんだな)
私は感心するやら、呆れるやら。
「司令?」
「……あ、ああ」
日向に声をかけられた私は、ハッとした。
「そうだな、降りよう」
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
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PS:「みほ2ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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墓地での意図せぬ艦娘と両親との出会い。それは司令に不思議な感覚をもたらすのだった。そして秘書艦は用意周到だった。