No.91139

真・恋姫無双~江東の花嫁達・娘達~(参)

minazukiさん

山越編第三話です。
一刀が遠征軍の指揮官になった理由、そしてほんの少しだけ見え隠れする真雪の一刀に対する助け、そんな中で勃発した戦。
慌しい第三話です。
今回も長いので最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

2009-08-23 03:28:36 投稿 / 全23ページ    総閲覧数:14271   閲覧ユーザー数:10457

(参)

 

 一刀達が真雪達と合流して半月が過ぎた。

 

 その間、山越の将である潘臨とその配下の男はまったく口を割ることなく、黙秘を続けていた。

 

 拷問に掛けるべきだという声も上がったが一刀は頑として顔を縦に振ることはしなかった。

 

 あくまでも自分の意思で自白してくれることを待っている一刀だが、そんな彼のやり方に不満をぶつけたのは華雄だった。

 

「一刀様を狙ったのは明白。それに情報を何も言わずにいたずらに時だけが過ぎています。これでは遠征の意味がありません」

 

 華雄としては一気に山越の本拠地を攻撃して服従もしくは滅亡させるべきだと思っていた。

 

 呉にとっての敵であるのならば、大都督の一刀にとっても敵。

 

 そしてその親衛隊である自分にとっても敵である山越に攻撃を再三、進言をしたが一刀は柔らかく拒否した。

 

「華雄が俺の身を心配してくれているのは凄く嬉しいよ。でも、だからといってすぐに攻めていくほどこちらは万全じゃあない」

 

 この数年、京と真雪が集めた情報のおかげで山越の本拠地や拠点の位置は把握できていた。

 

 だが、数において不利な上に内通者までいる状態では動くに動けなかったため、一刀は華雄にあることを提案した。

 

「それじゃあこの城から三里ほど進んだところに陣を敷いてくれ」

 

「なぜそのような近場に?」

 

「真雪の話ではこの城から山越の拠点がある場所まで十里と意外と近いんだ。そこの様子と牽制を兼ねてというべきかな」

 

 城から近いため何かあればすぐに援軍を送ることも可能であり、山越の様子も少しはわかるという案だった。

 

「兵三千を与える。ただし敵が挑発しても決して動いたらダメだから。もし動いたらお仕置きだからな」

 

 お仕置きという言葉に妙に顔を紅くする華雄だがようやく兵を動かせるため笑みを浮かべていた。

 

「あ、それとくれぐれも山越が城を直接攻撃してきても絶対に動かないこと」

 

「どういうことです?」

 

「念のためだよ」

 

 一刀の笑みに妙な感覚を覚えた華雄だがそれ以上は追求しなかった。

 

「呂布、姜維、私が居ないからといって一刀様をしっかりお守りしろよ」

 

「(コクッ)」

 

「はい!」

 

 華雄は二人がいるのであれば問題はないと思っていた。

 

 それは華雄本人が無意識に二人を頼りにしていたのだがそれに気づくことはなかった。

 

「それではすぐにでも出陣いたします」

 

 礼をとり華雄は一刀の前から辞した。

「しかしよかったのですか?」

 

 悠里は華雄の出陣に対しての疑問を一刀に向けた。

 

 いくら近くだからといっても兵力を分散させることは呉軍にとって自分から不利になるようなものだった。

 

「これは風の策だよ」

 

「風さんの?」

 

 一刀の代わりに風は両手で杯を持ってお茶を飲んだ後、悠里の問いに答えるために眠たそうな表情を向けた。

 

「おそらく山越はこちらが亀のように城に篭って動かないことが狙いだと思います」

 

「しかしそれでは内通者を使って混乱させるだけが精一杯ではありませんか?」

 

「その内通者のおかげで魯粛さんや太史慈さんが襲われました」

 

 風はこのような状況の中で動かないよりも、逆にこちらから動いた方が山越の動きを把握できるかもしれなと説明した。

 

「よってこちらからわざと隙をみせる価値はあると思うのですよ」

 

 そこで一刀が芝居を打って華雄に出陣させるように仕向けた。

 

「たしかに風さんのおっしゃるとおりですね」

 

 悠里からしてもその策は相手の出方を見る上では重要なことだと理解し、その策に賛成した。

 

「それと葵ちゃん」

 

「はい」

 

「念のため兵三千をいつでも動けるようにしておいてくれる?」

 

「はぁ、それは構いませんが」

 

 その理由を説明して欲しいと葵は一刀の方を見た。

 

「葵ちゃんの軍は主に襲撃に備えてのものだよ。おそらく山越はこちらが動けば何かしら対策を講じてくるはず。それに対しての柔軟な動きを葵ちゃんにお願いするよ」

 

 自分の働きによって戦況が有利に進むと思った葵は元気に答えた。

 

「はい。精一杯頑張ります」

 

 長らく戦陣から離れていたとはいえ、普段から恋や華雄達と武を鍛えることを忘れずにいたため実力は五胡に居た時より飛躍的に上がっていた。

 

「亞莎は引き続き内通者を探してくれ」

 

「はい」

 

 隠密行動に不慣れなことは一刀だけではなく亞莎本人も十分にわかっていたが仕方なかった。

 

「明命がいれば亞莎には別のことを頼んでいたんだけど、すまない」

 

「い、いえ、精一杯頑張ります」

 

 亞莎の頑張ろうとする態度に一刀は頷いて安心して任せる事にした。

 

「ねね」

 

「なんですか、ヘボ主人?」

 

「山越が華雄の陣かここに攻めてきたらその追撃を恋と一緒にして欲しい」

 

「追撃なんてする必要はあるとはねねはまったく思えないですぞ」

 音々音は忘れがちだが軍師であり、一通りの軍略に通じているため一刀の策に疑問を持つのは当然の事だった。

 

「確かに意味はない。それに追撃中に逆に奇襲をされるかもしれない」

 

「なら追撃の意味がないですぞ?」

 

 一刀もそれを指摘しているのであれば追撃は無意味だと音々音は飽きた表情を浮かべる。

 

「それでいいんだ。あくまでもこちらが隙を作ることが大切だから」

 

 だがその提案に真っ向から反対をしたのは音々音ではなく恋だった。

 

 それまで静かに饅頭を頬張っていた恋がその話になると手を止めて、餡を口の周りにつけたまま一刀の方を見た。

 

「恋、ご主人様の近くにいる」

 

 自分の席を立って一刀の横に行き離れたくないと子犬のような瞳で懇願する。

 

 彼女にとって一刀の傍を離れることは、大好きなご主人様を危険な目にあわせることでしかないとその肌で感じていた。

 

 自分より強くないとはいえ、今捕虜にしている山越の将である潘臨の攻撃は恋が今まで出会ったことのないものだった。

 

 華雄だけではなく葵や自分までもが傍を離れてしまっては誰が一刀を守る事が出来るのか、それが恋にとって絶対に受け入れられない事だった。

 

「離れたくない」

 

 彼女の懇願に一刀は顔を横に振った。

 

「恋が居てくれると凄く助かるよ。でも、今は俺のことよりも山越をどうするかのほうが大事だから」

 

「(フルフルフル)」

 

 恋は一刀の傍から離れる方が何よりも嫌だった。

 

 いつも優しく笑顔を見せてくれるだけで恋は幸せだった。

 

 そんな幸せを与えてくれているのは誰もない一刀だったからこそ、自分が守りたいとずっと思っていた。

 

「大丈夫だよ。それに恋が頑張ってくれたらこの戦もすぐに終わると思うよ。そうしたら恋の大好きなハンバーグをまたたくさん作ってあげるから」

 

 平和の日々の中で天の料理に一番関心を持ったのは恋だった。

 

 そして一刀が作ってくれる天の料理の中で一番好きなのはハンバーグだった。

 

 それでも恋は納得しようとしなかった。

 

「恋殿、ヘボ主人もこう言っているのです。だからねねと軍を率いてくださいなのです」

 

「嫌」

 

「恋殿~~~~~」

 

 半泣きになる音々音に対していつになく頑なな恋。

 

「恋さんは本当に一刀くんのことが心配なのですね」

 

 悠里の言葉に恋は小さく頷く。

 

「では私がその軍を率いる事にしましょう」

 

「悠里?」

 

 さすがの一刀も悠里の提案には驚きを隠せなかった。

 彼女にはこの城に残って策を考えてもらおうと思っていただけに、軍を動かしてもらうとまでは考えてもいなかった。

 

「一万もあればそう簡単に負けることもありません。それにそれなりに対策も考えていますからご安心ください」

 

 普段から冷静沈着なだけに追撃をして逆に奇襲をされてもその対策を練っているであろう悠里の言葉に一刀は風の方を見た。

 

「では太史慈さんと護衛に連れて行ってください」

 

「子義さんをですか?」

 

 たった半月で京の傷が完全に癒えることはなかったが、それでも武器を持って戦うほどに回復していた。

 

 ただし、右目はまだ回復していなかったがそれすら京にとって問題になるほどでもなかった。

 

「どうでしょうか、太史慈さん?」

 

 包帯で右目を隠している京に風は質問すると、

 

「オイラは別に構わないよ。この右目のお礼もしないといけないし」

 

 闘気は衰えるどころかますます高まっている京は嬉しそうに風の質問に答えた。

 

「わかりました。謹んで追撃の任に就きます」

 

 悠里は軽く一礼をして自分のするべきことを確認した。

 

「それじゃあ残りの四千は俺が率いるよ」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

 風を除く全員が一刀の一言に自分の耳を疑った。

 

「一刀くん、今なんとおっしゃりました?」

 

 代表として悠里が一刀の言葉の説明を求めた。

 

「四千の軍を率いて山越の拠点を攻略する」

 

 いつも通りの一刀に誰もが何を言っているのかまだ理解できていなかった。

 

「それは危険です」

 

「だろうね」

 

 悠里だけではなく、亞莎、葵、京、真雪、恋、音々音までもが同じ意見だった。

 

「だから恋にもきてもらうよ。さすがに俺だけだと不安があるからね」

 

 それを聞いて恋は自分を連れて行ってくれるのだとどことなく嬉しそうだった。

 

「それでも大都督自らが戦陣に立たれるのは些か危険が大きすぎます」

 

 城の中ですら油断できない状況なのに外に出ればその危険度は比ではないことぐらい一刀でもわかっていると思っていただけに彼の暴挙とも思える行動に賛同できなかった。

 

「これは大都督として決めた事だから一切の拒否は受け付けないよ」

 

 卑怯だとわかっていたが権力を使ってでも一刀には自らの出陣をしなければならないと思っていた。

 

「納得はしませんが大都督の命令であれば致し方ありません」

 

「ヘボ主人のくせに生意気ですぞ」

 

 悠里と音々音は口に出して不満をあらわにしたが、残りの亞莎達は何も言わなかったが表情が冴えなかった。

「俺に同行するのは恋とねね「私もいくでしゅ」……真雪?」

 

 ここにきて初めて発言をした真雪はその小さな身体に似合わず真面目な顔をしていた。

 

「真雪には風と一緒に城に居てくれないか」

 

「嫌でしゅ」

 

 真雪も恋に負けないほど頑なに否定する。

 

「子敬さん……」

 

 真雪のついていきたいという気持ちはわからなくもなかった。

 

 比較的安全だと思っていた城の中ですら安全とはいえなくなった現状では一刀の傍にいる方がまだましだと京は思った。

 

「それにかずさまの知らない道を私は知っていますでしゅ」

 

 長年、この地にいただけあって一刀の知らない事を知っている真雪の情報は有益だっただけに一刀は仕方なく了承した。

 

「それじゃあ風、すまないが城は任せていいか?」

 

「はいはい。風としてはお兄さんのお膝元でいたかったのですが、ここを空にするわけにはいけませんから今回は我慢しますよ」

 

 口で言うほど残念がっていない風はVサインを見せた。

 

「しかし、こうまで大胆に兵力を分散させるには意味があるのですか?」

 

 兵力の少ない呉軍がさらに分散するというのは兵法では愚策としか思えないものだっただけに悠里だけの疑問ではなかった。

 

「うん。これが一番今回の目的を達成するためには近道かもしれない」

 

 一刀は先日とは打って変わって真剣な態度だったために誰もがそれを信じた。

 

「それじゃあ大まかなことはこれで決まったところで、みんなにお願いがあるんだ」

 

 今日の軍議の締めくくりとして一刀はこう言った。

 

「何があっても決して動じないこと。動揺したらこの戦は俺達の負けだから」

 

「それはどういうことですか?」

 

「今は答えられない」

 

 一刀は全員の視線を受け止めながら答えを言わなかった。

 

「答えられないけど、俺の言うとおりにしてほしい」

 

 両手を合わせてお願いをする一刀の姿に頭の中にその言葉をとどめる程度で受け入れた。

 

「わかりました。では私達からもお願いがあります」

 

「なに?」

 

「決して無茶だけはなさらないでください。一刀くんに万が一のことがあれば雪蓮様や蓮華様に申し開きができませんから」

 

 もちろん自分に対してもと心の中で付け加えた悠里に一刀は頷いた。

 

「わかった。出来る限り無茶はしないようにするよ」

 

 絶対にしないと言わなかった一刀だが、それに気づいたのは風以外に誰もいなかった。

 

 それだけに一刀が笑顔で答えたためにそれに安心してしまっていた。

 

「とりあえず準備の方を進めておいてくれ」

 

 そう命じた一刀は軍議を終えた。

 しばらくして一刀は真雪の部屋を訪れた。

 

「どうかしたのでしゅか?」

 

 襲撃のショックから少しずつ回復してきている真雪だが、まだ音に対して敏感なところがあった。

 

「うん?ちょっと真雪の顔が見たくなった」

 

 一刀の笑顔に真雪は顔を紅くしていく。

 

 今が戦時下でなければ存分に甘えていた真雪だが、それをぐっと我慢してお茶の準備をした。

 

 お茶を淹れている真雪を後ろから一刀は優しく抱きしめた。

 

「か、かずさま!?」

 

 ますます顔を紅くしていく真雪に一刀は遠慮なく頬に口付けをした。

 

「どう?少しは怖くなくなった?」

 

「えっ?」

 

 一刀は真雪の不安な気持ちを解すために口付けをしていた。

 

「これ以上、怖い思いをさせたくはないんだけど、それでもついてくる?」

 

 剣すら握った事のない真雪には戦場は似合わないと思っていた一刀は、今回の戦を最後に彼女を建業へ連れて帰るつもりだが、まだそれを話すときではなかった。

 

「かずさまがいてくれますから大丈夫でしゅ」

 

 そっと自分を抱きしめている一刀の手に真雪は小さな手を添える。

「かずさま」

 

「うん?」

 

「私はかずさまの……お役に立ちたいでしゅ」

 

 真雪は一刀と出会ったのは赤壁前だった。

 

 あの頃は満足に話をすることも出来ず、ただ遠くで見ていただけの存在だった一刀。

 

 天の御遣いとして孫呉に天運をもたらし乱世を終わらせた第一人者であり、自分とはまったく別世界の人だと思っていた。

 

 それが偶然にも一刀と雪蓮の新婚旅行に同行することになり親しくなっていった。

 

 そして自分の真名を授けた。

 

 手紙に書き記したように自分の抱えている問題から助けてくれるのは一刀しかいないと直感した。

 

 そんな時、突然の求婚に真雪は驚いた。

 

 冥琳や悠里からぜひ側室に加えて欲しいということで真雪の名前が挙がった。

 

 一刀も蜀で短い期間会っただけだったがしっかりと覚えており、本人曰く、

 

「ロリも文化の一つ」

 

 と真雪からは理解しがたい言葉を言われた。

 

 京も同じく側室になったことは驚きだったが、不思議と嫌な気持ちというものはまったく浮かんでこなかった。

 

 だが側室になったかといって任地を離れて婚礼をすることはできなかった。

 

 そのためか未だに指輪もしていなかったが真雪は今、こうして抱かれていることに幸せを感じていた。

「かずさまのお嫁さんにしてもらえて凄く嬉しいでしゅ」

 

「俺もだよ」

 

 一刀としてはみんなで一緒に暮らしたいという気持ちが強かった。

 

 誰一人例外なく、一緒に暮らせるためなら何でもするつもりだった。

 

「尚香様より小さいでしゅけど、かずさまはいいのでしゅか?」

 

「うん。全然問題ない。逆に嬉しいぐらいだ」

 

 何がどう嬉しいのか真雪にはわからなかったが、喜んでくれているのであれば問題なかった。

 

「真雪にも産んで欲しいと思っているから」

 

「産むって……?」

 

「決まっているだろう。俺と真雪の子供だよ」

 

 すでに多くの娘達が産まれ元気に育っている。

 

 それでも子供を望むのは一刀が愛する妻達一人一人にもっと幸せになって欲しいと願っているからだった。

 

「あう……」

 

 両手で顔を隠したくなるほど恥ずかしがる真雪だが、それをさせないように一刀は彼女の小さな手を包み込むように優しく握る。

 

「だから本当はこの城で風と一緒に居て欲しいんだ」

 

 いくら恋がいたかといっても守る対象が増えればそれだけ負担がかかる。

 

 そうしたところから隙が生まれてしまい、恋自身にも危険を呼び込みかねなかった。

 

「ダメかな?」

 

 自分のことを心配してくれていることは十分承知している真雪だが、それでもついていくことを諦めなかった。

 

「かずさまの傍にいたいでしゅ」

 

 彼が居ることで安らぎを感じている真雪。

 

「どうしても?」

 

「どうしてでもでしゅ」

 

 真雪の変わらない気持ちに一刀は仕方なく思い、一つ約束事をした。

 

「俺から絶対に離れたらダメだから」

 

「はいでしゅ」

 

 真雪はゆっくりと振り返り、間近にある一刀の顔を見て恥ずかしがりながら小さな手を彼の頬に当ててゆっくりと唇を近づけていく。

 

 お互いの唇が重なりあい、柔らかくて温かな感触に真雪の心は幸せに包まれていく。

 

「この戦が終わればもっとたくさんしてあげる」

 

「あ、あう~……」

 

 今以上のことをされると想像した真雪は一刀の胸の中に顔を埋めて恥ずかしさに耐えた。

 

 そんな彼女を一刀がおかしく思いつつも、真名のごとく白くてサラサラしている髪に指を絡めては撫でていた。

 その夜、警護の兵士以外寝静まった時間に一刀は一人、牢屋にやって来ていた。

 

「何か用?」

 

 尋問などを連日のように繰り返されて疲れて眠っていた山越の将である潘臨は、余り機嫌がよくなかった。

 

「明日も朝からなんだから寝かせなさいよ」

 

「それは悪いね。でもそう遠くないうちに何も聞かれくなるから安心しなよ」

 

「?」

 

 潘臨は一刀の言葉が気になっていると、一刀は彼女が入っている牢の鍵を開けて中に入っていった。

 

「なによ?襲うつもり?」

 

 もしそうしたら逆に絞め殺してやろうと余裕の笑みを浮かべる潘臨だが、一刀はそんなことをする気はまったくなかった。

 

「これから俺の言うことを一つ聞いてほしい。それを聞いてくれるのならば君をここから出してあげる」

 

「山越のことなら何も話すつもりはないわ。それに呉の人間を信じるほどアタシはお人好しでもないわよ」

 

「信じる信じないかは君が決めればいい。こっちはただお願いを聞いてくれたらそれでいいだけだ」

 

 一刀は持ってきた包みを開けてそこにあったおにぎりを一つ差し出した。

 

「小腹には丁度いいと思ってね」

 

 おにぎりを受け取ったものの潘臨は食べようとはしなかった。

 

「安心してくれ。毒なんか入ってないよ。ただ少し塩加減を間違えたからショッパイと思うけどな」

 

 一刀は申し訳なさそうに言うと潘臨は疑いつつもおにぎりを一口食べた。

 

「確かに塩が聞きすぎて辛いわね」

 

 文句を言いながらもおにぎりが珍しいらしく瞬く間に食べてしまった。

 

「こんなことがお前達の将軍や都督にばれたらその頸を刎ねられるぞ?」

 

「それについて心配はないから」

 

「どういうことよ?」

 

「だって俺が大都督だから」

 

 特に自慢をするようなことでもない一刀は苦笑いを浮かべる。

 

 それを見て潘臨は一瞬、自分の耳を疑った。

 

(呉の大都督自らがこんなことをしているのか?)

 

 情報などで冥琳の後、大都督になったのが天の御遣いであることはすでに知っており、その人物がかなりの変わり者だということも知っていた。

 

「確か呉の種馬だっていう噂よね?」

 

「まぁ外れではないから何といえないなあ」

 

 事実なだけに否定する気も起こらない一刀。

 

「聞けば魏や蜀、果ては五胡の女人まで毒牙にかけたそうね」

 

「成り行きでね」

 今では多くの美しさや可愛さを兼ね備えた妻達と娘達がいる一刀にとってそれも否定しなかった。

 

「それでアタシ達にもその毒牙を向けるわけ?」

 

「あのな、そんなことをしたら間違いなくうちの奥さん達に怒られるよ」

 

「どうだか。今ここで強引に押し倒してしまえば誰も分からないわよ?」

 

 挑発をする潘臨だが、一刀は苦笑するだけで手を出さなかった。

 

「その代わりといってはなんだけど、君達の大将に会わせてほしいんだ」

 

「アタシ達の?」

 

 妙なことを言ってくる一刀に潘臨は表情が驚きを浮かべた。

 

「うん。無理かもしれないけど君達を逃がす対価にしてほしいんだけど、どうかな?」

 

 いくら大都督といっても下手をすれば反逆行為と取られかねない一刀の行動に潘臨は少し考えた。

 

「仮にアタシ達の大将に会ったとしてどうするわけ?」

 

「平和のために和平を結びたい。それも恒久平和のための」

 

 それは彼の本心であり蓮華にも秘密にしていることだった。

 

「それは本気で言っているわけ?」

 

「冗談で二万もの大軍を率いてくるわけがないだろう?」

 

 和平のために二万の軍を率いてきたらそれを信じろというほうが難しかった。

 

 潘臨も武力をもって和平を望むのはどう考えても矛盾しているとしか思えなかった。

 

「諦めなよ」

 

 潘臨は一刀の夢物語のような提案をあっさりと否定した。

 

「どうして?」

 

「あんたね、今までいがみ合っていた敵同士が手を素直に手を結べると思うの?」

 

「出来ないとは思っていない」

 

「無理ね」

 

 どこまでも否定する潘臨だが一刀は引き下がろうとはしなかった。

 

 なぜ和平を求め共に共存していくことを望んでいるか、その理由は簡単なものだった。

 

 三国の争い、そして五胡との戦い、それらを経て今の平和な世の中が出来上がっていたが、その中で最後まで抵抗を示している山越だけが孤立していた。

 

 その気になれば三国の軍事力で山越を滅ぼすことなど造作もないことだった。

 

 ではなぜ一刀が呉と長年敵対していた山越と和平を結びたいのか。

 

「俺は皆で協力して平和な世の中を作ろうと決めたからだ。そこには呉、魏、蜀、五胡、そして山越、誰もが分け隔たりなく生きていける世の中であってほしいんだ」

 

 争いが起これば何の罪もない民が苦しむ。

 

 家族の者が戦の犠牲になることはもうあってはならないことだと一刀は思っていた。

 

「そのためにアタシ達に頭を下げるかしら?」

 

「下げる必要があれば下げるよ。でも、その必要がないと思えば下げるつもりはない」

 

 あくまでも一刀が求めるものは対等の関係だった。

 あまりにも真剣に話している一刀を見て潘臨は興味を覚えた。

 

「本当に変わり者ね。いいわ、ここから出してくれるのであれば会わせてあげるわ」

 

 そう言いながら残りのおにぎりに手を伸ばそうとしたが、それよりも早く一刀がおにぎりを包み込んで自分の方へ引っ込めた。

 

「これはダメ。そっちにいる男の人の分だ」

 

「また作ればいいじゃない」

 

 塩気の強いおにぎりが気に入ったのか、隙あれば奪い取ろうとする潘臨から離れて牢の外へ出て行く一刀。

 

「それでいつ出してくれるの?」

 

「山越次第かな」

 

 つまり攻めてくる時だと潘臨は思った。

 

「それまでは大人しくしておいてくれよ」

 

 そう言いながら男の牢へ入っていくと、男に腕をつかまれ瞬くまでに一刀は引きずり倒された。

 

「山越をなめんじゃあねぇぞ!」

 

 男は一刀を殺すつもりだった。

 

「やめな」

 

 潘臨の大声に男は動きを止めた。

 

 恐る恐る振り返ると潘臨が鋭い視線を男にぶつけており、それ以上の暴挙は許さないと無言の圧力をかけていた。

 

「そいつはアタシ達を助けてくれる恩人だ。殺すことは許さないわ」

 

「しかし……」

 

 敵の大将をここで討ち取れば呉軍にとって計り知れない打撃を与えることが出来ると男は思っていた。

 

「仮にその男を殺したらアタシ達はあっという間に滅ぼされるわよ。それこそ一族丸ごとね」

 

 男にも守るべき家族がいるのか、その言葉を聞いて一刀を放した。

 

 ゆっくりと起き上がる一刀は改めておにぎりの入った包みを男に手渡した。

 

「もうしばらくの辛抱だから我慢してくれるか?」

 

 自分に対する暴挙など気にすることなく一刀は男にそう言った。

 

 男も自分には危害を加えるどことか食事を気軽に渡してくる一刀に警戒しながらも妙な気分になっていた。

 

「とりあえず近いうちに攻めてきてくれたら嬉しいんだけどな」

 

 攻められる者が攻める者を歓迎するなど滑稽過ぎる話だが、一刀からすれば大真面目なほどそう願っていた。

 

「ところでどうやってお前をアタシ達の大将のところに連れて行けばいいのかしら?」

 

 ただ脱走を黙認したとしても一刀の目的を果たすには同行する以外、方法はなかった。

 

「ああ、それなら適当にその辺の兵士から剥ぎ取ってくれるかな。もちろん命は取らないでくれよ」

 

「無茶苦茶ね」

「それ以外、方法が思いつかない。で、剥ぎ取った武具を着けて俺の率いる軍の中に潜り込んでくれ。あとはそっちに任せる」

 

 一刀は城を出るまでの段取りを済ませておいたと付け加えた。

 

「そうだ、あんたの名前をもう一度確認の意味で教えてよ」

 

「そういう時は自分から名乗るものだろう?」

 

「…………まぁいいわ。アタシは潘臨。真名は梅花(ばいか)」

 

「おいおい、真名はいいのか?」

 

「いいわよ。ただし、あんたとは敵同士だってことは忘れないでね」

 

 真名まで授けられた一刀は山越との和平への第一歩のように思えて嬉しくなった。

 

「俺は北郷一刀。真名はないから一刀でも呼んでくれ」

 

「あいよ。それじゃあさっさと帰って寝なよ、一刀」

 

 いつまでも一刀がここにいては疑われるとこの時、思ってもないことに心配をしてしまった梅花。

 

「それとも大都督は山越の女と一夜を過ごしてみる?」

 

「勘弁してくれ。そんなことをしたら怒られるだけですまなくなるよ」

 

 浮気がばれれば間違いなくこの世の地獄を味わうことをしっかりと認識していた一刀はそのまま二人に挨拶をして出て行った。

 

 蝋燭の灯りがなくなると牢屋は暗闇に支配されていく。

 

「呉にもあんな奴がいたんだね」

 

「頭……」

 

 梅花は幼い頃から自分達以外の者は全て敵だと教えられていた。

 

 武芸に励み一人の女傑として成長した彼女だが、誰よりも一族を愛しており幼い子供達を守るのは自分の役目だと思っていた。

 

 そんな中、天の御遣いの噂を聞いた。

 

 乱世を終わらせ世の中に平和をもたらしたと聞いた時、どんな人物か会ってみたくなった。

 

 この地にやってきたと聞いてすぐ、自分達の大将からその頸を取ってこいと命令された。

 

 この好機を生かすべく潜入をしたが恋によって阻まれ、挙句の果てに捕虜になってしまったが、それが幸いしたのか目的の人物に出会えた。

 

 想像をしていたよりも随分と優男であり、嫌味を言っても冷静さを保っていた姿に梅花は興味を覚えていった。

 

 そして真名を何の躊躇いもなく授けた。

 

「面白い男ね」

 

 逃がす代わりに自分達の大将に会わせろと言われたときは、本気で何を考えているのかわからなかったが、その目的が山越に平和をもたらしてくれるものだと言われ、彼女は自分が案内すると言ってしまった。

 

「北郷一刀かぁ……」

 

 あの優男が山越に何をもたらしてくれるのか楽しみに思えて笑みがこぼれる梅花。

 

「とりあえず言われたとおりに今は大人しくしてなさい」

 

「はっ」

 

 そう言って牢屋に静けさが戻った。

 一刀の望みは三日後に叶えられた。

 

 華雄が布陣している場所へ五千、城へ直接攻撃を仕掛けてきた数は一万とかなりの戦力で山越は攻撃を仕掛けてきた。

 

「五千なら華雄で十分防げる。問題はこっちに攻めてきた数だな」

 

 一万といっても並の一万とは思えないだけに一刀達の表情は硬くなる。

 

「でも俺の予想通りにはかわりないか」

 

 その言葉の意味を正確に理解しているのは風だけであったが、彼女は何も言わずにただ眠たそうな表情を浮かべていた。

 

「この機にこちらから山越へ攻撃を仕掛けるよ」

 

 いよいよ攻勢に転じると思うと誰もが自然と力が漲ってくる。

 

「葵ちゃん、悠里、京、予定通りに動いてくれ」

 

「「はっ「はい」」」

 

 準備に取り掛かる三人を見送って一刀は風の方を見た。

 

「風、それじゃあしばらくの間、頼むよ」

 

「はいはい~。出来る限りのことはしておきますのでお兄さんは無茶だけはしないでくださいね」

 

 いつものようにVサインを見せる風に一刀は頷き後のことを頼んだ。

 

「亞莎は内通者の捜索と風を支えてくれ」

 

「はい」

 

 城の守りは風と亞莎がいればある程度なら持ちこたえることはできると一刀は確信していた。

 

「恋、ねね、真雪は俺についてきてくれ。おそらく手薄になっているであろう山越の別の拠点を攻めるよ」

 

「ねねの知略と恋殿の武略があれば何も問題はないですぞ!」

 

「(コクッ)」

 

「頑張るでしゅ」

 

 三人はやる気を見せていた。

 

 彼女達を前にして一刀は申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

(この戦が無事に終わればしばらくは言うことを何でも聞いてあげないとダメだな)

 

 苦笑する一刀に風はいつしか隣にやってきてそっと手を握った。

 

 出来る限り双方の犠牲を出さないように苦心している一刀の気持ちを痛いほど理解している風は、今になって遠征軍の指揮官に任じるように促した事を少し後悔し始めていた。

 

「大丈夫。風は約束してくれただろう?俺のやることに従うって」

 

「そうですね」

 

 どことなく元気のない風は自分が正しい判断をしたかどうかわからなかった。

 

 だが一刀が考えた策が成功すればこれ以上無駄な血が流れることなくこの戦は終わり、本当の平和が訪れる。

 

「風はお兄さんを信じます」

 

 そう自分に言い聞かせるように風は一刀の手を握りなおした。

 その頃、華雄は戦場の真っ只中にいた。

 

「放て!」

 

 華雄の命で一斉に弓隊が迫ってくる山越に向かって矢を放っていく。

 

「ここは何が何でも通すわけにはいかない!」

 

 自ら弓隊の攻撃で怯んだ山越に対して五百の騎馬隊を率いて華雄はまっすぐ突っ込んでいく。

 

「どけ~~~~~!」

 

 金剛爆斧を右へ左へと振り下ろしていくたびに山越兵は薙ぎ倒されていく。

 

 陣からの弓隊の支援を巧みに利用した戦術は一刀から教えられ、それを忠実に守っている華雄にとって思いっきり暴れられる事が嬉しくて仕方なかった。

 

 日頃の鍛錬を欠かすことなくいつ戦場に赴いてもよいように自分を鍛えていただけにその武は日々進化していた。

 

「せい!や!」

 

 何の躊躇もなく敵軍に鋭い一撃を与えていく華雄。

 

「どうした!こんなものではここから先へ行けはしないぞ!」

 

 縦横無尽に騎馬隊を動かし歩兵中心の山越を撹乱していく。

 

 このまま圧勝するかと思われた瞬間、華雄の目の前に馬に乗った女将が現れた。

 

「大将か?」

 

 紅く染まった金剛爆斧を一振りしてその雫を飛ばした華雄に対してその女将は無言で突っ込んできた。

 

 それを迎え撃つ華雄は金剛爆斧を両手で持ち替えて大きく振り下ろしていく。

 

 山越の女将は両手に持っていた堰月刀で軽々と受け止めた。

 

 両手で力任せに押し込んでいく華雄だが、止まった位置からほとんど押し込むことが出来なかった。

 

「あんた、弱すぎる」

 

 女将は半ば呆れたようにため息をつき、両手の堰月刀で華雄の金剛爆斧を大きく払いのける。

 

「やるな」

 

 まだ本気を見せていないとはいえ、自分の一撃を簡単に受ける相手に華雄は不敵な笑みを浮かべた。

 

「あ~あ、こんな弱いところを攻めるなんてついてないな~」

 

 やる気を全く感じさせない女将に華雄は苛立ちを少しずつ感じていく。

 

「ほう~。私では役不足といいたいのか?」

 

「当然でしょう?アタイより弱い奴の頸を取っても何の手柄にもならないからね」

 

 明らかにバカにしている態度に華雄は金剛爆斧を持つ手に力を込めていく。

 

「なら自分より弱いかどうかもう一度確認させてやる」

 

 華雄は馬上になって勢いをつけて飛び上がり、金剛爆斧を構えて女将に斬りかかった。

 

「弱い奴がいきがるな!」

 

 華雄を睨みつける女将は両手の堰月刀をいきなり華雄へ投げつけた。

 

「己が獲物を投げるとは愚かだな」

 

 二本の堰月刀の間へと身体を滑り込ませてそのまま隙だらけの女将へ金剛爆斧を振り下ろしていく。

 

「もらった!」

 

 そう叫んだ瞬間、女将は呆れた表情でこう言った。

 

「だから弱いって言っているのよ」

 

「?!」

 

 華雄が気づいた時には『それ』は視界に写っていた。

 華雄が戦っている頃、山越一万の軍勢が城へ押し寄せていた。

 

 城の手前まで来ると城門が開き、さらに城壁の上には弓隊が山越の軍勢を迎え撃った。

 

「放て!」

 

 葵の指揮によって数千の矢が雨霰のごとく山越の軍勢に向かって放たれた。

 

「出陣!」

 

 それにあわせて京が前衛三千を率いて勢いよく城から飛び出してきた。

 

「我々は太史慈将軍を援護します」

 

 悠里の指揮のもと、残りの七千の軍勢は城の外に出るとすぐさま魚鱗の陣をとり京の三千に続いた。

 

「ほらほら右目の恨みは怖いぞ~」

 

 自分の背丈よりも大きな斬馬刀を片手で振り回していく京は目の前の山越兵に先日のお返しといわんばかりに豪華に叩き斬っていく。

 

 幾度となく小競り合いがあった中で京の武勇は山越にも十分知れ渡ってたためか、山越の兵士は斬馬刀で叩き斬りながら進んでくる彼女に立ち向かう事を怯ませた。

 

 それでも意を決して集団攻撃を仕掛けてくる山越の兵士達。

 

「そうこないとね♪」

 

 嬉しそうに一斉に繰り出されてくる槍を斬馬刀で叩き折っていく。

 

 傷の痛みなどまったくないように激しく全身を使って重量感を感じさせる斬馬刀で斬り、叩き伏せ、そして薙ぎ払っていく。

 

「へぇ~もう回復したんだ」

 

「うん?」

 

 百人ほど斬り倒したところへ鋭い刃が幾重にも張り巡らされている棍棒を引きずっている短髪の少女が獲物を見つけた時のようなさも楽しそうな表情を浮かべていた。

 

「あんたは黄乱!」

 

 京に重症を負わせた張本人がそこにいた。

 

「おかしいな~。アレだけ傷を負わせたのになんで元気なわけ?」

 

 致命傷は与えなくてもしばらくは起き上がれないだろうと思っていただけに意外そうな表情を京に向ける黄乱。

 

「まぁ今度は手加減する必要もないってことね」

 

「そうだね。お礼として今度はオイラが同じ目にあわせてやるよ」

 

 馬から下りた京にあわせるように黄乱も馬から下りて棍棒を掴んだ。

 

「いくよ!」

 

 斬馬刀を構えて突っ込んでいく京に対して黄乱は余裕の笑みを浮かべて鉄棍棒を構える。

 

「せい!」

 

「ハァアアア!」

 

 斬馬刀と鉄棍棒がぶつかり鋭い音が響いていく。

 

 お互いの力をぶつけ合う二人は一歩も譲る事はなかった。

 

「相変わらず馬鹿力ね」

 

「お互い様やろう?」

 余裕を見せあう二人だが、微かに京の表情が歪んでいた。

 

 完全に回復したわけではないため全身の小さな痛みが少しずつ彼女を苦しませていく。

 

 それを悟らせまいと必要以上に力を入れていく京。

 

「力入れすぎなんだよ!」

 

 黄乱は鉄棍棒に力を込めていき京の斬馬刀を弾いた。

 

「ちっ」

 

 弾かれた京は体勢を立て直そうとしたが、身体の痛みがそれをすぐにはさせなかった。

 

「もらった!」

 

 そんな隙を見逃すほど黄乱はお人好しではなかった。

 

 両手で天高く掲げた鉄棍棒をまさに振り落とそうとした。

 

「放て!」

 

 そこへ本隊七千を率いている悠里の弓隊が一斉に矢を放ってきた。

 

「あ~もう、もう少しで討ち取れたのに」

 

 悔しがりながら降り注いでくる矢を鉄棍棒で叩き落していく黄乱はそのまま軍の奥へ下がっていった。

 

「子義さん」

 

 地に膝をついて肩を激しく揺さぶる京に悠里は馬から下りて駆け寄った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「はぁはぁはぁ…………、大丈夫だよ。それよりも助かったよ、瑾ちゃん」

 

 悠里の援護がなければやられていたと京は感じ取っていた。

 

「山越が引き始めています。予定通りに追撃をしますが子義さんは一度下がって治療をお願いします」

 

「ダメやッテ。オイラは瑾ちゃんを守る役目もあるんだし、ここで引き下がるつもりはないよ」

 

「しかし……」

 

 京は斬馬刀を杖代わりにして立ち上がると、悠里にこう言った。

 

「オイラは大切な人達を守るために今まで頑張ってきたんだ。だから最後までそうさせて欲しいんだ」

 

 義に厚い京は多少の痛みなど気にするつもりはなかった。

 

 そんな彼女を見て悠里は何を言っても無駄だと悟り、仕方なく一緒に追撃の任に就くようにお願いをした。

 

「任しときなよ。太史子義の武勇を山越に見せ付けてあげるよ」

 

 斬馬刀を力強く振り回す京。

 

「それでは子義さんはこのまま追撃を。私は敵の奇襲に備えます」

 

「よろしく頼むね」

 

 自分達の役割を確認するとそれぞれの軍を率いて山越の追撃を始めた。

 

「これより追撃に移ります。敵の援軍が奇襲をかけてくるかもしれませんが落ち着いて対処するように」

 

 悠里は全軍に指示を与え、先発する京の部隊の跡を追った。

 悠里と京が追撃戦に入ったことを確認すると一刀は予定通りの行動に移ろうとしていた。

 

 彼の近くには恋、ねね、真雪、それに呉の兵具で身を隠している梅花と山越の男がいた。

 

「風、亞莎、城は頼むよ」

 

 真雪を自分の前にのせて一刀は騎乗した。

 

「十分に気をつけてください、旦那様」

 

「ああ。亞莎も無理はするなよ」

 

 自分を心配そうに見る亞莎にこれ以上の心配を掛けないために笑顔で答える一刀。

 

 その彼女の横でいつもどおりの風が一刀を見上げていた。

 

「どうした、風?」

 

「いえ、魯粛さんの場所は風の特等席だったので羨ましいと思っただけですよ」

 

 それを聞いて真雪は顔を紅くしながらも、一人で馬に乗れないことを内心喜んでいた。

 

「戻ってきたら風も乗せてあげるよ」

 

「おお~。それは楽しみですね」

 

 先の楽しみができたことで風は真雪に今回の特等席を心から譲った。

 

「それじゃあ行ってくるよ」

 

 風と亞莎にそう言うと四千の軍勢を率いて戦場となっている二つの場所と反対側の門から出発した。

 

 その様子を二人は見守り、留守の間しっかり守る事を誓っていた。

 

「亞莎ちゃん」

 

「はい?」

 

「これで内通者を探しやすくなりましたよ」

 

 城内の人数が一気に減った事で内通者の捜索が比較的楽になったことは亞莎にとって嬉しい事だった。

 

「もしかして、旦那様は?」

 

 あえて兵力分散の愚を犯したのはこのためなのではと亞莎は風の方を見て確認した。

 

「まぁお兄さんらしいですね。初めはやる気のなさを見せておいてしっかりと策を考えていたと思いますよ」

 

 だが実際には襲撃にあわなければここまで事を一刀が進めたかといえばそうではなかった。

 

 ここにきた時の一刀はどう戦を回避するかだけを考えており、何も策が思いつかなければこのまま何もしないでいようと本気で思った。

 

 それを悟らせないように風はあえて策であるかのように亞莎に説明をした。

 

「風達は風達の役割を果たしておきましょう。そうしたらお兄さんからご褒美がいただけると思いますよ」

 

 それを聞いて亞莎は頬を紅く染めた。

 

「風様は旦那様をよくご理解しているのですね」

 

「風は風の感じるままにお兄さんを見ていますからね」

 

 亞莎に対してVサインを見せる風だが、心の中では一刀の本当の策が成功する事を願っていた。

 

 出発した一刀達は目立たないように旗を降ろして森の中を進んでいた。

 

 真雪が事前に調べた道筋のため山越に発見されにくかったが、自分達の率いる兵士の中に捕縛した山越の二人がいることは思いもしなかった。

 

「まさかこちらから打って出るなんて思いもしないだろうね」

 

 大胆かつ暴挙にも思える一刀の策に驚きつつもある意味で有効な手段だと理解を示している真雪だが、今ひとつわからないことがあった。

 

「かずさまはどうしてご自分で行くのでしゅか?」

 

 ただ軍勢を率いて山越の拠点を落とすのであれば恋と音々音に策を伝えておけば十分なはずだった。

 

「まぁこの策は少しの失敗も許されないからね」

 

 ただ単に戦うだけならばここまで慎重になることはなかったが、一刀の望むものを叶えさせるためにはこれでも配慮が足りないのではないかと思っていた。

 

 今の所、梅花と男は一刀が事前に牢の予備の鍵を渡していたためそれを使って脱獄し、言われたとおりに気絶させて兵士から武具を剥ぎ取っていた。

 

 俯いていれば自分達に気づかれることはないと思い、黙って一刀達の後ろを歩いていた。

 

「でもあの雪蓮ですら苦労している山越って普通に考えれば凄いよな」

 

 それを聞いて思わず梅花は顔を上げそうになったが慌てて押しとどめた。

 

「急にどうしたのでしゅか?」

 

「いや、だってあの雪蓮がだぞ。小覇王って呼ばれたぐらいの実力があるのに山越を制圧できないってことは、山越には俺達が思いつかないような技術があると思うんだよ」

 

 何度となく山越の報告書を読んでいた一刀は戦でそれだけの実力があれば、平和のために何か役立てるものがあるのではないかと考えていた。

 

 おそらくそこには異民族特有の何かがあるのだろうと思っていただけに、一刀としては賞賛に値する相手だった。

 

「たしかに呉と山越は長年に渡って争っていた。でもその争いを取り除いてやればお互いの良いところを伸ばし、悪いところは直していけると思うんだ」

 

 遠まわしに和平をちらつかせる一刀だが、真雪はそこまで思いつかなかった。

 

 ただ自分達では考え付かないことをあっさりと表す一刀の考えに驚き、そして尊敬の念を抱いていた。

 

「かずさまは凄いでしゅ」

 

「うん?何がだい?」

 

「戦う相手のことをそんなにまで褒めるなんて普通はしないでしゅよ?」

 

 憎しみは抱けどもお互いを認め合うことのなかった呉と山越。

 

 それを一刀は変えようとしていた。

 

「誰だって自分の良いところを褒められると嬉しいものだろう?」

 

「それはそうでしゅけど」

 

「それだけのことだよ。別に特別なことをしようとは思ってないし」

 

 一刀の言葉を真雪と後ろで聞いていた梅花は黙って考えた。

 

(かずさまは相手のこと真剣になって考えているでしゅ。どんな相手でも……)

 

(こいつはアタシ達を認めてくれている。争うのではなく手を差し出してくれている)

 

 真雪は一刀を信じ、梅花もまた一刀を信じてもいいかもしれないと思った。

 だが、そんな思いとは裏腹に戦は起こるものだった。

 

 山越の拠点に続いている道を進んでいくと崖に面した場所へ出た。

 

「もう少しで着きますでしゅ」

 

「よし、じゃあ少し休もうか」

 

 山越の拠点前で休息を命じる一刀。

 

 そこへ目の前から山越の軍勢が現れた。

 

「あれ?」

 

 それを見て一刀は自分が予想していなかった事態に驚いた。

 

 ここで休息をしている間に、梅花達と山越へ向かうつもりだったので軍勢が出てくるとなるとそうもいってられなくなった。

 

「まずいな……」

 

「なにがでしゅか?」

 

 一刀の独り言に真雪は不思議そうに見上げた。

 

「さっさと迎撃の準備をするのですぞ、このヘボ主人!」

 

 音々音の大声にやれやれといった感じで一刀は迎撃の準備を指示した。

 

「ご主人さま」

 

 方天画戟を握った恋が一刀達の乗る馬の横に自分の馬を進めた。

 

「恋が守る」

 

 山越の軍勢は多く見積もっても五千ほどだった。

 

 一千ほどの兵力差ならば恋がいれば十分に補えたが、一刀は戦うべきかどうか迷っていた。

 

「おい」

 

 そこへ梅花がやってきて馬上の一刀に声を掛けた。

 

「どうするのよ?」

 

「どうするって……」

 

 困った一刀に梅花は睨みつける。

 

 そしてその彼女に気づいた真雪は顔を見ると驚いた。

 

「か、かずさま!」

 

 牢屋にいるはずの彼女達がどうしてここにいるのか、その説明を一刀に求めようとした瞬間、目の前の山越の軍勢が銅鑼などを鳴らしながら突撃を開始してきた。

 

「恋!」

 

「いく」

 

 恋は自ら先頭に立って山越へ突撃を開始する。

 

「恋殿に続くのですぞ~!」

 

 音々音は一刀にかわって全軍に指示を出した。

 

 瞬く間に両軍はぶつかり激しい斬り合いが始まった。

 

「一刀、どうするのよ!」

 

「どうするって……これじゃあ計画が台無しだよ」

 内通者によって情報が漏れていたことをすっかり失念していた一刀は迷い続けた。

 

 そして彼とは別に真雪は梅花のほうを見ていた。

 

「どうして貴女がここにいるのでしゅか?」

 

 脱獄している梅花達に真雪は震えながらも問いただす。

 

「どうしてってアタシ達を一刀が逃がしてくれたのよ」

 

「そんなの嘘でしゅ!」

 

 いくら優しい一刀でも自分の命を狙ってきた者を簡単に脱獄させるとは思えなかった真雪は彼女の言葉を信じなかった。

 

「嘘も何も事実よ。一刀のお願いを聞いてあげる代わりに逃がしてくれるって言ったしね」

 

 素っ気無く答える梅花に真雪は一刀に本当なのかと問いただす。

 

「ばれちゃったか……」

 

 ばつの悪そうに苦笑する一刀。

 

「どういうことでしゅか?」

 

 自分達に内緒で勝手なことをしている一刀を非難するのでなく、どうしてこうなったのかを聞きたい真雪。

 

「う~ん、真雪には話してもいいかな」

 

 黙っていてもいずれはばれてしまうかもしれないと思っていた一刀は事の詳細を出来る限り短く簡潔にまとめた。

 

「かずさまは…………初めからそれを望んでいたのでしゅか?」

 

 聞き終えた真雪は信じられなかった。

 

 同時に兵力分散と主だった者を遠ざけるような配置に合点がいった。

 

 全ては自分一人で考えて自分一人で解決しようとしていた一刀に真雪は自分の未熟さを呪った。

 

 そして風だけはそれを知っていたことに対する嫉妬が真雪の中に生まれた。

 

「すまないとは思っているよ」

 

 風を除く全員を騙していたことに謝る一刀。

 

「でも戦だけが戦いの全てじゃないから」

 

 今回の策は一刀が現世で知った朱里、つまり諸葛亮の南蛮遠征を参考にしたものだった。

 

 蜀と南蛮、呉と山越では状況も違う上、上手くいくとは思えなかったが力で攻め落としても異民族である山越が納得するとも思えなかった。

 

 だからこそ風にだけその策の全貌を教え、自ら危険を冒してまで実行する意味があった。

 

「あんたが悩むことなんてないわよ。これは一刀が自分で考えてアタシ達に協力を求めてきたんだから」

 

 梅花の言葉に真雪は引っかかるものを感じた。

 

「かずさまの名をどうして口にしているのでしゅか!」

 

 本人はともかく、真雪達からすれば一刀の名は自分達の真名に匹敵するほどのものだと思っていただけに、軽々しく口にする梅花に苛立ちを覚えた。

 

「だってアタシの真名を授けたらそう呼んでもいいって言ったのは一刀の方だからね」

 

 自分は悪くないと開き直っている梅花。

「ダメでしゅ!」

 

 真雪は戦場であることを忘れて大声で否定をする。

 

 彼女にとって一刀はかけがえのない大切な人であり、口にすることが恥ずかしながらもお嫁さんであることを自覚しているため、それが取られると思った。

 

「かずさまは私達の大切な人でしゅ。貴女には渡したくないでしゅ」

 

「はあ?誰が一刀をよこせなんって言ったのよ?」

 

 何を訳のわからないことを言っているんだと不快感を表す梅花。

 

「アタシはただ一刀に案内しろって言われたからそうしているだけなのよ」

 

「それでもかずさまの名を呼ばないでくださいでしゅ」

 

 真雪自身が風に対して嫉妬をしたものとは比べ物にならないほど、醜くそれでいて健気な気持ちを梅花にぶつけていく。

 

「はぁ~……。一刀からもこのおチビちゃんにいって……何してるのよ!」

 

 梅花は一刀の前から山越兵が剣を持って襲い掛かっているのを見つけて、勢いよく蹴りをお見舞いした。

 

「梅花!」

 

「油断するんじゃないわよ」

 

 混戦が近くまで及んでいることに気づいたときには一刀達は目の前に何人かの山越兵が突破して自分達のほうへ向かってきていた。

 

「仕方ない。一刀、こっちに来て」

 

 梅花は味方である山越兵を柄の方で突き倒し、安全なところへ移動していく。

 

 それに続いて一刀は真雪を乗せたまま彼女のあとを追う。

 

「早くこっちに来なさいよ」

 

 焦る梅花に追いつこうとする一刀達だが、そこへ山越兵の槍が馬を突き刺していく。

 

「なっ!」

 

 暴れる馬から振り落とされた一刀は真雪を守るように強く抱きしめて地に背中から叩きつけられた。

 

「一刀!」

 

 すぐに戻っていく梅花だが、呉軍の武具を身に着けている彼女を敵と認識した山越兵が襲ってくる。

 

「どきないさよ、この馬鹿ども!」

 

 いい加減斬り捨てようと思いたくなるほど梅花は焦っていた。

 

 そうしている間にも一刀と真雪は別の山越兵に槍を向けられていた。

 

「真雪、逃げるんだ」

 

 起き上がって真雪とともに逃げる隙を見つけようとするが崖の方にしか逃げ道がなかった。

 

「かずさま……」

 

 襲撃の時を思い出した真雪は一刀にしがみつく。

 

「大丈夫。俺が守るから」

 

 安心させるように笑顔を見せる一刀に山越兵が襲い掛かっていく。

「このやろう!」

 

 腰に下げていた青釭の剣を鞘から抜き、山越兵の一撃を受ける一刀。

 

 別の山越兵がその横から槍を構えて突っ込んできた。

 

「一刀!」

 

 ようやく山越兵から抜け出した梅花だが間に合わなかった。

 

 雄叫びをあげつつ山越兵が槍を繰り出す瞬間、一刀と山越兵の間に捕虜になっていた男が躍り出て、その槍を我が身で防いだ。

 

「あ、あんた!」

 

「…………気にするな。それより飯、上手かったぜ」

 

 それだけを言うと槍を突いた山越兵を捕まえると共に崖から飛び降りた。

 

 その光景を真雪に見せないように彼女を胸に抱き寄せた。

 

「馬鹿野郎……」

 

 自分の命を捨ててまで守ることは一刀からすれば偽善としか思えなかった。

 

 思えなかったが守られた以上、どんなことがあっても生き延びなければならなくなった。

 

 そしてまだ数人の山越兵が一刀達を囲んでいた。

 

「一刀!」

 

 そこへようやくたどり着いた梅花が彼を守るように味方である山越兵の前に立ち塞がった。

 

「梅花」

 

「あんたを死なせるわけにはいかないわ。本当に平和をもたらしてくれるならあんたを守ってあげる」

 

 襲い掛かってくる山越兵を一人また一人と槍の柄で突いたり叩き伏せたりして気絶させていく。

 

「だからこんなところで死なせないわ」

 

 気合を見せる梅花に一刀は初めて彼女と仲良くできると思った。

 

「梅花、この戦……「ドスッ」」

 

 そう続けようとしたとき、一刀の左腕に矢が刺さった。

 

「かずさま!」

 

 顔を上げた真雪が見たものは苦痛に耐える一刀だった。

 

 そして続けさまに矢が二本、一刀の左腕と肩に刺さり、後ろへ真雪を抱きしめたまま下がっていく。

 

「一刀、危ない!」

 

 梅花が声を上げた時、崖から踏み外した一刀は真雪を抱きしめたまま力なく落下していった。

 

「一刀!」

 

 山越兵を薙ぎ倒した後、梅花は躊躇することなく一刀達が落ちていった崖に飛び込んでいった。

 その頃、荊州から船で呉に戻っている最中の雪蓮は腰に下げていた奇天の剣から妙な違和感を感じた。

 

「……一刀」

 

 言葉では言い表せない心を乱す何かが雪蓮を襲った。

 

「何かあったのかしら?それともただの気のせい?」

 

 常に自分とは一心同体だと思っているだけに、一刀に何かあれば不安になる雪蓮。

 

 華琳から授かった二振りの剣はまるで遠くに離れていてもその存在を確かめ合うような不思議なものを感じさせていた。

 

 彼女の目の前には雄大な長江がただ静かに彼女の進むべき道に波を立てていた。

(座談)

 

水無月:それにしても毎回思いますが、戦闘シーンはまだまだ苦手です。

 

穏  :人には慣れ不慣れがありますからね~。

 

亞莎 :たくさんの人の作品を参考にするといいと思いますよ?

 

水無月:それでも難しいですよ。今回は各部隊ともぶつかったところまででとめていますからね。ちょっとわかりずらいところがあったと思いますが、ご了承ください。

 

穏  :それにしても一刀さんは大丈夫なのでしょうかね?

 

水無月:まさかの矢攻撃に落ちてしまいましたからね。

 

亞莎 :まだまだ波乱がありそうですね。

 

水無月:というわけで次回も山越編第四話をお届けします。まだまだ長い話になりますが、最後までどうぞよろしくお願いします。


 
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