No.906978

真祖といちゃいちゃ 1-2

oltainさん

2017-05-24 02:05:35 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:422   閲覧ユーザー数:422

師匠達は、夕方頃に帰ってきた。

 

「師匠、おかえりなさい。あの、実は――」

俺は早速、手短に事情を説明した。

「ほう、珍妙な生き物だな。是非とも見てみたい」

「あやかし、とは考えられませんか?」

「あやかしなら、いくら小さくとも生身のお前にとっては無事では済まなかったろうよ。

とりあえず、見てみない事にはなんともなぁ。今はそいつは眠っているのか?」

「俺の部屋で、布団に寝かせてあります」

「そうか、それはちょっと心配だな」

「そうですか?気持ちよさそうに眠っていましたよ」

「心配なのは、お前の頭と布団の方だよ。少しは危機感を持て」

そう言いつつも、師匠は笑っている。

 

「夕飯の支度が終わったら、お前の部屋にゆこう」

「分かりました」

 

それから俺は、式姫達と手分けして夕飯の支度を整えた。

その間、何度か白峯さんに目配せしてみたが、何も反応はない。彼女なら何か言ってくるかと思っていたのだが。

 

ある支度が整うと、師匠は式姫達に先に食事を摂るように促して俺と台所を離れた。

足跡を殺しながら、そっと件の部屋の隣に入り、襖に聞き耳を立てる。

しばらく待っていても、特に何も聞こえない。

 

師匠は懐から呪符を数枚取り出し、ささやき声で指示を送った。

「念には念を。俺が部屋の外で待ち構えるから、襖を開けてくれ」

俺は黙って頷いた。襖にかけた手は、少し汗ばんでいる。師匠は、いつになく真剣な表情で襖を睨んでいた。

 

さて、これから何が起きるのか。

師匠が頷くのを確認してから、俺は大きく息を吐いた。

力を込めて、一気に襖を引っ張る。

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

師匠の体が一瞬ピクリと動いて、その姿勢のまま硬直した。驚いた表情だ。

「…………?」

気になった俺は、一刻遅れて部屋の中を覗いた。

見知らぬ女が布団を占拠している。銀髪に、黒っぽい見慣れぬ衣装、年は十七、八あたりだろうか。

傍らには、暑苦しくて蹴飛ばされたらしい掛け布団が乱れている。視線を部屋全体に巡らせたが、目の届く所に饅頭妖怪の姿はなかった。

 

師匠は一息つくと、俺の肩に手をかけた。

「マドカ、留守番の間は好きにしていいと言ったが」

「ち、違いますって」

「お前もいい年頃だ。女と遊びたい気持ちは分からんでもない」

「あのー、師匠。それは勘違いでして」

「よりによって、式姫を連れ込むとはなぁ。流石の俺も驚いたわ」

「だからー、それは誤解…………えっ、式……姫?」

 

師匠は呪符をしまいこみ、すたすたと部屋に入って女の近くで屈み込んだ。

俺は立ち入らずに、外から様子を伺っている。

 

「見たところ、こいつには主がいないようだ。弱っているのも、そのせいだろう。マドカ、こっちに来てよく見てみろ」

言われて師匠の傍に屈んで、その寝顔を眺めた。なるほど、言われてみれば息苦しそうにしている。

 

「さて、どうしたものか。お前が処遇を決めるんだな」

「え?」

「こいつは放っておくと、いずれは妖怪と変わらぬ人に害なすものになる。例え屋敷から放り出した所で、いつかはお前にその牙が向けられるかもしれん。

身の安全を考えるなら、眠っている間に一思いに散らしてやるのが賢明だろうな」

「それは、できません。可哀想です」

 

「ほう、哀れというのか。ありがたき師匠の忠告を無下にするとは、どこまでも愚かな奴よのう」

真剣な口調から一点、おどけた風に師匠が言った。

「なら、こいつと契約を結ぶしかないな」

 

すっと師匠が立ち上がったので、俺も釣られて立ち上がる。

「俺も、こいつがどんな式姫なのか良く知らん。見た目からして、恐らくは舶来の者だろう。

下手に契約すると、どんな目にあうかわからんぞ」

「…………」

「一度契約すると、いくら俺でも簡単に解く事はできん。それでも構わないんだな?」

 

どちらが正しいのかはは、正直自分でも分からない。

ただ、どうしたいのかは分かっていた。救う手立てがあるのなら、もう迷う事はない。

 

 

 

 

 

 

「俺が、助けます」

静かな声で、そう答えた。

 

 

 

 

 

 

「声が小さい」

「え、ええっ?」

「はぁ、全く……情けない奴だな」

師匠が困ったように頭を掻いた。

「少し待ってろ、必要な道具を持ってくる。その間に、そいつに付ける名前でも考えとくんだ。それから――」

「何ですか?」

「我慢できなくなっても、手を出すんじゃないぞ」

「しませんってば!」


 
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