「あんた……そうなんだろう?」
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マイ「艦これ」「みほちん」
:第68話<プライド>(改)
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あの白い肌の深海棲艦は、かなりダメージを受けたのだろう。言葉にならない呻(うめ)き声を発している。
最初は、敵の高度な作戦かとも思われたが、いつの間にか形勢逆転した。こちらとしては、まるで狐に詰まれたような……それは相手も同じだろう。
だが今までの余裕のある戦いぶりから見てもプライドの高そうな敵だ。このまま、すんなり引き下がるのは悔しいだろう。現に敵の大将らしき『彼女』は何やらブツブツと呟きながらも戦意を喪失していない。
その姿を見た私はふと昼間の陸攻での特攻作戦を思い出した。人間でさえ、あの無茶な作戦を実行するくらいだ。まして深海棲艦ならば、全滅覚悟で突っ込んでくるのではないか?
阿武隈たちの攻撃で敵は勢力のほとんどが失われたとはいえ、対するこちら側は、ほぼ丸腰なのだ。連中が本気を出せば一矢(いっし)報いるくらいは出来るだろう。
だが、このままでは朝を迎える。現に少しずつ東の空は白み始めていた。我々と数分間、睨み合った後に、海上の『彼女』は無念そうに目を閉じた。
「……」
中央に居た『彼女』は哀しげな低い唸り声と共に我々に背を向けた。
「敗走するのか?」
呟いた私が見ていると連中は、かろうじて残った他の深海棲艦を引き連れて鎮守府港湾部から外へ逃げ出し始めた。
「やれやれ……」
ようやく私も安堵した。
すぐ隣に呉オジサンが来て言う。
「連中、玉砕覚悟での特攻は、せンようやな」
「そうですね」
どうやら彼も私と同じことを考えていたようだ。
すると舞鶴も近寄って言った。
「お前、あいつは舞鶴に居た『彼女』だと思うか?」
単刀直入な彼の言い方に私は少し驚いた。そうか、彼も同じことを考えていたのか?
頷きながら私は言った。
「確信はない。だが『彼女』の香りは感じるな」
舞鶴は頷いて言った。
「もしあれが『彼女』であれば、これくらいでは諦めない。恐らく何度も美保へ来るだろう」
「ああ。そう……だな」
出来れば止めて欲しいが確かに、そうなる可能性は高い。
その時、港湾内で赤城さんが矢筒から一本、引き抜いて夜空へ向けて矢を番(つが)えているのが見えた。彼女の長い髪の毛が夜風になびいている。
「赤城、追撃します!」
その叫びと同時に射出された矢は光と共に九九艦爆に変わった。5機編隊の艦爆は、そのまま急上昇を始める。
呉オジサンがいう。
「とどめの一撃か?」
白んできた夜空へ向けて急上昇した九九艦爆は上空で反転した。
「また急降下爆撃が拝めますね」
神戸が言う。
……だが残念ながら、その期待には応えられない。私は直ぐ寛代に声をかけた。
「寛代、赤城さんに最後の一撃は加えるなと指示してくれ」
「うん」
寛代は、私から手を離し耳を澄ますような格好をした。
直後、海上の赤城さんがハッとしたように構えを解く。そして、ゆっくり振り返った。ホッとしたような表情だ。そして直ぐに彼女が手を上げると急降下を開始していた艦爆の編隊は何もせずに次々と深海棲艦たちの脇をすり抜けた。
「……!」
これには連中も驚いたようだった。もちろん寛代の無線を聞いていない艦娘たちも同様にざわついている。
だがチラッとこちらを見た赤城さんは私と目が合うと、にっこり微笑んで頷いた。
「司令……」
「ああ、それで良い」
艦爆の編隊は敵の間を水しぶきを上げながらすり抜けると再び夜の空へ舞い上がった。
それを確認するように頷いた赤城さんは、再びこちらを見て何か呟いている。直ぐに寛代が反応する。
寛代は私の袖を引いて耳打ちする。
「赤城の艦爆から……敵にも怪我人が居るって」
「ああ……寛代、全チャンネルで呼びかけだ」
港湾内の深海棲艦たちの多くが負傷していた。だが彼らは艦爆の動きを見て、こちらが攻撃しないと悟ったようだ。負傷者を救援しつつ、ゆっくり撤退を始めた。
呉が聞いてくる。
「このまま大人しく帰るンやろうか?」
私は頷いた。
「はい実は、さっき無線で『降伏するなら手当てをする』と打診しました」
その言葉に神戸が感心する。
「おお! 素晴らしいですね」
舞鶴が言う。
「反応は?」
「……いや、残念ながら、まったく無視だ」
私が肩をすくめて言うと彼は腕を組んで海を見詰める。
「まあ、そうだろう。彼らにも誇りはある。敵の情けは受けないか」
そう言いつつも少し残念そうな彼だった。
「ホコリ?」
若い神戸が不思議そうな顔をする。
呉オジサンが苦笑して応える。
「ある程度な、敵さんと付き合っていると、そんなものを感じるようになるンや」
「へえ……」
私は改めて舞鶴を見ると彼はジッと敵の『彼女』を見詰めているようだった。
私は何も言わずに黙っていた。
夜の港湾内では深海棲艦たちの撤退が進み次々と外洋に出て行く。そして、あの大井らしき深海棲艦は最後に港湾を出た。
「あの人、とっても気になるのです」
私の脇に来た電がいう。
「そうだな」
電だけじゃない。ここに居るほとんどの艦娘や参謀たちが同じ気持ちなのだ。そして舞鶴が言ったように、あいつは再び戻って来るのだろう。
その時だった。薄っすらと明るさを帯びてきた東の空。そこにそびえる黒い大山を背景にして『彼女』がフッと、こちらを振り返った。
『……』
埠頭にいた全員が息を飲んだ。悔しそうに逆巻く髪。そして何故か彼女の澄んだ瞳が妙に印象的だった。
「……」
黙って彼女を見ていた北上も何かを感じているらしい。振り返った海上の『彼女』は明らかに北上と私を見ていた。
だが不思議と私は彼女を見ても今回は鳥肌が立たなかった。なぜだろうか?
「……」
やがて彼女は大山の方向へ向き直ると、そのまま外洋へと去って行った。
「あれは本当に敵なんですか?」
神戸が不思議そうに言う。
呉オジサンも頭をかきながら言う。
「艦娘と同じや……女性型ってのもあるンやけど、ワシらにとっちゃ闘い難い相手っちゅうこっちゃ」
「へえ」
若い彼は、まだ艦娘はおろか敵についてもほとんど知らない。だがそれは私だって同じだ。敵も艦娘も、まだ分からないことだらけなのだ。
「アンタ……そうなんだろう?」
北上が黒い大山を見ながら呟いている。
敵の彼女については最後まで正体は分からなかった。
もし彼女が大井だとしても今後は北上とも一戦、交えることもあるだろう。敵とは言え、戦い難い相手だ。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。
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ついに美保での戦いは終結する。司令は逃げる深海棲艦を攻撃しようとした赤城さんに、ある命令を出した。