「ここでよく従兄弟と遊んだな」
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マイ「艦これ」「みほ2ん」
:第9話<共同墓地>(改2)
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日向が運転する軍用車は役場傍の大通りから再びゴミゴミとした細い路地へ入る。
「この街って、建物イロイロあるっぽい」
夕立が興味深そうに言う。
「そうだな……人の街って言うのは何処もこんな物だ」
日向が坦々という。
なるほど戦艦でもある日向は経験も豊富そうだが、夕立はさほどでもないのか。
「夕立は普段は、あまり出歩かないのか?」
私が聞くと彼女は言った。
「うん……だいたい、お休みの日は鎮守府に居るっぽい」
その返事はちょっと意外だった。でも艦娘はそんなものかな? とも思った。
「へえ……」
母親も反応する。夕立が普通の女子と思ったのか、そうでないと感じたのかは微妙だが。
市街地とはいえ細い路地に軍用車でガラガラ言わせて乗り入れるのは多少、気が引けた。
それでも少し走ると、ようやく正面の当たりに広い墓地が見えた。
「あれか」
その手前の右側には瓦葺の大きな寺が見えてきた。
「そこの寺に駐車場があるけぇな。車はそこへ停めればえぇけん」
母親が指示した。
「はい」
日向が応える。
軍用車は墓地の手前のT字路を右折すると、直ぐ側にある寺の敷地内へと乗り入れた。広い駐車場には既に数台の車が入っている。そこの空いた場所に車を停めてエンジンを切る。
「ぽい!」
……と言いつつ、先ずは夕立が自分の側から外に降りた。
母親は相変わらず夕立の挙動に不思議そうな顔をしている。
「やっぱりハーフだな?」
「……うん」
私も適当に答える。
母親は夕立のことを『ハーフの帰国子女』か何かだと思っているようだ。面倒だから、そういうことにしておこう。
私は助手席の寛代が降りるのを待って「ちょっとゴメン」と言いながら母親より先に車を降りた。それから助手席のシートをズラして母親が降り易いようにした。
「はいアリガトね」
母親が降りる。それを確認した寛代は再び車に戻った。
それを見て母親は言った。
「アンタも来んだ?」
「いや、軍の決まりで全員が降りたらいけないんだ」
私は説明した。その言葉に母親は「へえ」という顔をした。運転席の日向もまた母を見て頷くように会釈をした。母親も軽くお辞儀を返した。
寺の境内にある木々にはセミがたくさんいてジワジワ鳴いてた。私は額の汗をぬぐいながら言った。
「私と、この子……夕立が一緒に行くから」
「それじゃ、しょうがないな」
母親は自分より長身の夕立を見上げるようにして言った。
「結局、アンタ日本人?」
まだ言うか。
「ぽ……はい」
夕立の表情がこわばっていた。おいお前、冷や汗かいてないか?
「ぽ?」
分かったから
「……じゃ、行こうか?」
これ以上、夕立を放置するとデッカイ墓穴を掘りそうだ。私は半ば強制的に言葉を遮った。
軽く頷いた母親を先頭に私たちは駐車場を出ると、路地を横切って共同墓地へと歩き始めた。
夕立が周りの墓石を見ながら興味深そうに聞いてくる。
「ねぇねぇ、これ皆ぃんな、お墓なの?」
「そうだ」
そっか、この子は鎮守府から外にあまり出ていないのなら共同墓地なんて、なおさら見聞きする機会も少なかったのだろう。
「何だか黒くて真っ直ぐで艤装に似ているっぽい」
「……ああ」
そういう着眼点か?
「クールっぽい」
「……」
一体どこから、そういう発想が湧くんだろうな。
「まあ夏に墓石に抱きつけばいろんな意味で涼しいだろうけど」
誰も受けなかった。
共同墓地に入って最初の広場に井戸ポンプがあった。墓参に来た人が代わる代わる水を汲んでいる。
母は墓参道具の袋から、やかんを取り出した。
「今朝一度な、母さんが墓には参っとるけん。この花を捧げたら線香だけ上げればえぇだ」
軽く井戸の枝を動かしながら母親は、やかんに水を汲み始めた。
「ぽい?」
母を不思議そうに見ている夕立。
「お墓参りってのは簡単に掃除をしてから線香を上げて手を合わせるんだ」
私は説明した。
「……ぽ?」
分かってないな。
「イイよ、墓の前に着いたら、もう一回説明するから」
今はまだ分からなくても良いか。
「行くか」
水を汲み終わった母親を先頭に共同墓地の奥へ向かう。
「じゃ、こっちだ」
私も夕立に声をかけると母親の後から付いて行く。
共同墓地を見ていると小さい頃の記憶が蘇ってくる。
「そういえば小さい頃は、よくこのお墓で遊んだな」
前を歩く母親が頷く。
「従兄弟のイクちゃんが近くに居(お)ったけんな(いたからな)」
改めて見ると、この墓地も狭く感じる。
「ココも狭かったんだな」
「ぽい?」
不思議そうな夕立、無理もない。
お盆が近いから共同墓地の他のお墓にも、たくさんの人が参っている。時々、私たちの姿を見て敬礼をする退役軍人らしき老人がいるのは少々、困った。いちいち返礼をしなければならない。こんなことなら私服で来た方がラクだったな。
やがて目的の場所、母方の墓前に着いた。母親は手際よく花の水を取り替えている。それから余った水を墓石の上からかけている。
夕立はその動作を不思議そうに、でも興味深く眺めていた。
「お水かけるっぽい、洗っているの?」
「いや……『先祖』は霊界で喉が渇くらしい」
理屈は分からないが。
「ふーん……」
ちょっと思案している夕立。
「それって、死んだ人っぽい?」
「……そうだが」
いきなり何を聞くんだ?
「それ、分かるっぽい。私も戦闘中はスッゴク喉、渇くんだ……」
「……」
真顔で答える夕立。妙にリアルだな。
私たちの会話を聞いていたのだろう。母親は夕立の顔をチラッと見て呟くように言った。
「アンタやっぱり本当の兵隊さんなんだナ……」
疑ってたのか?
……だが夕立も微笑んで応える。
「ハイ」
何だろうか? その笑顔に母親も表情が緩んでいる。夕立と何かが通じたような印象だ。
それから母親は持参した墓参道具の中から線香の束に火をつけた。線香独特の煙が立ち上る。着火したことを確認した母親は立ち上がると私と夕立に小分けにした線香の束を渡してくれた。
「これ」
「うん」
それから先ずは母親が無言で墓前で手を合わせた。何かをブツブツ言っていた。多分、私のことを祈っているのだろう。
それから母親は私たちを振り返った。
「ほら、続けて」
恐らく墓参は初体験の夕立。私は逐一、説明をしながら一緒に線香を捧げて手を合わせた。
海軍の制服の私も目立つ。加えて地味な田舎町だ。金髪リボンにハイカラな女学生風の制服の夕立の姿は、とてもに目立つ。共同墓地に参っている周りの『地味』な人たちがチラチラと私たちを見ているのを感じる。
しかし夕立は、そういう視線は、まったく気にしていない。そういうところは鈍感なんだ。羨ましい。
改めて見る夕立は腰から拳銃のホルスターを下げているし物騒だよな。まぁ私たちの姿を見れば軍関係者だということくらいは理解してくれるだろう。憲兵さんだって街でも、よく見かけることだし。
さっきの深海棲艦には、かなり驚いたけど。いつも前触れのように感じる私の胸騒ぎも無い。寛代からの緊急連絡も入らない。今のところ、敵が襲ってくる気配は無いのだろう。
逆に不気味な感じもするが……それでも私の心は凪(な)いでいた。故郷での墓参のひと時は静かに過ぎていくのだった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ2ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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司令親子を乗せた軍用車は無事に市内の共同墓地へ到着した。そして相変わらず夕立は目立っていた。