No.902573

SAO~帰還者の回想録~ 第3想 苦悩を経て

本郷 刃さん

神霆流を学ぶために和人は奈良へと訪れる
そこで彼は自身の本当の目的を語る…

2017-04-24 16:32:09 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5535   閲覧ユーザー数:5141

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO~帰還者の回想録~ 第3想 苦悩を経て

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和人Side

 

祖父との剣道勝負から時間は進み、季節は春から夏へと変わっていた。

その間も幼い俺は直葉からは距離を置かれ、祖父とは接し方が変わり、

それでも両親と祖母はこういう時期もあると思っているのか、気にしながらも普段通りに接してくれていた。

 

そして夏休みに入り、小学二年生の俺は夏休みの宿題を終わらせるために頑張っている。

剣道の練習も手を抜かず、普通に友達とも遊び、土日くらいは家族で出かけてもいたが、夜には一気に宿題を進めて片付けている。

そう、初めての奈良へ、師匠の家で本格的に古流武術『神霆流』の修行をするためにだ。

小学二年生ならば夏休みの宿題も多過ぎるということはないから、

毎日の日記等を除いた宿題集などを終わらせてからという条件で、師匠宅で滞在しながら修業をすることになっていた。

なので、早く終わらせたいというのが伝わってくるし、そう言えばなんで毎回早く終わらせていたのかを思い出した。

 

〈まぁ今でも楽しみと言えば楽しみだけど、今と昔とでは思いの乗せ方が違うよなぁ…〉

 

なんて、独り言が出てしまう。当時は本当に楽しみで、実際楽しくて、もっと強くなれると子供心だった。

だが今ではそこに乗せる思いが本当に増えたと思っているから、変わり映えしたものだと思う。

幼い自分とはいえ、その姿は微笑ましく思えてしまう。

夏休みに入ってから二週間以内に宿題を概ね終わらせ、ついに師匠の居る奈良へ向かう。

 

 

 

景色が一気に移り変わった。

奈良に向かう為にはまず東京駅から新幹線で京都駅に向かう必要があり、

小学二年生の俺は母さんと共に東京駅に行き、予め師匠から送られていた新幹線のチケットを使い京都駅へと向かっていく。

旅行気分な幼い俺だがこの時はまだ修行の大変さを知らないと思うと苦笑が浮かんでしまう。

 

一方、同行している母さんも俺と同様で苦笑しているし、何処か心配そうな様子だ。

この日こそ母さんは休みを取ったそうだが、雑誌編集者ともなるとやはりこの時期は忙しいと前に聞いた。

幼い我が子が武術を学ぶ、お盆休み前までとはいえ家族の元を離れるということにも抵抗があったのかもしれない。

未だ当時の俺が知らない自身の家族事情もあり、出来れば家族で一緒に過ごして欲しかったのかと、いまの俺なら考えられる。

 

さて、そんな親の心子知らずの状況でも新幹線は進んでいき、あっという間に京都駅へと到着した。

 

 

 

「和人、忘れ物はない?」

「うん。全部持ったよ」

 

幼い俺は背中に大き目のリュックと竹刀袋を背負い、母さんが着替え一式の入った小型のキャリーケースを引っ張って駅の中を歩いていく。

小学校低学年の俺が母さんの後を追いかけながら辺りを見回すのは慣れない土地だし、物珍しさもあったのだろう。

 

「まずはインフォメーションセンターで時井さんと待ち合わせね。あ、お腹空いてない?」

「ちょっとだけ。でも大丈夫」

 

大きさや広さでは東京駅も大きなものだと思うが子供というのはこういうものなんだろうと再認識させられるな……俺自身まだ子供か。

師匠との集合場所であるインフォメーションセンターに向かい歩く幼少の俺と母さん。

 

「飲み物だけでも買っておきましょう」

「ならお茶でいいよ。ジュースとかでお腹いっぱいにしたくないから」

「そうね、じゃあ自動販売機か売店にでも寄りましょう」

 

先を歩く二人を見ながら、俺自身も周囲を見渡す。

 

〈しかし、京都駅という知識とその内部の情報、過去に俺が見て記憶しただけの視覚情報、

 他にもあるだろうがここまで再現できるのも改めて驚きだな…〉

 

この脳内情報による記録と記憶に関しては専門外で少ししか関われなかったが、よく出来たものだと思う。

そうこう考えている間に二人はさっさと購買で飲み物などを買ったようでインフォメーションセンターへと向かっていき、俺もその後に続く。

待ち合わせ場所に辿り着くと既に師匠が待っていた。

 

「こんにちは、時井さん。すみません、お待たせしてしまったみたいで」

「こんにちは、桐ヶ谷さん。こちらがお呼び出ししたようなものですから構いませんよ。お久しぶりですね、和人」

「お久しぶりです、師匠(せんせい)。今日からよろしくお願いします!」

「はい。よろしくお願いされました」

 

先に母さんが師匠と挨拶し、続けて幼い俺が挨拶をしている。

やや緊張気味なのはきっと久しぶりの再会、そしてこれから数週間に掛けて指導してもらうからだろう。

いやはや、俺自身覚えていないものだが、こんな風な時もあったんだな~。

 

「では、奈良線のホームから電車に乗っていきますが桐ヶ谷さんはどうなさいますか?」

「私はこのまま埼玉の方に帰ります。どうか、息子をよろしくお願いします」

「承りました。責任を以てお預かりいたします」

 

母さんが師匠と話し、三人は奈良線のホームへと足を運んだ。

 

「和人、しっかりやるのよ」

「分かってる。頑張るよ」

 

母さんは幼い俺と視線を合わせるためにしゃがみ、言葉を掛けると頭を撫でた。

少し名残惜しそうにした母さんだが、師匠と俺が電車に乗り込むために離れる。

電車が出発したことで、この場の景色が消えて別の場所に移り変わる。

 

 

 

奈良線を経て奈良県に辿り着いた師匠と幼い俺は駅に止めてあった車に乗り込んで師匠の自宅、時井家に着いた。

桐ヶ谷家と大きさも差して変わらない和風家屋であり、敷地内には同じく剣道場もある。

 

「ようこそ、時井家へ。歓迎しますよ、和人」

「はい、お邪魔します!」

 

師匠が玄関を開けると、それを聞きつけてかパタパタと小走りする音が聞こえてきた。

 

「八雲さん、おかえりなさい~」

「ただいまです、葵さん。和人、こちらは私の奥さんの葵さんです」

「こんにちは~。妻の時井葵です~。よろしくね~、和人君」

「よろしくお願いします!」

 

元気よく、しかし礼儀は正して。基本的な礼儀作法は教えられた。

祖父から教え込まれたということもあったが、師匠に弟子入りした時から礼儀についてはしっかりと仕込まれた。

ただその全てを守れているかと問われれば、いまでも出来ていないと言える。

信用や信頼が必ずしも敬語や姿勢でないのは俺自身よく知っているからな。

 

そんな時、葵さんの後ろの扉の間から覗き込むようにする小さな体が二つ。

あぁ、双子達か、なんというか年齢のせいか可愛いなぁ。

 

「二人とも、出てきて挨拶をしなさい」

「はーい!」

「うん」

 

師匠に呼ばれて出てきたのはやはり幼い頃の双子、二つ年下だからこの時はまだ5歳で6歳になる年か。

燐は窺ってこそいたが呼ばれると元気一杯に飛び出してきた、その様子で昔から変わらないなと思う。

一方、妹とは違い快活とはいかないが、いまでこそ物怖じしない性格の九葉は当時こそ人見知りな方だったらしい。

らしいと言うのも俺の中では今の九葉のイメージしかないからだが…。

 

「私達の双子の子供で男の子が九葉、女の子が燐です」

「時井燐、5歳! よろしくね!」

「時井九葉。よろしく」

「桐ヶ谷和人、小学二年生で7歳。よろしく!」

 

やっぱり元気一杯に自己紹介をしてきた燐だが、九葉は静かにというか緊張気味だった。

小学生の俺はというと燐ほどじゃないが彼女に習って元気よく返答している。

 

「それでは上がってください。客間を和人の部屋代わりに用意していますから、荷物を運びましょう」

 

師匠が小型キャリーケースを運び、幼い俺はリュックと竹刀袋を背負ったまま客間に案内された。

和室の小さな客間はあくまで一人用のものだが、これ以降も俺は一人の時はここか九葉の部屋で世話になり、

大きな和室では志郎達を含めた面々と泊まる時に使うことになるのは別の話だな。

 

ともあれ、丁度昼時ということもあって昼食となった。

食事の合間に会話を挟むくらいであったが、

性格のこともあってか葵さんと燐とは打ち解けていたが九葉は変わらずに緊張していて馴染めていなかった。

昼食後、それなりの時間を休憩に当て、その休憩時間の中でこれからの宿泊中のことや時井家での決め事を教えてもらっている。

 

いやぁ、それにしても改めて師匠と葵さんを見るが……本当に一切変わっていないな、なにこの人達、不老か?

若さの秘訣は一体なんなのだろうか? いや、そういえば大師匠(だいせんせい)もあの年齢の割には見た目若いし……まさか、神霆流に秘訣が…。

 

 

 

 

閑話休題(まぁ、それは置いておこう)

 

 

十分な休憩を終えると剣道着に着替え、道場に向かっていった。

そこでこれまで同様の基礎的な剣道の練習と神霆流剣術の練習をストレッチと準備運動のあとに行う。

ここまではあくまで基礎も基礎で固有剣術ともいえない初歩であったが、今回からは神霆流という武術に完全に足を踏み込む。

この時のことははっきりと覚えている、幼いながらに決意した日だ。

 

「さて、ここまでは剣道と日本全国で共通する剣術の初歩でしたが、ここからは完全に神霆流という武術を学ぶことになります。

 それにあたり和人、幼くとも覚悟を持つか、または決意をしてもらわないといけません」

「覚悟か、決意…?」

「はい。私のことを怖がってもいいですし、泣いてしまってもいいです。

 今後、和人が道を誤ってしまうくらいならば、私はどう思われても構いませんから。

 なので先に謝っておきます、すみません。そして、どうかキミ自身の思いを教えてほしい」

 

師匠の問いかけに幼い俺が疑問符を浮かべる。

一度瞳を閉じ、しかしすぐに開かれたその視線は鋭く、圧倒的な威圧感を放つ。

小さな俺は声も出せず、ただ震えるばかりでいる。

かく言う俺も覚えていたとはいえ恐怖心がないわけじゃないし、正直びびっているけど。

 

「『神霆流』とは古流武術であり、そして古流武術とは基本的に殺人武術、人を殺す為のものでもあります」

「人を、殺す…」

「ええ。今の時代、昭和の時代の日本が負けた戦争が終わったからこそ、

 心身を鍛え、あるいは誰かを守る為の武術に変わったと聞いてはいますが…。

 とにかく、古流武術というのは元々戦う為に相手を殺すためのものと覚えてください。」

 

第二次世界大戦、その当時はまだ神霆流も殺人に重きをおいていたということだ。

 

「勿論、神霆流以外の古流武術も今の時代では心身を鍛え、自身を磨く為のものが大半です。

 それでも、その武術で得た力は普通の人を容易に傷つけるものです。

 武術だけではありません、スポーツとしての武道も単純な喧嘩であっても、力と技や技術そのものは人を容易に殺せてしまうものです」

「………」

 

師匠の話す速さはあくまでも小学生の俺が聞き取れるよう、

意味を理解できるようにゆっくりと話しているが、そこに込められた思いと厳しさは確かだ。

正座したまま動かず、それでも話しの意味を理解しようとしている。

 

「喧嘩やスポーツの武道で打ち所が悪く、死んでしまうということはこれまでに多く確認されています。

 和人、貴方がこれから手に入れようとしているのは、そういったことが何よりも起こり易く、

 少しでも加減や乗せる思いを間違えれば……人を傷つけ、殺してしまう可能性もあります。

 貴方はその時が来たら、向き合えますか?」

「ぅ、ぁ…」

 

小学二年生には重すぎる内容。

これからお前が手に入れようとしているのは人を容易に殺せる力だ、そう言われている。

込められたあまりにも大きな威圧感、それが現実味を帯びさせているのだから恐ろしいものだ。

だがこれも通過儀礼であり、通らなければならない道ということだ。

 

「それだけじゃないです。人というのは力だけではなく、言葉だけでも簡単に誰かを傷つけることが出来てしまうのです。

 自殺というのは、そういったものの積み重ねと環境の結果ですからね」

「俺も、そういうこと、させちゃうかもしれないん、ですか…?」

「力を手に入れるということはそういうことです」

 

そう、力だけじゃない、言葉であっても人は幾らでも傷付けては傷付く。

中でも力そのものは危険度が高く、良き精神も合わさることで制御ができるともいわれる。

ただ力を揮うだけとはわけが違う。神霆流を得るにはそれを知り、学び、理解しなければならない。

 

「それでも誰かを傷つけるかもしれない力を手に入れて、貴方はどうしたいのですか?」

「う、お…おれ、は…」

 

師匠は待つ。それはそうだろう、こんな話をしていますぐに答えを出せというような人じゃない。

怖がってもいい、泣いてもいいと言ってくれたこの人は本当に俺や皆のことを考えてくれている人なのだから。

だけど、この時の俺はそこまで考えていたわけじゃなく、でもある思いを既に抱えていたのを俺自身覚えている。

 

「せ、せんせい……ううん、八雲さん。俺、聴いてほしいことが、あるんです…」

「後でもいいんですよ?いますぐにとは「いま、聴いてほしいんです」分かりました。

 では、ゆっくりで構いませんから。あぁ、先に冷やした麦茶でも飲んでおきなさい」

 

師匠に休憩用にと準備されていた麦茶をもらった幼い俺はそれを飲み干す。

 

「八雲さん。俺って、なんなんですか…?」

「……それは、どういう意味ですか?」

 

自己存在への疑問とも言えるような問いかけにさすがの師匠も返事に間が空いた。

“自分はなんなのか”という小学生がするような質問というか疑問じゃないが、いまの俺が思ってもそうとしか表現できない。

 

「俺の中には、何かが居るんじゃないかって…」

「詳しい話しは、出来ますか?」

 

頷き、幼くも“覇”の道に足を踏み入れた少年が語った。

 

 

 

2ヶ月ほど前の祖父との剣道試合のことを自身が覚えている限り、最終的にどうなったかを伝え始める。

譲れないもの故の衝突からだったが、祖父に負ければ本当に剣道だけを続ける思いはあの時にはあった。

けれど、追い詰められたことで本当に僅かだが『覇気』を覚醒させ、その片鱗を見せつけた。

どう言っていいのか分からず、途中で詰まることはあっても、最後のところまでしっかりと話していく。

 

 

 

「勝負が終わって、俺もなにがなんだか分からなくて……でも、スグが俺のこと、鬼って言って…。

 俺、自分が笑ってるのに、気付いて……俺は、俺が怖い…」

 

全てを話し終えた。スグはあの時のことを幼いながらに覚えており、後悔もしていた。

SAOとALOの両事件が解決して目を覚ました俺にあの時のことを謝ってきたので当然受け入れたが、

そもそもとして俺はあの時のことを気にしていない。

むしろ俺がそうなっていたことを気付かせてくれたのはスグでそれを感謝している。

 

「八雲さん。俺は、俺の力は、武術を覚えて、心を鍛えて、なんとかしないといけないんじゃ、ないですか…?」

「和人、貴方は…」

「最初は本当に祖父ちゃんを見返したいだけで、でも師匠に色々教えてもらってからもっと剣が好きになって、

 もっと強くなりたいって、思った……だから…」

 

純粋に剣道も剣も好きだから。師匠のようにもっと強くなってみたいと目標が持てた。

でも、だからこそだったんだ。

 

「俺、またスグの時みたいに、祖父ちゃんの時みたいに、怖がらせて、傷つけちゃうのが嫌、なんです…。

 俺、剣も、嫌いになりたくない…!」

 

誰かを傷つけてしまうことも嫌で、好きな剣も嫌いになりたくなかった。あぁ、そうだ。

決意をした日じゃない、決意したのを自覚した日だったな。

そんな小さな俺を見て、師匠は傍に来ると優しく頭を撫でた。

 

「不安だったでしょう? 確かにこれはご家族にこそ相談し難いことですね。

 貴方の中にあるその素質は私でなくとも、それ相応の実力がなければ見抜けない」

「八雲、さん…」

「大丈夫です。その思いを持っているのなら、その思いを分かっているのなら、貴方はきっと大丈夫です。

 自分の為にも、誰かの為にもと思っているのなら尚更です。

 だから今は泣きなさい、親でなくとも大人に甘えられるのは子供の特権なんですから」

 

堰が壊れたかのように幼い俺は嗚咽を漏らして泣きだした。

泣き声を抑えているのはきっと子供ながらに男として、家に居る双子よりも年上としての意地だったんだろう。

本当に俺は師匠が師で良かったと思う。

 

 

泣き止んだのはすぐだが不安がある程度取り除かれたからか幼い俺は眠りに落ち、

すぐに景色は俺が目を覚ましたところから始まりだした。

今日はもう稽古はしないということになり、明日から改めてということになった。

 

「それじゃあ…」

「えぇ。桐ヶ谷和人君、貴方を正式に古流武術『神霆流』の門下生と認めます。

 稽古は厳しく、投げ出したくなる時もあるでしょう。それでもやりますね?」

「っ、はい! 俺、精一杯頑張ります!」

「分かりました。それでは道場の掃除をしましょうか」

 

師匠の言う通りに二人で道場の掃除を始め、出る時には確りと礼をして道場を後にした。

既に夕方となっており、夕食の買い物には案内ついでに全員で行くことになった。

親睦を深めるという意味で俺と九葉と師匠は三人で風呂に入り、葵さんと燐の入浴後に夕食。

夕食とその後の雑談で少しばかり九葉とも仲良くなり、就寝時間になると幼い俺はあっという間に眠りに落ちた。

何故だか俺も無性に眠たくなったような感覚に陥り、そっと瞼を下ろした感覚を覚える。

 

 

 

 

そこからはあっという間だった。

稽古は師匠が言った通りかなり厳しく、手を抜くようなことは一切なかった。

体力に加えて年齢に適した筋肉を付けるための運動や筋トレは勿論、

神霆流の中で俺に適している剣術と刀術、それに無手の技術、そしてなによりも自身を守る為の防御や回避、

受け流しについての技術を最優先に教え込まれた。

誰かを守るにはまず自分の身を守れるようにならなければということだ。

 

疲れ果て倒れ伏すし、弱音も吐けば、涙を浮かべることもある幼い俺。

でも、決して諦めようとする姿だけは見せず、意地や根性で続けていく。

師匠も無茶と無理だけはさせず、限界に近づけばすぐさま止めて休ませるし、そうすることで限界の見極め方も教えてくれている。

 

良い方面で変化したことがあるとすれば、九葉が慣れたからか俺に懐いたことだろう。

というか九葉もまた小学校に入学したら神霆流を学ぶつもりでいるからだ、そのために剣道と体作りなどは始めている。

そして俺の稽古を見たことで色々と考えることもあったそうだ。

それについて知ったのはまだまだ後のことだったけどな。

 

そして時間は流れ、初めての稽古を終え、小学二年生の俺は帰宅することになった。

 

 

 

「それでは私は和人を送り届けてきますね」

「お願いしますね~」

 

時井家に来た時のように幼い俺がリュックと竹刀袋を背負い、師匠が小型キャリーケースを引く形になった。

 

「次は短いけど冬休みには行くから」

「和人さん、次もオレ一緒に稽古するから!」

「絶対に来てね! 約束だよ、和兄!」

 

九葉と燐は別れを惜しんでくれている、本当によく懐かれたよなぁ。

 

「和人君、気を付けて帰ってくださいね~」

「葵さん、お世話になりました!」

 

葵さんとも言葉を交わして二人は玄関を出て、身体を反転させる。

 

「ありがとうございました!」

 

礼をして、幼い俺と師匠は向かっていった。

 

 

 

車で駅まで向かい、そこから電車で京都駅へ到着した。

師匠も一緒に東京駅まで来るのだが、そういえば帰り際になにかったような気がする。

そこまで深く思い出せないから大したことじゃないのか、それとも気のせいだったか…。

 

「では新幹線のホームにいきましょう。到着まで時間は少しありますが、一応余裕を持って行動しましょう」

「はい。って、師匠ちょっと待ってください」

「どうしました、和人?」

 

師匠を呼びとめて幼い俺は何処かへと駆け出した。

行く先は駅のベンチであり、そこに一人の女の子が顔を俯かせて座っている。

あぁ、迷子か……そうだ、この時迷子らしい女の子と会ったんだ。

 

「大丈夫? キミ迷子?」

「え…ち、違うもん! わたし迷子じゃないもん!」

 

俺も二人に近づき、その時女の子が否定しながら勢いよく顔を上げた。

 

〈は? な、なんで…〉

 

彼女(・・・)と同じ亜麻色の髪にヘイゼルの瞳、腕の中にはテディベアが抱えられている。

以前見せてもらった彼女(・・・)の姿と酷似して、いやまったく同じだ。

 

「俺、待ち合わせでインフォメーションセンターってところにいくけど、そこで放送してもらえるって聞いたよ」

「う、うぅ~………い、行く…///」

 

行く先は新幹線のホームだが、機転を利かしたのかそう言った幼い俺に女の子は恥ずかしそうにしながらも同意する。

そうだ、迷子の娘を連れていったのを、思い出した。

まさか、それが、彼女…。

 

「俺は和人、桐ヶ谷和人」

「あ、明日奈。結城明日奈…///」

 

俺の愛する人、結城明日奈だったのか…!

 

和人Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

出会いの最初の部分までしか描けませんでしたが、一応次回に続いて詳しく描きます。

 

今回の話は和人が『神霆流』を学ぶにおいて絶対に欠かせないものであるため、そっちをメインに書くことに変更しました。

 

祖父との剣道試合で勝利したことで起きた変化などをどうしても書きたかったのです。

 

今回書いていない『神霆流そのものについて』は今後の話の中で、『九葉が懐いた様子は九葉の回想』で行うつもりです。

 

今話の最後の明日奈との出会いは次回の最初とメインの明日奈視点で書く予定です。

 

次回はあくまで明日奈視点で第2想からの続きになります、和人視点は前半というか最初だけのつもりです。

 

まぁ予定ですのでどうなるか分かりませんがw

 

それでは次回もお待ちいただければ幸いです。

 

 

 

 


 
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