No.905594

真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第十九話


 お待たせしました!

 ようやくですが、連合との戦の後始末を

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2017-05-14 16:36:14 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:5173   閲覧ユーザー数:3894

 

 ~幽州・北平にて~

 

「…以上が、此処までの戦の顛末になります」

 

 諸葛亮が城内の一室にてその部屋の主に収集した戦の情報を伝えていた。その横には趙雲もいて、

 

 諸葛亮の報告を神妙な面持ちで聞いている。

 

「…それでは、白蓮姉様がどうなったのかは今もって分からないという事なのですね?」

 

「はい…我々もあらん限りの情報網を使って探りを入れてはみたのですが、連合内における兵の反

 

 乱の最中にその姿を見たという情報以上の物は…申し訳ございません、公孫淵様」

 

 この部屋の主にして諸葛亮と趙雲が報告をしている相手こそ、公孫賛の従妹である公孫淵である。

 

 二人は公孫賛に託された北平への軍の撤退を成し遂げたその足で公孫淵の下へ赴き、とりあえず

 

 は公孫賛が戻って来るまでの間という事で彼女に軍と政の指揮を執ってもらっていたのであった

 

 が、連合が壊滅したとの報がもたらされても、公孫賛が戻って来る気配は一向に無く、二人は報

 

 告も兼ねて公孫淵に公孫賛の意志に沿って太守の任を継ぐかどうかを確認に来たのであった。

 

「公孫淵様、あなたが伯珪殿のお帰りを待ちたい気持ちは良く分かります。我らとて、あのお方が

 

 そう易々と死ぬなどと思ってはおりませぬが…事は急を要します。まずは代理であれ後継であれ、

 

 この北平を誰が治めるのかをしっかりと表明せねば、遠からず相国閣下の軍が此処まで押し寄せ

 

 て参りましょう。それからでは全てが水の泡…我らはまだ良いとしても、兵や民達にまで害が出

 

 てしまうやもしれません」

 

「しかし、私は剣や馬の扱いならば多少の心得はありますが、政や軍の指揮については素人に毛の

 

 生えた程度…此処までは白蓮姉様が帰って来るまでのつなぎという事で何とかやってはきました

 

 が、此処での表明は間違いなく私が太守の任を継いで北平を治める事を皇帝陛下や相国閣下に認

 

 めてもらおうという事。正直、私にはそこまでの自信は…」

 

「政については、非才ながらこの諸葛亮が補佐させていただきますし、軍の指揮については趙雲殿

 

 が補佐を務めさせていただくと申しております。それに、これは公孫賛様のご意志でもございま

 

 す。どうか、北平の民の為…ひいては漢の安寧の為、此処はどうか…」

 

 

 

 公孫淵は太守の任を継ぐ事に逡巡を見せるが、趙雲と諸葛亮の説得…その中にあった『公孫賛の

 

 意志』という言葉にジッと考えを巡らせていた。そして…。

 

「分かりました…二人がそこまで言ってくれるのであれば太守の任、不肖の身ではありますがこの

 

 公孫淵が引き継ぎましょう。但し…条件は二つ、私はあくまでも白蓮姉様が戻って来るまでの代

 

 理である事。そして…二人が先程の言葉通り、私の補佐をしてくれる事。良いですね?」

 

 そう言って公孫賛の後を継ぐ事を宣言し、二人に改めて念を押す。

 

「はっ、この趙子龍、公孫淵様の御為に力を尽くしましょう…我が真名は『星』です。改めてよろ

 

 しくお願い申し上げます」

 

「私も同じく…我が真名『朱里』を公孫淵様にお預けいたします」

 

「ありがとう、二人とも…我が真名は『銀蓮(いんれん)』です。白蓮姉様に比べれば非才な身で

 

 すが、こちらこそよしなに頼みます…では、早速ですが、南皮に進軍して来ている張勲殿の下へ

 

 赴きます。朱里はその前に張勲殿へ文を…私が白蓮姉様の後を継ぐ旨と、それを相国閣下へ許可

 

 を頂く仲介をお願いしたいので、張勲殿の下へ赴くという旨を。星は私がいない間の北平の守り

 

 をお願いします」

 

「おや、銀蓮様…袁術様ではなく張勲殿でよろしいのですね?」

 

「星、私は幽州の外へあまり行った事はありませんが、最低限の事は知っているつもりです。袁術

 

 軍とはいえ、実際に軍を指揮しているのは張勲殿…袁術様に仲介してもらうにも、張勲殿に先に

 

 話を通して置いた方が良い位の事は分かります。あなたも分かっててそう言っているとは認識し

 

 ているつもりではありますけどね」

 

「おっと、これは過ぎた口を…失礼いたしました」

 

 公孫淵の宣言に趙雲はそう軽口を叩くが、公孫淵が丁寧にそう返すと彼女はニッと笑って引き下

 

 がる。

 

 

 

「それでは朱里、星、万事抜かりなく…これは北平の民の為でもありますからね」

 

「「ははっ」」

 

 公孫淵の言葉に二人は『この方ならば間違いない』と認識を新たに、それぞれの任を果たす為に

 

 その場から下がったのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 その二日後、南皮にて。

 

「分かりました。公孫淵様の到着をお待ちしていますとお伝えください」

 

 公孫淵からの手紙を一読した張勲は、使者にそう伝える。

 

「のぉ、七乃…その公孫淵とかいう者の事を認めるのか?」

 

「正確に言うと、その件を相国閣下に仲介をするという事を承諾したという事ですね。まあ、此処

 

 は私にお任せを…お嬢様は名前と顔だけで大丈夫ですからね~」

 

「そうか、七乃がそう言うのなら良いのだろうが…このまま幽州も攻め落とした方が手柄になるの

 

 ではないかと思ったのでの」

 

「いえいえ、戦わずにして手柄をあげる事が出来れば、その方が皇帝陛下や相国閣下の覚えもめで

 

 たくなるのですよ」

 

「ほぅ、そういうものなのか?なら、七乃に任せる!」

 

 袁術は張勲にそう言うと、天幕の中へと入っていった。

 

(少しでも連合に参加した事を帳消しにする為に、徐州・青州の制圧だけで終わらせずに此処まで

 

 出張って来ましたが、どうやら大正解だったようですね。冀州の大部分は制圧済、残る幽州を如

 

 何様にするか悩み所でしたけど、戦う事無く公孫淵さんの北平太守就任の仲介を手土産に洛陽に

 

 戻ればお嬢様の地位も安泰というもの…とはいえ、南陽からの配置換えは避けられないでしょう

 

 けどね。でも、此処まで頑張ったのですから、出来れば南皮か鄴辺りへの転封とかだったら嬉し

 

 いのですけどね~。此処はもう一頑張りしますか)

 

 天幕の中へ入っていく袁術を横目に見ながら、張勲はそんな事を考えていたのであった。

 

 

 

 所変わって、揚州・建業にて。

 

「冥琳、どうすれば良いの?連合は壊滅、参加していた姉様は行方不明、北部は完全に董相国とそ

 

 れに与する者達によって制圧、どうやら襄陽の劉表はいち早く腹心の蔡瑁を洛陽に送り込んで謝

 

 罪したらしいし…残るは益州の劉焉と我らだけになってしまった。我らはどうすれば良いの?母

 

 様も姉様もいないこの状況で…」

 

 周瑜にそう話しかけながら落ち着きなく部屋を歩き回っているのは、孫堅の次女である孫権であ

 

 った。孫堅・孫策がいない今、彼女が孫家の棟梁というべき位置付けになるのだが…今まで母と

 

 姉の影に隠れていて、ほとんど自分で何かを決めるという経験が無い彼女にとって、今回の事は

 

 あまりにも大きすぎる話であった。

 

「落ち着いてください、蓮華様。この期に及んで我らが取る道はほぼ限られているのはあなたにも

 

 分かっているはずです」

 

「…ならば、冥琳は母様を殺した相手に頭を下げろというのか!?」

 

「炎蓮様は最期に『全ては孫呉の為に進め、例えそれが己の心に反する事であっても』と言い残さ

 

 れました…直接これを伝えられた雪蓮の奴はそれに反する行動を取り、行方知れずとなった以上

 

 は、それを継ぐのはあなたしかいないのです。それに、炎蓮様を殺したと仰られましたが、これ

 

 は戦です。しかも仕掛けたのは我らの方…向こうに恨みを向けるのは筋違い…炎蓮様とて、それ

 

 が分かっているからこその最期のお言葉だったのではないかと」

 

 周瑜の言葉に孫権は激昂するも、さらに諭されるようにそう続けられると、それ以上何も言い返

 

 す事は出来なくなってしまう。

 

「分かった…冥琳の言う通りなのであろうな。ならば、母様の遺志に従い私は孫呉の民の為に最も

 

 良いと思う方法を取る」

 

 

 

「蓮華様…よくぞご決d『しかし、かの七志野権兵衛とやらだけは許せぬ!』…それは」

 

「分かっている…だが、頬を一発殴る位させてくれ」

 

「…それが出来るのなら、ですがね」

 

「ええ、少なくとも相国閣下の前では控えるわ…さあ、行きましょう、冥琳!」

 

「ははっ!」

 

(雪蓮…今、お前は何処でどうしているかは知らないが、私は炎蓮様のお言葉通りに孫呉の為に最

 

 善を尽くす。お前が今後どうしようとも邪魔をするつもりは無いが…早まった真似はするなよ)

 

 ・・・・・・・

 

 戦が終わって三週間程が過ぎ、ようやく一連の後始末が一段落した所で、洛陽には董卓軍・馬騰

 

 軍を始め連合と戦った諸侯や、月様に正式に謝罪し改めて漢と月様に忠誠を誓った諸侯が集結し

 

 ていた。

 

「しかし、俺がこんな場所にいて良いのか?もっと後ろの方で良いんだけど…」

 

「何言ってるわけ?今回の戦において一番の功績は一刀なのよ?そんなあんたが後ろの方になんか

 

 いたら逆に月の信用に傷が付くって位分かるでしょ?」

 

 そして、俺は集結した諸侯や将兵の中で一番前の場所を指定され、あまりの居心地の悪さに詠に

 

 そう話しかけると、逆にそうたしなめられてしまう。

 

(ああ…思えば遠くへ来たもんだ。元の世界じゃ校長室に掃除で入るだけでも緊張したっていうの

 

 に、まさかこのような格式ばった場所の中心ともいえる所に立つなんて…一小市民には重すぎる。

 

 ああ、胃が痛い…早く終わってくれ)

 

 俺はそう思いながら、月様が入ってくるのを待っていたのだが…そこに現れたのは、月様とは違

 

 った雰囲気を持つ女の子であった。

 

 誰だろう?あの娘…と少々暢気に考えていた俺とは裏腹に、周りが一斉に騒めき立ち、その娘に

 

 対し平伏する。

 

 

 

「どうしたんだ、あの娘ってお偉いh…『バカ!いいから平伏しなさい!!』…うわっ!?」

 

 詠にあの娘が誰か聞こうとするが、詠は慌てた様子でそう言いながら、俺を半ば無理やりに平伏

 

 させる。この慌てようからすると、月様より偉い人とか…って、もしかして?

 

「どうやら初めての人もいるようですので、改めて名乗りを…我が名は劉協、皇帝劉宏の妹です」

 

 さすがに皇帝陛下のお出ましとまではいかなかったようだが、御妹君の御登場とは…あれ?劉協

 

 って献帝の名前だったはず…それに確か劉宏って霊帝の名だったはずだし…献帝って霊帝の妹だ

 

 ったっけ?子供じゃなかったっけか?まあ、武将が女の子って時点で既に俺の知っている三国志

 

 からはかけ離れているので、そういう差異はもはや些細な事なのかもしれないのだけど。

 

「白湯様!まずは私が出てからと言っていたではありませんか!?」

 

 劉協殿下が名乗った直後、月様がそう言いながら慌てた様子で現れる。

 

「月が何時まで経っても現れないからだもn…オホン、現れないからです。姉上が出て来られない

 

 以上、私は皇族として此度の戦に功労があった者達への謝意を一刻でも早く示したかったのです。

 

 ところで、月が遅くなったのはもしかして…?」

 

「は、はぁ…陛下からのお召しで」

 

「まったく、姉上ときたら…このような時なのだから自分がちゃんと表に出て来るか表に出る者へ

 

 の邪魔をしないかどちらかはやって欲しいものです」

 

 劉協殿下は渋い顔でそう一人ごちる。

 

「まぁ、それはおいておくとして…皆、此度は良く戦ってくれました。此処にいる董卓は姉…陛下

 

 と私が最も頼りにしている者にして、洛陽の民からは敬慕の対象たる存在です。それがまさかの

 

 暴君の烙印を押され、袁紹始め多くの諸侯から刃を向けられる存在になろうとは…本来であれば、

 

 このような愚かな戦など漢王朝の力でやめさせるべきであったのですが、此処に至るまで全く力

 

 になれなかった事、陛下に成り代わり此処に謝罪させていただく所存です」

 

 

 

 劉協殿下はそう言うと頭を下げる。

 

「白湯様、頭をお上げください!あなたは皇族、しかもお世継ぎの身ではありませぬか!そのよう

 

 な御方が軽々しく頭を下げるなどあってはなりません!」

 

「月の言う事も分かります。しかし、事態を此処までこじらせたのは間違いなく我らの落度、その

 

 謝罪であるのなら私が頭を下げるべきでありましょう」

 

 …俺の感覚じゃいまいち良く分からないのだが、やはりこの世界というか時代の常識で考えれば

 

 皇族が易々と頭を下げるのは良い事では無いようだな。

 

「頭を下げるのは私達臣下の者にお任せを」

 

「そうですか…分かりました。ならば以後は気を付けましょう」

 

 月様の言葉に劉協殿下は少し寂しそうな顔でそう答える。

 

「さて、改めまして…この度の事、皆には苦労をかけました。幸いな事に洛陽及び董卓の軍勢には

 

 大きな被害はなく、相国がこれからも変わらず漢の社稷を守っていく存在たる事に皇族としても

 

 何ら心配も無い事については安堵しております。馬騰始め袁紹の駄檄文などに惑わされず董卓の

 

 力になってくれた諸侯には感謝の念に堪えません」

 

 …劉協殿下の言葉に一部の諸侯(後からこちら側についた人達)の顔が少々ひきつっていたのは

 

 気のせいではあるまい。むしろ、それを聞きながら涼しい顔をしている華琳や張勲さんの方が凄

 

 いのかもしれないのだが。

 

 そして、劉協殿下の立ち合いの下、月様より今回の戦の論功行賞及び連合側に付いた諸侯の処罰

 

 が発表される。

 

 月様については相国位は無論そのままで、さらに并州の州牧を兼ねる事となり、馬騰さんには雍

 

 州の西半分が与えられる事となった。

 

 当然の事ながら、連合の首謀者である袁紹と最後まで袁紹に与した劉備は改易(本人は行方不明

 

 であるので捜索は引き続き行われるようではあるが)、孫策については本人は連合に留まったも

 

 のの、それはあくまでも個人での事とし、江東は妹の孫権に改めて与える事になった(但し、荊

 

 州に持っていた一部の領土については没収、江東については月様の管理の下での統治という事に

 

 なり、形式上ではあるが孫家は月様の家臣という位置づけになるとの事であった)。

 

 

 

 そして公孫賛については、本人は連合の陣にいたものの軍は既に引き揚げていた事、そして本人

 

 が行方不明になっている事を鑑み、従妹の公孫淵が北平太守を継ぐ事でそれ以上は問わないとい

 

 う結果になった。

 

 そして、華琳であるが、彼女には今の兗州に加え予州も与えるとの仰せであったのだが、華琳本

 

 人より辞退の申し出があり、兗州州牧への正式任官だけとなった…何故、予州を断ったのかは結

 

 局分からずじまいだったが。

 

 その他の諸侯については(未だ沈黙を保っている益州の劉焉については改めて協議する事になっ

 

 たが)概ね所領安堵で決着したのである(連合に参加した懲罰として次の税については一割増し

 

 で納める事にはなったのだが)。

 

 最後に袁術であるが…。

 

「袁術、その方は最初は袁紹と共に連合の主軸を担っていたその罪は重いものの、それを悔い改め

 

 帰参した後、徐州・青州の制圧及び公孫淵の仲介に功あり。よって冀州の内、南皮・鄴を与える

 

 事とする。但し、南陽は召し上げる。以上である」

 

 …はっきり言って連合の主軸にいた割にはとんでもなく好待遇と言わざるを得ない裁可である。

 

 それなのに、袁術さん本人は南陽を取られるのが嫌だと言い出す始末で(最終的には張勲さんが

 

 うまく丸め込んでいたが)…どうやらあそこは張勲さんがいないととんでもなく事になりそうな

 

 気がするな。

 

 ・・・・・・・

 

 一刻後、諸侯達が辞した宮中には董卓軍と馬騰軍の面々のみが残っていた。

 

「皆さん、本当にお疲れさまでした。そして、このような戦になったのも全ては私の不甲斐なさか

 

 ら来た事、改めてお詫び申し上げます」

 

「何言ってるのよ。今回の事、月は何も悪くない。全部袁紹のつまらない嫉妬と欲望からじゃない」

 

「そうだぞ、月。お前は堂々と胸を張っていれば良いのだ」

 

 月様はそう言って頭を下げるが、詠と馬騰さんはそう励ますように言っていた。

 

 

 

「そして…一刀さん。今回の戦、これだけの大勝で終える事が出来たのは全てあなたが造ってくれ

 

 た備えがあればこそです。本当にありがとうございます…あの時、華琳さんでなく私を選んでく

 

 れて」

 

 そして、月様は俺にそう言うとさらに深々と頭を下げる。まあ、確かに華琳が洛陽に来たあの時

 

 に向こうに付いていっていたら、俺は間違いなく連合側で汜水関や虎牢関を破壊する兵器を考え

 

 ていただろうから、そう言ってくれるのは嬉しいのだが…『私を選んでくれてありがとう』と女

 

 の子から言われると何だか違う意味で取ってしまいそうで、少々くすぐったい気持ちになったり

 

 する。まあ、月様が俺にそんな感情を抱く事なんぞ無いだろうけど。

 

「よって、一刀さんを参軍に任じその功に報いたいと思います」

 

 …えっ?俺を参軍に?参軍って…俺に官位が与えられるって事!?

 

「でも、俺なんかに本当に良いの!?」

 

「何言ってるのよ、あんたがいなけりゃ勝ち戦にならなかったのは誰の眼から見ても分かる話じゃ

 

 ない。それだけの功があった者に何も褒賞を与えないなんて事になったら逆に月の信望に傷を付

 

 ける事になるのよ。だから、おとなしく受けておきなさい」

 

「そういうものなのか…それでは、非才の身ではありますが喜んでお受けいたします」

 

 俺は躊躇いを感じるが、詠の言う事ももっともだと思い、それを受ける。

 

「本当は領土とかも考えたのですけどね…一刀さんには洛陽にいてもらうのが一番かと思ったので、

 

 それについてはいずれまたという事で」

 

 …これで領地とか言われたら卒倒してしまう所だったな。

 

「それと、今後の事ですが…国の為に役に立てそうな絡繰を思いついたのなら、先に話を持ってき

 

 てください。こちらで検討して予算の捻出が可能であれば、用立てさせていただきますので」

 

 何と…国の発展の為とはいえ、俺の為にそこまでやってくれるとは。

 

 

 

「さて、難しい話はそこまでという事で…ささやかですが、宴の準備をしてますので、どうぞこち

 

 らへ」

 

「待ってました!!ようやく酒が飲めるで!!」

 

「霞…あんたは少し位飲まない方が身体の為に良いんじゃないの?」

 

「何言ってるねん!!ウチの血は酒で出来てるんや!!酒を奪うんはウチに死ね言うてるんと同じ

 

 意味やで!!」

 

「やれやれ、張遼も相変わらずだな…私はまだ孫策にやられた傷が癒えてないから酒は控えねばな

 

 らんから茶で」

 

「そんなら華雄の分もウチが飲んだるさかい」

 

「少しは自重しなさい!!」

 

「さあ、恋殿、行きましょう」

 

「…うん、御馳走いっぱい食べる」

 

 皆、思い思いに宴の部屋へと向かっているが、一様に安堵の表情を浮かべていた。ようやく戦が

 

 終わったという実感が湧いているのだろう。このまま戦はもう無いという事にでもなれば良いが、

 

 そんな事も無いだろうし…これからも漢の為、月様の為に頑張っていかなければならないな。

 

 ・・・・・・・

 

 宴が終わった後、俺は人和と共にある一室に向かっていた。

 

「一刀さん、彼女も大分落ち着いてはきましたけど、あまり長い会話とかはまだ難しいので気を付

 

 けてくださいね」

 

「ああ、分かってる。すまないな、人和だってお姉さん達とゆっくりしたいだろうに」

 

「いえ、姉とはこれからもずっと一緒なのですからご心配なく…人和です。良いですか、鳳統さん。

 

 入りますよ」

 

 

 

 人和と共に部屋に入ると寝台の上に上半身だけ起こした状態の鳳統さんがいた。

 

(ちなみに名前は保護して彼女が意識を取り戻した後、人和に聞いてもらっている。さすがに保護

 

 した時の状況が状況だったので、世話を人和にお願いしていた)

 

「あっ、人和さん…と、ええっと、北郷さん?」

 

「ああ、北郷さんです」

 

 …一応、知り合ってから結構日が経っているはずなのに、未だに彼女が俺の名前を呼ぶ時が疑問

 

 形なのが若干ショックだったりする。

 

「どうかな?具合の方は?」

 

「はい…だ……………………大丈夫、です」

 

 いや、それどう見ても大丈夫な返答違うし。やはり、あんな状況の後じゃ無理もない。殴られた

 

 らしき頬の腫れはもう完全に無くなっているけど、後一歩でもっとひどい事になっていたのだか

 

 らな…。

 

 しかし、鳳統とはねぇ…最初、名前を聞いた時はまさかと思ったけど、色々と聞いた結果彼女が

 

 あの鳳雛と呼ばれたあの鳳統である事は間違いないみたいだし…しかも、諸葛亮も彼女のような

 

 小さな娘だっていうし(洛陽に公孫淵は来ていたが、同行していたのは趙雲だけであり、一刀は

 

 諸葛亮が北平にいる事は知らない。鳳統も裏切った形になっている彼女については隔意があるら

 

 しく、あまり詳しい事は話していない。さらに言えば、趙雲も行方不明になっている劉備達の事

 

 については何一つ聞かずに辞した為、一刀が鳳統を保護している事を知らない)…完全に俺の知

 

 っている三国志の知識は意味無いな…今更だろうけど。

 

「さてと…鳳統さん。今日此処に来たのは、今後君はどうするのかっていうのを聞きたくてね」

 

「今後…ですか?」

 

「ああ、さすがに何時までもこのままってわけにもいかないしね。何処か頼る親戚とか知り合いと

 

 かいないのかな?」

 

 

 

「…いないです。家族や親戚なんてずっと前に皆死んで…知り合いだってもう何処にも」

 

「…水鏡先生はダm『ダメです!先生の所はもうとっくに破門になってますから!!』…そう、破

 

 門ねぇ…彼女はそう言ってるけど、どうなんですか?司馬徽殿」

 

「えっ!?」

 

 俺の言葉に鳳統さんは驚いた表情を見せるが、そこに現れた人物を見てさらに驚きを増す。

 

「す…水鏡、先生?」

 

「はい、水鏡先生だぞ」

 

 そこに現れたというか俺が連れて来たのは他でもない水鏡先生その人である…っていうか、意外

 

 にお茶目な人だな、この人。

 

「何で此処に…?」

 

「この北郷さんに呼ばれて来たからよ。あなたを保護してますからって」

 

「先生…でも」

 

「あなたと朱里が卒業前に女学院を出たのは私も了承した事。それを破門なんて言われると、先生

 

 ちょっと傷ついちゃうかな」

 

「あの…でも」

 

「安心しなさい。朱里には何も言いません。だから一緒に帰りましょう、学院に」

 

「先生…先生…うわぁぁぁぁぁーーーーーん!!こわ…かった、怖かったんです!!もう何処にも

 

 居場所なんて無くなるんじゃないかって…ひぐっ、えぐっ…うえええええーーーーーん」

 

 鳳統さんは水鏡先生に抱き付くとそう言って半刻程泣きじゃくっていたのであった。

 

「良かったですね、一刀さん」

 

 それを見ていた人和もそう言ってもらい泣きしていた。

 

 そして次の日、鳳統さんは水鏡先生と一緒に学院へと帰っていったのであった。

 

(ちなみに、水鏡先生から『もし鳳統の行方を尋ねて来る者がいても答えないように』と改めて言

 

 われたのは言うまでない)

 

 

 

 色々とあったがこれで反董卓連合から始まった戦も一段落つき、漢…ひいては大陸全てが新たな

 

 展開を迎える事になった。おそらくそれは新たな動乱の始まりなのであろうが…。

 

「こらーーーーーっ!私を無視するな!!っていうか、重傷で寝台から動けない私を眼の前にして

 

 何事も無かったかのように話をまとめようとするなーーーっ!!」

 

「いや、ごめんごめん、まさかあの公孫賛が普通に重傷で負傷兵達の部屋に一緒にいるなんて思い

 

 もよらなかったもので」

 

「ううっ…どうせ、私なんかそんな程度の存在だよ。北郷以外誰も私の名前を聞いても全く何の反

 

 応も示してくれないし…」

 

 …以上のやり取りの通り、実は公孫賛さんが普通に負傷兵が収容されている建物にいたりしたの

 

 であった。詠に頼まれて治療器具の作成の為にやって来て、皆がどのような怪我の具合か見よう

 

 と負傷者のリストを見ていたら『公孫賛』って名前があったので、まさかと思い会ってみれば…

 

 という状況である。どうやら、俺以外誰も彼女の事に気付かなかったようだ…月も詠もリストは

 

 一応見ているはずなのに。

 

「しかし、あの状況から良く生還出来たね」

 

「…しばらくは反乱兵達と戦っていたんだが、その内誰かが『袁紹がいたぞーーーっ!』って言っ

 

 たら皆そっちに行ってしまったんだよ。そこで逃げ出せたらまだ良かったんだろうけど、こんな

 

 有様でさ。身動き取れなくてその場にいたら普通に負傷した奴らと一緒に運ばれてさ…言ってお

 

 くけど、ちゃんと言ったんだぞ『北平太守の公孫賛だ』って。でも、皆『はいはい、分かってま

 

 す』って顔で流すだけでちゃんと取り合ってくれないし…そうしたら、北平太守は銀蓮が継いだ

 

 って話が聞こえてくるし…このまま此処で傷が癒えたらその後どうなるんだろうって思った矢先

 

 に北郷が来てくれたってわけでさ」

 

 …何ともまあ、色々と幸薄そうなお方のようだ。

 

「とりあえずは傷が癒えてからだけど…どうする?北平に帰るっていうなら、月…董卓様にはから

 

 ってもらうように言うけど?」

 

 

 

「いや…いい。何だか帰っても皆微妙な顔をしそうな気がするし。北平は銀蓮に任せるよ…星や朱

 

 里もいてくれるようだし」

 

 公孫賛さんは少し寂しそうな顔をしながらそう言う…半分は自分に言い聞かせるかのようではあ

 

 ったが。

 

「それじゃどうするんだ?他の誰かに仕えるのか?」

 

「雇ってくれる所があれば、だけどな」

 

「ふ~ん…だったら、俺の所なんてどうかな?」

 

「北郷の?」

 

「ああ、俺も一応参軍なんて肩書をもらってさ。例え形式的にでも軍勢みたいなのを揃えなきゃな

 

 らないらしくて…でも、軍の指揮出来る人がいなくてさ。もし、君が良ければ…だけど?給金に

 

 ついては出来るだけ頑張r『…こんな私で良ければよろしくお願いします』…えっ、本当に良い

 

 のか?」

 

「ああ、他にあてなんて無いしさ。そんなに大勢じゃないんだろ?」

 

「…まあ、多分だけど精々二百も揃えばって所だけど」

 

「その位なら何の問題も無い…これでも一人で万単位の兵を率いていたんだからな」

 

 一人でって…意外にこの人も寂しい人生送って来たんだろうか?

 

「それじゃ、よろしく頼むよ」

 

「ああ、私の真名は『白蓮』だ。よろしく頼みます…ええっと、北郷様」

 

「俺の事は一刀で良いよ…『様』は無しで。後、出来ればタメ口で…どうにもそういう畏まったの

 

 に慣れてなくてさ」

 

「えっ…ええっと、それじゃ、よろしく…一刀」

 

 こうして何とあの公孫賛が配下に加わったのであった。まあ、正直軍の指揮とか言われても俺も

 

 公達も胡車児もお手上げ状態だったし…これはこれで万々歳って所かな?

 

 

                                          続く。

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回も若干投稿が遅れまして申し訳ございませんでした。

 

 とりあえず、これで反董卓連合編は終了です。

 

 そして雛里と白蓮は何とか引き取り先(?)が決まりました。

 

 他の行方不明の面々はどうなるのか…それは追々という事で

 

 乞うご期待(オイ。

 

 そして、一応皇族も無視は出来ないと思い、白湯だけ出して

 

 みたものの…本当に出ただけになってしまいました。今後は

 

 もう少し出番をとは思っています。

 

 とりあえず次回からはしばらく拠点をお送りします。

 

 最近、絡繰的な所から遠ざかったような話が続いたので、そ

 

 ういう辺りからとは思っていますが…。

 

 

 それでは次回、第二十話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 白蓮の事を月達が知るのはもうしばらく先の事になり

 

    ますので…これも白蓮のステルス機能の賜物って事で

 

    一つ(マテ。

    

 

 


 
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