洛陽。
ここには、この世界を納める皇帝が住んでいる。
その皇帝だが、幼き頃に病で喉を潰してしまい言葉を発することが出来なくなったため、その代理として現在は董卓が発言をしたり、大事な書状などを読み上げたりして皇帝を補佐している。
ただし、それは表向きの書類上の認識。
実際は、喉を潰れたのは他の皇帝候補の襲撃による暗殺未遂の名残と董卓は恐喝による暗躍で成り上がりある。そのため、今の皇帝はただの人形そのものであり、存在意義も皇帝が女性であったため『お世継ぎ』の繋ぎ程度しかならない。
しかし、未だに彼女は独身である。ちなみに年齢は北郷と同じ歳だが、『皇帝』ともなるとあまり年齢は関係ない。理由は今までの政治をしてきたのが全員『女性』だから。
その女性達も悲しいことに、その関係者達も『女性』ばかりために、皇帝と結婚して書類上でも全権を把握するというということは出来なかった。だから、下剋上を狙う者はいつも皇帝の補佐役の場所を狙っていた。
・・・今までは。
しかし、このたび董卓は『男性』であったために、全てを手に入れる権利を手に入れたのである。
董卓はこれまで行ってきた政治を全て否定、処断して新しい政治にする。
役職は今までとは変わらず皇帝の補佐であるが、そこに新たなる肩書が記入された。
『皇帝の婚約者』
後に皇帝の婿となって、今の皇帝の役職を辞任し自身が新皇帝となることを各諸侯に発布したのである。無論、その後も代も皇帝の『子孫』が皇帝の代になるので新しい時代の幕開けでもある。
ただし、これが『本物の董卓』ならば諸侯は董卓に頭を下げただろうが、諸侯から見ればこの董卓は偽物だ。だって、以前の董卓は『女性』というのを知っているから。
「名前など飾りよ・・・」
洛陽の玉座に座る董卓は、各諸侯の反応を報告する自身の軍師にそう言った。
「ようは結果を残せば、誰がなんであろうと問題などない」
「その通りです『董卓』様。それに諸侯達が偽物といいますがこちらも本当の『董卓』様であるのは違いありません」
軍師の言葉に興味なさそうな董卓の反応は薄い。
「・・・ふん」
彼は懐から女性の髪飾りを取り出した。
それは『女性の董卓』の髪飾りである。彼は『本物』になるために『女性の董卓』を殺した。
これは遺品みたいなもの。
「他の異世界では、私が『女』だとは滑稽だな私も・・・」
董卓はその髪飾りを軍師の傍に投げつけ、見事に突き刺さった。
「だが、それは過去の話。私が求める物を手に入れるためにこれから起こる戦に勝利すること」
パチンと指を鳴らす董卓。
音と共に現れたのは二人の男性武人。
「呂布、華雄よ。己らの呪われた運命を開放されるがいい」
二人は無言だが、その瞳は黒炎色のように燃えていた。
「さぁ・・・始めようか。どちらが新時代に相応しいのか」
董卓は微笑み、新時代の幕開けを喜ぶのだった。
反董卓連合編 一話 『誕生』
彼女が目が覚めた時、一人の男の顔があった。
その表情は、陰険な顔つきではなく、安堵や安心といった優しい顔だった。
「え・・・?」
彼女は驚くしかなかった。
それは自分が今、置かれている状況のことではない。
ここの前の記憶のことを思い出しての驚きである。
「・・・ある、首」
首を触って確認する。
首はちゃんと繋がっており、自身が生きていることを彼女にとって実感させる。
そして、何より。
「お姉ちゃん!」
「姉さん・・・」
二人の妹達が傍に寄って、涙ぐんだ表情で彼女を見ていたいた。
「なんで・・・?」
ゆっくりと体を起こして、彼女は今までの事を思い返す。
自分が死んだ記憶。
義勇軍に囲まれて自分は首を処断された。あの衝撃は忘れることは出来ない。
「貴方が何かしたの?」
彼女は見知らぬ男に訪ねた。
「・・・何かした? いいえ、俺はただ倒れていた君たちを介抱しただけだけだ」
「え?」
驚愕した。
自分は確かに殺され、妹達も死んでいた。
それが生き返っている。
「・・・」
彼女は黙ってしまう。
男の彼女の様子に心配するが、とりあえず自己紹介をした。
「俺の名前は左慈。まだ修行中だが妖術師だ」
差し出された左慈の手を掴み、彼女は立ち上がる。
「私は・・・」
自身の名前を言おうとしたが、少し考えてこういった。
「私は・・・天和。ただの旅芸人だよ」
左慈はなぜ、彼女に間があったのか少し疑問に思う。
だけど、それ以上のことを詮索する気は三人にはなく、そのままスルーして会話を進める。
「どうして、こんな所に三人共寝ていたの?」
「わからない。でも、こうして三人がまた一緒に顔を見れたことがとても嬉しいわ」
天和のほほ笑みに、二人の妹達もにこやかに返した。
「それよりも、貴方はこれからどこへ行こうとしているの?」
「・・・俺?」
左慈は天和の質問にこう答えた。
「洛陽に住んでいるという董卓さんの所へ行くんだよ」
「董卓?」
「そう、その人はこの世界で一番強い武人なんだ」
「武人・・・」
天和は二人の妹達に視線を合した。
二人はそれに気づき頷く。
「そしたら、私達も一緒に連れて行ってくれないかな?」
「洛陽へ?」
「うん、どうせ行く当てもないから、その旅の付き添いとして・・・」
左慈についていくこと。
もちろん、彼について行ったところで生き返ったことがわかる保証はない。
だけど、こうして生き返り出会ったことに何か意味があるはず。
「・・・わかった、よろしく」
左慈も別に断る理由もなく、天和達姉妹を洛陽に一緒に行くことにするのだった。
北郷からの視点において、この世界は三国志に似て異なる世界。
名は同じでも全く違うし、その結末も違う。
だから、明確な答えなど存在しない。だが、今後において歴史に介入するほどの行動を起こることで結末通りになるかもしれないし、違う結末になるかもしれない。
そして、これは最初の選択だろう。
『反董卓連合の参加』
この戦いはこの世界においても避けては通れない出来事。すでにこの世界の董卓は、洛陽で自由気ままな政治を行っているとの噂を耳しており、避けては通れない戦いになるだろう。
では、自分達銀河らはどの道を歩むべきなのか。
一つはこのまま予定通りに荊州に向かい諸葛孔明に会って今後の助言及び仲間への介入。
二つめは何かしらの形で連合軍に参加して董卓を討つ。
三つめはこれらをを全て否定するように董卓に味方して連合軍を討伐すること。
銀河達の方針はその三つに絞られていた。
ただし、これらはあくまでも通過点でしかない。仮に董卓が死のうが生きようが戦乱は続き、群雄割拠時代の幕開けである。
「俺は連合軍に参加しようと思う」
最初に切り出したが銀河だった。
「北郷の話を聞き、人々の話を聞いた上で、俺はやっぱり連合軍に参加したいと思った」
「目的はなんだ銀河?」
決意の意味を問う暁人。
「この世界の未来を予知してこの戦いの先を予知をしている。そして、連合を参加した英雄達が天下三分を実施している者たちだ」
「俺達のやろうとしているのは、その英雄達を出し抜いての国の統一を目指している。その英雄達を知らずして何が統一できるだろうか」
相手を出し抜くにはまずは相手を知ること。何の自分達はその相手の顔すら知らない状況だ。
「・・・そうだね。でも、遅かれ早かれ軍師は必要になるのも事実だよ」
北郷は銀河の決意に納得の上で、先を見据えての軍師を仲間になることを助言した。
「ああ、だから、二手に分かれよう」
銀河一人が連合軍へ行き、二人は荊州の諸葛亮へ行くという案。
「そして、北郷にお願いがある」
「お願い?」
銀河は一呼吸をついた後にこう言う。
「お前の北郷という名を俺達に分けてほしい」
「俺の名前?」
「ああ、俺や暁人には名前はあっても上の苗字はないのだ」
二人は孤児。
確かに幼き頃に、親と死に別れているために苗字がないというのは、この世界では珍しくないのかもしれない。
「それは、いいけど・・・北郷だぜ? この世界の一般苗字とは」
自身の名前をもらいたいということは照れくさい。
それに、自身の名前は異世界の名前でもある。どうしても踏ん切りは難しい。
「そんなことはない。苗字のない俺達にとって希望の名だ」
「・・・暁人は?」
この件について今まで黙っている暁人に意見を求める北郷。
すると彼は笑顔で答える。
「ああ、俺も北郷の名前をくれ」
「おー・・・」
二人の決意に押され、北郷と名乗ることを承諾するしかなかった。
北郷銀河、北郷暁人、北郷一刀。
血は繋がっていなくても、同じ志を持った三人。
そして、互いに全てを可能にできる英雄の候補たち。
・・・物語は第二幕へと始まる。
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今回から反董卓連合編です。