黄巾賊と義勇軍の戦いは、義勇軍の勝利へと傾いていた。
組織化した賊は殲滅され、残りは残党となり果てており、もはや首謀者の張角を仕留めるだけとなっていた。
「どうして・・・どうしてなの?」
張角はそんな現在の状況に絶望していた。
駄々をこねるように現実を否定するが、そんなことをしても変わるわけもない。
張角は亡骸となっていた妹達に話かけた。
「起きてよ地和ちゃん、人和ちゃん!!」
当然ながら、彼女達は何も答えない。
それでも張角は二人に話かける。
「どうして? 私たちは頼まれただけなのに・・・どうして?」
納得のいかない張角。
そこに、自身を呼ぶ声が聞こえた。
義勇軍の兵士達がすぐ近くまで来ている。
「あ、ああ・・・」
張角はここでようやく認める。
自身の今置かれている現実ではない。そこに至るまでの道のりに気づいた。
「そ、っか。私・・・」
義勇軍が張角を見つけると叫ぶ。
当の彼女にはその声を聞くことも逃げる気力もなかった。
「あの人に利用されたんだ・・・」
そう言い終えると同時に、彼女の首は跳ねられる。
この張角が討ち取られたという吉報は、各義勇軍へ伝えられ、黄巾賊との闘いは終結した。
・・・だが、それは新たな闘いの幕開けでもあった。
黄巾の乱編 後章 『旅立』
大きな戦争は終わったが、義勇軍の戦いは続いた。
黄巾賊の残党達の小規模な戦い、その戦いによって傷つけられた民達による反乱など、戦い自体に終わりは見えず、いつも地上は血で塗れていた。
しかし、義勇軍はそれらを利用し、自身への高みへ上る足枷として戦っていた。
そして彼らもまた、後に起こる大規模な戦のために、日々活動をしている。
「張角が討たれたんだ・・・」
「ああ・・・」
三人は張角の死亡の吉報の知らせに、眉を細めた。
彼らが喜んでいない理由は知っているから。
次に何が起こるのかを・・・。
「で、この後は洛陽で董卓が暴挙の政治をすると?」
暁人の質問に北郷は頷く。
「ああ、たぶんそれで反董卓連合を結成するために、袁紹が呼びかけるはずだ」
「問題はその時の俺達の進むべき道だな・・・」
銀河は三本の指をたてて、二人に見せる。
「劉備、曹操、孫権・・・いや今は孫堅か。その英雄達の誰についていくべきか・・・」
三人はあの後、北郷から聞かされた歴史を参考に行動。
やがてくる戦乱を起こす董卓はもとより、のちに滅ぼされる呂布にいるわけにもいかずに脱走した。
そして、彼ら三人は反董卓連合で活躍する劉備、曹操、孫権達に加担して、平和への道へと尽力しようと考えていた。彼らの活躍は以前から耳に入っており、後押しは北郷の歴史解説が決定打だった。
「・・・でも、彼らについて行ったとしても完全な平和にはならないよな?」
「まぁ、ね・・・」
しかし、ここであることに気づく。
彼らについて行けば一時的な平和を取り戻せるが、それはあくまでも一時的に過ぎない。結局は、三人では平定されることはなく、のちの新たな勢力の前に滅ぼされる。
それは三人にとって意味がない。
少なくとも『答え』がわかった平和ではなく、『未知』となる平和でなければ、すぐに第二、第三の自分達が生まれてしまうのを知っているからだ。
「じゃぁ、俺達の誰かが国を平定して平和を目指すか?」
暁人の問いかけに、北郷は沈黙した。
「なら、俺が目指すよ」
銀河は挙手を挙げて、立候補する。
「・・・銀河、それはつまり彼らの歴史に喧嘩を売るということだぞ?」
北郷の不安そうな表情に、銀河は微笑み言う。
「三人じゃ平和にならないなら、他の誰かがやるしかないだろう?」
他者が無理なら自分がする。
合理的だが、時と場合による。この判断は自分達の理想を他者にも共有されること。
それを果たすだけの責任が銀河にあるかどうかとなると・・・。
「少なくとも、俺が幼少期時代だった頃を誰かに経験させたいとは思わない」
あんな時代はごめんだと銀河は、過去の自分を思い返す。
それを見る北郷と暁人も納得した。
ならばと、さっそく銀河が大陸を平和にするという方針で、活動をしようと思ったが・・・。
「で、どうしたら大陸を平定なんか出来るんだ?」
ある意味振り出しに戻った。
「諸葛亮に聞いてみてはどうかな?」
北郷は三国志において、最強の軍師であった諸葛孔明に助けを求める作戦を提案した。
「なるほど、軍師に聞けば解決方法も見つかるか」
二人にとっては、まだこの時期は無名であるはずの軍師だが、北郷の発言に間違いなどないので、この提案に賛同した。
そして、この提案は次の場所への道しるべともなった。
・・・荊州である。
真っ白な空間。
その空間に沢山の人達が集まっていた。老人、老婆、青年、少女など年齢層もばらばらだが、どの人達も羽根扇を持っており、彼ら全員が軍師であるということを教えてくれた。
そんな集団の中、三人だけが羽根扇ではなく、荷物を背負っており、どこかへ旅立つ様子だった。
三人のうち二人は、小柄で可愛らしい少女。残りの一人は、黒いサングラスをかけて、どこかかっこつけている部分がある青年。
「・・・よいか、くれぐれも粗相がないようにするのじゃぞ?」
黒いサングラスをかけた青年に、一人の老人が話かける。
青年は帽子を被りなおしつつ、少しほほ笑む。
「大丈夫さ。二人は何があっても守り通すさ」
クールに決め顔を見せる青年だが、その様子に溜息を老人はしていた。
「はぁ・・・なんでそこで『二人』になるのじゃ。己もそして世界も含めと言わないと、この旅立ちに意味などないじゃろ?」
「うっぐ・・・」
青年は図星をつかれたのか冷や汗をかいてしまう。
「まぁまぁ、彼もちゃんと役割を果たして活躍してくれますよ」
そこへ今度は若い女性が話に入ってきた。
青年はその女性を見るなり、少し照れつつもびしっと背筋を伸ばす。
「大丈夫です。ちゃんとしっかり世界を守っていきます!」
老人はやれやれと再び溜息をつくのだった。
一方の小柄の少女達は、緊張した表情をしながら旅立ち時を待っていた。
「何も心配することはありませんよ。今までの教えを思い出し、時には己の勘を信じて行動すれば、ちゃんと結果はでます」
「「は、はいでしゅ!!」」
二人はそう返事を言いつつも、アワワやハワワと緊張の色は隠せない様子だった。
しかし、そんな二人対して誰も不安そうな顔などせず笑顔で返してくれた。
「・・・では、行きましょうか二人共」
青年が二人に話かける。
二人は一度深呼吸をした後、笑顔で答えた。
「はい!!」
そして、三人は消える。瞬間移動したかのように。
見送った彼らも、それぞれに一礼すると消えていき、最後に女性と老人だけが残った。
「希望は旅立ちました。我らの役目も終わりのようですね」
「我が弟子が選ばれたことに、多少の不安もありますがこれも運命なんでしょう・・・」
「大丈夫ですよ。他の『徐庶』殿とも引けを取らぬほどの才覚です、何も心配はありません」
「・・・あやつは他の徐庶殿と違い、過剰なほどの幼女が好きが少し不安なのです」
「それも含めて大丈夫ですよ。彼がもし誤った道を歩いたとしても必ず『孔明』と『龐統』さんが止めてくれますから」
老人はその励ましに笑顔で答え、消えていった。
一人になった女性。
「では、後のことよろしくお願いしますね、暁人さん」
そうつぶやくと、女性も消えた。
そして・・・。
「・・・」
暁人は目を覚ますのだった。
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呂布隊と別れた三人は?
※※※
次回は、休息編を投稿します。