【 三択 の件 】
〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗
鳳翔「提督、お話が………」
一刀「…………そうだな。 于吉や皆に────」
ーー
華琳が一時的に離れた後、鳳翔が皆を代表して一時の休息を一刀に申し入れた。 すっかり忘れられているが、ここに集まる者達は、昨夜に夜戦を行い、その結果を司徒達に報告した後だ。
そして、招かれた宴席で気を抜けば、一刀の襲撃、華琳と桂花の争い、一刀の蘇生など、晴天の霹靂が次々と訪れる。 中には仮眠を取り体調を整えた者も居るが、それでも疲労も蓄積してしまうのは、どうしようもなかった。
ーー
鳳翔「はい、承りました。 あっ、それから……提督?」
一刀「…………ん?」
加賀「…………」
ーー
一刀から許可を得た鳳翔は、微笑みながら一礼し少し進むが、何かを思い出したのか踵(きびす)を返して戻り、一刀に再度話し掛けた。
ーー
鳳翔「提督も疲れておいででしょう。 何か、つまめる物を御用意しましょうか? それとも、お飲み物でも?」
一刀「…………そうだな……」
赤城「鳳翔さん! わ、私もっ! 赤城盛りぃ……へぶぅううう!?」
加賀「赤城さん、先に提督を優先なさい」
ーー
鳳翔からの気遣いに、一刀の血の気が引いた顔が若干赤くなり、どちらを頼もうか思案に入る。 その横で一刀を支える大食艦は、聞かれもしないうちに補給の要請を開始するが、加賀より脳天唐竹割を極められ沈黙。
そんな赤城を苦笑しながら見ていた鳳翔は、少し上目使いにして一刀へ近付き────
ーー
鳳翔「提督…………もし、お嫌でなければ………」
一刀「?」
鳳翔「……………私、とか?」
一刀「─────ぶふっ! うぅ………ゴホッ、ゴホッ!!」
加賀「か、一刀提督っ! 鳳翔、貴女────」
鳳翔「ふふっ、冗談ですよ。 それでは、両方お持ちしますので失礼しますね? 提督、加賀さん」
一刀「ゲ、ゲホッ………と、とんでもない目にあった………」
加賀「……………」
赤城「 ( * ρ *) 」
ーー
突如、トンデモナイ事を言い出す鳳翔に、一刀は噴き出し咳き込み、加賀が驚いて背中を擦る。 ついでに言えば、赤城は倒れたまま動かない。
大人の色香を仄かに見せ付けながら、鳳翔は微笑を浮かべ軽く一礼した後、今度こそ于吉達に向かう。
後に残されるのは未だ咳き込む一刀、そんな一刀を心配しながら鳳翔を睨む加賀。 そして………床へ倒れたままで放置された赤城だけだった。
◆◇◆
【 〇禁 の件 】
〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗
于吉「私も異存などありませんよ」
鳳翔「はい、ご承諾して頂きありがとうございます。 私は用意がありますので、これで………」
ーー
鳳翔より休息の提案を受け入れた于吉は、長時間に渡り掛けズレてしまった眼鏡を、中指で軽く押し上げて優雅に直す。
眼鏡の位置を直すに、于吉のように指一本で直す者は意外と少数であり、普通は指二本で摘まんで直すか、五本の指で直すが方が主流と言う。 こんな所にも、彼独自の拘りが垣間見てみえよう。
そして鳳翔もまた、于吉の返事を聞くと軽く頭を下げ、待っている瑞穂達の下へと行くとテキパキと指示し、飲み物の準備を始めた。
ーー
于吉「─────幾ら歴戦の将である貴女達でも、疲労困憊の身では正常な思考を阻害し、正しい判断を失わせる恐れがあります。 この機会に少しでも身体を休め、この私の高説を拝聴して下さい」
鳳翔「それでは皆さん、しばしの間ですが……休息をお取り下さい。 始める際は、此方から再度お声を掛けさせて頂きますので……」
ーー
于吉や鳳翔の言葉に緊迫した空気が霧散する。 ある者は隣と談笑し、またある者は食事やら水分を補給しに動き出す。
そんな中、于吉から見て人垣の後ろにあたる場所。
ここで女同士で密着し、こそこそと話し合う姿が見られた。
無論、百合とかの関係では無い。
ーー
翠「(───ったく、胡散臭い野郎が。 変に勿体ぶりやがって…………)」
蒲公英「(………お姉さま、聞こえるよぉ?)」
翠「(大丈夫だよ! これだけ離れて、しかも小声で喋ってるんだ! アイツんとこに、そうそう声なんか届かないって!)」
ーー
どうも于吉の態度に嫌気がする翠は、従姉妹の蒲公英を話相手に愚痴をこぼしていたようである。
ここは、于吉から約四㍍ぐらい離れた位置であり、しかも一部の将が喧騒を引き起こし、かなり騒がしい場所だ。 しかし、『木の葉を隠すなら森の中』と言う言葉通り、喧騒の中で話せば聞こえないと考えるのも無理はない。
また、その喧騒も確かに激しいものであり────
ーー
ーー
雪蓮「はぁ、何で訳のわからない話を聞かなきゃならないのよぉ。 あぁ~、折角面白い事あるかと思って、冥琳達について来たのに………」
華雄「私は普通に飲み食いして、武人として護衛と称し役目を果たしただけだ。 そこの孫家の娘と違い、別に疲れてもいないのだがな……」
雪蓮「なっ!? 私だって───『何や、やけに偉そうな強がりゆうてへんかぁ? 華雄っち!』……えっ?」
華雄「誰だ、私を───むっ、霞か……」
霞「霞か、じゃない! こんのぉ───スカ、ポン、タンッ!」
華雄「す、すかぁ……ぽん……たん……? どう意味だ?」
霞「『スカタン』と『アンポンタン』と言う罵声を足して半分に割った言葉や! 脳筋な相手に『バカ ドジ マヌケ』なんて普通の罵声を浴びせるより、こっち使って貶した方が判るやろう!!」
雪蓮「スカポン……タン? うん、いいわぁ! それって……凄くお似合いじゃない! 母様に負けた華雄にピッタリの言葉よ!」
華雄「なっ、何だとぉ!? ぶ、武人に対して罵詈雑言など────」
霞「黙っとれぇ! 自分の立場を省みずに、ようもそないな寝惚けた事ぬかせるなぁ!! こんのぉ………ド阿呆がぁ!!!」
華雄「ど、どういう───」
霞「どんな理由があるか知らへんが、一国の王を相手に将が喧嘩なんぞ吹っ掛けりゃ、月に迷惑を掛けること理解できへんのか!?」
華雄「─────!」
霞「それに、あの戦いで気絶した後から宴会始まるまで、スヤスヤ寝とったんやで? 華雄の身体が達者なんは当然の結果やっ!!」
華雄「─────────だ、だが、私は………月様を庇って……」
霞「それを言うんなら、ウチだてぇ~な? 身体がアッチコッチ痛いつうに、くそ重い華雄っちを背負って、遠いとこから此処まで来たんだでぇ!? 感謝の言葉ぐらい掛けても欲しいくらいだわぁ!」
華雄「そ、それは…………」
ーー
ーー
こんな状態の場所で聞き分けるなど、翠で無くても無理な場所と思えよう。
だが、相手は………あの、于吉である。
これはあまりに迂闊としか言えない行動だった。
ーー
于吉「一つ、言い忘れていました! これは、貴女達にとって生死を別つ事です!! 聞き逃しなどなされないように!! いいですか! 物凄く大事な話ですよっ!?」
「「「 ??? 」」」
ーー
于吉は急に思い出しと言わんばかりに大声を上げ、解散する皆を呼び止め、ある重大な話を始めた。
それは如何なる美少女、美女でも生じる………生理現象。
ーー
于吉「花を摘みに行かれる方は、今の内に摘みに行って下さい」
「「「 ─────!? 」」」
ーー
于吉の言葉に一瞬唖然とする恋姫達だが、すぐに意味を理解したらしく何人かが頬を染めつつ恥ずかしげに頷く。
中には、触発されたのか急に内股でモジモジする者、于吉を睨みつける者も当然居たのだが、左慈にしか興味がない于吉にとっては路傍の石同然。
そんな様子に眉ひとつ動かさず、更なる説明を語りだした。
ーー
于吉「私の説明は詳細かつ長丁場になりますが、秘密事項も多いので……部屋外への途中退席は認めません。 ですから、この機を逃すと……後は理解できますね?」
「「「 ///////// 」」」
于吉「まあ、特に前歴のある方は理解されているでしょうが……」
「「「 …………… 」」」
ーー
少し言葉を濁しつつ語る于吉の視線が、とある方向に定められた。 前歴……即ち経験者を指す意味と気付いた周りの者達も、一斉に『とある人物』へ顔を向ける。
天の国で『黒歴史』と言われる経験者は、そう………ただ一人。
ーー
翠「────っ!? お、おいっ! 何で、あたしに視線を向けるんだよっ!? 」
蒲公英「お姉さま…………」
翠「や、止めろよ! そんな憐れみな目で────」
ーー
皆の注目を浴びて、ついつい声を上げてしまった翠。
しかし、于吉は不思議そうに首を傾げ、呟いた。
ーー
于吉「ふむ、貴女が………そうですか、馬孟起殿?」
翠「白々しい真似するなよっ! お前、あたしだって知ってて!!」
于吉「いえ、他意などありません」
翠「──────!?」
ーー
于吉の言葉を聞いて、怒鳴り声を上げようとする翠だが、更に自分へ注視されると理解し、慌てて口を両手で塞ぐ。
そんな翠を一瞥し、于吉は翠に背を向けて話し出す。 于吉が翠を見ていた理由を説明したのだ。
ーー
于吉「どちらかと言うと、そちらから私の名を呼んでいた気がしたもので。 胡散臭いとか、聞こえないとか……」
翠「そ、そそそ、そんな訳ぇ─────」
于吉「まあ、いいです。 しかし、こうして偶然ながら貴女に視線を向けても……ふむ、誰も弁護してくれないようで。 どうやら……要注意人物として貴女を危険視しなければならないようですね」
「「「 …………… 」」」
翠「─────て、てめぇええええっ!!」
ーー
于吉の声に、侮辱する感情が込められているのに気付き、顔を真っ赤にしながら睨みつける。
…………そして、理解したのだ。
于吉は、翠の黒歴史を知りながら、偶然を装い仕返しを行ったのだと。
ーー
于吉「………いいですか? 呉々も粗相など御断りですから……」
翠「ば、ばぁかやろ『その言い方は酷いよ!』───た、蒲公英! あたしを庇ってくれるのか!? やっぱり持つべき者は───────」
ーー
翠の横より従妹の蒲公英が、『ここにいるぞぉ!』と言わんばかりに声を上げる。 その言葉は、窮地に追い込まれた翠を喜ばせるのに十分であり、この場に蒲公英が居る事を、運命に感謝した。
だが…………次の言葉に、翠の笑顔が凍りつく。
ーー
蒲公英「アレはねぇ! みんなから公認されている、お姉さまの『個性』なんだよ!!」ニヤッ
翠「─────なっ!?」
ーー
《まさかの裏切り!?》
《それとも、于吉の妖術で操られたのか!?》
そんな事を頭に思い浮かべたのだが、横で弾けんばかりの笑顔を見せる蒲公英の表情を見て、直ぐに理解した。
それは、いつもの悪戯好きの蒲公英の顔。
従姉を弄くるのが大好きな彼女にとっては、まさに好機到来と言うのだろう。 『うふふふふっ』と声が漏れる程の上機嫌な笑みを作り、于吉と目を合わせる。
慌てて蒲公英を止めようとしたが、時は既に遅し。
わざとらしく驚いた于吉は、ニヤニヤしながら蒲公英の話に乗った。
ーー
于吉「おおぉ、そうでしたかぁ!」ニヤニヤ
蒲公英「まったく、もうっ! お姉さまに対して『しちゃいけない』って禁じるのは、お姉さまの持ってる数少ない個性を没させる意味になるんだからね! 今度は、気を付けて欲しいなぁ!」
于吉「確かに、悪い事を言ってしまいました。 この于吉、大いに謝罪いたしましょう!」
翠「だ、だだ……だ、黙って聞いてればぁあああぁぁぁっっっ!!!」
ーー
蒲公英と于吉の掛け合いは、まるで長年相方を勤め上げた夫婦漫才の如く流暢に進み、顔を真っ赤にした翠のツッコミが入り話が終わる。
このやり取りを見ていた全員が、部屋の外に出たのは当然の結末だった。
◆◇◆
【 断金 の件 】
〖 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて 〗
短め休憩を取る者の中に、孫呉の王と従う臣下が仲良く談笑している。
しかし、その会話は改まった言い方ではなく、実に砕けた日常的な物言いで、『これが君臣の間なのか!?』と事情を知らぬ儒家の者が聞けば、憤慨すること間違いない。
だが、この二人にとっては……これが当然の間柄であり『断金之交』の真骨頂と言えるのだろう。
ーー
雪蓮「あぁ~あ、退屈ぅ~~」
冥琳「孫呉を引っ張って行く王が何を寝惚けた事を言っている。 しっかり聞いておかないと、もしかの時に対応できないぞ?」
雪蓮「だけどねぇ~、もし私が聞きそびれても、代わりに冥琳が一言一句まで覚えてくれているんでしょ?」ニヤッ
冥琳「もし、私が聞きそびれていたら、どうするつもりなんだ?」
雪蓮「簡単じゃない。 そんな時になったら、この説明している于吉から直接聞いてみるわよ。 だって、私んとこの客将なんだし~」
冥琳「全く………お前は。 少しは蓮華様を見習え」
雪蓮「やぁ~だぁ! それよりもさぁ……私、納得できない!」
冥琳「言いたい事は判るが、一応聞いてやろう。 ………何がだ?」
雪蓮「私の目前で御遣い君達が居るのに、ちっとも手合わせが出来ないって事! まるで、目の前で御預けを喰らった穏みたいに、ものすごぉぉぉ~くぅ不満なのよっ!!」
冥琳「……………雪蓮」
雪蓮「そんな憂鬱そうな顔しないでよ。 今回は、ちゃんとした理由だってあるわ」
冥琳「………ほう、その理由とは何だ?」
雪蓮「うん、私は思うの。 御遣い君達と私達って、これからも共闘していくんでしょ? だったら、一回ぐらい手合わせして、お互いの実力を示した方が友好が増すと思うんだけど~?」
冥琳「………………」
雪蓮「勿論、御遣い君達の大変だった状況は理解しているわ。 だけど、私達には目的がある。 相手の意向を無視するのは申し訳ないけど、私達は御遣い君達の実力を知らなければ、彼らを利用できないわ」
冥琳「袁術の……か」
雪蓮「そう。 今回の戦闘だって、私達が一方的に手助けしただけ。 それなのに話だけで済まして御仕舞い、なんて勿体ないと思うの」
冥琳「…………うぅ~む」
雪蓮「それに、冥琳が読んでる兵法書にだって書いてあるでしょ? 『知彼知己、百戰不殆』って!」
冥琳「………お前が兵法を語るとはな……」
雪蓮「ふふん、私だってやれば出来るのよ。 どう、見直した?」
冥琳「まあ、それは……………置いといておくとして」
雪蓮「私の評価は無視っ!? 冥琳、ひどっ!!」
冥琳「此方の方が遥かに重要だろう? だか、成る程……言いたい事は理解した」
雪蓮「なら、冥琳から頼んでみてよ! 頻繁に国を空けれない私達にとっては、またとない好機なのよ? 面識が少ない私より親しい冥琳が頼んでくれた方が断れ難いと思うの。 だから、冥琳………お願い!!」
冥琳「たが、この話は…………却下だ! 雪蓮も絶対に北郷達へ伝えるな!」
雪蓮「────なんでぇ? どうしてなのよっ!?」
冥琳「確認するまでもなく、御遣い達一行は……強い。 雪蓮一人だけ、いや………ハッキリ言って……雪蓮、祭殿、思春、明命、星……孫呉の将達が総出で立ち向かって………彼女達、誰一人を相手取っても勝てないだろう」
雪蓮「…………………はぁ?」
冥琳「孫呉の将を知り、相手を知る私から見て……戦わなくても百戦百敗する事が私の目に見えているのだ。 更に、その後の士気の低下を含めると、百害あって一利なし。 袁術どころか孫呉の命運まで左右されるぞ?」
雪蓮「…………こんな時に……何の冗談? 幾ら何でも笑えないわよ、冥琳!」
冥琳「そうか? 至極、妥当な判断だぞ」
雪蓮「何でそんな判断を下せるのよ! 私にも判るように説明して頂戴!」
冥琳「簡単な事だ。 お前達が御遣い達に負ければ、孫呉の士気が低下し計画は危ぶまれる。 そうなれば、士気回復に多大な労力を注ぎ込まなくならないし、近隣諸侯から襲撃される可能性もあるからだ!」
雪蓮「冥琳、よく見てよっ! あの御遣い君の中には、シャオみたいな年代の娘(こ)も居るのが判るでしょう!? それなのに、私を含めても全員で攻撃しても、御遣い一人相手でも勝てないなんて……冗談じゃないわ!!」
冥琳「雪蓮、私を侮るな! これは、冷静に双方の実力を比べて出した判断だ! この事は、私の軍師の矜恃を懸け、嘘偽りが無いと誓う!!」
雪蓮「────!!」
冥琳「いいか? 誰が好き好んで、自軍の将の敗北する様子を予測すると思う。 私だって孫呉の勝利を願うし、現実に勝って貰った方が何かと手札が増えて都合がいい。 勝てば官軍、敗ければ何とやらと言うじゃないか!」
雪蓮「………………」
冥琳「だが、私は彼女達の働きを見たこそ知っている。 前執金吾『楊奉』の反乱の最中、御遣い達の戦い振りを。 行動していたのは、今いる彼女達の仲間だったが、私は漠然と眺めるしかなかったのさ」
雪蓮「そ、そんなに……凄かった……の!?」
冥琳「彼女達は……人の身を超越していた。 文字通り『万夫不当』『一騎当千』が具現化し、その身に殺意の意思があれば、容易く成し遂げる力を持つ者……と断言しよう」
雪蓮「……………え、えっ? もしかして、私達よりも………?」
冥琳「ああ、全くもって比べ物にならないし、その活躍は筆舌に尽くし難い。 何せ……の常識を遥かに上回る……未知なる戦だったのだから」
雪蓮「………ど、どんな風?」
冥琳「蒼き空に群れをなして飛び交い、白き雲の絵画を描く絡繰り。 雷鳴の如き轟音を長き筒より絶え間なく響かせる兵器群。 そして、重厚な鎧に覆われた敵兵を、ほぼ素手で縦横無尽に薙ぎ倒して行く御遣い達」
雪蓮「…………何、それ……?」
冥琳「そして、極めつけは……権力という天を占められ、地という場所を決められ、人を質に取られた今回の反乱。 私なら打つ手などなかったと言うのに、それを掌を返すが如き逆転させた……北郷の指揮と軍略。」
雪蓮「ど………………てよ……」
冥琳「こうも鮮やかな逆転を見せられたのだ。 軍師として、将として…… 血湧き肉躍っても仕方がないだろう」
雪蓮「どうして!? どうしてよ、冥琳っ!! 私、その活躍したっていう細かい話、ぜっんぜん聞いてないわ!!!」
冥琳「……………」
雪蓮「何で黙っているのよっ!!」
冥琳「その原因である、お前が言うか……雪蓮?」
雪蓮「…………えっ?」
冥琳「先に竹簡で報告を上げれば、他の仕事と一緒に私へと放り投げ、自分は城下へと雲隠れ。 報告に向かえば、執務室は何時も蛻の殻。 ならばと、私が呼べば隠れる、逃げるの二択でしか応じない」
雪蓮「わ、私だって忙しかったの!」
冥琳「ほう? 仕事を放り投げても……か?」
雪蓮「当然じゃない! 大事な臣下達が苦しんでいるなら、手を差し伸べるのも王の役目。 そうなれば、仕事なんて後まわ───ん、んん! 仕事なんて手に付けれないわよ!」
冥琳「…………それはそれは。 実に我らは情け深い王を戴いたものだ。 雪蓮の態度に、今は亡き文台様も草葉の陰で喜んでいらっしゃるだろう」
雪蓮「ふふ~ん!」
冥琳「それでは、臣として慎んで尋ねさていただく。 具体的には、どのような事をされたと?」
雪蓮「ぅん~と、風が迷子の子猫を探していると言うから、一日中付き合ったり、稟が鼻血が止まらないって風を探していたから、私が風の代わりに叩いて昏倒させたとか。 一刻ほど……目を覚まさなかったけど……」
冥琳「………………」
雪蓮「他には……………そうそう! 星より酒の相手をして欲しい言われて付き合ったわ! いつの間にか祭まで交えて、とっても楽しかった!!」
冥琳「……………………もういい、止めろ!」
雪蓮「な、何よ!?」
冥琳「どうやら……私自身、非常に甘かったと言うしかないな。 雪蓮が此処まで政務に怠慢な行動を示すとは………」
雪蓮「………め、冥琳? か、顔が……とても怖いんだけど………」
冥琳「フッ、心配するな。 私が無理ならば……別の適任者に頼むまでだ。 北郷に頼めば、必ず協力してくれる事だろうし……」
雪蓮「へっ?」
冥琳「どうした、お前が望んだのだろう? 天の御遣いと手合わせしたいと。 ならば、最低でも数人、孫呉に常駐して貰えるように頼めば……お前と何時何時でも、好きなだけ相手してくれるぞ?」
雪蓮「そ、それは……嬉しいんだけど……」
冥琳「どうした? 他にも御遣いが居れば孫呉の名声も上がり、袁術に対しても効果はある。 北郷にしても、本拠地の他に拠点が出来て都合がいいだろう。 相互扶助の関係だ」
雪蓮「私の勘が………警戒してるの。 冥琳、何か別の事……考えてない?」
冥琳「いや、私は常に雪蓮や孫呉の繁栄の為に動いている。 他意など全くないぞ? 心配なら私の目を見てみろ」
雪蓮「……………」ジィ~
冥琳「……………」
雪蓮「あ、あははは…………確かに、本当みたいね。 それじゃ冥琳、後で御遣い君に伝えてよ。 此方で住いを提供するから強い御遣いをお願い……って」
冥琳「ああ、任せろ。 雪蓮が反抗できないぐらいの……な」ニヤッ
雪蓮「うん! 楽しみだな~!!」
ーー
この会話が終わった少し後に、鳳翔から再開の知らせが入り、二人は再び于吉の下に集まる。
互いに認め合うが故に固く培われた絆……『断金之交』
それが北郷達と交わり、どのように変化するのか……本人達には知る由もなかった。
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殆んど閑話的な内容です。 仕事が忙しくて、話が詰めれませんでした。