「バカナコトヲ言ウナ……」
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マイ「艦これ」「みほ2ん」
第34話 <敗残兵>(改2)
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日向が後部座席に乗り込むと同時に私は軍用車を発進させた。エンジンが快調に唸る。
お台場公園から出ると路地を抜けて一気に商店街を目指した。ただし決して慌てないように、またその素振りを見せないように。
「どこに敵の監視の目があるか分からないからな」
「はい」
私の想いに即応してくれる日向。この阿吽(あうん)の呼吸は、かつて前線で戦ったときと同じ感覚だ。
もちろん陸軍にも悟られてはいけない。慌ててスピード違反をして憲兵に捕まってしまえば時間の無駄。さらに癪(しゃく)だ。
助手席の無線からは継続して妖精ハルの暗号的な報告が続いてる。
「商店街の近くに結構大きな神社があるんだけど。ここなら境内も結構広くて盆踊りにはサイコーかもね」
「そうだな」
日向は何気なく返信をする。仮に軍関係者が聞いても雑談にしか聞えないだろう。
車は商店街に差し掛かる。寛代と逃げているときはソコソコ広く感じた境港の旧市街も車だと、あっという間だな。
「あ……」
思わず小さく叫んだ。
「何か?」
「いや何でもない」
実は商店街のアーケードが一方通行だと今、気づいたのだ。自分が普段から運転していないと分からないものだ。
今は空襲警報も何も出ていないが人通りが少ないので私は敢えて、そのまま素通りした。幸い憲兵も居ない。
周りを気にしながら私は言った
「一通だった……今後は気をつけよう」
「はい」
日向は淡々としている。無線に集中しているか。
アーケードを出たところでハンドルを右に廻して軍用車は路地へと入る。曲がった路地のすぐ左手がハルの言っていた神社だろう。
「あれか」
通りの角に見える神社の上空を瑞雲が旋回していた。
「ここです」
日向は報告と同時に妖精と交信を始めた。直ぐ2機の瑞雲は、やや高度を上げ周回半径を広げた。
私は慎重に神社の前に車を止めた。辺りを見渡すが人通りは無い。
交信が終わった日向に私は目配せをした。彼女も緊張した面持ちで頷く。
「神社に隠れている敵も軍人だ。恐らく逃げ出した今は武器は持っていないと思うが、それでも私たちの想像を絶する何かを持っていないとも限らない」
「はい」
「いくぞ」
「ハッ」
私と日向は降車して神社へ向かう。念のために私は拳銃を構える。
日向は一瞬、軍刀に手をかけたが「あ……」と言いながら夕立から貰った拳銃を取り出した。
私は彼女を見ていった。
「それが良い」
「はい」
彼女としては飛び道具は好みではないだろうが念のためだ。
私たちは、ゆっくりと神社の境内に入る。セミが大声で鳴いていた。まるで合唱だな。
中を見渡して日向が小さく叫ぶように言った。
「司令!」
「ああ」
そこでは意外にあっさりと深海棲艦(大井・仮)が発見された。社殿の正面、階段の中段に苦しそうに寄りかかっていたのだ。
武器は持っていないようだ。こちらを一瞬睨んだだけで特に攻撃する意思も、逃げる気も無いようだ。
私は視線を逸らさず片手を日向に向けて指示を出した。
「日向、銃を下ろせ」
「はい」
二人とも念のため引き金には指をかけたまま、ゆっくりと『彼女』に近づいた。深海棲艦は苦しそうに肩で息をしていたが、やはり大きな動きは見せない。
この炎天下の陽気と日向に受けたダメージ。それに逃亡時の疲労や緊張から来るストレスなど、いろんなものが一気に噴出しているようだ。
「痛々しいな」
私は思わず呟くように言った。
「陸軍や憲兵より先に見つけて良かった」
日向もボソッと呟いた。
「瑞雲が来たのはタイムリーだったな」
私もホッとした。瑞雲を寄こすという判断をした秘書艦・祥高の判断は、さすがとしか言いようがない。
そう思いながら、ふと見ると日向は複雑な表情をしている。自分が蹴飛ばした相手が目の前で苦しんでいるのを見れば、それが敵であっても多少は良心の呵責を覚えるのだろう。必死だったとはいえ日向も多少、やり過ぎたかも知れない。
決して責めるつもりは無いが「本気」出してたよな……まぁ、お互いに兵士だ。敵と相対すれば何処でも戦場だ。必死になるのは避けられない。今はただ、この戦争に巻き込まれている自分たちの運命を呪うしかない。
「日向、気にするな。すべて私の責任だ」
今さら無意味かも知れないが私は一言、声をかけた。
「……」
さすがの日向も、やりにくいだろう。私も最近では少しずつ艦娘たちの敏感さを感じるようになっていた。
私は銃をしまうと、さらに深海棲艦に近づいて様子を窺(うかが)った。境内の彼女は私たちへ向けて、ゆっくりと顔を上げた。
ふと目が合った。
「……」
今朝、路地で出会ったときの挑戦的な眼差しはすっかり消えていた。むしろ何かに怯えるように不安と恐怖が入り混じった弱々しい表情だ。
「オ前タチカ」
絞り出すような声……やはり相当ダメージを受けているようだな。
それでも、まだ多少は私たちに抵抗するような反抗的な光は残っている。
「……」
だが、それ以上は何も言わず乏しい表情でこちらを見つめている。もはや現実的に、これ以上抵抗しても無駄であるし戦う体力も無いだろう。
そういう立場は、お互いよく分かっているのだが……黙って睨み合っても間が持たないというか、このままでは、無意味に時間ばかり過ぎていく。
だが、いつまでもグズグスしてはいられない。こいつの体調の問題もあるし、いま陸軍や憲兵に見つかったら、かなり厄介なことになる。
私も説得は苦手だが仕方ない。
「逃げたい気持ちも分かるが無駄なことは分かるだろう」
「……」
無表情だな。
「お前のプライドは許さないかもしれない。だが、ここは敵地だ。特にいま陸軍に見つかると面倒だ」
「……」
すると日向も口を開いた。
「戦場であれば戦う定めだが今は違う。彼は海軍の司令官だ。お前を保護したいと仰っているのだ」
私も頷く。
「捕虜ということであれば、お前の身柄は海軍の責任で保証する」
続けて日向。
「今は私たちと一緒に基地へ同行してほしい。抵抗しなければ軍人としての誇りは最大限、守ってやる」
二人で言うには言った。
……だが、こいつ確か海軍とか人類が嫌いなんだよな。それ以上に私を嫌っているか。
深海棲艦は弱々しいながらも不敵な笑みを浮かべるのが分かった。
「バカナコトヲ言ウナ」
ああ、やっぱりそう来るか。そうだろうとは思ったけど、ちょっとガックリする。
だが、私もこのまま引き下がるわけにはいかない。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ2ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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司令は瑞雲が見つけた深海棲艦の元へ急行する。そして捕虜になるよう説得するのだが……