「二人で外を歩くのは初めてです」
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マイ「艦これ」「みほ2ん」
第31話 <新緑と赤面>(改2)
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日向は軍用車の傍らで相変わらず赤面している。こんな彼女を私は初めて見た。そんなに恥ずかしいことなのか?
私は鈍感だからな。こういう心理は苦手で……艦娘だと、なおさら分からん。
「もちちろん捕虜を見つけ出すには一刻の猶予もありませんが」
そう言いながら彼女は岸壁で作業をする陸軍を見渡す。
「あ……」
そこで何となく悟った。どこかで落ち着いて食べたいのだな。
私は帽子を取って汗を拭(ぬぐ)って間を持たせた。
「そうだな……取り敢えず陸軍も残骸回収で忙しいだろう。我々もサンドイッチを食べるくらいの時間はありそうだな」
そこで帽子を運転台に置くと私は日向に向き直った。
「サッサと食べてから捜しに行こうか」
そう言いながら彼女の手にしたサイドイッチに手を伸ばした。
「あれ?」
だが日向は、なぜかサッと手を引っ込めたのだ。
「おい、冗談やってる場合じゃ……ん?」
日向は、まだ真っ赤な顔をしている。
「あの……」
私も痺れが切れそうだ。
「どこか具合でも悪いのか?」
彼女は続ける。
「いえ、これは提案ですが……直ぐ傍に公園があります。瑞雲を飛ばすにも調整が必要なので、そちらの方が良いかと思います」
「あ、そうか」
よく分からないけど航空戦艦の日向が、そう言うなら無理に反発することもないか。
「じゃ、そうするか」
「はい」
なぜか急に嬉しそうな表情を見せる彼女。鈍い私は『変だな』という程度にしか思わなかった。
岸壁そばの公園といえば、お台場公園だ。
「確か陸軍の高射砲が設置されていたな」
「はい」
私は記憶を手繰りながら公園付近の地理を思い出していた。
「軍用車は公園脇の駐車場で大丈夫だろう」
「はい」
さっきから硬い感じの日向……いつもの事だな。
「じゃあ、動こうか」
私は改めて帽子を取ると運転台に座った。日向はサンドイッチを妙に大事そうに抱えて助手席に座った。
やはり『変だな』という程度にしか私には思えなかった。
私は軍用車のエンジンをかけた。車の運転は実に久しぶりだ。
だが、お台場公園といっても岸壁からは目と鼻の先で、実は歩いてでも行けるのだ。
私は何気なく言った。
「小さい頃は、ここでよく遊んだものだ」
「そうですか?」
興味深そうな彼女。
だが案の定、車は直ぐに公園脇の駐車場に着いた。
「……」
「……」
二人とも、なぜか無言のままだ。しばらく公園の木立の葉が風でザワザワとさざめく音だけが聞こえてくる。
敵機も低い音を響かせながら遥か遠くを周回し続け、空襲警報も収まっている。
やがてセミが鳴き始めた。思い出したように私は言った。
「行こう」
「ハツ」
突然スイッチが入ったように返事をする日向。別に行くアテもないが……車を降りた。
「えっと」
手で日差しを避けながら公園を見渡す。さすがに陸軍の高射砲が見える場所は落ち着かないから却下。
左手に桜の木が植わっている小高い丘がある。私は過去の記憶を思い出した。
「そこの高台にベンチがあるはずだから上がってみよう」
「ハツ」
杓子(しゃくし)定規な日向は簡易甲板を抱えて降りようとした。
「おい、それを持っていくのか?」
「ハイ」
さすがにそれはちょっと……と思った。
「荷台に置けば大丈夫だろ? 艦娘にしか使いこなせない物だから誰も盗らないよ」
「はい」
日向は抵抗することも無く、若干ぎこちなく甲板を置く。
それから改めてサンドイッチを持って降りた。
ふと見ると、お台場公園の白い灯台は今でも木々の中に鎮座している。
「懐かしいな」
私の言葉に日向は顔を上げた。
「ここは司令の?」
「ああ、故郷だからな」
今日は断続的に空襲警報がある。陸軍の高射砲……そういえば敵に破壊されて今は修理をしているが、その周りでは兵士が更に小さな機銃を数台設置して待機している。
私たちは高台への階段を上がった。ちょっとした木立の中に小さな白いベンチがあった。
「腰掛けよう」
「はい」
最初に私が座り、続けて日向が腰をかけた。
目の前に岸壁の一部が見え陸軍が作業をしている。その向こうに川のような境水道が流れ、対岸には新緑の島根半島が横たわる。
公園を渡る風は湿気が少なく心地良い。
私たちは、お互い軍服だから憲兵が来ても何も言われないだろう。
ただ瑞雲の調整名目があるとはいえ艦娘(女性)相手に二人っきりで公園でランチとは実に妙な感じだ。
元々日向は口数が少ない艦娘だ。それでもさすがに間が持たないので私は声をかけた。
「どうした? 今日は無理しすぎて体調を崩したか?」
「いえ……実は作戦以外で司令と二人で外を歩くのは初めてです」
「そうか? 一応、これも作戦中なんだが」
そう言いながら愛想が無いなと自分で思う。
日向は苦笑する。
「済みません、こういう状況は慣れないもので」
「え?」
それは、どういう状況だ? ……何が不慣れで赤い顔をしているのだろうか?
表情は淡々としているのだが、いつもと違ってソワソワした口調で会話を続ける彼女。
「岸壁で食べた方が時間的にも早いのは分かっていましたが、なぜか反射的に手を引いてしまい申し訳ありません」
「そうか? よく分からんが」
これは本当だ。彼女がそんな反応をしても別に気分は害さなかった。
何かを抑えるような雰囲気のまま彼女は説明を続ける。
「急に司令との時間は外せないという妙な感情が湧き上がって来ました」
「そうだな。今の時間なら作戦上、無線封鎖もしているから余計な邪魔も入らないから」
『え?』
……と言った感じで、お互いに顔を見合わせた。
「な、なに考えているんだ私は!」
自分で慌ててワザとらしく喋った。それは照れ隠しというか……誤魔化そうとアレコレ次の台詞を考えた。
だが急にカーッとして、こっちまで赤面する心地だ。鼓動が早まる。
直ぐ傍でセミが鳴き始めた。
「う、うるさい!」
一瞬シーンとなる公園。私の慌てぶりに日向は微笑んでいた。彼女のショートヘアが風になびいている。
「あ……」
その瞬間、急に日向の気持ちが分かったように思えた。
「なるほど、そうか」
私は帽子を取って、その想いを自分の中に定着させようとした。
それは男女の関係というよりは組織の上官と部下の信頼関係を、さらに純粋に昇華させたように感じたのだ。
澄まし顔でベンチに佇む日向を私は改めて見詰めた。
「お前の気持ちは純粋に嬉しいよ」
「はい」
普段なら絶対にいえない台詞。だが、自然にそう言えた……もし軍神が本当に居るのなら、その存在に導かれた感覚だ。
……そういえば執務室に来たときの日向は必ず神棚に手を合わせているのを思い出した。
艦娘が信心? まさかね。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ2ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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補給物資の中に昼食のサンドイッチを見つけた司令たち。だが一緒にいる日向が妙な反応をするのだった。